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9-1 最終章 前編

 玄関から光の玉を浮かばせながら入ってくるジーク。しかも王子という立場でありながら、兵士一人連れてきていない。

 もう私達に魔法を隠していられない状況ということだろう。

 ヴァリーの手の平から光の玉が湧き出て、ジークに向けてはなった。

 しかしジークも手をかざして、同じ光の玉を放って威力を相殺させた。


 そんなヴァリーに苛立ったかのように、ジークは言う。

「弟の癖に兄に逆らう気か? 相変わらずあの母親に似ているな」

「ジーク……いや、兄さん。あんたは間違っている。こんな事をして王子になったとして、何の意味もない!」

「意味? 意味ならあるだろう。一緒に貴族を憎んでいたヴァリーなら分かると思っていたのに……」

 そう呟いたかと思えば、突如ジークはこちらを見て叫んだ。

「特に! 一番憎かったのは王子とルフ! お前らだ!」

「わ、私……?」


「生まれついて恵まれている。将来が約束されている。俺と違って。だから……だからこんなに時間をかけて俺の力で全部ぶち壊してやったのに!」

 喉が枯れてしまいそうなほどに叫ぶジーク。一瞬何も言い返せなくなりそうになったが、ぐっと堪えて笑った。


「あんたの力? 攻略したのはアンディでしょう? アンディの力の間違いじゃないかしら」

「ふふ、はははは! ははははははははは!」

「な、何よ……!」

「まさか知らないのか? アンディの攻略をしやすくしたのはこの俺だ」

「……どういう事?」

「もっと分かりやすく言ってやろうか? クロウの娘を殺したのも、フレディの母を殺したのも、ミニルの母が死刑になるよう手回ししたのも……全部俺だってことだよ」


「……は?」

 そう言葉を投げたのは私だ。

 言っている意味が分かる。だが理解ができない。

 復讐のために、関係のない三人を殺した……? なんで、どうして……。

 だが私よりも動揺していたのは、フレディだった。

 怒ることも、泣き出すことも、喚くこともしない。ただ茫然とその場で止まってしまった。

「ジーク!!」

 私は叫び、殴りかかろうと一歩前に出ると、ヴァリーが腕を私の前に出して動きを止める。

「どいて! ヴァリー!」

「冷静になってください。ここで怒りをむき出しては兄さんの思うつぼです」


 私は拳を強く握りしめて、震える息を整えるよう深呼吸した。

 冷静な姿を見せた私にジークは小さく舌打ちをして、また手を振りかざした。

 再びヴァリーが魔法を相殺される。しかし、今回の魔法は大きく、相殺された余波が風となり私を襲う。

 なんとか倒れることなく耐えることができた。


 ヴァリーはジークに手のひらを向けたまま、手に持っていたリリポを床に投げる。

「いいですか。この場で一番大事なのはルフさんが生きることです。そのリリポを持って、逃げてください」

 私が逃げるか否かを迷っていると、状況を察したフレディが床に転がるリリポと私の手首を掴んで、外へと走り出した。

 フレディに引っ張られるまま走っていると、後ろから破壊音が聞こえた。


 暫く走っていると、徐々にフレディが足を止めて私にリリポを渡す。

「ルフちゃん。先に行って」

 振り返れば、ジークの姿が見えた。

 ヴァリーは……? そう考える暇もなく、フレディはジークの元へ走る。

 だから私は頷き、そのまま走り出した。

 遠くへ。




 路地裏に入り、ゴミ箱とゴミ箱の間に挟まってしゃがみこみ、震える。

 言葉にできない不安に押しつぶされそうで、肩を抱える。

 その時、ヴァリーから預かったリリポが震えていることに気が付いた。

 リリポを手に取ると、私は気が付いた。

 本来七個光っているはずの宝石が、今は一個しか光っていない。

 皆、忘れてしまったから……?

