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もう一人の姉

 魔術研究所の一室。

 その部屋の床には、白い線が一直線に描かれている。

 そしてその線から、10メートル程離れた所に立つ泥人形。

 フィールが魔法で作った人形だ。

 魔法が込められたその人形は、白い線の外から放たれる魔法を今日もまだかと待っていた。

 とは言っても、その人形に意思と呼べる物は無い。


 そこに現れたのは、肌の薄黒い小さな女の子。

 髪は金髪で、そしてその髪の間から伸びる尖った耳。

 その幼女とも少女ともとれる女の子の周りには、獣人族のメイド服を着た可愛い女と、自分を作った上級魔術師の姿。


 (さて、今日は誰の魔法が飛んでくるのかな?

 あのメイドが飛ばしてくる黒い球は、再生するのに時間がかかるからなぁ。

 でも、マスターが放つ魔法はもっと凄いし……)


 人形には意思は無い……筈だった。

 ただ魔力で作られている為なのか、誰にも言えない事だが、何かを考える事が出来るようになっていた。

 まあ誰にも言えないというか、口が無いから喋れない。それに動く事も出来ない。

 だが人形はそれで良かった。自分の仕事は、飛んできた魔法を体で受け止める事。


 すると白い線の前に立ったのは、今までずっと他の者が放つ魔法を恨めしそうに見ていた、あの薄黒い肌の少女だった。

 その少女が、そこに立つのは初めて見る。


 (うん? あの子魔法使えたのか? それか初めての魔法か。

 どちらにせよ、赤い炎の球か、水の玉かのどちらかだろうけど)


 泥人形には、二つの目がある。

 ただ窪んでいるだけの目なのだが、見る事はできた。

 それに魔法で作られた為、飛んでくる物が魔法である事も分かる。

 自分を作ったフィールの知識が少し影響したのか、それが火や水だという事も分かった。

 だが何という名前の魔法かは、知らなかった。


 しかし、作られてからの記憶は蓄積されている。

 初めて白い線の前に立つ者は、必ず炎の玉か、水の玉を自分に向けて打ってくる。

 

 (マスター、何で口と耳作ってくれなかったのかなぁ)


 泥人形には、口が無いほかに耳も無かった。

 目を作ったのは、フィールの遊び心だったのだろう。

 その為、その少女が喋れない事を知らなかった。

 魔法が飛んでくる前には、その魔法を飛ばす者の口が動く。


 しつこいようだが、泥人形には意思が宿ってしまった。

 だから魔法が飛んでくる時には、一応心構えをしているのだ。

 痛覚はないが、飛んでくる魔法が凄い魔法なら、ちょっとだけびっくりする。


 (あれ……? 左手付き出してるだけだな。口も動いてないし……)


 少女は自分から見て、体を横にして立っている。

 そして左手を前に付き出しているだけだ。


 何するんだ? 

 と考えていると、少女は付き出した左手に右手を添えて、ググッと後ろに引くモーションをとった。

 その両の手には、何かは分からないが、光を放っている物が見える。


 (……何?)


 そう思った次の瞬間。

 少女の左手から、何か光を放つ物が放たれた。

 ヒュンっと音の後、バンともダンとも聞こえる叩きつける音。

 もちろん、耳の無い泥人形にはその音が聞こえる筈もなく……


 気付いた時には、頭と体と足と手がバラバラに飛んでいた。


 (ええ!)


 ボトボトと床に落ちる、自分の体達。

 そして魔法の力で床に散らばった体は、ゆっくりと一点に集まってゆく。

 ペタペタと再生していく自分の体。


 (勘弁してくれよ……完全に再生するのに時間かかりすぎるぞこれ)


 頭の部分。目がある位置が少女の方へ向いて床に落ちた為、光を飛ばした少女が見えた。

 少女はとても満足そうな顔で、こちらを見ていた。

 ほら見て! 凄いでしょ! とも取れる顔。


 (……まあいっか)


 泥人形には名前が無い。

 簡潔に言えば、人の為に働く的である。

 そして、今日もせっせと働く意思をもった泥人形。

 彼のおかげで、今日も魔術研究所はどこも壊れる事なく平和である。



 * * *



「凄いですリリスさん!」

「ああ……驚いた。

 魔力を別の手で掴む事自体、かなり高度なことなんだが……」


 いつも冷静なクルルが大きな声を上げている。

 フィールは真似ようとしているが、左手に集めた魔力を上手く掴めないでいる。


「フィールさん。

 これはリリスさんに、魔術師の称号を与えてもいいのではないでしょうか」


 おおっ魔術師の称号!


