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後編

「な、波木くん。もったいぶらずに、早く教えなさい」

 たまらず上原が急かすと、波木は笑みを浮かべ、深く頷いて言った。



「私の提案する味、それは…………………………………………………………『無味』です」



『無、味?』



 初めは、誰もがその意味を理解することが出来ず、言葉を失った。


「無味、とは? どういうことだね?」

 長い沈黙を破って社長の神埼が訊ねると、波木は至って平然と言った。

「言葉のとおり、味が無いということです。味の全く無いお菓子など、いままでに無かったはずです。どうです? 皆さん、味の無いお菓子と言われて何か思い浮かびますか? 多かれ少なかれ、お菓子には必ず何らかの味がついているものです。つまり、逆の発想で、何の味もついていないお菓子ならば、他社を出し抜けるというわけですよ」

「ば、馬鹿な。そんな菓子が売れるわけないだろう」

 冷静さを取り戻した上原が、語気を強めて否定する。

「果たしてそうでしょうか? 皆さんはその感覚に捕らわれすぎていませんか? どうせ売れないだろう、と。だから常に他社の後塵を拝してきたのではないですか?」

「なんだと」

 不快感を見せる上原だったが、波木は意に介さず続ける。

「たとえば、世界には最もマズいお菓子として有名なグミがあります。私も友人から貰って食べたことがありますが、それは想像を絶するほどのマズさで、タイヤのゴムのような味でした。しかし、そんなお菓子でも、世界的には有名になっているのです。なぜか? それは、斬新だからです。他社が真似をしていないからです。我々も、起死回生を狙うなら、これくらいの大胆さやチャレンジ精神がなければいけない、私はそう思います」

 波木の言葉には底知れぬ情熱があるようだった。

「し、しかし、無味、というのはいくらなんでも……」

 上原は、社長に伺いを立てるかのごとく、目線を送った。すると、それまで口をへの字に結んで波木の言葉を聞いていた神埼が、大きく鼻息を漏らした。

「確かに、未だ嘗て無い味には違いないか…………面白い。約束どおり、作ってみよう」

「ほ、本気ですか!?」

 上原を含めた開発室の社員は皆、動揺を隠せなかったが、相手が相手だ。反論できるはずもなく……こうして、その開発は始まったのだった。


 世界でも類を見ない、無味のお菓子。原材料であるポテトから栄養分を抜き出し、味を感じないレベルに達するまで、社員一同、試行錯誤を繰り返した。


 そして一年半後。


 ついに完成したその新商品、『ポテトチップス、無味』が、全国の店頭に並ぶ日が来た。

 ネットでは大きく取り上げられ、その味に注目が集まった。

 パッケージには、『驚くほどに、味が無い! 無味無臭の新感覚!』と大きく印字されていた。




 こうして、丸本製菓の新商品は、狙い通り、世界にも衝撃をもたらしたわけだが……反面、その年の『売り上げワースト菓子』としても殿堂入りし、会社の傾きを更に大きくしてしまったことは、言うまでもないのだった。

―――――――――――――――――――――終

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

個人的には梅やビネガー系のお菓子なら太らない……気がするけど、気のせいでしょうね……。

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