6-2 ???? 中編
クッキーが完成した後、私たちは眠った。
徹夜なんかあまりしない私たちの疲れはかなり激しくて、そりゃもうぐっすりと眠った。
何時間か後。すやすやと気持ちよく眠っている最中。私は……。
鼻をつままれた感触がした。
でも眠気が勝ったの反応せずにいると、次は頬を手で掴まれて、尖った唇になる。
でもやっぱり眠気が勝ったので放っておくと、今度は口を塞がれた。
「んぐっ!」
私は目を開いて塞ぐ腕を思い切り叩くと、起き上がった。
「いや、起こし方!」
目に入ったのは自分の腕をさすりながら不満げな顔をするフレディであった。
「この時間にサウジの元に行くんでしょ? 起こした僕優しいじゃん」
「口を塞ぐのはなしよ! 下手したら死ぬわよ!」
「ルフちゃんの生命力ならそう簡単に死なないと思うよ」
「どういう意味よそれ……」
「それよりほら、時間時間」
私はフレディの言葉に拗ねた表情をしながらも、サウジのいるレストランに向かうことにした。
サウジのいるレストランの扉の前。
どうやらちょうどサウジも仕事終わりだったらしく、扉の前で私に手を振ってきた。
軽く挨拶をすませれば、私は「はい。これ」と言ってラッピングされたクッキーを渡した。
「うぇ!? いやマジ感激っす! こんな激やばなクッキーもらえて!」
「そ、そう……?」
やはりそのチャラついて適当な態度がやっぱりむかつくが、攻略が進んだと思えば悪くはない。
「食べますね!」
サウジはそれだけ言うと、私が何時間もかけて作ったクッキーをバリバリと速攻食べ切った。
あんなに苦労探したものを、こうも簡単に食べられてしまうと、なんだか不満だ……。
「おいしいっす!」
「……ならよかったわ」
私の返事はめちゃくちゃ不機嫌な声だっただろう。
にも関わらず、サウジは私の声に気づかないのか、気にしていないのか、いつものままの笑顔を向ける。
「じゃあ俺様、お礼にルフちゃんにきれいな景色を見せちゃうっす」
「きれいな景色……?」
「山っすよ山! あそこから見る景色がきれいなんっすよ!」
そこ、フレディと登った気がする。
だが、サウジがその景色を私にプレゼントしたいというのならば、喜んで受けるのが乙女の役目ってところよね。
それに、あの景色をもう一度見るのも悪くないわ。
「いいわよ。行きましょう! 山に! じゃあ、ジャスに弁当を……」
私が屋敷に戻ろうとすると、サウジは私の腕を掴む。顔を向ければ、彼の人差し指をそっと私の唇に触れさせる。
「二人きりで出かけましょう。ね?」
それから、日常の話など雑談を交えながら、サウジと山を登った。
そうしてたどり着いた頂上。そこには、前と同じ景色……も、広がっていた。……が、前とは違う人物がいた。
アンディがいるではないか。
「はあ!? アンディ!? なんでこんなところにいるのよ!? もしかしてあんた……。私のストーカー……?」
「あら。私があなたにそこまで好意的に見えたかしら?」
「嫉妬でストーカーって手段もあるんじゃない? 色んな男を私に奪われているし。ぷふー!」
「はあ。バカの相手は疲れるわ。せっかく、久々にジークと二人きりで会えると思ったのに」
穏やかだが刺々しい物言いで、言うアンディ。ジークの名前が出た時、私は嫌な予感がした。
「あんた、ジークと婚約破棄したんじゃ……」
「えぇ、したわよ。したけれど、一緒にきれいな景色を見たいと言われたら、断るわけにはいかないでしょう?」
サウジと同じ言葉。たまたま同じ言葉になるだろうか。いやならない。
それはつまり、サウジとジークが通じていることを意味する。
と、そこでサウジの顔を見てみれば、アンディの姿に驚く様子もなく、ほくそ笑んでいることが印象的だった。
「連れてきてくれたか。サウジ」
ジークの声。木の後ろに隠れていたようで、薄く笑いながら近づいてくる。
「どういうこと……?」
「騙されたってことっすよ。ルフちゃぁん」
