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サリア・レイマール・ラフドール

5か月ぶりに復帰しました。

 俺はすぐに通路側の部屋へと隠れた。

 訳が分からなかった。


 何故フローラが大叔母様の部屋にいるのか。

 何故バッファが大叔母様を見下すように見ているのか。

 何故大叔母様の胸に剣が突き立てられているのか。

 何故二人とも冷静なのか。


 フローラは大叔母様の式神で、バッファはフローラの妻で、大叔母様は二人の親のような存在のはず。

 どうしてこんなことになってる。

 俺の知らないところで何が起こっている。

 よく考えろ。


 フローラは変えられない未来を変えようとしている。

 神が作った不動で不変な時の流れを変えようとしている。

 じゃあ、なんで大叔母様を裏切る必要がある。


 フローラは大叔母様の式神だ。

 大叔母様の命令には逆らえないはず。

 でも、逆らうことは出来た。

 逆らえないけど、逆らおうという意思を持つことは出来たのか。

 式神だけど、人の精神を忠実に再現したフローラだからそんな意思を持つことが出来た。

 自分で考え、自分で行動するからそんなことが出来たんだ。


 フローラは未来を変えたい。

 いやでも、それは大叔母様も同じだ。

 大叔母様はこの国の滅亡を変えるために俺と手を組んだ。

 エミリアを救うために、同じ転生者の俺と手を組んだんだ。

 じゃあ、何で大叔母様を裏切る必要がある。

 ああくそ、これじゃまた同じ考えの繰り返しだ。


 いやまて、バッファだ。

 何故バッファがここにいる。

 何故裏切ったフローラと同じ部屋で同じように大叔母様を見ている。

 バッファも大叔母様を裏切ったのか。

 あの優しそうなバッファが。


「フローラ様、部屋の扉が開いております」

「ん、誰だ!」


 万事休す。

 俺の中の警報が赤よりももっと濃く赤く染まっていくのが解った。

 バッファのフローラに対する言葉。

 そして、通路部屋の外から歩いてくる女性。

 彼女は二人から隠れる俺と目が合うと、そのまま大叔母様の部屋へと入っていった。

 終わった。


「フローラ様」

「アメリアか。どうした、お前には自分の子供と一緒に逃げる手段を教えてやったはずだが」

「はい、そのことなのですが」


 体から血の気が引いてゆくのが解る。

 もう俺に反撃する勇気も意思もなかった。

 未婚だと思っていたアメリアに子供がいることを聞いても、そんなことはどうでもよかった。

 俺は誰も救う事が出来ず、このままフローラに捕まるのだ。

 もしかしたらもう使い道がないとのことで殺されるかもしれない。

 すべては終わったのだ。


「私もこの国と運命を共にしようかと考えております」

「ほう、本気で言っているのか?」

「はい、フローラ様にはあの日、助けて頂けなければ無かった命でございます。せめてお世話になったこの国へ返したいと」

「好きにするがいい」


 俺は震えていた。

 震えながら、フローラとアメリアの会話を聞いていた。

 そしていつしか体は扉と壁の隙間へと傾いていた。

 細い隙間から、フローラとバッファとアメリアを見ていた。


「では私はこの場から去る。バッファには戦場へと赴かせる」


 フローラがそうアメリアに告げたのち、バッファの体がずるずると崩れ始める。

 崩れたものは床で一つに固まり、黒いものとなって窓の隙間から外へ出ていった。

 それを見て体が硬直した。

 バッファではなかった。


「では、行ってらっしゃいませ」

「ふっ……」


 アメリアの綺麗な貴族風の礼を鼻で笑った後、フローラは呪符を取り出し自らに張り付けた。


「わからんものだ」


 フローラが一言。

 だがその姿はもうどこにもなかった。


「……リリス様、こちらへ」


 アメリアの声が聞こえた。

 彼女は背を向けているため、その表情を伺い知ることは出来ない。

 俺は静かにポケットの中へ手を入れた。


(……おい、どうした。早く部屋の中に入れ)


 俺は何も答えなかった。


(呼ばれてるだろ、早く入れ)


 今のこの状況。信じるのか。


(信じる信じないってのは後だ。早くしねえとあいつが死んじまうだろ!)


