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怨念の異形神  作者: 神月裕二
第2章 小林裕介
12/74

3

「な、なんだと!?」

 そのとき、八導師たちは、石板からもたらされた情報に驚愕を隠しきれなかった。

 妖と玲花、二人の生体反応が、明らかに妖魔のものである反応と接触した後、途絶えたというのだ。しかも、妖魔性結界を消失点で確認しているともいう。

「なんということだ。二手にわかれて攻めてくるとはな。――しかも、ターゲットを妖において」

 苦々しく恵が言う。

「しかし、これで奴等悪魔族が妖の魔力を恐れていることがわかったわけだが……」

「そんなものがわかっても、この際仕方がないでしょう、荘?」

 星が、きつい口調で言う。

「それはそうだが……」

「対策を立てましょう。もちろん、敵の正体が判然としない限り、対策など立てても仕方ないことかも知れませんが、何もしないよりは……」

「希の言う通りですよ、ご老人方」

 星の最後の一言は、八導師のうち六人に皮肉をこめて送ったものだった。

 一瞬、彼等の顔がぴくんと動く。誇りと尊厳を傷つけられたと思ったからだ。

 星は人知れず、薄い笑みを浮かべると、

「獅天、光炎!」

 と叫んだ。

 短い応えがあり、二人の男が八導師の集う〝石板の間〟に瞬間移動してくる。

「事情は、わかっているな」

「はい」

 そう答えたのは、慎重が二メートル近くもある巨漢〝光炎〟であった。

「――で、俺たちにどうしろと?」

 小柄な男――といっても、標準サイズだが。光炎の身長が高すぎるのだ――〝獅天〟が星に訊く。

「結界を突破して、妖と玲花と援護して来い」

「そりゃ、無駄だよ」

 獅天が即答する。

「どういうことだ?」

 星が、歯がみしながら獅天をにらみつける。

 先の事件以来、明らかに四天王と星の間にあった不協和音が露呈してきていた。

「そう、恐い顔をしなさんな。あんた、妖を蹴落とそうとばかり考えているから、大切なことを忘れてるよ」

「――なに?」

「我々には、どんな結界であれ、それが妖魔性のものであれば、突破できる能力はないのですよ」

 屈辱に顔を染める星を横目に、冬がおもしろそうに問うてくる。

「では、何故、あの暗黒結界は越えることが出来たのぢゃ?」

 近畿地方を一瞬で壊滅させたあの事件のことを言っているのだ。

「簡単ですよ。魔界侯爵の張った結界が完全に固着する以前のことですし、妖がいましたからね。だから、たとえ固着していなくても、妖がいなければ、吹き荒れる妖風に圧し潰されていたでしょうね」

「ふむ。その逆はどうじゃな?」

「冬の考えておられる通り、妖がいればたとえ完全に結界が完成していたとしても、突破することが出来たでしょう。それに――」

「ふむ。何じゃ?」

「それに、今回は俺たちがいなくても何とかなるよ。敵が何者なのかしらんが、何せ相手はあの妖だ。そう簡単やくたばらんさ」

「それも言えるか」

 と、天がヒゲの向こうに笑みを浮かべながら言う。

「では、何をすればいい?」

「なにも。ま、強いて言えば、あの二人の魔剣の転送準備かな」

「承知した」

 と荘。その顔には、してやったりという表情があり、その先には、打ちひしがれた感じの星がいた。

「のう、獅天よ」

「なんだい、婆さん」

 と獅天が、冬に向かって馴れ馴れしく言う。

「お主、妖を憎んでおったのではなかったのか?」

「そうだな。だけど、あの日以来、なんて言うのかな、吹っ切れちまったんだよ。あの二人を見てたらさ、ああ、これで良いんだってね。――で、今は、奴より強くなりたい。――それだけさ」

