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固有魔法

 この世界にきて約1年が経過した。


 1年間、レイマールに住んでみて分かった事がある。


 この地方だけなのか、他もそうなのかは分からない事だが。

 少なくともこのレイマール地方では、日本でいうところの四季が無い。

 日本の様に、春には桜。夏にはビキニ姿の美少女。秋には紅葉。冬には雪。

 そういうのを楽しむ事が出来ない世界、という事だ。


「そう、もう少し、イメージを強くもってください」


 今俺は、そんな楽しみよりも、楽しい事をしている。


 昨日から、魔術研究所の女性の出入りが解禁された。

 つまり寒い冬が終わり、魔術研究所に春が訪れたのだ!


 そして今、隣で熱心に俺に指導してくれているのは、メイドのクルル。

 なんとクルルが、自ら声をかけてくれたのだ。


 魔術研究所の隅で、フィールという優男と二人だけの空間。

 それだけの世界だったのが、昨日新たに希望という蕾を開花させた。


「……やはり、まだ早かっただろうか」


 フィールの、そんな嘆く声を聞いて背筋を伸ばした。

 いかんいかん。

 俺の呪いは完治しました。

 ノロイ、カンチ、OK?


「でも、リリスさんが呪いに侵されているなんて知りませんでした。

 何故言ってくださらなかったのですか」

「ああ、まあ、ちょっと手強い呪いでね……。

 君達にもうつる恐れがあったから、だから早々に手を打つしかなかったんだ」

「どんな呪いなのですか?」

「それは言えない」


 呪いの内容は、彼女達メイドには話していないようだ。

 まあ呪いではないし、内容を話されても困るが。


 しかし、メイドのクルル。彼女は魔法講師としても優秀だ。

 彼女はメイドの中でも一番魔力総量が高く、そして魔法を使うのも上手い。

 萌え可愛くて強いなんて、恐ろしいほどのスペックの持ち主だ。

 この女神をずっと傍に置いておきたい。


「そうです、そのまま手を突き出してください」


 このまま手を突き出して、クルルの胸にターッチ。

 なんて事はしない。

 せっかく訪れた春を、一時的な欲望でむやみに冬にすることはない。


 それに最近はほんと、真面目に頑張っている。

 声をかけてくれたクルルにも、申し訳ない。

 余計な邪念を捨て去り、手に集めた魔力をコントロールするのに集中する。


「あっ 出ましたね」


 俺の手の平から出た、光る小さな波動。

 力無くフワフワと漂う波動は、すぐに消えてしまう。


 イメージとしては格ゲーの飛び道具なんだが。

 やはりそんな簡単には出来そうにない。


「大丈夫ですよ。ちゃんと頑張って練習すればもっと長い距離を飛ばせるようになります」

『ありがとうございます』


 小さな指で、空間に文字を書く。

 白く輝く文字は10秒ほどで跡形もなく消える。

 この魔術だけはフィールからも褒められた。


 文字が浮かぶ時間を自分で調整できるようになったからだ。

 声が出せないから毎日使っていただけなんだが、

 それでもここまで上手く書けたり調整できる人は少ないらしい。


「すごいですね。リリスさんの器用な魔力の使い方は、見ててすごいと思います」


 魔術研究所に通い出して、はや6か月。