「む。いや、いくら何でも無理だな。幼いうえに、皆に称えられるような実績もないし」


 ですよねー。


『そうですね。称号を貰えるように、頑張ります』


 家にある教本や、フィールに教えてもらって知った事なのだが、

 魔術師は基本、その階級に応じた呼び名がある。


 駆け出しの魔術師は、見習い魔術師だとか初級魔術師と呼ばれる。

 魔術師として一人前になったら普通に魔術師と呼ばれ、その実力が高ければ、上級魔術師と呼ばれる。

 だが、それはあくまで魔術師としての力量を分かりやすくする為の、一般的な呼び名だ。


 称号とは、その魔術師の強さ、偉大さ、脅威さ、雄大さなどを称えて付けられる、いわば名刺のようなもの。

 フィールの場合は、町の住人や城に住む者達から付けられた二つ名の【城壁の魔術師】が称号となる。

 簡単にいうと、称号をもつ者はそれだけで周りから強いと認識される。

 つまり、有名人ということなのだ。


「称号だけが魔術師のすべてではないよ。

 称号が無くとも、偉大な魔術師を俺は知っている。

 クルルも、変に煽てるような事を言うもんじゃないよ」

「すみません。嬉しそうなリリスさんを見てつい……」


 うん、確かにちょっとはしゃぎすぎてた。

 大人気無かったな。

 まあ体は子供なんだけども……。


 でもやはり、称号には憧れてしまう。

 男の子だもん。


「そういえば、他のメイド達は来ないのかい?

 もう魔術練習の時間だし、来てもいいはずだけど」

「あっ 忘れてました!

 今日はバッファ様の御友人が、城においでになられるんです! 失礼します」


 クルルはフィールにお辞儀をして、そそくさと部屋から出て行ってしまった。

 そう、俺がここに来るまでにクルルを見つけて『ちょっとだけ』と連れてきたのだ。

 俺のクルル感知レーダーは優秀だからな。


『無理言ってついてきてもらいました』

「ああ知ってる。一緒に部屋に入ってきたからね」


 あれ?

