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5-1 ミニル 前編

 今回の攻略は一味違う。

 次の攻略対象は庭師ミニル。彼はなんと、現在王国の庭師をやめて、自分の家に帰っているというのだ。

 つまり、アンディ大好きのジャスのアホバカドジマヌケとは違う。元々アンディを慕っていたクロウや、アンディの元に居た奴とも違う。

 完全な中立の立場なのである。


「今度こそ! 楽勝で手に入れてやるわ!」

「毎回それ思ってまセンカ?」

 ミニルの家へと鼻歌交じりに歩いて行きながら向かっていると、横から声を投げかけるリリポの声。


「いーや、今度こそ本当に楽勝に手に入れるのよ! むふふ。楽しみね」

「そうデスカ……」

「何その完全に信じきってない顔は!」

 むかついたので、リリポの顔を掴んでむにむにとした。




 たどり着いたのは、町の端にある民家。人混みを避けるようにひっそりと建っている印象を受ける。

 その古びた扉をこんこんと叩いてみると、ミニルが姿を現した。

 薄い水色で、髪はくるくると曲がったくせ毛。だがその髪は短いため、ぼさぼさしているというような印象は受けず、むしろすっきりとしているように見える。

 服装は庭師をしていた頃とは違い、完全に気の抜けた部屋着であるようだ。


「ルフ……!」

「会いに来たわよ! ミニル!」

「どうして……」

「あんたに話があるからよ。さあ、家に上げてくれないかしら? 外は寒いわ」


 私の言葉を受けてミニルは、戸惑いながらも中に入れてくれた。

 私リビングにあるソファに座って、私はさっそくとばかりにミニルに私のところに戻るよう声をかけようとするが、ミニルの真剣に私を見る目に気づき、言葉を止めた。


「……何?」

「俺、謝らなければならないことがある」

「え、ど、どうぞ……?」

「アンディの元に行ったこと」


 ……あぁ、そんなことか。罪悪感を持っているなんて、初パターンだわ。だったら簡単だわ。

「今は、後悔しているってこと? じゃあ、私のところに戻る?」

「うん」

 ミニルは私の元に近寄り、ぎゅっと抱き着いた。


「え?」

 その両腕をぎゅっと私の背中まで回して、体を密着させる。

「戻れて、嬉しい。ずっと戻りたかったから」

 その心のから言っているであろう言葉に、私は……私は……。


「ちょ、ちょおおおおおおお!」

 めちゃくちゃ動揺してミニルを突飛ばした。その拍子に尻もちをついてすごく痛かった。

「い、いや、ハグはまだ早くないかしら? 攻略もまだだし?」

「ルフサンって、ハーレム欲しいくせに男に免疫ないデスヨネ」

「うっさいわよ妖精風情が!」

「妖精を風情呼ばわりヲ……!?」


 リリポの姿が見えていないミニルは、よくわからないもののミニルに向けて言っているものだと解釈して、頭を下げた。

「ごめん。うるさかったみたいで」

「い、いやミニルはうるさくないわよ!?」

「そうデスヨ。ルフサンが一番声でかいデスヨ」

「うるさい!」

「……やっぱりうるさいか」


 なおもミニルが凹んだ表情をするのが億劫になって、私はリリポの胴体を掴むと壁に投げつけた。

「ブニャ」

 と変な声をあげて黙ったリリポを確認してから、ミニルに体を向ける。


「ともかく! 私のこと好きなのね!」

「うん。好き」

「フリじゃないわよね!」

「うん」

「……本当!?」

 あまりにもあっけらかんとして言うため、真実性を感じられない。


「い、一応聞いておくけど、私とアンディと比べて、なんで私の方がいいと思うわけ!?」

「ルフ、すごく性格がいい子だから」

「は、は、はあ!? わた、なん……! ……自分の都合しか考えてなくて、言いたい放題言う私のどこが性格いいっていうのよ!」

「全部」

「全部じゃわからないわよ!」


 ついつい必死になってしまうが、ミニルとこんな言い合いをしても無駄なことに気が付く。

 ミニルは昔からこういう人間だ。思ったことをそのまま口にして、何も考えていない。

 アンディに誘われたときも、何も考えずに行ってしまったのだろうし、今私を褒めているのも、何故か知らないけど本当にそう直感で感じているのだろう。

 ならば話は簡単。さっさと手の甲にキスをさせればいい。


「じゃあミニル、ここで跪いて……」

 その時、遠くから足音が聞こえた。それも一人や二人ではない。十人ほどのたくさんの足音だ。

 ――何? 突然……!

 そう考えていると、扉が乱暴に開けられる。


 扉を開けた人物はすぐに分かった。

 あの仰々しくて繊細な服装。そしてあの整った顔立ち。ジークだ。ジークがミニルの家までやってきたんだ。

 結構な人数の兵士と、見たことのある小太りな男を連れている。あの男は、確か何かの大臣だったはず。

どうして一国の王子と大臣がわざわざこんなところに……?

