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ライオネラ決戦

 

 この世界では人と名の付く種が三種存在する。

 人族、獣人族(獣族)、魔族である。

 それぞれの種は国境を隔て、更に細かく国や町が存在する。

 そしてその国には必ず『王』と呼ばれる者が存在する。

 王が国を治めているのである。


 人族の王は主に、家系の流れで王となる。

 血を受け継ぎ、意思を受け継ぐ。血統の末に成り立っている。

 そこには能力の優劣は存在しない。

 血統こそが王への道なのだ。


 獣人族の王は個人の能力で判定される。

 王となる素質のある者に子供の頃から英才教育を施し、その中から王が誕生する。

 もちろん王の子は有力な候補だが、才能がなければ容赦なく王の道から外される。

 個の強さ。国の象徴こそが獣人族の王なのである。


 しかし王となる道には例外もある。


 土地を他の者より多く持つ者。

 何もない所から国を立ち上げる者。

 他者から英雄と呼ばれ、王の座に就く者。

 王に反旗を掲げ、国を滅ぼし王となる者。

 誰にも知られぬよう、裏で色々な細工をして、いつの間にか王になっている者。

 それらの者も王であり、一国の主と呼ばれる者達なのだ。


 王は、民を助け、民を導く者の総称である。

 少なくとも人族、獣人族の王は、皆がそれに準じた国益を行っている。

 利益だけを追求する欲望に駆られた王なる者は、人族、獣人族にはいないのである。



 だが、それらすべてを兼ね備えていながら、なおも王であり続けることのできる種が存在する。

 彼らの多くは魔人大陸に国を構え、他の大陸からは忌み嫌われる存在である。

 王でありながら、王としての知恵を持たない者。

 王だから偉い。王は何をしても許される。そんなでたらめが通用する世界。


 魔王。

 それは敵味方関係なく、皆に畏怖される存在である。


「ミシェル様が炎竜巻(フレネード)を放つぞ、離れろ!」

「ダメだ、間に合わな、ギャアアアア」

「うああああ」


 空高く昇った炎の竜巻は、その周囲にいた者達を無慈悲に吞み込んでゆく。


「ダグマ様が結界陣を敷いたぞ!」

「ダグマ様、まって……ひっ、ぎゃあああ」

「に、逃げろぉ!」


 薄く漂う殺気に触れた者は、恐怖の表情を浮かべ切り刻まれる。


 世界は広くとも、彼らほどに自由な者はいない。

 すべてを奪うことが許された者達。

 王の座が欲しければ力で奪い、他の国が欲しければ力で奪う。

 強い者こそが正義。それが魔族の掟である。



 …… …… …



 時を遡ること数十日前。

 魔人大陸南西地方の巨大な岩が点在する大地。

 そこは魔族同士の決戦の場となっていた。


 魔王ダグマと魔王ミシェル。

 両軍合わせて数十万を超える数の兵は、開戦後たった数日でその数を半分近くまで減らしていた。


「ダグマ様! 敵軍の兵に疲れの色が見えます!」

「うむ。ならばそろそろ我らも打って出るか」


 突然のミシェルの奇襲に驚いたダグマだったが、開戦後はすぐに籠城戦へともちこむことで戦況を有利に進めていた。

 鉄壁の城と言われたライオネラの守備は、敵の侵略を凌ぐ事に成功していたのである。


 だが狭い空間で戦う籠城戦は、豪快な剣技を扱うリザードマンの兵にとっても戦いにくい場となっていた。

 なのでダグマは外で戦うことのできる絶好の希を狙っていたのである。


「我らリザードマンに牙を剥いた愚か者共に、残虐な死を与えてやれ!」


 ダグマの一声に、今か今かと待ちわびていた獰猛な勇士は喜びの雄たけびを挙げた。

 城を飛び出し、広い平地で戦うことが出来る喜びの雄たけびである。


 魔人大戦と名の付く戦争以外では、数ある戦争の中でも大規模な戦い。

 後に語り継がれる『ライオネラ決戦』の火蓋が、その時始まったのであった。



 ライオネラ城を目前とした戦争は、展開による展開で広い範囲まで広がっていった。