 そういや、バッファの友人が来るならフィールも知ってるはずだよな。

 フィールって、城の警護も担当してるし。

 でも、それを知らなかったみたいな言い方。

 なんか裏があるな。


 目を細めて勘ぐっていると、フィールは椅子に腰かけコホンと咳払いをした。


「ちょっと君に会わせたい子がいるんだよ。

 リリスはクルルを慕っているみたいだけど、クルルに少し苦手意識があるらしくてね」


 クルルに苦手意識とな。

 いや、そんなやつがいる筈が無い。

 フィール、冗談きついぜ。


「入って来ていいよ」


 フィールが少し声を高く呼ぶと、キィと擦れた木の音。

 振り返ると、室内倉庫の扉が少し開いている。

 その5センチほど開いた隙間から、はぁ……とため息のようなものが聞こえる。


「クルルさん、もう行っちゃいました?」

「ああ。だからもう入って大丈夫だよ」


 フィールが溜息混じりにもう一度言うと、扉はゆっくりと開いた。


 倉庫から現れたのは、白っぽいローブを身に付けた女の子。

 歳は同じか、ちょっと上くらいだろうか。

 銀髪の髪の内側に見える耳たぶには、赤いピアスらしき物が見える。

 右手には、くるくると捩じれた形の木の杖。

 左手には、魔術書らしき物を抱えている。


「今朝、ファリアが学校からここ連れてきてね。

 彼女から聞いていたと思うけど、この子がファリス。明日からはまた、一緒に暮らすそうだよ」


 姉と呼ぶ存在が、エレナの他にいる事は聞いていた。

 この子がファリスか。

 なんか見た目からして、コテコテの魔術師だ。

 想像していた姿とは、すいぶんと違う。


 ファリアの話では、ヴァンパイア系魔族と人族の混血とのこと。

 なので、黒いマントを想像していたのだが。


「初めまして。ファリスと申します。あなたの事は、お母様から度々聞き及んでおりました。

 不束者ですが、これからどうぞよろしくお願い致しますね」


 背中と首筋に衝撃が走った。


 なんだこの、聖女溢れる存在感は。

 身なりを見てそう思ったけど、喋り方までそんな感じだ。

 なんかこの世界に来てから、俺の世界での常識がどんどん崩れていく。


『こちらこそ、よろしくお願いします』


 光の文字を連ねると、ファリスはにっこりと微笑んだ。

 まさに聖女の微笑み。

 ヴァンパイア聖女とか、ギャップ感が凄すぎる。

 可愛い。


 あっ 勘違いしないでね。

 子供を可愛く見てる、可愛いだからっ。

 まだ、小学校低学年ほどだからっ。

 性的な意味じゃないからねっ。

 などと自分に突っ込みを入れつつ、姿勢を正して姉を向かい入れる姿勢をとった。


 俺がファリスを見て戸惑っていると勘違いしたのか、フィールはまたコホンと咳払いをした。

 その顔は優しく、そして少し寂しそうにも見える。


「リリス。明日からはもうここに来なくてもいいよ。

 またエレナと一緒に、剣の稽古に励むといい。

 それと、今日はもう帰っていいよ。家でファリアが慣れない料理をして待ってるってさ」

『母さんは今日、城の警備についてないんですか』

「ああ、今日1日だけ暇を取ったらしいよ」


 あーなるほど。

 サプライズ的なものなのね。


 たぶん、このファリスとの出会いもサプライズ的なものだったんだろう。

 でもフィール。下手くそすぎるだろ。

 てか、ファリアが家で料理作ってる事もバラしちゃうし。

 男ってそんなところあるよね。

 まあ、俺も男なんだけどさ。

 それと。


『魔術研究所には、また来てもいいですか』

「うん? 君の呪いは、ほぼ完治したと思っているんだけど、

 魔術の練習という事でなら、いつでも来ればいいよ」

『ありがとうございます』


 文字を見たフィールは、少し嬉しそうだ。

 たしかに初級治癒魔法ばかりさせてくるフィールには、ちょっと距離置いてた時もあったからな。

 ここに来なくていいなら、もう来なくなるとでも思っていたのだろうか。


 だが、魔術もまだ知りたい事があるし、何よりここ来るとクルルに会える。

 フィール1人のままだったなら、もう来なかったかもしれないけど。


 なんてね。

 ちゃんとフィールにも感謝している。


『じゃあ今日は帰ります。また来ますね』

「ああ、また遊びにおいで」


 フィールに向かって深々とお辞儀をし、ファリスと共に部屋を出た。


『ファリス姉さんは魔術師なんですか』

「一応攻撃魔法は二大初級魔法だけ使えますけど、治癒魔法を覚えています。

 これでも、中級の治癒魔法まで使えるんですよ」


 歩きながら、ファリスと話をする。