「それでは、我々はこれで」

 光炎は静かに言うと一礼し、その場から消えた獅天がそれを追うように姿を消す。

 天が魔剣の転送準備をしておくように、彼の配下のメンバーに伝えていた。

 あとは、運命に身を任せるしかないのか。

 そのとき、星が肩を落として冬たちに背を向けた。

「星、すみません、もう一つあるのです」

「何か?」

 と訊き返す星の身体から覇気が完全に抜け落ちてしまっていた。

「紀羅が、地元中学の第三学年への転入を要請してきていますが?」

「結構。好きにさせるがいい」

 とだけ言い残して、石板の間から姿を消した。その背中を、希は心配そうな瞳で見つめていた。

「……星…」


「紀羅、本気かよ」

 そう声をかけたのは、紀羅とともに任務で会津に赴いている義親という少年であった。

 義親もまた、秘密結社〝美槌〟八天部の一人であった。

 二人は今、会津ロイヤルホテルの一室にいる。無論、このホテルの従業員すら知らない一室だ。ただ一人、支配人を除いては。彼は〝美槌〟の末端メンバーでもあるため、二人の滞在を喜んでいた。何故なら、四天王や八天部が任務であれ私事であれ、自分の経営するホテルや店に立ち寄ることは、彼等にとって名誉と考えていたからだ。

 その一室のソファに向き合って、二人は座っているのだった。

 二人の間にはガラスのテーブルがあり、よく冷えたオレンジジュースが二つ、グラスに水滴を張りつかせて置かれていた。

「ああ、本気や」

 紀羅は、いたずらっ子のような笑顔を浮かべる。

 黙っていれば少女のようにも見える少年だ。

「――しかし、任務中なんだぜ、俺たち」

「わかってるわい。けどな、黙って見とるなんてこと、俺に出来ると思っとるんか?」

 ジュースをチューとストローで吸い上げる。

「そ、そりゃあ…。だけど――」

「心配せんでええ。転校する言うたかて、毎日毎日おとなしゅう授業を受けるわけないやんか。それこそ無意味やし、時間の無駄や」

 八天部は、その大半が一三歳から一七歳の少年少女で構成されている。無論、彼等は学校には行っていない。毎日、さまざまな古文書を紐解いたり、激しい戦闘訓練を受けている。だが、学校に行っていないからと言って、そういった類の学問を全く知らないというのでは、普通の生活を送ることもかなわなくなる。そのため、そういったことを教える時間もまたきちんと設けられているのだ。

 効率よく勉強ができ、実力のある者には、どんどんハイ・レベルな学問を同時に教え込んでいく。そのおかげで、八天部の知能指数は平均一五〇を超えており、最も頭脳明晰である阿難に至っては、IQが二〇〇近くもあるという。