 私の記憶がなくなれば、攻略済みという事実はなくなるということであるのならば、もう私の事を覚えている人間は、あと一人ということになる。

 可能性はそれだけじゃない。もしかしたら、殺されても光が消えるのかもしれない。ヴァリーも、あの場にいたみんなも、殺されてしまったかもしれない。


 いやだ。

 皆に死んでほしくない。

 それに、もう独りぼっちは嫌だ。

 私の焦燥の意味もなく、リリポにつく宝石の、最後の一つの光が消えた。

「なんで……」

 呟きは、誰も聞く事がなかった。

 ふと、大通りの方を見てみれば、兵士が歩いていることに気が付いた。

「逃げないと……」

 ジークが兵士に言って、私を探させているかもしれない。

 私は急いで立ち上がってその場から去ろうとする。

 その拍子に靴が脱げた。

 すぐに取りに戻ろうかと振り返るが、兵士が私に気が付いたようで近づこうとしている。

 怖い。

 もう守ってくれる人間はいない。それがこんなに怖いことだったなんて、私はいつの間にか忘れてしまっていたようだ。

 私は脱げた靴をそのままにして、走った。




 曇り空の下。空から降る大きな滴が私の体を叩きつける。

 ヴァリーの家は行けない。ジークが一番に潰しに来るところだろう。

 一度行ったのはミニルの家。そこもダメだ。使用人の家だってジークは知っている。

 同じ理由で、クロウや他の使用人の家も無理だ。

 じゃあどこへ行けばいい?

 大通りを避けるように歩いていると、いつの間にかゴミが転がる暗い路地裏に入り込んでいた。


「痛」

 尖った何かの破片が私の足に触れる。足の裏を見てみると、血が流れ出ていた。

 そこからもう歩けなくなって、私はしゃがみこんだ。

 私は、けがの手当て一つ何もできやしない。ご飯も作れないし、家事もできない。おまけに家もなくなってしまった。

 また、私は……。

「独りに」

 その呟きに、返事をする人間はいなかった。


 だが、突然私の体に雨が降らなくなった。

 上を見上げれば、傘。背後を見れば、タリクの姿がそこにあった。

 タリクは、自分が濡れるのもお構いなしとばかりに私に傘を差した。

「何しに来たのよ。自慢の顔が濡れるわよ」

「そうだな」

「同情でもしているの?」

「そうかもしれないな」

 私が手に持つリリポを見てみても、八個目の宝石は光っていない。

「ねえ、見てよこれ。この宝石が光っていたらあんたが私に好意を抱いているってことなの。光っていないでしょう!? あんたは私のこと! まったく! 好きじゃないの!」

「そうかもしれない」

「じゃあ、なんで! こんなところにいるのよ!」

 私が力強くタリクの胸倉を掴むと、その拍子にタリクが傘を落とし、雨が私達二人を濡らす。


「……その方がカッコいいからだ」

「はあ!? あんた、正真正銘の大馬鹿ものね!」

 私は呆れてタリクの胸倉を離す。

「俺はバカだとは思わない」

 タリクは落ちている傘を拾った。

「俺はカッコいいと思う俺でいたい。だから俺は俺と関わりのある人間全てを大切にする。困っているなら全力で助けるし、苦しんでいる人を見逃す人間になりたくない」

 そう言って、彼はもう一度私に傘を差した。

 自分が濡れるのも構わずに。

 あれほど自慢していたタリクの髪型は、もう原型を留めずにぐしゃぐしゃになっている。

「俺は俺の理想の俺を作る。俺がカッコいいと思う俺を。何か、おかしいか?」

 真っすぐとその瞳を私へと向ける。


 思い出した。私がタリクに憧れていた理由。

 ナルシストで、ぶれなくて、我がままで。

 私は、こんな人間になりたかったんだ。自分を通して、周りを大切にできるこんな人間に。


 そして私は、こんな人間になれていたんだ。

 ヴァリーに支えられて、皆がいて。見せかけだけじゃない本当のプライドを手に入れたんだ。

 何凹んでいたんだか。私らしくない。この天才で超かわいいこの私が、こんな事でくじけるわけがないんだから……!

「怒鳴ってごめんなさいタリク」

 潤んだ瞳を拭うと、いつも通りに笑ってみせる。

「でも私が苦しんでいるんだと思ったなら間違っているわ。……私は、全然苦しんでなんかいないからね! 私をこんな目に合わせたあいつらを、どうやってぼこぼこにしてやろうか考えているところだったからね! おーっほっほっほっほっほっほっほ!」

 急に調子を取り戻した私にタリクは一度驚いた表情をすると、柔らかく笑った。


「そうか」

「でも困ってはいるわ。急に私の使用人達がいなくなってね。協力しなさい。タリク」

 私は、タリクに手を差し伸べる。

「勿論協力しよう。可愛い女性の頼みは断らないさ」

 タリクはその手を取り、握手を交わした。

 もう悲しんでいる表情なんて見せてやらないわ。

 皆の前でいつも見たいに大声で笑って……ジーク達を懲らしめてやるんだから!

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