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4-1 フレディ 前編

 ジャスが私の屋敷の戻った次の日。

 私はアンディの姿を見つけた。

 そのアンディの姿は、今まで私が見て来た、周りを見下した表情とは打って変わって、目の下にはクマが出来ており、よろよろと歩いている。

「アンディ、どうしたのよ……」


 私が驚いて口をあんぐりと開けていると、アンディは視線だけ私へと移し、自虐気味に笑った。

「……このままじゃ私、捨てられるのよ」

「捨て……え?」

 捨てられるという事実にも驚いたが、それを私に語るアンディにもっと驚いた。

 アンディは続ける。


「あなたに三人もの人間を取られたのだから、使えないって判断されてね。あと一人取られたら追い出されるそうよ。笑いたければ笑えば?」

 私を睨みつけながらも、悲壮感を持ったアンディ。それを見て、私は……。


「ぷふー!」

 笑った。

「ねぇねぇ! リリポ見てこれ! 無様! 無様ね! え? 私を馬鹿にしていた時の顔はどこに行ったの? 飛んでっちゃったの? ぷははははははは!!」

「チョット!!!」

 私の発言は、リリポによって止められた。


「アンディもまとめて救うはどうしたんデスカ!?」

「何言ってんの? 勿論救うわよ。でも馬鹿にもするわよ。私アンディのこと大嫌いだし。そして救われたアンディは私に跪いて言うの。『ルフ様のおかげで助かりました! 私の命はルフ様のおかげです!』ってね。最高でしょう?」

