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覚悟の末

時系列的にはリリスが王宮で迷っていた頃から平行して進んでいく形です。

 凄まじい轟音の後にガラガラと崩れる雑音。

 グワングワンと頭を刺激する痛みから耐え、倒れ伏せていたアメリアはそっと頭を上げた。


 砂埃が舞う中、辛うじて見えるのは自分の手元。それと何かを燃やしたような異臭。

 一瞬の出来事だったが、アメリアの目は確かに捉えていた。


 部屋の狭い入り口から見えた、死霊魔術師が後ろに一歩下がった動き。

 その動きの後に見えた、右手が炎に包まれた城壁の魔術師の殴りかかる攻撃魔法。

 目の前が真っ白になるほどの光の後、アメリアの体は爆発と暴風の勢いで後ろに吹き飛ばされていた。


 頭を打ったアメリアだったが、深い外傷はない。

 一緒に吹き飛ばされたエミリアを寝かせていたベッドが、クッションのようにアメリアを守っていた。

 軽く痛めた腰を上げてみると、周りの状況は一変していた。


 頑丈に作られているはずの王家の部屋の壁は装飾が破れ、崩れた石垣がむき出しになっている。

 部屋の入り口側の壁はすべて破壊され、反対側の壁も見える限りはすべて吹き飛び、大きく空いた穴から暗い夜空と無数の魔族がこちらを覗いている。

 豪華な王家の一室と思えぬほどボロボロになった部屋と前通路。


「あーっはっはっ! 面白いですよお! 実に面白いです!」


 煽るような死霊魔術師の叫び。

 爆風で吹き飛ばされた後の記憶ははっきりとしない。だがアメリアは魔法による部屋の破壊から、自然と自分の身を守るように伏せていた。


「がああ!」


 叫声に反応してそちらを見上げると、死神の分身に操られたフィールが死霊魔術師に飛びかかるところだった。


 (またアレをやるの!? 逃げなければっ)


 アメリアの脳裏に浮かんだのは、城壁の魔術師フィールが死霊魔術師プルートに仕掛け、部屋を破壊した魔法だった。

 部屋の出入り口の僅かな空間から見えた攻撃魔法。

 それまで見た事はなかったが、魔術研究所でメイド達が自分のように自慢していたのを覚えていた。


 一緒に吹き飛んで体に巻き付いたベッドのシーツを急いで剥ぎ取る。

 が、間に合わない。


 飛びかかるフィールの手元には、火と風と土の複合魔法。

 こぶしを土の魔法で固め、炎を纏わせ殴りつけて爆発させる。大昔の英雄が使っていたとされるフィールが復活させた古代魔法だ。


「ですぅぅがああぁぁ、無駄でえええっす!」


 死霊魔術師が叫ぶ。

 二人の間に漂う青白い霧のような物が形を成し、大きな半透明の盾となる。

 ドウンと鈍い音の後、ぶつかり合った二つの魔法の衝撃波が再度アメリアを襲う。

 直後の、熱波と暴風の嵐。


「うぐっ」


 アメリアは咄嗟にシーツで身を隠した。が、焦げた異臭が鼻につーんとした痛みを与える。

 急いでシーツを取り払うと案の定、黒く焦げて一部は赤く燃えていた。


 こんな所にいたら、命がいくつあっても足りない。

 と思ったのも束の間、


「カロン!」


 死霊魔術師の声。プルートが叫ぶと同時に、その後ろから飛び出す青い闘気を纏った黒い獣。

 体はガルガードというラノア大陸に生息している四足歩行の魔物に似てはいるが、その先端にある頭は首が三つもある。魔物でそんな奇怪なものがいるなんて聞いたこともない。両目がない頭や体の大きさから、見た目からしてバケモノだ。