 魔術と剣術を得意とするミシェル軍に対し、主に肉体戦術を得意とするダグマ軍。

 両軍の力は拮抗していた。


「殺せー! バカ鳥共を八つ裂きにしろ!」

「腕力以外能無しのトカゲ共が! 死に絶えるがいい!」


 両軍散りじりとなり、一日過ぎる度に数千の命が儚く消えてゆく。

 それは正に戦争である。

 魔族の戦争には、戦術などといったものなどは何もない。

 血に飢えた凶暴な野獣のごとき、敵に向かって突撃する。

 力で捻じ伏せる戦い。それが魔族の戦争である。


 その戦火の中、一際戦死者が多く出る場所がある。

 突撃した兵士の悲鳴、そして味方の悲鳴が一段と轟く場所でもある。


 その場所とは、この戦争を始めた者がいる場所。

 他の者達とは、桁の違う力量を持つ者がいる場所。

 魔王と呼ばれる者がいる場所である。

 

「ひぃぃ、た、助け……ひぎゃああ」


 轟く悲鳴は、恐怖の声のみ。

 それ以外のものは一切存在しない。

 血に飢えた魔族の闘争心が、ぽきりと音をたてて簡単に折られてしまう。

 その場にいる者の中で、これ以上ないほど残虐かつ残忍。


 ミシェルとダグマ。

 混戦する戦場で二人を守る者はない。

 否、守る必要がない。守れるものでもない。

 近くにいた近衛も、我が主人に殺されまいと開戦早々に逃げる始末である。


「見つけたぁ! ダグマァ」

「ふん、小娘が。いきり起ちおって」


 空中から襲い掛かるミシェルを迎え撃つダグマ。

 二人を中心とした爆発に、近くで戦っていた者達は吹き飛ばされる。

 魔王同士が衝突する時、その周囲はまさに殺陣と化す。

 容赦ない高濃度の魔力対決である。


「1200年も生きたんだろう? そろそろ死んでもいい頃だ」

「年寄は労わるもんじゃろう。あと500年は歳を重ねたいもんじゃ」


 衝突の後、間合いを取って武器を構える二人。

 ダグマの手には長く鋭い刀。ミシェルの手には細く七色に輝くスピア。

 どちらも名立たる名工の手による銘品である。


「またダグマ様とミシェルが戦うぞ。皆離れろ!」

「何度目なんだ……あの二人の戦いは」


 恐怖の表情でその場から逃げるリザードマンの兵士達。

 この戦争が始まって何度目かの魔王同士の対決。

 いつしか二人の周りには、無人の空間が出来上がっていた。

 それが当然であるかのように。


「ふん、こないだまでは何を話したんだったっけなあ」

「お前が400歳で、儂が1200歳ということじゃろう。

 エルフの使い魔だったお前達の種は、頭まで鬼畜なのかのう。物覚えが悪いぞ」

「言ってろ。どうせお前達のような下衆な成り上がり共よりはマシなほうだ」


 背中に大きな翼をもつミシェルは人族の容姿に似てはいるが、元はエルフの使いであるハーピー族の末裔であるとされている。

 元々エルフ王国の隣国として国を構えていた彼らは、魔人大陸では新参者でもある。

 同じ山脈を統治するガーゴイルの種族とは同盟国を築いてはいるが、あまり仲が良いとも限らない。

 しかし魔力が高い彼らハーピー族は、その高い戦闘能力から一気に頭角を現した一族なのだ。

 その一族の王である魔王ミシェルは、まさに魔人大陸の風雲児であった。


 対するリザードマンの一族は、元は魔物であるとされている。

 しかし高い知能を持った彼らは、その強靭な肉体を武器に成り上がった武人でもある。

 ゴブリンやコボルトといった人型の魔物との大きな違いは、種族間の言葉を有する事である。

 彼らリザードマンは言葉を理解することで、他の魔物と一線を引く存在になったのである。

 が、もちろんそういう種族はリザードマンに限らず、他にも存在する。

 魔人大陸に住んでいる魔族の半数近くが、人を襲う魔物からの転身である。


「隣国のエルフ王国を裏切った者から言われたくはないのう」

「魔人大陸でも恐れられた魔王の言う台詞じゃないな。歳をとって頭イッちまったか? 