「じゃあ、何をしに行くのさ」

 という問いに、

「せやな。ま、テーサツっちゅうところかな」

「偵察? なんでさ」

 しつこく義親(ギシン)が訊いてくる。

「この街に入ったときに、お前も霊視した筈や。上空に重く広がる黒雲――あれは、悪意の渦や。間違いあらへん。そのおおもとを見つけるんが、俺たちの仕事やろ」

 そう、見たのだ。

 あの凄まじいまでの悪意の想念流を。

 ここには、何かがある。

 そう直感させるほどの、うねりであった。

「それは…そうだが…」

「それなら、ええやんか」

 と、紀羅はうまくいったぞという風に、ニッと笑ったのである。

 義親が、やれやれと溜息をついたとき、グラスの中で溶けた氷が澄んだ音を立てて動いた。

 それが昨日の晩、夜遅くのことである。

 翌日――つまり今日、会津の空は雲一つなく、心地よいほどに晴れ渡っていた。

 紀羅は、小林裕介の通う中学校の門の前に立ち、登校する生徒たちを眺めていた。

 昨日要請しておいたから、今日中には制服が彼の手元に届く筈である。紀羅は制服を着るという体験に、今から緊張している自分が嬉しかった。

 こんなことで緊張できる自分が、まだ残っていたことを知ったからだし、こんな緊張ならいつまでも味わっていたいと思ったからだ。

 登校のピークにはまだ少し早いのか、生徒たちの数はそんなに多くない。

 しかし、あともう少しで待望の夏休みに入るせいか、生徒たちの顔は明るかった。

 楽しそうに、家族で旅行に行く話を友人にしている女子生徒がいる。

 参考書を片手にブツブツ言いながら歩いているのは、有名私立高校でも受験する三年生だろうか。

 紀羅にとって、この何もかも平凡な光景全てが、初めて体験するものであったのだ。

「へへ。なかなか、いいもんやな、学校ってのも」

 と呟くと、紀羅は気配を消して校内に入っていった。だから、その約十分ほど後にやってきた少年たちに気づくことはなかった。

 昨晩、紀羅が思わず殴り倒してしまった武雄率いる少年グループである。

 武雄の顔の腫れは、まだ完全にひいてはいなかった。

 昨日の夜、自分の息子が顔を腫れ上がらせて帰宅したとき、彼の両親は卒倒しそうになりながら、誰がやったのかと強い口調で追求してきた。

 しかし、武雄は何も言わずに部屋にこもった。彼にも、誇りがあったのだ。何処の馬の骨とも知れぬガキに殴られたなどと言える筈がなかった。だからその夜は、真っ暗な部屋の中で、それ以上に暗い復讐の炎を燃やし続けていたのである。

 そして、その炎の矛先は、先ず、小林裕介に向けられることになっていた。

 そんなことなどつゆも気づかず、紀羅は気配を消して校舎内を鼻歌まじりに歩き回っていた。一見隙だらけに思える行動であるが、妖に仕込まれた足の運び方、眼の動きはさすがで、実際隙なぞ何処にもなかったのだ。

 朝の短いホーム・ルームの時間が近いのか、生徒たちはほとんどが教室内にいた。といっても、教室も廊下も登校してくる生徒が増えてきたため騒々しくなっている。だから、紀羅の鼻歌に気づく者などいやしないのだ。

 紀羅は、校舎内の隅々まで、とりあえず見て回る気でいた。何故なら、すでに悪意・悪想念の凝り固まって出来た蛇を、何匹かみつけていたからである。

 まだまだその蛇は小さかったが、何も大きくなるのを待つ必要などなかったので、紀羅は見つけるたびに愛刀で一閃してきた。

 確かに、人が愚かな生物である限り、蛇は地球上の至る所で誕生する。それが少しでも大きく成長すると、その周辺地域の人々に呪いと災いが降りかかるのだ。そうならぬように、〝美槌〟をはじめとする対妖魔組織はメンバーを現地に派遣し、蛇の除去作業を欠かすことなく行っているのだ。

 しかし、この地は異常だった。

 この街に来てから数日だが、紀羅は、すでに二〇〇匹近い蛇を愛刀にこめられた霊力で退治してきている。義親もまた、そうであるらしい。彼の推測によれば、二人が霊視した黒雲の正体は、この街の何処かにいる〝暗黒の(ブラック・タワー)〟の持ち主を通して、悪想念が天空に噴き上がったためであり、蛇は、そこから生まれたものではないかというのだ。

 それが正解なのかどうなのか、難しいことは紀羅にはわからなかったが、要するにおおもとを斃せばいいということだけは確かだった。しかし、それと校舎内偵察は根が一緒ではなかったのだ。少なくとも最初のうちは。

 学生服を着て、中学校へ一度通ってみたかったという気持ちは嘘ではない。しかし、それよりも気になったのは、あの少年――小林裕介のことである。何故だかわからないが、とにかく気になってしようがなかったのだ。

 だから、来た。

 しかし、今は事情が少々異なって来つつあった。おおもとを捜すのに周辺をあちこち探し回るのも悪くはないが、今回は自分の気持ちに素直に従って正解だったようだ。

 悪意の渦が見える。

 悪想念の蛇が、壁の亀裂から鎌首をもたげ、常人とは明らかに違う侵入者を見つめている。

 紀羅は、ぞくぞくしたものを感じていた。


 その頃、会津ロイヤルホテルを後にした義親は、今日もおおもとの特定作業にかかっていた。会津盆地の地図を赤線で何等分かに分けて、一日に二つのペースで作業を遂行しつつある。