 そしてグオオという恐ろしい雄たけび。


 黒い魔獣の魔力の籠った体当たりを、両手に集めた低級治療魔法の光で殴り返すフィール。

 バチっと落雷でも落ちたかのような音が体を突き抜ける。

 ぶつかり合った高濃度の魔力。そこから魔力の衝撃波が生まれ、床に平伏していたアメリアを襲う。


「!……」


 頭をさらに低くし、それに耐えるアメリア。

 何もかもが桁違い。こんな人外とも言える者同士の戦いに付き合ってはいられない。

 状況は悪くなる一方。


 (……なんとかここから離れなければ)


 瓦礫や砂埃が舞う中、無傷で黒い魔獣の体当たりを押し返したフィール(死神の分身)。

 その奥で必死に逃げようとするアメリアを知ってか知らずか、プルートは「ふんっ」と鼻を鳴らした。


「太古の魔法を復活させる城壁の魔術師とは、一度本気でやり合いたいと思っていましたが……まさかこんな形でやり合う事になろうとはねぇ。人生、何が起こるか解らないものです」


 何でもないといった憎悪の表情のフィール。死神の分身が憑依しているとはいえ、人の顔はここまで変わるものなのか。

 数秒の静寂の末、フィールの口元が僅かに動く。


「お前にはこの憎しみを理解できない」


 それを聞いたプルートは、口元を手で隠すようにクスっと笑った。


「話が合っていませんねぇ。ですが、憎しみという言葉は好きですよ、私」


 向かい合う二人にはもはやアメリアの姿など見えていない。

 攻防戦が一時的にも()んだ今逃げなければ、次はもう逃げられないかもしれない。


 アメリアは考える。チャンスは一瞬。

 向かい合う二人は魔術師。その攻撃には詠唱が必要不可欠。

 死霊魔術師が呼び出した黒いバケモノも、命令がなければ動く気配もない。

 なら、次に私がとらなければいけない行動は……


「遠の狭間から燃やし尽くせ……」

「闇を覆いつくす悲鳴よ……」


 二人が詠唱を始めた瞬間、アメリアの体は動いていた。

 素早く立ち上がり、爆風で取り払われた部屋の仕切りの隅を狙って走る。

 行けるとふんだ想いそのまま、フィールが立っている後方へと頭からダイブした。


 刹那、ドウンと物凄い爆風がアメリアを襲う。

 滑り込んだ姿勢のまま、手で頭を抱えてそれに耐える。


「行けるっ」


 自然と吐き出る自分の声。

 パラパラと細かい石くずが体に降り注ぐ中、アメリアは立ち上がって前だけ向いて走り出した。

 戦い合う二人は気付いてないのか、それとも眼中にも入っていなかったのか。逃げるアメリアを追って来る気配はない。

 少し走って角を曲がり、壁に手を付き息を整える。


「やった……」


 大きく息を吸って小さく勝利の勝どきを上げた。

 だが魔法による爆発音は、断続的にまだ近くにいるように聞こえてくる。


「もう少し離れなければ……」


 一時の危機からは逃れたものの、魔族がレイマールを支配する状況は何も変わってはいない。

 大きく開いた壁の穴から見えた大勢の魔族。彼らが、逃げるレイマールの民を殺しまくる情景が目に浮かぶ。


「フィルネ……」


 我が子の名を声にした瞬間、戸惑い、迷いがアメリアの心に生まれる。

 が、アメリアは自分を戒めるように首を振った。


 魔族の戦争は、動く者がいなくなるまで殺しまくるもの。

 皆殺しが定説。恐ろしいが、それ以外はアメリアも知らない。


 リリスと一緒にバッファの部屋で見た空飛ぶ魔族の群れ。

 数は解らないが、それがすべてではない事をアメリアは知っていた。

 魔王ミシェルの本軍は、まだライオネラの地で戦争をしている。

 リザードマンから鋼鉄の悪魔を奪った魔王ミシェルは、自軍を二つに分ける作戦を用いた。

 バッファに成り代わっている者がいる以上、レイマールの守備は思いのまま。フローラが魔王ミシェルに提案した作戦である。


 魔王ミシェルは、このレイマールを欲しがっている。

 このレイマールへと訪れた時には、もうレイマールは我物となっている。