 魔族は裏切者が強い。裏切りこそが勝利を手にする最速最良の手段だ」

「そういえば、地下魔族の召喚魔術師共を空からイリウム大陸へと運んだのもお前達じゃったのう」

「ああ。強くてでけぇ魔物を呼び出して場を混乱させようと思ってたんだが、まさかあんな物を呼び出しちまうなんてな!」


 ミシェルが仕掛ける。

 腕に魔力を集中させた波動は、スピアの先端から放つ凄まじい衝撃波となってダグマを襲う。

 だが反撃にでたダグマの鋭い斬撃は、ミシェルの波動を真っ二つにする。


「あーはっはっはっ!」


 自分の放った衝撃波をいなされたミシェルは高らかに笑った。


「やっぱ全力で戦える相手ってのはいいなあ!」

「面白くもなんともないわい。早くこんな戦争終わらせて余生を楽しみたいもんじゃ」


 魔王と呼ばれる個体はこの二人に限らず、皆が高い戦闘力を持っている。

 魔族という枠の中で純血に近い王族である魔王達は、血の薄まった者達よりも強く、寿命も長い。

 他の者達から恐怖される者。その名の通りの『魔王』なのだ。


「あはは、戦争を早く終わらせるってのはあたしも賛成だ。

 早くこんな城バラシてレイマールを手に入れねぇとな!」

「ふん、貴様ごときがレイマールを落とせる訳がなかろう。何故儂が同盟を築いていると思っておる。

 あそこにはデオスの子がおるのじゃぞ。揃える手駒もかなりのものじゃ」

「サリア・ラフドールのことなら、もう手は打ってある。

 つーか、向こうから言ってきたんだけどなぁ。裏切りに手を貸せってな」

「裏切りだと?」


 ダグマの脳裏にはバッファ・ブランドルが浮かんでいた。

 人族でありながら、魔族のような思想を持っている男。

 野望も持っており、誰にも疑われずにレイマールの王族を退けたしたたかな性格は、魔王であるダグマも気に入っていた。


「誰じゃ、その裏切者とは」

「ふふ、教えてやろう。

 サリアの娘の、フローラ・ラフドールだ。

 やつは現王のバッファをも殺すと言っていた」

「なんと!」


 ミシェルの応えにダグマは驚きの声をあげた。

 フローラ・ラフドールにはダグマも一度会った事があった。

 常にバッファを裏から支える働きぶりには、ダグマも感心した覚えもある。

 母であるサリアにも献身的な働きをしていると聞いていた。

 が、すぐにダグマは落ち着きを取り戻す。

 魔族にとって、裏切りとは日常茶飯事だからである。


「ふむ……だが、そんなに上手くいくかのう。

 たとえその裏切りが成功したとしても、お前がレイマールを落とせるとは思えん。

 さっきも言ったが、レイマールには儂も認める腕利きが何人もいる。

 この儂と戦火を交えたあとで、すぐに戦えるほど甘い相手ではないぞ」

「そこだダグマ。どちらかと戦えばすぐに同盟の援軍が襲って来る。

 お前とサリアを同時に相手に出来ると思っているほど、あたしはバカじゃない。

 だが、同盟国のレイマールから援軍がこないのに不思議には思わなかったか?」

「フローラが何かしらの策を用いて何かをしているからであろう」

「それだけじゃない。あの女は頭がいいぞダグマ。

 魔法の知識もサリアに負けず凄いが、策士という点では相当なものだ。

 あの〝悪魔の箱〟でさえも、利用する駒だと言い張ったのだからな」


 キーンとした殺気が辺りを支配する。

 ダグマの手に魔力が込められる。


「言いたい事はそれだけかの……」

「ふふ、可愛がっていた息子を殺された怒りが今頃込み上げてきたか?

