23.5 Don't remind me Ⅱ.
九十九年間生きてきて、沢山の命を奪った。
沢山壊して沢山殺した。
まだあたしの瞳が血色だった頃、
フォードは死んだ。
あたしの腕の中で死んだ。
殺された。
兄上に殺された。
あたしを庇って殺された。
その頃のあたしは最盛期。
もっとも強かった。
強かったのに守れなかった大切な人。
それからあたしは分からなくなった。
強くても、最強でも守れない。
だったらもう誰もいらない
一人でいい、一人がいい。
大切な人の命が消える。
それがどんなに辛く悲しいことか、あの時あたしは知ってしまった。
誰かの命を奪う時に躊躇う。
こいつが死んだら悲しむ人がいるのだろうと。
そんなことを考える時点で、殺し屋としてのあたしは終わっている。
──終わっていた。
フォードが死んだ時、多分殺し屋としてのあたしは死んだのだ。
それからしばらく人を殺せなくなった。
それでも殺さなければ生きていけない。
だから、己を殺して人を殺す。
人を殺すことで生計を立てる。
自分と家族が生きていく為に人を殺す。
「己を殺して人を殺す」
それはもう呪縛のようなものだ。
抗えない運命、逆らえない宿命。
殺し屋はあたしの天職。
そうやって自分に呪文をかける。
気持ちが悪く吐き気がした。
専売特許だった大量虐殺は、今のあたしにとっては少しずつ体を冒す毒のようなものだ。
毒が回る、気持ちが悪い。
毒が体を蝕んでも、己が分からなくなっても──
それでも今は守るべきものができた、守りたいものが増えた。
だから、だからあたしは強くなければ──でも、強くても、いくらあたしが強くても守れない……守れないの……守れなかったの……だから……だからだからだから……。
「……アンナ」
背後から声を掛けられる。聞いたことのない声、誰だ。
あたしは立ち上がり振り返った。
決してそいつに見せてはいけない顔をして。