 アメリアが遂行しようとする行いは、それを逆手にとるものだった。


 ライオネラからこのレイマールまで、馬を使っての移動で30日ほど。

 空を飛んでの移動だとしても、10日近くはかかるだろう。

 今このレイマールにいる敵の数は、そこまで多くはない。

 自分が今からやろうとしている事に巻き込めるはずだ。


 ぎゅっとこぶしを握り締めた。

 優しい性格のアメリアではあるが、相手は殺戮に酔いしれる魔王ミシェルの軍隊。敵だ。

 今日の日までに色々と打開策を考えたが、他に方法が見当たらなかった。

 やらなければ、皆が殺されてしまう。

 見つかった者から順に殺され、その刃は愛する者にも届くかもしれない。

 微かに緩んだ気を引き締め、アメリアは目的の場所へと歩きだす。


 まず、隠しておいた袋を自分の部屋から持ち出す。

 王族の侍女であるアメリアは、城の5階に寝泊りする部屋を与えられていた。

 もちろんフローラの策略によって与えられた部屋である。


 袋の中には、リリスがフローラの部屋に捕らえられている隙を狙って、バッファの部屋から持ち出した魔石が大量に入っていた。

 それを持って、すぐ向かいにあるフローラの部屋へと入った。

 そして重い袋の巾着をこじ開け、部屋の中央へと魔石を投げ入れる。


 部屋の中央。その床には、リリスの動きと力を封じ込める魔法陣が描かれている。

 魔石を投げ入れられた魔法陣は、力を取り戻すかのように輝きだした。


「よしっ」


 小さく頷いて、今度は部屋の隅にある高価で大きな壺を叩き割った。

 中に忍ばせていた数枚の紙切れが、ひらひらと宙を舞い落ちる。

 それをファイヤーボールの魔法で焼き切った。


 アメリアが燃やしたのは、以前フィールから貰った退魔魔法陣が描かれた紙である。

 リリスが呪いにかけられていると騒ぎになった時に貰い受けた物であった。

 この部屋は、床の魔法陣が協調されるように目立ってはいるが、部屋自体が大きな魔法陣となっている。

 フローラが自慢していたのをアメリアは聞き逃さなかった。


 退魔魔法陣は呪いを防ぐ他に、魔力の流れを悪くする効果もあるとフィールから聞いていた。

 その為、リリスが魔法陣に囚われ、命を奪われないようにと壺に忍ばせていたのである。

 その効果があったかどうかは判断しようがない。が、アメリアが退魔魔法陣を燃やした瞬間、部屋の魔法陣は一層光を放ちだした。


 (いけるっ)


 アメリアが考えた作戦とは、強力な魔法陣の発火点、爆発限界を超える事。つまりオーバーヒートである。

 フローラが作ったこの魔力吸引型魔法陣は、人の命を吸いつくすほどに強力な物だ。

 ラノア大陸の歴史上にも、大昔に魔法陣が大爆発を起こし、小国が滅んだ事例がいくつもあった。

 過度な魔力接種による吸引型魔法陣の暴走である。アメリアはそれを狙っているのだ。


 リリスがエミリアとあの部屋から逃げ仰せてから、もうかなりの時間が経っている。

 礼拝堂にいた皆も、もう地下から地上へと出る頃だ。


 今がその時。

 今でなければならないのだ。

 今この城と町を跡形もなく破壊しないと、城を占領した後の魔族の暴虐を止めようがない。


 アメリアの決死の覚悟と比例するかのように、ますます光を放つ魔法陣。

 が、一向に暴走する気配がない。


 (なぜ!?)


 アメリアは考える。

 魔法とは、頭の中のイメージが大切。

 フィールが口酸っぱくも、何度も自分に言っていたことだ。


「フィルネ……生きて……」


 願いと共に落ちる涙が床を濡らす。

 意を決したアメリアは、魔石が転がる魔法陣の中央へと飛んだ。

 頭の中には、魔力が暴走しての大爆発。それとこれまでの人生が駆け巡っていた。

次話は来週水曜日に更新します。

改稿により、このサブタイトルを変えました。

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