 あれはお前の息子が悪いんだぞ? あたしとしては嬉しい誤算だったがな」


 開戦直後。

 魔王ダグマの息子であるガルマは変化のない籠城戦に痺れを切らし、少ない王宮魔導師を引き連れて打って出たのである。

 その時、魔術師に魔力で動かすよう命じたのが、ダークエルフ王国から奪ってきた〝悪魔の箱〟であった。


「あんな物を魔力だけで動かすだけでも大したものだが、すぐに魔力切れを起こしていたぞ。

 それにただ走っていただけだった。奪うのは楽だったなぁ」


 ミシェルの話が途切れた瞬間、ダグマの斬撃が放たれた。

 大地を切り裂きながら進む一刀は、瞬時にそれを見切ったミシェルに難なく避けられる。


「あははっ 楽しいなぁ!」

「鳥風情が。八つ裂きにしてやるわい」


 と、そこで北の空に大きな火花が上がった。

 ドーン、とこの辺りの空気を振動させるいくつものファイヤーボールを組み合わせたかのような、でかい花火である。


「なんじゃ!」

「あー、そろそろお前ともお別れだなダグマ」

「何をした!」

「ふふ、だからさっきも言っただろう。あの女は頭がいいと。

 このライオネラも惜しいが、あたしはレイマールが欲しい。

 だが同盟国であるレイマールを攻めれば、お前が出てくる。ならどうする?」


 ミシェルの謎解きのような質問に、ダグマは苛立ちを隠せない。

 

「どういうことじゃ!」

「まだ分かんねーか。このライオネラは譲ってやるんだよ。

 で、これからあたしが攻めるレイマール軍は、地上戦を想定して密集した構成で城から離れた区域で組まれるらしい。

 そこへ遠くの地から〝悪魔の箱〟の魔導で攻撃して、あとはバラバラに散った者共をあたしらが空から追い打ちをかける」

「バカなっ あれは儂らには扱えん代物だ」

「死んだ者に動かさせればいいだろう?

 悪魔の箱と共に現れた、あの地下魔族共が崇拝した人族に似た者達にな」

「!……死霊魔術かっ」

「魔人大陸大戦を戦い抜いたお前なら知っているだろう?

 アンデットの魔力は無限だ。魔力枯渇はない。

 永遠と動く魔道兵器が誕生するのだっ」


 ミシェルは大きな羽根を広げ、空高く舞い上がった。


「あははっ 今年は300年に一度の天照が現れる年だ。4度も見て満足しただろう?

 残念ながら、5度目はないがな」

「貴様! 逃げるかっ」

「あたしのここでの仕事は終わりだ。名残惜しいが、お前達の戦力を削ぐのがあたしの役割だからな。

 これ以上お前との一騎打ちで、無理に命の危険を冒すこともあるまい?」


 言われてダグマは辺りを見渡した。

 離れて戦っていた群衆の中から、次々に空へと離れてゆく敵兵の姿。

 残っているのは、開戦からかなり減ってしまった自軍の兵士達。

 それを目の当たりにしたダグマは、空に舞う魔王へ咆哮をあげた。


「ミシェルーっ!」

「お前は負けたんだダグマ。潔く、死を迎え入れろ」


 笑いながら飛び去ってゆく魔王。

 そしてライオネラの北の大地から押し寄せる別の敵。

 大地を響かせる突進から解るその数は、生き残っているリザードマンの、ざっと数倍。

 雄たけびから、その軍は北の大地を治めるオーク族のものだ。


 魔人大陸の広い地上を支配する種族は限られてくる。

 同じく地上を支配する者同士とはいえ、所詮は魔族。己の利益と欲望に生きる者達なのだ。

 そしてそれは若い頃の自分にも当てはまる。


「……これまでか」


 ダグマは空に消えゆく敵を見ながら、自分の築いてきたものがここまでだと悟った。

 アンデットから魔人大陸を奪った魔人大陸大戦ののち、一代で築き上げた我が王国。

 数々の死闘が繰り広げられた歴史がそこにはあった。

 が、1000年近く続いたリザードマン王国は、その生涯に幕を下ろす。


 魔王城ライオネラ。

 魔族間の裏切りに続く裏切りに負けた栄光ある城は、程なくして地図と歴史上から抹消されたのであった。


 次話は1月29日(日曜日)に投稿します

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