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8-2 タリク 中編

 数時間後、カフェで待っている私の元にタリクが現れる。

 なお、店の端の方では、ヴァリーが護衛として待機している。

「やあ。待たせたね」

 タリクは笑顔で向かいの席に座る。

「ううん。今来たところ」

 自分でデートと言っておきながら、本当にただのデートみたいな会話をしてしまい、なんだか恥ずかしくなって髪を耳にかきあげた。


 それからカフェの中でたわいもない話をし、美味しいチーズケーキを食べ終わった後、お手洗いに行った隙にタリクが会計を済ませていた。

「え、タ、タリク。あんたお金ないんじゃ……。私お嬢様だし、自分の分ぐらい私が……」

「女性に払わせるわけにはいかないだろう?」

「……そう?」

「さあ、デートの続きに行こうか。ルフちゃんに似合いそうな服を見つけたから、是非着ておくれ」

「あ、ちょ、ちょっと」

 タリクは私の手を引っ張って、外へと連れ出す。

 どうしましょう。私、エスコートされている。




 服屋で、私が普段着ないようなファンシーな服を渡されて、試着室で着替えた私は、赤面しながら試着室のカーテンを開ける。

「やっぱり似合うよ! 私の思った通りだ!」

 タリクは拍手をして、私をぎゅっと抱きしめる。

「こんな可愛い子とデートできて、何て幸せなんだろうか! 誘ってくれてありがとう!」

「ちょ、ちょっと離しなさいよ!」

「あぁ、ごめんよ」

 と言うタリクの姿はにこにこと楽しそうで、店員に「これをください」と言う。

「ちょ、ちょっと待って! 私買うなんて言ってないわよ」

「あぁ、そうだったな。ごめんよ。でも、今日はその姿でデートをしたいんだ。……だめかい?」

「……いいけど」

「なら決まりだ!」

 とだけ言うと、タリクは店員と会計を始めた。


「……ルフさん。ルフさん」

 試着室の裏で隠れていたヴァリーが顔を覗かせて、ちょいちょいと私を呼び寄せる。

「何タリクさんのペースに飲まれているんですか。攻略するんじゃなかったんですか?」

「そ、それはそうなんだけど、も、もうあいつ、私の事好きなんじゃないかしら!? ほら、あんなにかわいい連呼しているし……」

「……ルフさん。もしかして、タリクさんの事好きですか……?」

「はあ!? そんなわけ……!」

 と反射的に言いかけるも、ジト目で私を見つめるヴァリーに、私はぽつりと話す。

「……えぇ、そうよ。好きよ」

 そう言った途端、今にも騒ぎ出しそうなヴァリーの口を急いで塞いだ。

「好きって言っても! ……憧れとか、そういうたぐいのものよ。恋愛感情じゃないから」

 そんな私を見たヴァリーは笑顔を見せて、私の口を塞ぐ手を軽く叩く。


「……何笑ってんのよ」

 私は塞ぐ手を離すと、ヴァリーに不満げな目を向ける。

「いいや、よかったなと思いまして。ルフさんが好きと素直に言えるようになって」

「あぁ、そう……」

 と私がむすっとしたところで、会計の終わったタリクが手を振りながら私に近づいてくる。

 ヴァリーはすぐにまた試着室の裏に隠れる。

「ルフちゃん。このまま着て行こうか」

 タリクは私の手を取って、店の外へと連れて行く。

 私と相談もせずに、どこへ行くつもりなんだか。

 ――まったく。随分勝手なんだから。

 そうやって拗ねてみるも、本当は楽しかった。




 しかし、そんな楽しい空間もつかの間だった。

 歩いている途中、ジークを見つけた。

 大通りの道に繋がる小道で、私達を待ち構えているかのように立っていたのだ。

 見る限り、フードを深く被り変装をしている様子だ。

 ジークは私達に手の平を向けた。

 あれは――。魔法を使おうとしている。


 冷や汗が噴き出ると同時に、私は笑顔を向け、叫んだ。

「何しているんですかジーク王子! お忍びですか!?」

 精一杯大声で、待ちゆく人全てに聞こえるように。

