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地下のその先

 薄暗い城の地下道をツカツカと歩く男が1人。

 その男の名はフィール。

 彼は迷っていた。バッファ様の言う通りにことを進めていいのかと。


 事の顛末は約100日前。

 自分とも親しかったフォトンの反逆。

 フォトンとは冒険者だった頃、パーティーを組んで魔物討伐の依頼を何度か一緒に請け負った事もあった。

 昔の事だが、フォトンの剣技には何度も助けられた。それほどにフォトンの実力は高かった。

 剣技の冴えだけで言えば、あのファリアにだって負けてない。そんな男だった。


 それにフォトンは不真面目ではあったが、街の子供や老人には優しい性格だった。

 弱い者を放ってはいられない性格だった。あんな奴だったが、街では結構慕われていた。

 子供達が人攫いに攫われた時は、何度か一緒に助けにも行った。

 エレナが攫われた時だって、最初に助けに行くと言ったのはフォトンだった。

 リリスが牢屋に入れられた時だって、他の番人にはやらせておけないと自分から番人を志願した。


 街の近くに住む魔物は、街の人々に被害が出ないようにフォトンが自ら倒しに行った時も度々あった。

 もちろん、バッファ様から討伐命令が出た時は一切断らなかった。

 性格は不真面目だが、本当に頼れる男だった。


 そんな男をフローラ様、バッファ様は躊躇う事なく殺せと言った。

 取り押さえろ、魔法で拘束しろなんて言葉は一切なかった。

 確実に殺せと、ファリアと俺に命じたのだ。


 だが実際、フォトンはリリスを殺そうとした。

 それを止めにかかったエレナも殺そうとした。

 静粛されて然るべき行為だが、殺せと命じたのはリリスを攻撃する前だとも聞いた。

 それでフォトンが逆上して行為に至ったとも思えないが、でも何故殺せと命じたのか。


「フィールさん、魔術師隊の編成が完了しました」

「え?」


 ふと我に返える。

 後ろを振り向いたフィールの前に立っていたのは、メイド魔術師のクルル。

 彼女は魔術師隊の1番隊隊長に抜擢されていた。

 その魔術師隊の総隊長はフィール。

 バッファから任命され、城のメイド魔術師が多く在籍するレイマール魔術師隊を受け持つ事になったのだ。

 冒険者上がりのフィールからしてみればそれは凄い出世街道ではあったが、あまり良い気分もしていなかった。戦争の為の総隊長。元冒険者のフィールにとっては、それが何とも言えない虚しい響きにしか聞こえなかったからだ。


