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天才女剣士

 女剣士ファリア・ラングレー。

 彼女の仕事は、泊りがけでの城の中の警備。

 それとエミリアが城から出る時、常に傍にいる事。

 つまりは護衛である。


 ファリアは悩んでいた。

 本当にリリスを、エミリアお嬢様の護衛として育てていいのか、と。



 ファリアは5歳の頃に親を魔族に殺された、いわゆる孤児である。

 剣士への道を志した理由。それは復讐であった。


 今から約16年前。

 ラノア大陸の端にある、ある小さな港町で1人の赤ん坊が産声を上げる。

 その赤ん坊に両親は愛情を込めて、町を守っている精霊の名を借り、赤ん坊にファリアと名付けた。

 ファリアはとても元気な赤ん坊で、1歳の頃にはもうすでに1人で立って歩くほどであった。

 そんなファリアに対し、

 二人の両親は共働きで稼いだ金で、ファリアを3歳の頃から隣町の学校へと通わせた。


 学校でのファリアは、学問の成績は優秀。

 また、剣術の授業ではその才能を開花させ、

 剣の腕前は入学からたった半年で、2歳年上の上級生の実力を上回るほどだった。

 その類稀なる才能から、大人達から神童と呼ばれ、その将来を期待されていた。


 そんなファリアが5歳になったある日、事件が起きる。

 港町が魔族の野党に襲われ、町が火の海と化したのだ。


 精霊祭を翌日に控え、町の警備が手薄になった日を狙われた。

 ファリア自身は隣町の学校にいて、命を無くさずに済んだ。

 だが、精霊祭の為に帰っていた仲の良かった友達や、愛情を注いで育ててくれた自分の両親をその事件で失くしてしまう。


 帰る場所を失ったファリアは学校を辞め、町の道場。剣真流の門を叩く。

 両親を殺した魔族への復讐。その想いは彼女を更に強くさせた。




 学校で習っていた護身術とは違い、相手を倒す為の剣術。

 厳しい特訓。稽古の毎日。

 だが、辛くは無かった。

 強くなれば両親の仇を取れる。

 そう思えば何でも出来た。


 11歳になったその日。

 師範代に決闘を挑み、見事打ち負かして免許皆伝の称号を得る。

 道場の門を叩いてから、たった6年弱のスピード出世であった。

 11歳での免許皆伝。それは長く続いた剣真流でも異例の事。

 1人の天才女剣士。

 上級剣士ファリアが誕生した瞬間だった。


 そしてそのまま冒険者となり、親の仇である魔族を探して旅に出る事となる。


 11歳の冒険者。

 もちろん旅先では色々と苦労はあった。


 たどり着いた街で詐欺にあったり。

 寝泊りした宿屋で強姦に襲われ、素手で撃退したり。

 またある時は、自分より強い魔物に不覚を取り、命からがら街に逃げ帰ったりと。


 それでもファリアは諦めなかった。

 自分の両親を殺した魔族を殺すまでは、諦められる訳が無かった。

 その為に、辛い剣の稽古に耐えたのだ。

 ファリアに選択肢は無かった。

 復讐を辞めるように言った、大恩ある師匠。

 その師匠を打ち負かしての復讐の旅だったのだから。




 そんなファリアが12歳になったある日。

 ファリアの人生を左右する、ある朗報を耳にする事となる。


 港町を襲った盗賊団の一味が海を渡り、魔人大陸へと行ったというのだ。

 ファリアに迷いは無かった。

 慣れ親しんだラノア大陸を離れ、魔人大陸へと行く事をあっさりと決意させた。

 それは死地への旅。

 凶暴な魔族、そして強い魔物が多く生息する未知の大陸。

 生きて帰って来れる保証は無い。

 それでも、彼女の決意は揺るがなかった。


 10日間の航路の末、魔人大陸の港町に着いた。

 足を大地に下したファリアは、驚くべき光景を目にする。


 魔人大陸へ渡ったら、そこは魔族の住む悍ましい町だと思っていたからだ。

 しかしその港町には人族が多く住んでいて、町も平和だった。


 だが、ここは魔人大陸。

 港町を出て山を越えると、そこはまさに死地。


 1人で山を越え、集団で襲ってくる魔物に手が付けられず、1日と待たずして町へ逃げ帰った。

 魔人大陸では地を横断する旅の場合は、魔物に囲まれない様、常に2人以上での旅が常識。

 それを知らなかったファリアだったが、それを知ったファリアの行動は早かった。