サウジは私を突飛ばす。
私は尻餅をつく。心の中は焦っているが、あえて余裕な表情で笑って見せた。
「あら。私と婚約したかったんじゃなかったのかしら? ジーク」
「あぁ。婚約ならしたかったさ。お前の力は、危険だからな」
「危険……?」
「妖精の力を持ったお前が危険なんだ。その妖精の力を使えば、俺を王座から引きずり下ろすこともできる。それだけじゃない。お前が王女になることも。何なら世界をも変えることができる!」
「……ちょっと、何よそれ。私、そんなこと聞いていないわよ……? ただ、リリポからは死刑を免れることができるとだけ……」
「ほう。……ならばリリポは、お前に何も教えていないんだな」
どういうこと。リリポ。そう考えて視線を左右に動かすも、リリポの姿が見つけられない。
どうして? 今までいつだって、私のそばにいたじゃないの。
「じゃ、ジークちゃんのご依頼なんで、死んでくださいっす」
サウジは私に考える隙を与えないまま、銃を向ける。
これはさすがに、死んだかもしれない。
そう思ったとき。突如。
人が降ってきた。
木の上から、サウジへと向けて、誰かが飛び降りてきたのだ。
顔がちらりと見える。それが、フレディであることが分かった。
フレディは飛び降りる勢いで、思い切りサウジの顔面に蹴りを入れた。一瞬サウジの銃が離れる。
フレディはその隙に、サウジの両腕をサウジの背中にやって、地面に素早く組み伏せた。
「フレディ……! どうして……?」
「ジャスが、行けって言ったから」
「ジャスが……?」
「うん。なんか調べて、サウジが詐欺集団の一人だという証拠を掴んだんだって」
昨日から私が屋敷を出るまでずっと姿を見せなかったジャス。理由は私のためだったんだ。
それを私は、ぐちぐち文句を言って……。
フレディは続ける。
「で、一緒にルフちゃんを追いかけていたんだけど……。ジャス遅かったから登っている途中で置いてきた」
「そう……」
軽くジャスに同情した。
「……ありがとう。フレディ。おかげで助かったわ。ジャスにも、後でお礼を言っておくわ」
私が柔らかく笑うと、ジークが突如声をあげて笑い出す。
「くくく、ははははははははははは!」
「な、何がおかしいのよ」
「あぁ、もしものことを考えて、予備を持ってきておいてよかったと思ってな」
「はあ? 予備?」
私がそういうと同時に、ジークは懐から新しい拳銃を取り出して、アンディに向けた。
「え……?」
アンディは唖然として、目をぱちくりとさせる。数秒後彼女は状況を理解したようで、静かに冷や汗が流れてくる。
私はジークを鼻で笑ってみせる。
「はあ? まさかアンディを人質に取って私をどうにかする気? 残念だったわね。私はアンディが大嫌いなのよ。助けるわけないでしょう?」
「いや、助ける。ルフはな」
すぐに、撃つつもりであることが分かった。
ばん。
銃の音。
「行くな!」
フレディが叫ぶ。
だがフレディの声が届いた時にはもう、私は身体を地面にくっつけながら、アンディの手を握っていた。
放たれた弾丸はアンディの肩にあたり、崖から落ちそうになっているところを、ギリギリで掴むことができたのだ。
「ルフちゃん!」
フレディの声。軽く視線をフレディに向けてみると、彼は今にも泣きそうな顔で暴れるサウジを押さえつけようとしている。
「簡単に死なないと思う」人の顔じゃないわね。なんて、どこか冷静に考えている私がいた。
「ほら、見捨てない」
ジークが私に銃口を向けている気配。
「っ……!」
アンディは目に涙が浮かべながらも、震える声で私に言う。
「あなた程度の人間に助けて欲しくなんてないわ」
「はぁ? あんたの都合なんか知ったこっちゃないわよ。黙って引き上げられなさいよ」
だが引き上げようとしても、女性の力ではなかなか上げることができない。
フレディがサウジを蹴り上げて、私の元に近寄ろうとしている姿が見える。
その直後に再び弾が発される音が聞こえた。