 これまでに行った所は、何処も通常よりも少しだけ妖気が高い程度であった。無論、その少しというのが命取りになる場合もあるわけで、すでにこのことは〝美槌〟には報告済みだった。

 しかし、その日予定していた区域に足を踏み入れた途端、義親は身体の芯から凍るような恐怖を覚えたのだった。八天部の足をすくませ、寒気を覚えさせるほど、その区域の妖気は凄絶だったのである。

 もし、これだけの妖気を一度に浴びせかけられれば、精神修行をしていない普通人たちは、たちまちのうちに衰弱し、凍死してしまうだろう。

 この区域にすむ人々の精神に何事もない――もちろん、少しは影響が残っているだろうが――のは、すでに完全に妖気に馴れきっているためだろうか。この地の妖気の発生は、今に始まったことではない、ということが〝美槌〟の調査でわかっている。その起源は不明だが、遙か昔からあったことは確かなようだ。

 だから、人々は妖気が含まれた大気を体内に取り入れ、生活してきた。空気、水、動物、植物とあらゆるものに妖気が染みつき、それを食べ続けてきた人々の体内には決して消し去ることの出来ぬほどの妖気が残留し、いつしか人はそれに馴れていった。

 これは、恐ろしいことであった。妖気を大気として普通に取り入れる人間が地上にあふれたとき、そこは人間の住む処ではなくなる。

 悪魔が棲む地となるのだ。

 義親は、武器である棍棒を握りしめる手が、いつの間にか汗ばんでいることにようやく気づいた。

 一刻も早くおおもと――特異点を見つけ出さねば、この地はとんでもないことになってしまう!

「――ぬん!」

 不意に襲いかかってきた蛇を棍棒で叩き潰して、再び義親はすぐそばにある建売住宅の屋根に飛び乗った。

 そして、空を霊視してみる。

 晴れ渡った青空には相変わらず、暗く重い悪想念が広がっており、今にも街全体を圧し潰してしまいそうだった。

 義親は、直感的に時間がないことを悟っていた。悪意の渦が大きくなっているのを見たからだ。

「――!?」

 義親の視線が、つと百メートルほど先に行った地点に流れた。

 電柱のすぐそばだ。そこに、黒い瘴気の塊が見える。すなわち、悪意の念が固まったものだ。

 しかし――と義親は思う。

 何と悪意に満ちた街なのだろう。いちいち悪想念を浄化させていてはきりがない。だから、それは放っておこうと思った。

 だが、足を他の方向に向けたときに、義親は、あれだけの瘴気を放っておいたら、他の人に迷惑が及ぶかも知れない、と思い直していた。迷惑をこうむった人の裡に、加害者への憎悪が生まれたとき、また街の妖気レベルが上がるのは間違いない。

