4-2 フレディ 中編
これは、前世での攻略の記憶。
フレディ。彼には、お金が必要だった。病気の母を治すためには、大量のお金がいたのだ。
で、アンディがどうやって攻略したのかというと……やっぱり金だ。
ジークの婚約者となったら、
当初私は突っ込んだ。
「いや金で解決するんかい!」と。
でも、婚約者になることが必須だったので、中々攻略が難しかった。
だからゲームとしては成り立っていたと思う。
フレディとデートした次の日。私の屋敷。机に伏しながら私は騒ぎ立てる。
「乙女の……乙女の純情を弄ばれたああああああ!」
大声で「うわあああん!」と叫びながらリリポをバシバシと叩く。そんな私をジャスは呆れた顔で、ロセは心配気に私を見ている。リリポは無感情に「痛いデス。痛いデス」と呟き続けた。
私は思い出す。フレディが去る間際に言った言葉を。
「一度デートってものをやってみたかったんだ」
「え?」
「デートなんて新鮮な経験が出来たのはよかったよ」
「え?」
「ルフちゃんのダンスぐらいには面白かったよ」
「え?」
そのまま、フレディは立ち去った。
「え?」
この場に残るのは私しかいない。
「……え?」
それが悔しくて悔しくて仕方がなく、私は机にリリポを叩き続けた。
リリポは「痛いデスって」と痛くなさそうに言っていた。
すると、ジャスが呆れたように声をかける。
「なーにが乙女の純情だよ。だからやめとけって言ったんだよ。ったく」
「ぐ、ぐぬぬ……」
キリキリと歯を噛み締める。この私がジャス相手に何も言い返せないだなんて。
「あぁ! もういい! もう一回フレディのところに行ってくるわ!」
私は怒って、部屋から出て行こうとする。と、ジャスが私の服を掴んで止める。
「おいおい。また俺の時みたいに城に突っ込む気か? 今度こそ殺されっぞ」
「……それもそうね。じゃあジャス! フレディが休日はどこにいるか教えなさいよ!」
「なんで俺が知ってる思うんだよ……」
「一番仲よさそうだから」
「どこをどう見たら仲良く見えるんだよ!」
ジャスはそれだけ言うと、不機嫌そうな表情で紙に地図を書いて、私に渡した。
「そこがフレディの常連の店だから、行ってみろよ。俺も行ったことねぇからどんなところかわからねぇけどよ」
知ってんじゃないの。
私は「ありがとう」とだけ言い、紙を取って部屋から出た。
さっそく、ジャスに教えられた店に向かう。昨日私のところに居たんだから、きっと今は仕事で店にはいないだろう。
けれど、店の人から話を聞けば、フレディの情報ぐらいは聞けるはず。
そこに、フレディ攻略の突破口があるはずよ!
私は地図通りに店に向かう。
辿り着いたのは……。酒がかかれた看板と、綺麗なお姉ちゃんの絵が扉にかかれた店であった。
……え? 怪しすぎじゃないこれ。
お姉ちゃんの絵は、がっつり胸が強調されており、ただの酒を飲んで楽しむ雰囲気じゃない。
フレディ、こんな所にいるの……?
これはちょっと、気が引ける……。
「ルフサン、ここに女性一人で入るのは、チョット……」
リリポの心配気な声が聞こえる。私は心配をされると、逆に負けん気が沸いてくる。
「なーに言ってんのよ。私が怖そうだから引くなんて選択肢、選ぶわけないじゃない」
ごくりと唾を飲み込み、自分を奮い立たせるように笑ってみせる。
「フレディもいないでしょうから、野蛮な男に囲まれることになるだろうけど……構わないわ! 私は天才だからどうにかして見せるのよ!」
「本当にいいんデスカ……!?」
リリポが私を止めるより早く、扉の取っ手を掴むと、勢いよく扉を開けた。
「女は度胸よ!」
扉を開けると、フレディが女の子に囲まれながら酒を飲んでいた。
「あれ? ルフちゃんじゃ~ん。どうしたの?」
「……」
私は一つ深呼吸すると、叫ぶ。
「普通にいるじゃん!」
私は叫ぶ。フレディは酔っ払っているためか、ぽけーとした顔で首を傾げるばかりだった。
「いや、もう、仕事はどうしたのよ」
「僕自由出勤なんだ。ロセ君と同じ。君の元から僕を奪えたからもういいみたいだ」
……ならば、これもロセと同じ攻略方法でいけるのではないか。
「ねぇフレディ! 私なら仕事与えることができるわよ!」
「いやだよ~。僕遊んでいたいもの」
だ、よ、ねぇ……!
