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8-1 タリク 前編

 これですべての攻略は完了だ。

 あとはこの力を使って、ジークを止めればいい。

 ざまあないわねジーク。泣き喚くといいわ。そしてこの私に跪かせてやるわ。

 ここで私の物語は終了。ここからはエンディング。

 

 ヴァリーにきちんとお礼を言った後、ただのぬいぐるみとなったリリポに視線を落とす。

 ……しかし、光っている数は八個中七個。残り一個足りていない。

 アンディの話によると、七個目の攻略を終えた後、すぐに八個目が光ったということだ。

 それに、ヴァリーも……リリポとして私に会った時に攻略対象は七人だと言っていた。そのため、七個しか光っていないことは明らかにおかしい。

「……ねえ、ヴァリー。これどういうこと?」

「ん……? あー……足りてないですね」

「何が?」

「魔力が」

「つまり?」

「あと一人攻略が必要です」

 ヴァリーがさらりと話をする。それを聞いた後私は、動揺を抑えるように一つ深呼吸をする。

 ヴァリーに背を向けて、上を見上げると雲一つないきれいな青空が視界に入った。

「……エンディング確定後に続きがあるなんて聞いてない!」




 あれから、私はヴァリーと一緒に家に帰った。

 サウジに生きていることがバレたのだから、他の場所に身を隠した方が良いかもしれないが、不用意に出かけるよりも私の仲間がたくさんいる屋敷の中で守ってもらった方がよいだろうというヴァリーの考えだ。

 そもそも、人が多い屋敷の中で何の罪もないのに堂々と殺そうとしたら、王子としての立場に関わるから、人気のない場所ほど危険だろうとのこと。

 ヴァリーを連れてきた私を見たみんなの反応は面白いもので、特にジャスとフレディとミニルは警戒と疑惑の目をヴァリーに向けていた。

 そんな彼らを完全に無視して、私はヴァリーを部屋に連れこんだ。


「何よ! やっとすべての攻略が完了したと思ったのに!」

 私はベッドに座ったまま頬を膨らます。

「すみません。私も予想外でした。もっと私に魔力があればこんなことには……」

「……じゃあ、別に悪くないから謝らないで頂戴」

 つんとそっぽを向くと、そんな私の何がおかしかったのかヴァリーは噴き出して笑った。

「……それより! 宝石が光らない問題も気になるけれども……順を追って、私に隠していたことを話しなさい」

 椅子を反対向きで座るヴァリーに再度顔を向ける。

「とは言えど、何から話せばいいものか……」

「そう? じゃあ、私が決めるわ。1.あんたとサウジの関係。2.あんたとジークの関係。3.ジークとリリポの関係。……答えによっては思い切り怒ってやるんだから」

 私はふんすと鼻を鳴らして腕を組むと、ヴァリーは一つ頷いて話し始める。

「一番は……記憶を失っていた間、私も兄さんに協力していたんです。サウジさんは兄さん直属の部下として出会いました。ジーク王子が私の兄というか……少し長くなるけど、聞いてくれませんか?」