 声の出ない俺は、まだ攻撃魔法の一つも習得できていない。

 それどころか、初級治療魔法に関しても、あまり上達しているとはいえない。


 長く会っていなかったクルルにしてみれば、子供がここまで出来るというのは衝撃なのかもしれない。

 だが、俺は体は子供でも心は大人だ。

 思えば、初めからもっと真剣に練習していれば、もっと出来たはずだ。


『まだまだです』


 苦笑いしながら文字を書くと、クルルは優しく俺の顔を撫でながら言った。


「リリスさんの魔力総量は、私が同じ歳くらいだった時と比べれば恐ろしいほどですよ」


 にこやかに笑っているクルルなのだが、一瞬何故かヒヤっとした。

 気のせいだろうか。


『魔力総量は量ってみたけど、そんな高くなかったですよ』

「それはリリスさんが、まだ小さいからです。大人になるにつれて魔力総量は上がっていきますよ。子供で、そんな文字を毎日書ける事自体、凄い事です」


 この魔術研究所には、魔力総量を量る魔法具がある。

 一見、石で出来た石板のような物だが、実際は魔獣の皮を重ねて作られた物らしい。

 丁度今の俺の頭ほどの大きさの物で、厚さは5センチ程の四角い物体だ。

 分かりやすく言えば、広辞苑の本を石にしたような見た目の物だ。


 それに手を添え、低級治癒魔法の要領で魔力を手に集める。

 するとその物体が光るのだが、その光の色で魔力総量が分かる。


「それでリリスさんは、魔力総量どれくらいなんですか?」

『中級です』

「すごいじゃないですか。私なんて今は上級ですけど、小さかった頃は低級でしたよ」


 クルルが俺くらいの時に低級だったなら、俺は最上級くらいになれるのかな。

 ダークエルフって魔力が高いみたいだし。


 魔力総量が高いほど、高い威力の魔法を日に何度も使える。

 魔術師としては魔力総量が高い事が一番重要な事だ。と、フィールが何度も言っていた。

 そのフィールの魔力総量は上級に位置する。


『でも魔力総量が高くても、魔法が使えなかったら意味ないですね』

「でもリリスさん頑張ってるから、きっといい方法が見つかりますよ」


 いい方法なんてあるのだろうか。

 フィールは低級治癒魔法の練習ばかりさせてくる。

 それに不満があるわけじゃない。

 詠唱を使えない俺にとっては、それが魔術のすべてなのだ。

 が、やっぱり攻撃魔法は使ってみたい。


 クルルが使う破裂球(フレアボール)は、派手で威力も強力だ。

 掌から出る黒く丸い球は、周りにピリピリと電気のようなものを纏わせていてカッコいい。

 しかも、その魔法自体希少なのだ。


 いわゆる固有魔法と呼ばれる攻撃魔法で、長い年月をかけてフィールが蘇らせた古代魔法の一つだ。

 500年前の英雄が使っていた魔法だそうで、対象物に作り出した黒い玉が当たると、パーンと癇癪玉のような音を立てて弾け飛ぶ。

 当てられた対象は、その辺りが抉れる様に吹き飛ばされる。

 

『そうですね。諦めないで頑張ります』


 文字を書くと、少しクルルから距離をとった。

 さっきの寒気はなんだたのだろう。


 まあいい。細かいことは気にしない。

 それより、あまり長く近くにいると、俺の理性が吹き飛んでしまう。

 だって頭の耳がフリフリするんだよ?

 ファンタジー世界の神たる存在だよ?

 あんな凄い魔法を使えるのに、顔は可愛いんだよ?