 頭に響く声にハッとした。

 部屋に入り、立ち尽くすアメリアを通り越して大叔母様の所へ向かう。


 大叔母様の胸には綺麗な宝石が施された王族の剣が突き刺さっていた。

 傷は深く、胸から刺さった剣は背中へと突き出ていた。


 どうすればいい。

 俺の低級治療魔法じゃどうにもならない。


(俺をこいつの胸にあてろ。魔石を胸にあてるんだ)


 言われた通り、握りしめていた魔石を大叔母様の胸へと当てがった。

 低級治療魔法のように輝きだす魔石。

 その瞬間、大叔母様の口からこぽっと血の塊が漏れた。


「ゴホっ ゴホっ」


 大叔母様は生きていた。

 だが、こんな状態で生きているのが不思議なくらいだ。

 アプラだけの治療では追いつかないかもしれない。


 俺は、残っている方の手も大叔母様の胸に当て、出来る限りの魔力で低級治療を施す。

 血を吐き、咳をしながら息を苦しそうにする大叔母様。

 目の下には黒く死相が見えていた。


「……リリス、じゃな」


 薄く目を開き、口元には血が流れた痕。

 髪は乱れ、着ていた白い服は赤く染まっている。

 突き刺さった剣をぬけばどうなるかくらい解っていた。

 なので痛々しく刺さった剣には手をふれていない。


(ダメだ、魔力が足りねえ)


 俺の魔力も使え。

 使い切ってもいい。


「アプラもおるのか」


 息をするたび、喋るたびに大叔母様の口から血が湧き出るように流れる。

 感覚では解っていた。もう何をしても無駄だと。

 でも治療を止めることは出来なかった。


「聞け、リリス……儂は間違った行いをした」


 息も絶え絶え、大叔母様は語りだした。


「儂はこの世界にきて間違いだらけじゃった。

 父には間違った行動で死を与えた。

 レイマールに住む為に王族を亡き者にした。

 自分の欲のためだけにフローラという命を作った。

 そして欲の為にエミリアの母親を犠牲にした。

 そして新たに出来た欲の為にお前の家族を想う気持ちを利用した」


 俺は固唾を吞んで大叔母様の話を聞いていた。

 大叔母様は俺を利用したと言った。確かにその通りかもしれない。

 だがあの瞬間、俺は変わった。

 俺は間違っていると大叔母様は気付かせてくれた。

 欲しかったものの意味を、家族とはなんなのかを教えてくれた。

 欲しいおもちゃを手に入れたと思っていた俺に、家族の意味を教えてくれたのだ。


「お前は優しいのう。儂はお前を利用したというのに」


 大叔母様の手がそっと俺の頬に触れる。

 俺の体からどんどん魔力が吸い出されてゆく。

 魔石から魔力を吸われ、低級治療魔法でも魔力を放出している。

 そして俺の頬には涙がつたっていた。


「……儂はフローラを作った時、人間を参考にした。

 転生者のお前なら解るじゃろう。人族ではなく人間じゃ」


「儂はフローラを父を甦らせるためだけに作った。

 肩書上は儂の娘として育てたが、儂は道具としか考えてなかった」


「儂はこの世界で生んだ初めての我が子を、ただの道具とでしか見ていなかったのじゃ」


 フローラは式神だ。

 実際大叔母様がお腹を痛めて生んだ命ではない。


「フローラはバッファに儂を襲わせたあと、儂が気を失うまでずっと見ておった。

 よほど儂を恨んでいたんじゃろう。当然じゃ」


「儂を恨んでも儂を傷つけることは出来ない。そういう風に作ったんじゃからの。

 じゃからバッファにそっくりな式神を自ら研究して作ったのじゃろう。

 探せば、この城のどこかにバッファの遺体があるのやもしれぬ」


 大叔母様の口からまた血の塊がこぽりと落ちる。


「リリス、お願いじゃ。

 エミリアを助けてくれ。

 あの子を、どうか……」


 俺は大叔母様の胸にあてていた低級治療魔法の手をゆっくりと上げた。


『必ず守ってみせます』


 光の文字を見た大叔母様は微笑んだ。


「ありがとうリリス。

 相変わらず、輝く綺麗な文字じゃ……」


 俺の頬にあてられた手がするりと落ちる。


(おい……おい、いつまで魔力送ってる)