 私が頷くと、ヴァリーはぽつぽつと語りだす。




 話の内容はこうだ。

 まず、ヴァリーの兄は王子ではない。

 元々はヴァリーもジークも、貧しい魔法使いの家で育っていた。ヴァリーとジークと彼らの母の三人で。

 母は魔法を使えた。だが魔法を使えることは、他の人間にはずっと隠していた。なぜならば、この国で魔法使いは嫌われ、見つかり次第排除される対象だったからだ。


 皮肉なことに、魔法を使える自分の息子達が傷つかないために、母はヴァリーと兄に魔法を教えた。

 ある日母が病気で死んだ時、兄はこの世の全てを憎んだ。国も、人も、弟であるヴァリーさえも。

「母が病院に行けないほど苦しんでいたのは、全て魔法を認めない国のせいだ! 国が全て悪い!」

 ジークはそう叫んだ。


 それから数週間後、ヴァリーは兄の事を忘れた。

 アンディは願ったんだ。

 ヴァリーの兄……ジークが王子になることを。

 自らの手で国を変えるために。




「もしも魔法を使えなければ、きっと私も今だって普通の人間として生きていたんでしょうね」

 すべてを語り終わったヴァリーは、切なげに視線を床へと落とした。


 私がなんと声をかけようか迷っていると、ヴァリーは真剣な表情で私に視線を向けて、続きを話す。

「……で、肝心の最後の宝石を光らせる方法ですが、あと一人の攻略方法を考えなければなりません」

「……ちょっと待って。じゃあ、やっぱりジークを攻略しなければいけないってこと!? それは、それはぜぇぇぇぇぇったい……!」

「落ち着いてください」

 ヴァリーは椅子から立ち上がって、私の唇にそっと人差し指を触れさせる。

「まだいるじゃないですか。今のジークが偽物の存在であるのならば、本物のジークという存在が」

「……それ、本当に今どこかにいるの? 消えていなくなっていたりしない?」

 ヴァリーは顔を近づけてにっと笑う。

「分かりません。しかし、探してみる価値はあると思いますよ?」




 言えば早いとばかりに私は立ち上がり、部屋の扉を開ける。

 ……と、二人の男が部屋の中になだれ落ちてきた。ジャスと、フレディとだ。どうやら、扉の前で聞き耳を立てていたようだ。

「何やってんのよあんた達……」

「だ、だってよ!」

 ジャスは立ち上がって、上に乗るフレディを床に落としてから、喋りだす。

「初めて見る顔だから、危ない奴だったらどうしようかと……」

 と言うジャスの瞳には、好奇心が宿っている気がする。

「僕はようやくルフちゃんが彼氏を連れてきたのかと思ったよ」

 床に落とされた痛みをまるで感じていないかのように装いながらフレディも立ち上がった。

「いやいや、ルフのタイプは年上だろ?」

「年下に目覚めたんじゃない?」

「マジで!?」

 何故かフレディとジャス二人だけで盛り上がっている。私は呆れた視線を二人に送った後、にやりと笑う。


「ねぇ、そこの二人。ちょっと手伝ってくれない? 探してきてほしい人がいるの。特徴は……自分が王子だと主張している人!」

「……ジーク王子の事か?」

 ジャスが聞くも、私は首を振る。

「いいえ。ジーク王子以外で自分が王子とか言っている頭のおかしい奴よ!」

 何のことだかさっぱりわからないと言いたげな表情を見せるジャス。

 だがフレディの方は「そういえば」と話を切り出す。

「僕のよく行く酒場でそういう人の話を聞いたよ。

自分が王子だと主張していて、鏡見てうっとりしている人間」

「さすがにその人は違うんじゃ……」

 とヴァリーが言いかけたところで、私はフレディとヴァリーに両手を使って二人に指さした。

「その人よ!」

「えぇ……?」

 ヴァリーの困惑している声。


 私は手で髪をなびかせながら、部屋の扉へと向かう。

「考えてもみなさい。皆記憶を失っているのならば、元王子だって王子だったこと忘れているに決まっているでしょう。私が王子と自称する人を探してと言ったのは……幼馴染として過ごした王子が、壊滅的なナルシストだからよ!」

 天井に向かって叫ぶように言ってみせる。

 誰も返事をしなかった。




 フレディが言っていた王子と名乗る男を見つけたのは、なんと美容室。大きな窓がいくつも並んだ店で、楽しそうに女性の髪を切っているではないか。

 金髪。さらさらとした髪を首の後ろで一つ縛りにしているという特徴。男なのに髪に花のアクセサリーをつけているという特徴も一致している。

 私は向かい側の建物の陰に隠れて、男の様子をじっと伺っている。

 その後ろでヴァリーが、攻略の確認のため持ってきたリリポをぶんぶんと振り回しながら私に話しかける。


「あれが本当に元王子なんですか? ただのナルシストの美容師なんじゃないですか?」

「もう。疑り深いわね。ジークは昔、『もしも王子に生まれなかったら美容師になりたかった』って言っていたのよ。間違いないわ」

 と私が言うも、ヴァリーはまだ疑問そうな表情をしている。


「もう。ヴァリー。あんたは妖精の力により記憶を失う前の記憶を持っているんだから、あんたの方が詳しいんじゃないかしら? あんたの記憶の元王子は、どんな感じだったのよ」

 ヴァリーは「う~ん」と唸った数秒後、ぽつりとつぶやく。

「あんな感じだった気がします」

「やっぱりあっているじゃない! さあ、行くわよ」

「え、でも本当か……。あ、ちょ……!」

 と言いかけているヴァリーの手を引っ張って、美容室に入っていく。


 扉についたベルがからんころんと鳴る。店員達は一斉にこちらを振り向いて、「いらっしゃいませ」との声を揃った。

「ねぇ、美容師の指名ってできるかしら? そこの男の人を指名したいんだけれども」

 私が自称王子に向かって指をさすと、男は髪をさらりとかきあげて、私に近寄る。

「この私をご氏名とはお目が高い。お相手しよう」

 洗礼された動きで礼をした。


 男が顔を上げた時に男を観察してみると、その透き通った肌から肌の手入れを欠かしていないことが分かった。

 胸についた名札には、名を「タリク」と記載してあった。

 私もこれからはタリクと呼ぶことにする。

「えぇ。タリク。よろしく」


 私がカット席に座ると、タリクに笑顔を向ける。

 タリクもその笑顔を返すよう笑顔を向けて、何点か私の要望を聞くと、カットを始める。

「ねぇ、タリク。あなたって、半年前はどこにいたの?」

「それがな、覚えていないんだ。気が付いたら、王城の中にいて、不法侵入の罪に問われて、数か月服役した後、とりあえず美容師になろうと決意してこの職場で働きだしたんだ」

 行動力がすごい。


 しかし、何故か王城にいたとなればもう元ジークで確定と言ったようなものだ。

「ねぇ、タリク。私貴方の記憶について知っているの。仕事が終わったらデートしましょう」

「デート……? 一緒に連れている男の子は……」

「あれはペットみたいなものだからいいのよ」

「……なるほど」

 とタリクが納得するも、美容師に派手な髪型にされているヴァリーは「誰がペットですか」とぽつりと呟いた。



 さあ、ここが始まりよタリク。

 さっさと攻略を済まして……ジークの目論見をぶち壊してやるわ。

 鏡の中に映る私は、随分とあくどい顔をしていた。

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