「これは……これは……ヒロインになれまセンネ……」


 リリポのいつもの言葉を聞き流して、またアンディへ馬鹿にした顔を向けようとする。

 その時、突然アンディに突き飛ばされ、尻餅を付いた。

 すぐに「何すんのよ!」と声をあげようとするが、アンディの表情を見て言葉を止めた。

 憎悪。まさに憎悪の表情だ。怒りで息が荒くなり、自然と見えた歯を隠そうともしない。

「私……! そこまで落ちぶれてはいないわ!」

「なっ……なっ……」


 アンディは踵を返して、この場から去って行った。

「……そんな怒ること……?」

「いや、怒りマスヨ」

 アンディが去ってからも暫く、動悸が治まらなかった。




 そんなこんなで。午後。

「んで、そのままアンディのフォローもせずに帰ったわけか」

 屋敷の中で、ジャスが不機嫌に、頬杖をつきながら私を見る。

 私はというと、ジャスの作った美味しいハンバーグをほおばりながら、答える。

「ほうよふぁふぁひふふぁふぁふぁ」

「食べながら喋んなよ」


 私は食べ物をごくりと飲み込むと、ふてくされてジャスを見る。

「アンディアンディってうっさいわね。あんたはもう私の元に戻ってきたんでしょ。アンディと私どっちが好きなのよ!」

「は……? ……」


 ジャスは驚いた顔をして、しかめっ面で私の髪の毛から指先まで見ると、答える。

「……アンディだな」

「はあああああ! むかつく!」

 私がイラつきで歯をギシギシと噛み締めていると、リリポが、私に声をかける。


「ジャスサンは今攻略済みですので、アンディサンよりルフサンの方が好きデスヨ」

 その言葉を聞けば、私はにやりと笑う。

「ははーん。さてはジャス。ツンデレって奴ね」

「何がツンデレだよ。てめぇが一番ツンデレだろ」

「はあ!?」


 がた、と椅子の音を鳴らしたあと、机を叩いた。

「私のどこがツンデレだってのよ! あんたらを助けてんのは、私の都合でしかないんだから!」

「あーはいはい」

「はいはいじゃないわよ! あぁ! ジャスはこんなだし、クロウはお父さんっぽいし、ロセは下っ端だし、もっと! 乙女ゲーみたいに! 愛してくれる人はいないわけ!?」

「僕が愛そうかい?」


 突如隣から聞こえる声。はっとして声のする方へ顔を向ければ、フレディの姿そこにあった。

「フレ、フレディ! 何しに来たのよ!」

「ルフちゃんに会いに来たんだ。噂になっているよ。ルフちゃんは元々この屋敷で働いていた人を落として回っているってさ。僕もそうなんでしょう?」


 爽やかな笑みを浮かべるフレデイ。

 ……そっか。広場で踊ってクロウを手に入れたこともあったものね。噂にもなるわね。

 と、考えていると、真っ先に反発したのはジャスである。

「はっ! いきなり来て何言ってやがる。てめぇがアンディのスパイじゃねぇって保障がどこにあるんだ?」

「は? 頭沸いてんの?」

「はぁ!?」


 フレディの真っ直ぐな罵声にジャスは切れて、そんなジャスをフレディは無視をして私に顔を向ける。

 このジャスとフレディのやりとりは、二人がこの屋敷で働いていた頃には、通常運転だったのである。

 そのため私は今更驚いたりしない。

 二人の争いはどうでもいいとばかりに、私はにやりと笑うと、フレディに言う。


「スパイでもなんでも構わないわ。どうせ落とすんだもの。むしろ探す手間が省けたわ」

 落とされることが分かっているのならば、今更演じても仕方があるまい。

 私は単刀直入に言う事にした。

「フレディ。私の元に戻ってきなさい!」

 びしっと指をさす。


 一応頼んではみるもののこの一回で戻ってきた人は、ロセ一人だ。

 そう簡単には肯定しないだろう。ここは断られた後にメリットを提示することでどうにか……。

「いいよ」

「……え?」


 きょとんとしてフレディを見つめるも、フレディは優しい笑顔を私に向ける。

「いいよ。ルフちゃん」

 目を細めて笑い、子どもげが残ったいつもの笑みとは違い、私を熱い瞳を見つめる。


「へ……? あ、ああ、あぁ! だ、だったら私の手の甲にキスをしなさい!」

「分かった」

「分かったの!?」

 言って、私の手を取ると、甲に口付けした。

「えぇぇえええ!?」


 いや、でも、驚きはしたものの、これはこれでいいんじゃないかしら!?

 んで、アンディこそが無事婚約破棄ね! ざまあったらないわね!

 と考えながらリリポの方を見ると、宝石は三つしか光っておらず、フレディが攻略に含まれていないことが分かる。


「……なんで攻略になってないのよ!!」

「気持ちが籠っていないからデスネ」

「気持ち~~~!?」


 そんなのが必要だったのね。いや、もし必要じゃなかったらマッチョな用兵でも雇って無理やりキスさせるだけで済むんだから、当然っちゃ当然よね。

 と、ここでフレディとジャスに目を向けてみる。

 リリポと話す私は、見えない何かと話す人間にしか見えないため、きょとんとした表情を私に向けている。

 私はそんな状況が恥ずかしくなって、一つ咳払いをするとフレディにびしりと指をさす。


「フレディ! もっと気持ちを込めてキスをしなさい!」

「気持ちって言われてもな……。無理やり出せるわけないし。……あ、そうだ。デートでもしてみる?」

「デート……。よし、いいわよ」

 私が堂々と頷くと、ジャスが「おいおいおい」と声をあげる。


「待てって! フレディとか!? やめとけって絶対痛い目みるぜ!?」

「黙ってろ腰抜け愚図」

「てめぇえ! ぶっ殺すぞ!」


 ジャスがフレディの胸倉を掴む。

 ……このままじゃ喧嘩に発展しかねない。

 どうやって止めようかと考えていると、フレディはジャスの腕をぱちりと叩くことで手を離させて、私に近寄る。

 すると私の手を取って、そのまま屋敷から出ようと歩いてくではないか。

 ……あ、これ完全ジャスを無視している。

 ジャスを不憫に思いながらも、好都合なのでこのまま一緒に出て行った。




「じゃあ、デートを楽しもうか!」

 フレディのその言葉で、デートが始まる。

 昼から始まりおよそ四時間ほどのデートをした。街で服屋を見たり、公園で一休みしたり。

 私はというと、可愛い服にはしゃいだり、お喋りを楽しんだりをした。

 夕暮れにはカフェに行って、窓際の席に二人で座る。

 これは、中々いいんじゃないかしら。もう落としたんじゃないかしら。


 と自画自賛していると、店員が飲み物とケーキを持って来て、私達の前に置く。

 たくさんのいちごが乗ったタルトを目の前に、私はよだれが落ちそうになる。

 フレディはそのケーキをフォークで一口サイズに切り取ると、私の口元まで持ってくる。


「はい」

「ん」

 私は美味しそうに咀嚼し、ごくりと飲み込んだ。

 フレディはいつものように、にこりと笑顔を向ける。


「美味しい?」

「美味しいわ」

「楽しい?」

「楽しいわ!」

「ならよかった」


 この会話に一体なんの意味があるかは分からないが、とりあえず乗っておいた。

 その時、ちりんちりんとカフェの扉が開いた合図がなる。

 それだけなら気になどしないのだが、その人間はこちらへと近寄ってくるではないか。

 アンディだ。アンディがカフェにやってきたんだ。

 あいつ、どこにでも現れる。暇なのか。


「フレディ? 何をしているのかしら? あなたは王城の兵士でしょ?」

 アンディが高圧的にフレディに問いかける。

「あらアンディ? ごめんなさいね? フレディも私の元に戻るみたいよ?」

 私は完全にアンディを馬鹿にしながら、くすくすと笑う。

 対するアンディは、私を気にせずにフレディに言葉を投げる。


「ふざけたことしていないで、早く王城の警備に戻りなさい」

「だから、フレディはもう……」

「うん分かった」


 私の声を遮ったのは、フレディだった。

「……へ?」

 素っ頓狂な声をあげると、フレディはアンディに近寄って、彼女の肩に手を置いて抱き寄せた。


「じゃあね、ルフちゃん。楽しかったよ」

 フレディがそう言うと、アンディは心底嬉しそうに、私を見下すように目を細めて笑った。

 その後、二人で仲良く私の元から去って行った。


「……へ?」

 ただ一人、私だけがその場で立ち尽くしていた。

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