 迂闊に抱き着いて呪いだとか騒がれたら、また冬が訪れてしまう。

 適度な幸福を得るには、時には我慢する事も必要なのだ。


「お疲れさまです。こちらでお休みになられてはいかがですか?」


 次に声をかけてくれたのは、城の中に仕える侍女のアメリア。

 バッファやエミリアの近くで生活の世話をしている人だ。


 侍女とメイドの違いは、侍女は特別な許可がないと城の外へは出られない。

 王家や貴族といった者達の内情や、秘密などを知る切っ掛けが多いからだ。


 つまり侍女とは、直接王家や貴族の世話を担当する女の人の総称である。

 対してメイドというのは、位の高い人の家の掃除や食事の準備などの雑用をする、女の使用人の事だ。

 というのが、この世界での常識らしい。

 俺からしてみれば、どちらも同じ様なものなんだが。


『アメリアさん、エミリア様の傍にいなくていいんですか』

「エミリア様は、ファリア様と散歩に行かれました。

 それで空いている時間は、ここで魔術を習う事になったんですよ」


 らしい。

 アメリアは、エミリア専属の侍女だ。

 歳は30くらいの大人の女で、黒い髪を後ろで編み込んでいる。


「暖かい物を入れてきますね」

『ありがとうございます』




 そんなアメリアがティーカップに湯気を立てているのを見ていると、俺の隣に1人の女性が座った。

 真っ白な髪がふわっと靡く。


 顔を覗くと、キリッとした目と白い肌。

 きゅっとした、柔らかそうな唇。

 そして白い髪の間からは、ピンと真っ直ぐに尖った耳。


 服はこの世界での貴族が着るような、白いドレスを身に纏っている。

 女性のエルフだ。


「あらフローラ様。いらしてたんですか?」


 アメリアがテーブルの上にティーカップを置きながら、そのエルフの女性に言った。


 フローラ?……誰だったかな。

 たしかに聞いた事がある名前なんだが。

 でも位の高そうな人だし、こんな城の地下に来て何の用だろう。


「フローラ様も、お飲みになられますか?」

「いや、いい」


 そのエルフの女性はアメリアの顔を見てそう答え、

 そしてゆっくりした動きで俺の顔を覗いてきた。


 その目はずっと見ていると引き込まれそうに思えて、サッと目を逸らした。

 するとフフッと笑って、「なるほど」と一人で納得している。


「フローラ様……リリス様はまだ年端もいかぬ子供で……」

「分かっている。ちょっと見に来ただけだ」


 そう言って立ち上がり。

 その後は何も言わず、扉を開けて研究所から出て行ってしまった。


 何だったんだ?


「あの方が気になりますか?」


 あっけにとられていた俺に、アメリアが声をかけてくれた。


「あの方は、エミリア様のおばあ様です」


 おばあ様。

 ってことは、バッファの奥さん?

 どう見ても、滅茶苦茶若いじゃん。


『すごく若い方ですね』

「あはは。でも、100歳は超えてらっしゃいますよ」


 マジか。

 まさにファンタジー世界。

 エルフっぱねえ。


 でもセシリアと髪の色も違うよな?

 あれか、血の濃い薄いってやつか。


 この世界では、別の種族から生まれた子供は、親の影響で姿形が大きく変わる。

 フォトンのようにハーフといっても、獣人族の耳だけが立派に反映される者や、ただ毛深いだけの者。

 純血でも、血が薄いとクルルのように獣っぽくない者もいる。


 しかし、前の世界の知識があったからフローラがエルフだとすぐにだと分かったが、エルフはこの世界ではレアな存在らしい。

 なんでも、何百年か前の戦争で、ほぼ全滅寸前まで追いやられたのだとか。


「あのお方のお母さまもいらっしゃいますよ。エルフ族で、とてもお美しい方です」


 マジか。

 いや、子がエルフなのだから、親がエルフなのは当然か。


 しかし、エミリアから〝大叔母様〟と呼ばれている曾祖母がいるというのは聞いていたが。

 けど、エルフだってのは知らなかった。

 まさか祖母までレア者だとは。


 家にある本では、この地に初めに降り立った神が作ったのがエルフという事だ。

 そして、女神がそれを真似して人を作った。


 神話の領域だと思っていたけど、実際に見たら本当なのかと思ってしまう。

 それほどに神々しい姿だった。

 まあ俺のタイプじゃなかったけどね。

 綺麗より可愛い。これ大事。


「クルル先生の指導はどうだった?」


 クルルから離れて結構時間が経つ俺に、フィールが話しかけて来た。

 その手にはこの世界でもポピラーな武器である、弓が握られている。


 フィールはどうやら、エルフの女性が苦手らしい。

 なんかチラチラこちらを気にして見ているようだった。

 それは俺に関係ないことなんだが、フィールって魔術師だよね。

 弓なんて必要あるの?