 それならば、今、自分の手で浄化させておくべきではないか。

 そういう考え方をするのが義親なのだが、これが紀羅の場合だと――

「うっとうしいなぁ。ちょっと痛みつけてきたろか」

 と単純明快な一言に集約されるのだ。

 ともかく、義親は、瘴気塊のある電柱のそばまで行って、地上に降りることにした。

 果たして、そこには三人の不良少年たちが、それぞれ思い思いの格好で煙草を咥えていた。

 着ている学生服を見て、思わず義親が、ゲッとなってしまう。それほど、異常な服装だったのだ。

 思い切り短い上着と、だぶだぶのズボン。

 そうかと思えば、膝近くまである上着と細く絞ったズボンに身を包んだ奴もいる。

 しかも、それぞれに竜や虎などの派手な刺繍が施され、鎖などがじゃらじゃらとぶら下がっている。

 三人の頭髪は赤や紫に染められ、耳や首、手首はきらきらと光る貴金属で飾られていた。

 いったい、何十年前のセンスなのか。

 そして、シンナーか麻薬でもやっているのか、おかしな――狂ったような眼眸を、義親に向けている。

「なんだ、てめえは?」

 肩まで伸ばした髪を紫に染めた左側の奴が脅すように言う。

 ろれつがおかしい。

 少年たちの周囲には何人もの大人たちがいた。

 ベビーカーに赤ちゃんを乗せた若い奥様たちが、井戸端会議をしている。

 話題はどうやら、この札付きの不良たちと、彼らに絡まれている自分のようだ。

 他にも営業回りをしているサラリーマン風の男や散歩中の老夫婦。

 それに、近くの住宅のベランダには、洗濯物を干しているホームヘルパーさんがいた。

 みんな、見て見ぬふりをしながら、迷惑そうな視線を投げていた。

「なるほど」

 義親が、一人納得したふうに呟く。

 高校生らしき三人組の背後に霊視できる瘴気が、そいつが口をきいた途端に動き、うねり、膨れ上がったのを見たのだ。それは、瘴気が彼等とつながっていることを意味するが、常人には見ることは出来ないし、わかりもしない。だから、少年たちはますます義親に不快感を募らせていった。

「何が、なるほどだよ。何か用があるのかよ、このガキ」

 と、向かって右側の奴が言う。

 頭がウニのようだ。

 とは、そいつの頭髪を見た義親の感想である。

 この男はすでに煙草を吸っていない。かわりに、その手には魔法のようにナイフが握られ、その鋭い刃を愛しそうに舐め上げていた。

「いえ、別に。ただ、馬鹿な奴等だなぁと思ったものですから、見物に」

 義親が、口許に冷笑を閃かせつつ言う。

 言いながら、紀羅に似てきたなと笑ってしまう。ということは、彼の師である妖に似てきたということなのか。

「なにぃ!?」

 瞬間、ぐっと悪想念が膨れ上がる。その影響を受けたのか、辺りからいっせいに悪意の蛇が出現した。偶然に通りかかった主婦の体内からも顔を出している。そいつらは、彼女らの日常の不平・不満・苦痛・怒り・嫉妬などを喰って生きているのだろう。どれもが大きく育っていた。

「てめえ、ナメてやがるのか!」

「滅相もない」

 右手刀を左右に振りながら、

「そんな格好をしていて恥ずかしくないのかなぁって思ってるだけですよ」

 ぬけぬけと言う。

「――!?」

 三人の顔が怒気に赤黒く染まり、鬼のように歪む。

 瞬間、ますます瘴気が巨大化した。それに連鎖反応を起こして集まってくる蛇の数も、どんどん増えていく。

 義親は、この辺りの蛇を出来る限り集めて、一息に浄化してやろうと考えていた。そのための挑発である。

「あ、そうか。恥ずかしくないから、それが格好いいと思ってるからやってるんですよね。なるほど、それもそうか。人の道に外れたことをやって生きていけるのは、本当のクズだけですものね。そうでしょう?」

「てめえ、よくもまあ、ぬけぬけと言えるな。俺たちを目の前にして」

 真ん中の男が、学ランの内ポケットから何やら光るものを取り出した。

 ナイフだ。

 それに合わせるように、左側の男がアイス・ピックを取り出す。

 右側のウニ頭が、ヒッヒッと狂ったような声を上げて、自分の下にナイフで薄く傷をつける。あふれた血を、うまそうに嚥下していた。

「ああ、やだやだ。ちょっと馬鹿にされるとすぐこれだ。――これだからクズの相手するのは――」

「何だい、小僧?」

 と、真ん中の男。

「やめられないんですよ。ましてや、ナイフやらアイス・ピックやらを振りかざす奴等の相手はね」

 義親がニヤリと笑ったとき、ついに瘴気は爆発した。もの凄い奇声を上げて、少年たちがいっせいに突っ込んで来たのである。


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