 まずはこの港町よりも強い冒険者がいると聞く、レイマール城がある街へと足を運んだ。

 3日間の旅でレイマールへと着いたファリアは、さっそく目的の為の行動を開始する。


 街の冒険者が集う酒場で、魔術を使える仲間を探した。

 そこで出会ったのが、レイマール城の警護、またその当時の王の警護も務めるフィールという人族の男だった。

 フィールは冒険者を辞め、金で雇われる用心棒を生業としていた上級魔術師であった。


 さっそくフィールに話を通し、自分の用心棒を頼み込んだ。

 だがフィールは簡単には首を縦に振らなかった。

 それはそう、フィールはもう既に王を守る警護に務めていたのだ。

 だが、必死に何度も言ってくるファリアに対し、フィールは渋々用心棒を引き受けた。

 王もフィールから聞いたその女剣士に同情し、30日の約束で警護を離れる事を許した。




 故郷の港町を火の海にした野党の情報は、すぐ入ってきた。

 フィールは冒険者時代の仲間も多く、その筋からの情報であった。


 さっそく野党が住み着く町へと乗り込み、ファリアはその一味を目にする。

 そこは一般の、何も知らない住人が多く住む町でもあった。

 ファリアは確信した。

 次はこの町を狙っているのだと。


 彼女はフィールに宿屋で待機するように促し、1人で野党のいる洞窟を目指した。

 親の仇。フィールはあくまで、旅の友としての仲間だったからだ。


 その後はまさに地獄絵図であった。

 野党が潜むねぐらへと侵入し、親の仇を切って切って切りまくった。


 逃げ惑う野党の背中を後ろから切りつけ。

 眠っている野党の首を、何の躊躇いもなく切り落とした。

 全てが終わった頃には、ファリアの体は野党の返り血で赤く染まっていた。


 初めて人と名の付く者を切った感触。

 魔族も長い歴史の中で、当然ながら人族の血が混じっている。

 だが、達成感もあった。

 親の仇を討つ事が出来た。

 そしてこの町を守る事も出来たのだと。


 野党のねぐらより出て返り血を川で洗い流し、フィールが待つ宿屋で一泊をした。

 そして次の日の朝、驚愕の事実を目にする。


 町に住む人達。

 そのほとんどの家の稼ぎ頭が、野党だったのだ。

 知らなかったのは若い女妻と、その子供達だけ。

 そしてその妻と子供達は、夫が死んだ事を知り、自害していた。


 事実を知ったファリアは、剣の師匠の言葉を思い出していた。

 復讐は、それ以外何も生まない。復讐は復讐を生むだけだ、と。


 だがそれは、自分が強かったからこその言葉。

 弱い立場の者は、それさえできずに自らの命を絶ったのだ。


 無理な話ではなかった。ここは魔人大陸。

 稼ぐツテがなければ、生きていけない場所。

 そしてその事実は何の取り柄もない、力の無い未亡人と子供に死を選ばせたのだった。


 ファリアは嘆いた。

 こんな事を望んでいたのでは無い、と。

 復讐を糧に生きてきたのは、こんな情景を見る為では無い、と。


 だが現実を司る神は、非情な運命をファリアに授ける。




 自害した家族のある家の中から、フィールが1人の生き残った幼児を見つけたのだ。

 歳は2歳ほどだろうか。


 魔族と人族。それも魔族の血を多く含む子供だった。

 銀色の髪をした女の子。

 おそらく、地下に王国を構える吸血鬼系の魔族と人族のハーフだろう。


 ファリアはそれを天命だと思い、

 その女の子に自分の名前を一文字変えたファリスと名付け、その子を育てる事を決意した。


 フィールとその子供を連れてレイマールへと戻ったファリアは、またも驚愕の事実を耳にする。


 この国の王。

 バフラ・ブランドルが、街を数人の配下の者と共に見て回っていたところ、

 魔物の群れに襲われそうになっていた赤子を見つけ助け出し、

 その時負った傷で帰らぬ人となってしまっていたのだ。


 なんという事だろうか。

 自分の復讐に、フィールを連れまわした結果がこれだ。

 もし上級魔術師のフィールがいたならば、王は死ななかったかもしれない。


 王が助けた子供は人族の女の子。

 親に捨てられたそうで、まだ名前も付けられて無いだろう。

 歳はファリスと同じ、まだ2歳程だろうか。

 髪は純粋な人族の象徴。艶のある、真っ黒の綺麗な髪。