『なんで弓を持っているんですか』


 俺が首をかしげながらそう文字を書くと、フィールに皆の視線が集まった。


「ああこれね。たまに城の地下の通路にウェアラットが入ってくるんだけど、

 それの退治にね」

「また入って来たんですか」


 フィールが持つ弓を見て顔を曇らせ、明らかに嫌悪感漂う表情のアメリア。

 この世界でも、やはりあいつは女性受けが悪いらしい。


「早めに退治してもらえると助かります」

「ええ、そのつもりですよ」


 ウェアラットというのは簡単に言うと、でかいネズミだ。

 魔人大陸じゃ、どこにでもいる魔物らしい。


 まあ、お世話になってる城の地下の通路で、攻撃魔法をぶっ放すわけにはいかないだろうからな。

 魔術師が弓を持っている姿というのは、ちょっと新鮮だが。

 ん……ちょっとまてよ、弓か……。


 ちょっと面白い事を考えついた。

 これちょっと後で、クルルに相談して試してみよう。


 と思ったのだが、フィールがウェアラット退治で居なくなる為、その日の魔術研究所の訓練はお開きになった。




 * * *




 家に帰って来た。

 時刻は、昼過ぎぐらいだ。

 当然ながら、誰もいない。


 自分の部屋へと入り、さっそく考えついたことを試してみる。


 左手に魔力を集中。

 薄く光った左手を確認したのち、それを高濃度で維持する。

 維持できるのは、やはり日々の鍛錬のおかげだろうか。


 そして右手を伸ばし、でそれを掴み取ろうとする。

 が、うまくいかない。

 掴めない。

 というか、指がすり抜ける。


 ではどうするか。


 右手にも魔力を集中させる。

 比率は左手5、右手5。


 すると左手の魔力の光を、右手で掴む事は出来た。

 だが、思っていたのとは違う。

 ゆっくりと左手から右手を離していくと、そのまま両手の間で光が伸びるだけ。


 次は左手の比率を7、右手を3。


 左手の魔力の光を掴んで伸ばしてみる。

 結果は同じ。

 ただ光が伸びるだけだ。


 そう言えば、フィールはイメージが大事だと言っていた。

 体勢も、弓を引くような感じにしてみる。


 ゆっくりと左手の光を右手で伸ばす。

 ダメだ。


 イメージで、光はさっきよりも矢の様に細くなった。

 だけど伸びるだけ。

 伸びるだけでは前に飛ばない。

 いいアイデアだと思ったんだがな……。


 と、何気に前の世界で、子供の頃に矢のおもちゃで遊んだ事を思い出す。


 戦隊ヒーローシリーズで、ヒーローの1人が使っていた武器のおもちゃだ。

 キラキラと電池で光る矢先。

 あの頃はほんと、何も考えないで生きてたよな……。


 そんな昔の思い出に浸っていると、突然別のアイデアが浮かんだ。

 本当に、突然とっひょうしもなく頭に浮かんだのだ。

 それは矢のおもちゃとは、何の関係も無いことだった。



 もう一度、左手に魔力を最大限まで集中して、右手を左手に添える。

 体の体勢はさっきのまま。矢を引く体勢。

 だが、イメージは別。


 左手の魔力の光を、そのイメージで固める。

 そして右手で掴んだ。

 手の比率は左手が7、右手が3と、さっきと同じ。

 そして光を掴んだ右手を、ゆっくりと左手から離してゆく。

 光は離す距離に応じて、少しづつ細くなってゆく。

 そして、完全に弓を引ききった体勢になった。


 気持ちが踊る。

 ふうっと息を吐いて、その時をむかえた。



 右手で掴んでいた光を離すと、その光は目に止まらぬ速さでちじみ、そして左手から解き放たれた。

 ヒュッと一瞬、風を切る音が聞こえ、バンッと叩きつける音。

 次の瞬間には、壁に頭が入るほどの大きな穴が開いていた。


 成功した!

 けど、どうしようこれ……。


 イメージしたのは、前の世界ならどこにでもある物。

 だが、この世界には存在しない物。

 ゴムだ。

 でもまさか、こんなにうまくいくとは思わなかった。

 毎日魔力で文字を書いているからなのか、手に集める魔力の調整が苦も無くできる。



 しかもこれ、俺の固有魔術でいいんだよな。

 この世界でゴムをイメージするのは、他の人じゃ無理そうだし。


 そう思うと嬉しくなって、家を飛び出してエレナの特訓をしているファリアに見せに行った。

 初めは魔術研究所にいるはずの俺が突然現れたので、ファリアはサボったのかと機嫌が悪かった。

 だが、俺が放つ魔法を見たファリアは、驚いた後に突然俺を抱きしめてくれた。

 エレナも、狙いつけた石に当たる光を見て、声も出さずに驚いていた。


 歓喜ともいえる家族の喜び。

 ファリアはその後、目に光る物があった。

 呪われている。声も出せない。

 自分が育てているそんな子供が、見た事も無い魔法を使えた。

 さぞや嬉しかったのだろう。


 しかしその後、部屋の壁に空いた穴を見て、ちょっと怒られた。

 でもそのちょっとが、とても嬉しかった。

 母親がいたら、そんな感じで怒ってくれるのだろう。


 魔法はペインアローと名付けた。

 なんでって? 当たったら痛そうだから。


 かくして俺は、欲しかった攻撃魔法。

 自分の固有魔法を得たのであった。


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