 頭の中に響く声。


(もういい、魔石をこいつから放せ)


 なんでだ。

 さっきまで話してた。


(だから死んだんだよ、死んじまったもんはいくら魔力を送っても生き返らねえ)


 だから送ってんだよ!

 何かが起こるかもしれないだろ!

 何か奇跡的なことが起こって、それで生き返るかもしれないだろ!


(……よく聞け。死んだもんは生き返らねえ。それこそ奇跡が起こったとしてもだ。

 世の中、そんな風にできてるんだ。これがこの世界の摂理ってやつだ)


 ……!

 じゃあサフリスは!

 あいつは半分死んでるって言ってた。

 奇跡でそうなったんじゃないのか!


(サフリスは生きたまま死神の呪いを受けたんだ。死んだ者はもう生き返らない。

 アンデットで蘇ったとしても、それはもうお前の知るこいつじゃねぇ)


 そんな……。


(もう、終わったんだ。何をしてももう遅い……)


 大叔母様が死んだ。

 目の前にあるエルフの少女の姿。

 300年生きた彼女のこの世界での人生は、今幕を閉じた。


 この世界。

 大叔母様にとって、この世界での生活はどうだったのだろうか。


 火山に身を投じてこの世界に連れてこられ。

 国に訪れた魔術師に唆されて父を死なせてしまって。

 英雄に捕まって人を殺して。

 レイマールの危機を救おうとした。

 大叔母様の人生は、それこそ波乱万丈な人生だ。

 唯一救いなのは、愛する者ができたことくらいだろうか。


 そうだ、愛する者。

 俺は大叔母様の最後の言葉を聞いた。

 俺はエミリアを救わなければならない。

 大叔母様の最後の願いを、俺は叶えなければならないのだ。


 俺はゆっくりと立ち上がって振り返った。

 そこには俺と大叔母様の話を聞いていたアメリアが立っていた。


「リリス様、私についてきてください。この城からの脱出するすべをお教え致します」


 アメリアを信じた訳ではなかった。

 だが隠れていた俺に気付いていたにも関わらず、フローラにそれを告げなかった。

 それに他に選択肢もなかった。


『お願いします』


 文字を見たアメリアはコクリと頷き、俺は大叔母様の部屋を出るアメリアに付いていった。



 …… …… …



 アメリアが向かった先は城の5階だった。

 一際豪華な扉を開けると、そこは広い部屋だった。


「ここはバッファ様のお部屋です」


 アメリアにそう告げられ、部屋の中へと入る。


「こちらです」


 アメリアが向かったのは、その部屋の隅にある金の杯だった。

 城の中にあった物と同じ物だ。

 その大きな杯の端にアメリアが手を翳すと、その後ろの壁がずずずと動いた。

 隠し部屋だ。


 アメリアに招かれ中に入ると、そこは俺の部屋ほどの狭い空間だった。

 その傍らに、横たわる死体があった。

 色は茶色く変色し、目は窪んでいた。

 だが、その容姿からすぐに解った。


「バッファ様です」


 死後数か月といったところだろうか。

 この暗く狭い空間で、バッファは変わり果てた姿になっていた。


 大叔母様が先程言っていたことが事実だとすれば、バッファは王族ではなかったということになる。

 大叔母様がレイマールへ住むにあたって、王族は皆殺されてしまったからだ。

 若き日のその当時バッファは、何を思ったのだろうか。

 自分が王になったことを喜んだのだろうか。

 王になってフローラを迎え入れたことに疑問は感じなかったのだろうか。

 それとも、王族を殺す手引きをしたのだろうか。

 今となっては、それを聞くこともできない。

 少なくとも、俺の知るバッファは優しかった。

 もしかすると、それもフローラと一緒になってやった策略や演技なのかもしれないが。


 最後はフローラに殺されてしまったのだろう。

 胸に短剣が刺さっている。


「リリス様、これを」


 アメリアはバッファの懐にあった紙を取り出した。