 顔は強気な顔をしているが、将来はさぞや美人になるだろう。


 ファリアは、これも何かの縁とばかりに女の子の保護者をしたいと申し出た。

 そしてその子を、死んだ母親の名前を借りて、エレナと名付けた。




 それからファリアは亡くなった王の一人娘の警護を自ら申し出た。

 自分の愚かさの為に死んだ王への忠誠を込めて、前王の父君であるバッファに懇願したのだ。


 バッファはその意気込みを買い、間もなく引っ越しをする武官の家をファリアに与えた。

 そしてエミリアお嬢様の護衛の1人。女剣士ファリアがここに誕生したのだった。




 レイマールに住み着き、まる二年が経ったある日。

 護衛としてエミリアお嬢様と街を歩いている時だった。


 ある武器屋の前でエミリアの足が止まった。

 そしてニコニコしながら自分に言うのだ。


「ファリアはもうすぐ、ここのお店の息子と結婚するよっ」


 と。


 ファリアは生涯独身でいようと心に決めていた。

 自分の子ではないが、もう2人の子供を育てているのだ。


 ファリスは魔法の才能があるらしく、本人の優しい性格から治癒魔法を近くの学校で学ばせている。

 エレナは剣術の才能があり、その強気な性格。

 そしてエミリアお嬢様の護衛を自ら公言した事により、ファリア自身で鍛える事を選んだ。


 そう。

 ファリアには血が繋がっていないにしろ、もう2人の幼い子供がいる。

 だから結婚をする気など、これっぽっちも無かったのだ。

 しかしエミリアの言ったことは的中することとなる。




 ある日の午後。

 城主バッファの命により、メイドのクルルと一緒に街の武器屋へと足を運んだ。

 その内容は、隣町までの武器を配達する男の警護。

 クルルはメイドといっても、魔法を使える魔術師でもあった。


 警護をする男の名は、クライム・ラングレー。

 その武器屋の跡継ぎでもある、なかなかの美青年だった。

 なんのことはない。配達は何事も無く終わり、何事も無くレイマールへと帰ってきた。


 そして次の日、思いも寄らない事が。

 なんとファリアに一目惚れをしたクライムから、求婚の申し出を受けたのだ。


 もしかしたらエミリアに言われなければ、その求婚を断っていたのかもしれない。

 だが、これも天命なのか。

 そう思ったファリアはクライムの求婚を受け入れ、晴れて夫婦となったのであった。




 それからさらに2年の歳月が過ぎ、ある事件が起こる。

 人攫いに、我が子エレナが攫われたのだ。


 焦り奮起するファリアに、バッファはクルルを御伴に付け、馬車を貸し出し、人攫いの後を追わせた。


 ファリアは考えた。自分ならどうする。

 もし自分だったらレイマールを囲む山を越えて、とりあえずは身を隠せる場所へ移動する。


 その読みは的中した。

 リザードマンの、商人の一団に扮した人攫いが、山を越えようとしているとの情報が入ったのだ。

 まだエレナがいなくなってから1日しか経っていない。山を越える前に追いつけるはず。


 馬車を全速力で走らせ、後を追っていくと、案の定。

 リザードマンの野党の一団を発見した。


 馬車の周りを囲うようにいたリザードマンがこちらに気付き、剣を片手に猛然と向かってくる。

 だが、ファリアは落ち着いていた。馬車から女の子の声が聞こえたからだ。


 ファリアは馬車をクルルに任せ、襲ってきたリザードマンを一人残らず切った。

 仕事を終えたファリアはリザードマンの馬車へと近づく。

 馬車にいたリザードマンは、クルルの得意とする魔法、破裂球(フレアボール)によって全滅していた。

 そして報告にあった、エレナを入れた4人の女の子達も無事だった。

 だが、変だ。

 1人報告に無かった、薄黒い肌の子供がいる。

 他の子供達とは違い、顔は覆い隠され、手足は大人でも動けないような厳しい縛り方をされている。


 ファリアは悩んだ。

 肌の黒さからそれは、リザードマンに滅ぼされた国。

 ダークエルフの子だと分かったからだ。


 どうする、連れて帰るか。


 だが、ダークエルフは一人残らず殺されたと聞いている。

 この子を連れて帰ったとして、バッファ様はどう動くだろうか。

 リザードマンが治める国と、我が人族がいるレイマールは同盟国。