などと考えていると、大臣の方から私に話しかけてくるではないか。


「これはこれはルフお嬢様。どうしてこちらに?」

 ふてぶてしく葉巻を咥えながら、煙を吐き出す。実に臭い。そういやこの大臣は、ニコチン中毒でいつもヤニ臭かったんだ。

「あ、あんた達は何しに来たのよ!」

「大事なものを返しに来たもらいにきた」

 私の疑問を答えるかのように、ジークは言った。


「はあ……!?」

「あぁ、これだこれ」

 ジークは私の言葉などと無視をして、ずかずかと入ってくる。数人の兵士を引き連れている。

 そして、部屋の端に置いてあった一枚の絵を持ち上げると、満足そうに笑った。

「これは王のものだ。返させてもらうぞ」

「何言ってんのよ。王のものって……?」

「まだわからないか? ミニルは城からこの絵を盗んだんだ」

「盗んだ……? どういうことよ。ミニル……」


 私が聞いても、ミニルは返事をしない。まるでそれが本当のことを言っていると認めているようだった。

 周りの兵士達は、ジークの持っていた絵を丁重に受け取ると、額縁に入れてさっさと持ち出そうとする。

「これは、次の式典で飾る絵だ。奪い返させてもらう。そして……ミニル。お前は逮捕だ」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 せっかくこんなに好感度高い状態で、まだ誓いのキスもしていないのに。

 せめて先にキスを……と考えかけるも、こんなに人の多いところでキスしなさいなんて恥ずかしくて言えるわけがない。

 とりあえずごまかすために、言葉を続ける。


「えっと、裁判を通したわけ!? その絵……よくわからないけど、今はこの家の物でしょう!? 奪ってもいいわけ!?」

「何を言っている。盗まれた物は、盗み返してもいいと法律で決まっているだろう」

 ……そうなの? と首を傾げていると、ジークの隣にいた大臣は、「そんな簡単なことを知らないバカな女」とでも言いたげに鼻で笑っていて、心底むかついた。

 そこで突然ジークは私の方に体を向けて、私の手を取る。


「用はそれだけではない。ルフにも会いに来たんだ」

「……ふぇ?」

 急に私の方に来たため、思わず私らしからぬ素っ頓狂な声をあげてしまう。


「君に婚約を申し込みに来た」

「……。……どういうこと?」

「アンディとの婚約は破棄だ。今は君と婚約をしたいんだ」

「……どうして」

「だって、アンディは君から四人の男を奪われるような無能だろう? だったら、ルフと一緒にいた方が得だろう」

 私は返事を返すのをやめて、ジークの言葉を聞く。

「どうやら昔アンディが持っていた妖精の力も持っているようだし、その力も私の役に立てておくれよ」


 へえ、ジークって、妖精の力のこと知っていたんだ。などと冷静に考えている自分に気が付いた。

 体の熱がすっと下がっていく感覚。

 ……あぁ、こいつ、こんな男だったんだ。

 子供のころは純粋で、一緒に遊んでいて楽しかったのだが、どうにもひねくれた成長の仕方をしたようで。

もしかして、アンディの性格を変えたのは、ジークなのではないか……?

 そうすれば、ジャスがあんだけアンディの執着することも頷ける。

 なるほどなるほど。

 私は勝手に納得して、こくこくと頷いていると、何を勘違いしたかジークは私の手を離すと、頬にそっと触れる。


「私の婚約者になっておくれ」

 ジークはゆっくりと唇を私に近づけてくる。

 だから私は、ジークの胸倉を掴んで引き寄せると、床を強く踏んで、思い切り拳をジークの頬へと振り下ろした。

 頬に拳が埋め込まれて、ジークは「ふへ」とばかみたいな声をあげる。

 彼の顔面は床に叩きつけられるように落ちて、血が数滴舞った。


「お断りよ。この下種野郎」


 唸るような低い声で言いながら、痛む自分の手をさする。

 次は蹴り上げてやろうかと考えているとき、リリポが私に声をあげる。

「……いや、ルフサン」

「何よ」

「兵士に囲まれた中、王子を殴るのは……まずいかと」


 と、声を確認すると同時に、私は二人の兵士に腕を掴まれ、体を持ち上げられる。

「え」

 そのままミニルと一緒に連行された。




 私は牢屋の中に放り投げられた。倒れこむように床にあたったので、痛い。

 がちゃりと鍵が閉まる音がする。私はすぐに飛び起きると、鉄格子を掴んでガタガタと鳴らす。

「ちょっとー!! 私を誰だと思っているのよ!? 私はお嬢様よ!? さっさと出しなさいよ! このあほ! ばか! どすこい!」

「ドスコイって何デスカ」


 私がいくら喚いても、兵士の奴らは無視して去っていった。

 なんで、なんでこの私が……。

「でも、ありがとうござマス。ルフサンが殴ってくれて、とてもすっきりしマシタ」

 そのリリポの言葉を聞いて、少しだけ殴ってよかったと思った。


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