この酔っ払った口調がなんだかムカつく。
と、そこでフレディの酒が結構高そうなことに気がついた。
「ねえ、あんた。母のためにお金溜めていたんじゃなかったの……?」
「あれ、どこでその話を?」
……しまった。これは前世の記憶だから、私が知っているのはおかしい。
私が黙っていると、フレディが「まあいいか」とばかりに言葉を続ける。
「僕がお金欲しいのは、この店で遊ぶ金が欲しいからだよ」
「……死にそうなお母さんは?」
「いないよ」
「いないんかい!」
フレディの言葉に、余計頭を悩ませる。
また金で釣れば確実にこっちの味方になるだろうけれど、王子の婚約者とただのお嬢様では、財力が違う。
すると、フレディはぽんと手を叩いて、楽しそうに言った。
「そうだ! ルフちゃんがここの女の子みたいな格好したらなびくかもしれない!」
ここの……女の子……?
ちらり。と、周りを見ている。下着の見えそうなスカートに、触ってくださいと強調するばかりの胸。
こんな、こんな格好。
「できるかーーーー!」
私はこの場にいるのが突如恥ずかしくなって、走って店から出た。
「ばいばーい」
と、フレディの気の抜けた声が聞こえた。
店の扉を閉めると、私は頭をわしゃわしゃとかき乱す。
あぁ、全く攻略方法が掴めない。金って何よ。金って。乙女ゲーじゃ有り得ない攻略法よ。
「ルフさん!」
この声は、クロウだ。
そうだ。我が家の財政状況に詳しいクロウならば、フレディに金を出せるか検討できるのではないだろうか。
王子の婚約者レベルとは行かなくても、結構な金額を出せるのでは!?
「クロウ! ちょうどよかった! 私、お金が欲しくって……」
私が言葉を返そうとすると、クロウは凄い形相で私の元まで走ってきて、肩を掴んだ。
「確かに現状、我が主の財政は厳しいですけれど、こんな所で働く必要なんてありませんから!」
「え? ちょ」
私が否定しようとすると、クロウが優しく私の背中を撫でる。
「帰りましょう。そして、今後のことはきちんと話し合いましょう。ルフさんは、私達の大切なお嬢様なのですから」
「ま……! ま……! 待ちなさいよ!!」
私はクロウの頭を叩いた。
「フレディさんが、ここに?」
クロウが首を傾げる。
「そうよ! 私が男と接待……? する店で、働くわけないじゃない!」
クロウは顎に手を沿えじっと私を見る。
「いえ、ルフさんならノリで働き出しそうですし」
「どんなイメージよ!」
「割と合ってまセンカ?」
リリポの言葉に、「うっさいさね」と小さく返事をする。
しかし、私の言葉に余計クロウは悩む表情をした。
「……フレディさんがこんな店に頻繁に通っているだなんて……」
「通っているらしいわよ! 母親が病気で金が必要! なんて嘘ばでついてさ!」
私がぷりぷりと怒っていると、クロウは更にきょとんとした表情をした。
「いえ。フレディさんの母親が病気で、お金を必要としていたのは本当ですよ」
「……へ?」
「ただ、フレディさんの母親は、先日なくなってしまったのですが」
クロウの言葉に、私は目を丸くする。
じゃあ、今フレディがお金が欲しいと言っているのは何故……?
何故この店で頻繁に遊ぼうとする……?
もしかして、母が死んだ悲しみを誤魔化すためではないのか……?
それが分かれば、話は早い。
「ふふん。ならば、私がやるべきことは簡単だったわ」
私は踵を返し、酒場の扉を開けて再び中へと入っていく。
「ルフさん……!?」
クロウの驚いた声は無視をして、フレディの元へ走り、その腕を掴んだ。
「フレディ! デートしましょう!」
「……は?」
「デートよデート。私とやったでしょう?」
「何を、今更……」
「ほら、行くったら行く!」
「え、ほんとに……!?」
最初とは逆。今度は私がフレディの腕を引っ張る。
フレディは酔っ払っているため、よろよろと立ち上がって、私についてくる。
そんなフレディの瞳は、どこか期待に満ちているようにも見えた。