 殺してしまえと言われたら、自分は手を下せないだろう。


 悩んだ挙句、結局は連れて帰った。

 バッファに解雇を言い渡されるのも覚悟していた。

 だが、バッファは自分の想像とは裏腹に、フィールを連れてリザードマンの国へと行ってしまった。

 このダークエルフの少女を救う為だ。

 何という事か。

 これでバッファまで亡くなる様な事態になったら、お嬢様に何て言えばいいのか。


 だが、バッファは帰って来た。

 朗報ともいえる、少女存命の約束を取り付けて。


 この子も自分が引き取り育てよう。

 そして、復讐の火を燃やす事がないよう、普通の女の子として育てるのだ。

 剣も魔法も覚える事も無く、普通に生きてもらおう。

 それがいい。

 魔族は、凶暴な性格があるが、争い事がなく育てればいいのだ。

 ファリスと一緒に、低級の無詠唱で行える治癒魔法だけなら、覚えさせてもいいかもしれない。


 そんな事を考えながら、城の牢屋へと続く階段の前の扉で、お嬢様と一緒にバッファが少女を連れて出てくるのを待った。

 お嬢様には、もうあれから牢屋へと行かないようにと、大叔母様からきつく言って頂いた。

 子供とはいっても魔族だ。

 しかも、もう1人で色々と動け、喋れないが、話は魔導書で分かるようになったらしい。

 凶暴性が突如現れ、お嬢様に襲い掛かるかもしれない。

 だからこそ、私が教育するのだ。普通の女として。


 そんな時だった。

 なんとバッファがこのダークエルフの子を、お嬢様の護衛にすると言い出したのだ。

 護衛というからには、武器も持たなければいけない。鍛えるのにも反対だ。

 今後、力を付ければ、ダークエルフ王国の復讐を思い立つかもしれない。

 そして私の様に、大きな失敗をし、そして後悔するのだ。


 異を唱えようとしたが、バッファ様は私の心を見透かした様に微笑んだ。


 一言苦言はしたが、その後は声が出なかった。

 バッファ様の言う事に、返事をする事しか出来なかった。

 だが、それで良かったのかもしれない。

 思えば私は、力があったからこそ生きてこれたのだ。

 力の無い者は、あの町の住人の様に、自らの命を絶つしかないのかもしれない。

 バッファ様は、そこもお考えなのか。

 なら、私のやる事は一つだけだ。

 この子を立派なお嬢様の護衛として育てよう。

 そう決心して、リリスを預かる事となった。



 それから約半年が過ぎ、ファリアの脳裏にある不安が……。



 ……何かおかしい。


 何がおかしい? と言われても、はっきりと答えられないのだが。


 このリリスとエミリア様から名付けられた女の子。

 本当に女なのだろうか。


 体は間違いなく女だ。

 けど、違うのだ。

 それとは別の、もっと他のところが違う気がしてならない。

 ダークエルフの子供は、みんなこんななのだろうか。


 一緒に風呂に入った時などは、私の胸ばかりを凝視するのだ。

 まさに凝視。

 試しに、少し眺めていたら、瞬きすらしないで見ている。

 おぞましい。

 まさか、何かの呪いなのだろうか。

 発見した時、顔を隠されていたのは、何か意味があるのではないか。

 目を見開く呪い……とか。


 それに、朝の稽古の時。

 何故かリリスは生まれたての家畜の様な、ガクガクな足腰だった事もあった。

 疲れているのか、声も無く溜息ばかりをついていた。

 そんなリリスを、ちょっと変な目で見ているエレナ。

 まさか呪いが伝染したのだろうか。

 もし呪いだとして、呪い自体は別物のようだが……。


 これは呪いを広げない為にも、ファリスにはもうしばらく学校の寮で暮らしてもらおう。

 ……呪い……じゃない事を祈ろう。


 だが、もし呪いだとして、お嬢様の警護につかせる訳には……。


 しかし頭は良い様で、文字は10日程で覚えてしまった。

 天才? なのだろうか。

 天才は、凡人には分からない事をすると聞く。

 ならばそうかもしれない。


 だが、しばらくは様子を見よう。




 天才女剣士、ファリア・ラングレー。

 彼女自身、天才なのだが、自分の事は自分には解らない。と、いうもの。


 彼女の苦悩の日々は、まだまだ続きそうである。


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