 ファリスが言った二大初級魔法というのは、火と水の魔法。

 ファイヤーボールとウォーターボールの事だ。


 魔術師への入門編みたいな魔法で、初級攻撃魔法というのは、この二つしかない。

 何故そんな事になっているのかというと、頭の中でイメージしやすいからだそうだ。

 土の魔法。風の魔法。それに闇の魔法。

 この三つはその威力に関係なく、すべての魔法が中級からとなっている。


 もちろん、火と水にも中級、上級と強さがある。

 分かりやすく火の魔法を順に並べると、こんな感じだ。


 初級:ファイヤーボール 火の玉を飛ばす

 中級:フレイム 火炎放射機の様に一点集中

 上級:バーニングウォール 一定時間、炎の壁を作る


 実は上級の上に最上級。

 更にその上もあるらしいのだが、詠唱が長くて、実践では使えないらしい。

 そして、複合魔法と言うものも存在する。

 クルルが使う破裂球(フレアボール)は、火、風、闇の複合魔法らしい。

 通常二つまでの複合魔法はよくあるらしいのだが、三つは中々無いそうだ。

 さすが古代魔法。



 その他、家に帰り着くまではファリアのことなどをファリスと話し合った。

 サプライズに驚いてあげる、的なことなどだ。


『ファリス姉さんと話していると、何故か安心するね』

「はあそれ、他の方からもよく言われます。何故なんでしょうかね。

 私は普通にしているだけなのですが」


 彼女が口を開く度に、何故かほっとする気分になる。


 俺の知識なのだが、たしか吸血鬼は口から超音波をだしてオオカミなどを従える力ももっていた。

 それも、前の世界での映画の中の話なのだが。


『ファリス姉さん、ちょっとしゃべり続けてください』

「え? さっきから喋っていますよ」


 と、ちょっと不思議そうな顔をしながらも、俺の言う通り何かしらの話題を作って喋ってくれる。

 おもに、通っていた学校のことなどだ。


 俺はすかさず魔力を左手に集めて集中した。

 僅かに光る左手の魔力が波打っている。

 俺の読みは的中したようだ。

 ファリスは言葉発するたびに、口から魔力の波動を一緒に放っている。

 それが故意かどうかは解らないが、彼女の超音波のような魔力の使い方は洗礼されている。

 俺が毎日、魔力を使って文字を書くのと同じように、彼女は魔力を口から放っているのだ。

 それが彼女にとって良いか悪いかは別として、相手には心地いい感触を与える。

 まるでポカポカ陽気の太陽の下で、日向ぼっこをしているかのような気分だ。


『ファリス姉さんは、本当に女神様みたいですね』

「ふふっ リリスって面白い子ですね」


 見た目からしてそう思ったから文字にしたのだが、軽くあしらわれてしまった。

 女神様というフレーズは、割と普段言われて慣れているのかもしれない。


 家に着いて玄関を開けると、予想に反して美味しそうな匂いがする。

 リアルに驚いていると、ちょっとファリアの申し訳なさそうな顔が目に入った。


 ファリアによると、上手く出来なかった為、結局隣の気の良いおばさんに手伝ってもらったそうだ。

 それでも、サプライズを企画してくれたのだ。嬉しい事には変わりない。


 昨日からファリアの事を、『母さん』と呼ぶ様にしている。

 母親を母さんと呼ぶ事に、すこしばかりの憧れを抱いていたからだ。

 それを文字に起こすと、ファリアは昨日よりも嬉しそうな顔をしていた。


 テーブルを囲んで食べる昼食。家族団らんの時間は楽しかった。

 エレナが口にいっぱい料理を頬張って、ファリスが礼儀正しく食べて、俺は普通に食べる。

 ファリアはそんな俺達をいつもと違う様な、優しい眼差しで見ていた。


 少し遅れてクライムが家に帰ってきた。

 申し訳なさそうに、ファリアに頭を下げるクライム。

 家族がいたら、やはりこういうものなのだろうか。

 ファリスの魔力のお蔭か、気持ちをいつも以上に、穏やかな気にさせてくれる。


 その日は、この世界に来て忘れられない1日となった。

 サプライズ成功なのかな?

 そんな顔をしているファリアには、感謝しかなかった。

 俺に、この家に住む者を、初めて家族とハッキリ認識させてくれたのだから。


 ファリス・ラングレー


 職業:子供(歳は6~7)

 性格:優しい・穏やか

 職種:見習い魔術師

 魔法:初級治癒魔法(無詠唱・手を添えるだけ)

   :中級治癒魔法・ヒーリング

   :初級攻撃魔法・ファイヤーボール・ウォーターボール

    

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