 その紙をみてすぐに分かった。

 書いてある物は解らないが、呪符だ。

 フローラが消える前に使った物によく似ている。


「これを体にあてて魔力を送れば、港町まで移動することができます」


 それって。


『転移魔法ですか』

「転移魔法なのかどうか解りませんが、フローラ様が作った物です」


 フローラが作った。

 大叔母様でさえ転移の魔法は難しいと言っていた。

 フローラの魔術の知識は、大叔母様を超えているということか。

 でも。


『私はエミリアを連れて家族と逃げます』

「その必要はありません」


 俺の書いた文字を無視するように言った。

 エミリアは助けたいが、家族を見捨てることはできない。

 俺がそのことに反発して文字を書こうとすると。


「一階にある大聖堂、礼拝堂に避難している者の国からの脱出は始まっています。

 もうすでに半数近くが、地下の洞窟を抜けて外に出ているはずです」


 その言葉に俺は愕然とした。

 外は今、魔人大陸の他の地域からきた魔物でひしめき合っているはずだ。

 万一、外に逃げることが出来たとしても、命の保証はない。

 アメリアの腕をぐっと掴んで顔を睨んだ。

 そこには家族を失ったかのような憎悪しかなかった。


「あの子は……エレナ様とファリス様はとても強い子です。

 父親を守りながら、諦めることなく逃げ切るはずです。

 それに無理を言ってカシムに伴に付いてもらいました。

 彼はファリア様がくる前までエミリア様の護衛を務めていた者です。

 実力は私が保証しましょう」


 それを聞いてもまだ安心は出来なかったが、何故か少し落ち着いた。

 カシムは完全に気配を消したと思っていた俺を容易く見つけだした。

 実力のほどは知らないが、弱いということはないはずだ。

 それに外への避難が始まっているなら、エミリアを連れて向かったとしても合流するのは難しいだろう。

 あの大勢いる中、城の下を通っている洞窟は狭い一本道だ。

 すでに洞窟内にいるなら、会うのは不可能。


『わかりました』

「急いでください」


 アメリアに言われ、隠し部屋から出る。

 バッファの部屋には大きな窓があった。

 バルコニーがあって、そこから外を眺めることができるものだ。


 その窓に近づいた訳ではないが、見てしまった。

 遥か彼方に見える空に浮く黒い模様。

 うねうねと動き、凄いスピードでこちらに向かってきていた。


「魔王ミシェル・フレイオンの軍勢です。早く、急ぎましょう」


 そんな……。


「リリス様?」


 俺はアメリアの声を聞かずに走っていた。

 窓を開け、バルコニーに出て、遠くの荒野へと目をやる。

 ファリアやフィールが指揮を執っているはずの荒れた土地。

 レイマールの大規模な軍がそこにはあるはずだった。


「リリス様、早くしなければ」


 アメリアの叫ぶ声は俺の耳に届かなかった。

 荒野には煙が上がっていた。


 そして信じられない光景が城の手前。

 目前にまで迫っていた。


 キュルキュルと、錆と鉄が擦り合う音。

 城の5階からでも見える大きな巨体。

 何百というその軍列は、木で作られていたレイマールの家々を薙ぎ倒しながら進んでいた。

 まるでそこに何もないかのように。


「リリス様、早く!」


 アメリアに腕を掴まれ、俺は部屋に引き込まれた。


 俺はまだまだこの世界のことを知らない。

 だけど俺は生前のことなら人並みに知っている。

 インターネットが普及していた俺の世界では、ごく自然に誰でも知ることができる。


 鋼鉄の体でありとあらゆる物を破壊する近代兵器。

 俺が見たのは日本の最高戦力の一つでもある10式戦車の大群だった。


仕事が忙しい為、投稿は月に2度ほどとさせて頂きます。

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