 声を聞いた街の人はこちらへと振り向く。

 ジークは面を食らったような表情をして、手のひらを隠した。

 想像通り。今まで魔法を使ってこなかったのは、魔法が使えるという事実を隠すためみたいだ。

 そのまま私はタリクの手を握ったまま走り出す。

「おいおい。そんなに慌てて……私の向かう先分かっているのか?」

 余裕な表情をするタリクを無視して、私はジークが見えなくなるまで走り続けた。

 早く……早く攻略しないと。

 ジークに手を打たれる前に、早く……。




 ジークが見えなくなったことを確認し、肩で息をして立ち止まる私に対して、タリクは声をかける。

「ふっ。流石ルフちゃん。やはり行く先を分かっていたようだな」

「……へ?」

 顔を上げると、見えたのは花畑。

 黄色や赤など、様々な色で咲き誇るコスモスがあった。

 広さは四十メートルほど広がっており、花畑を上から十字で描いたように、通路がつながっている。

 真ん中には、四本の柱で支えられた真っ白な屋根の下に、真っ白なベンチが置いてあった。

 勿論タリクの行きたい場所が分かっていたつもりはなかったのだが、タリクがそう思うのならばそういうことにしておくとしよう。


「も、勿論分かっていたわ……!」

 しかし……この場所は、記憶にある。私と……タリクが王子だった時の記憶。

 私がまだ十歳の頃、親同士の決めた婚約に嫌気がさしていた頃、二人でこっそり町に抜け出して、花畑を見に来たんだ。

 そして、そこで改めて自分と婚約してほしいと、タリクに言われた。

 そんなことを思い出していると、私はタリクに花畑の中央まで連れていかれた。

 一体何だと思ったのもつかの間。タリクは跪いて私を真っすぐ見上げる。

 その熱意のこもった視線が恥ずかしく感じたのだが、私はタリクから目を離すことができない。


 風が吹けば、コスモスがざあざあと音を鳴らしながら揺れる。

「誰としたのか覚えていないのだが、ここで過去に婚約を交わした記憶があったんだ。なんとなく、君と交わした気がする」

 微かに覚えているんだ。私とタリクの大事な記憶を。

 嬉しい気持ちをぐっと堪えて、私はいつもみたいに笑ってみせる。

「そうよ。私があなたと約束したのよ」

 すると、タリクは私がキスをしろと言う前に手を取って、私の手の甲に口づけした。

「やっぱり、これは運命だったんだね」

 突如の行動に驚いて声が出なくなる。

 それに、これはもう攻略完了……! と思って、私は背後にいるヴァリーへと振り返ると……。


 ヴァリーは手を頭の上で大きく交差させてバッテンマークを作っていた。

「どうして……!」

 その理由は、タリクの次の言葉で分かった。

「こんなにも美しい彼女を迎え、こんなにも美しい私がいる。こんなにも完璧なものはない」

 そう言うタリクは本当に嬉しそうな表情をしながら立ち上がり、髪をかきあげる。

「あぁ、なんと私は素晴らしいんだろう!」

 そう言いながら、タリクは私を抱きしめた。

 ……これは、このタリク。

 究極のナルシストであるため、好きなのは私ではなく、タリク自身なのだ。




 私はタリクの肩を押して離れて、走ってタリクの元から去って行く。

 全力疾走しながら、私は叫んだ。

「そんなことってあるの!?」

「あるみたいですね」

「あれ、どうしたらいいのよ!」

 びしりと指をさす先のタリクは、平然とこちらに手を振っている。

「知りませんよ。今までルフさんの力でどうにかしてきたじゃないですか」

 私がわなわなと震えているにも関わらず、しれっと述べる。

 私はそれがむかついたので、ヴァリーを羽交い絞めにしてぐるぐると回した。

「ちょ!」

「許せないわー!! タリク! 絶対に、惚れさせてやるんだから!」

「目が、めーがーまーわーりーまーすー!」

 ヴァリーの叫び声を無視して、気が済むまで回し続けた。

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