「……フィールさん? どうされたんですか?」

「あ、いや、何でもないよ。分かった。新しく編成された資料は、僕の机の上に置いておいてくれるかい?」

「分かりました」


 獣人族は元々好戦的な種族。戦争が始まると聞いてクルルは驚きはしなかった。むしろ喜んでいるようにも見えた。今だっていきいきとしている。

 戦争の総隊長ならクルルの方が向いているのではないだろうか。

 そんな事を考えながら魔術研究所の方へと向かうクルルを見送り、また地下道を歩き出す。

 頭の中では、またフォトン襲撃の日へと戻る。


 あの日の疑問はもう一つある。

 バッファ様を襲った魔族。オークの兵士が何故レイマールまで来ていたのか。

 オークが住む土地は、リザードマンが占拠する土地の更に北にある。


 冒険者だった時に、一度だけその土地を通った事がある。

 このレイマールから馬で走って、最低でも90日近くはかかるはずだ。

 しかも魔王ダグマと魔王ミシェルとの戦闘地域を避けて通らないといけない。

 そうすると、考えてみても100日じゃ足りないほど時間がかかる。

 そんな以前に国を出て、レイマールにわざわざバッファ様を殺す為だけに何故来たのか。

 しかもその実力たるや、この城の貴族の兵士と変わらない程に弱かった。

 そんな剣技で、100日以上もかけてこのレイマールまで来ることが出来たなんて事自体がありえない。


 考えられる範疇で言えば、ずっと前からこの付近に住んでいたオーク。そういう事になる。

 つまりオークの国としてはいらない民兵、または国を追い出された兵士か、ずっと前から潜入させていた一般兵。もしくはオーク族の平民。

 だが、そこにも納得のいかない事がある。

 ずっと前からこのレイマールの土地に潜入させていたなら流石に気付く。

 レイマールの土地では、平和を維持するために定期的に近くの町などを調べる構成が確立しているからだ。

 その包囲を掻い潜って、そんな以前からレイマールの土地に潜伏することは不可能。つまり矛盾が発生しているのだ。

 一つ考えられるのは転移魔法での移動だが、あの魔法は不安定な上に、使うとなると英雄級の魔術師が10人は必要な程の魔力がいる。

 そんな莫大な魔力を用意してまで、あんな数人の一般兵をここまで飛ばす事が考えられない。

 もっと言えば、オーク国が自国の兵士を数人殺されたからと言って戦争をふっかけてくること事態不自然な事だ。


「戦争以前に、それを確かめなくては……」


 毎日のように出る独り言。

 だが、確かめる事が出来ない。確かめようがない。


「……無理か」


 そんな時だった。


 歩いている地下道にある一室。普段使われていない部屋からゴトっと大きな音が聞こえた。

 その部屋は古い使われなくなった本などを積み上げている、いわゆるゴミ部屋。

 誰も入らない部屋だ。


「何だ……」


 気になって部屋の扉をゆっくりと開ける。

 すると、開けた扉の正面の壁。組み上げられた壁の石が一つ、こちら側に抜け落ちている。

 その開いた穴から物音が聞こえる。まさか、地下に穴を掘ってきた魔物かオークの手先か。




 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢




 暗い洞窟をファリスを先頭に進む。

 今はまだ分かれ道などなく、ずっと一本道だ。

 このまま一本道のままなのだろうか。


 それにずっと続いている穴の奥から、何やら魔物の呻き声のようなものも聞こえる。

 かなり不安だ。ファリスの魔法で撃退できるくらいの魔物だったらいいが。


 などと思いながら進んでいると、洞窟の先が突然カクっと90度折曲がっている。

 その曲がる突き当りは、洞窟の湿った土の壁ではなく、積み上げられた石の壁。


 そろそろ城の地下道が近いのではないだろうか。

 それとも、この石の壁が城の壁なのだろうか。

 調べてみる必要があるな。


『ファリス姉さん。この辺りをよく照らして』


 サフリスの手紙には、逃げるための洞窟と記してあった。

 どこかに扉があるのかもしれない。それは隠し扉かもしれない。

 入念に探さないと。


「リリス、ここだけ色がおかしいです。この石だけ」


 ファリスが石の違いに気付き、それを指差しで教えてくれた。

 その石を見てみると、確かに色が少し違う。

 茶色っぽいレンガのような石の中に、一つだけ赤い石が混ざっている。


「もしかして、何かの目印でしょうか」

『この近くに扉があるのかな』

「いえ、これは……たぶん押すとか」

『押すって、そんなありきたりじゃないと思うけど』

「じゃあ、見てください」


 ぷくっと頬を膨らましたファリスが、その石を直立でうんうんと押す。

 直立なので、石はびくともしない。その仕草が何故か可愛い。てか可愛い。


「リリスもちょっとだけ手伝ってくださいっ」


 ボーっと見ているだけだった。

 見とれていたとも言うね。

 まあ押して何かあるとは思わないが、何かの仕掛けが作動して天井が落ちてくるとかないだろうか。

 つーか、あれは鞭を腰に巻いた妙にテンションの高いカウボーイ帽を被ったダンディーな俳優さんの映画だったか。


「いきますよ。一緒に一気に押してくださいっ」


 一生懸命なファリスに言われ、一緒に押さない訳がない。

 まだ力は戻ってないが、体重をかけるくらいは出来る。

 すると。


「はいっ 押して! あ、え?」


 驚くほど簡単にズルっと石は奥へと抜け落ちた。

 ファリス、もしかして今の俺より力なかったりして。

 そういや、床の板を剥がすときもエレナに任せっきりだったし。

 鍛える必要なはいと思うが、ちょっと心配だ。


「リリス、やっぱり抜けました。

 だから言ったじゃないですか、この石だけ色が違うって! 古い遺跡などでは、定番の仕掛けですっ」

『ファリス姉さん凄い』


 抜けた小さな長方形の穴に寄って中を覗く銀髪の髪。何故か絵になる。

 ここはちゃんと褒めておこう。

 実際、壁が抜けるなんて思ってもいなかったし。

 てか、ベタな仕掛けだ。ここから城の地下に続くんだろうか。


「ああっ! 誰かがこちらを覗いていますっ 危険ですっ とても怖い顔をしていましたっ」


 突然ファリスの悲鳴ともいえる声が洞窟内に響き渡った。

 反射的に魔力を左手に溜める。


「ファリス、君か? 何故そんな所にいるんだ?」

「あっ え? もしかして、フィール先生ですか?」


 フィール?

 ……あ。

 少ない魔力を一気に左手に集中したから、なんか目眩が……。


「えっ? リリス!」

「リリスも居るのか?」


 ファリスとフィールの声が頭にグルグルと響く。

 まだ魔力は外に放出してはいないものの、魔力切れに似た症状だ。


「リリス!」


 ファリスの俺を呼ぶ声が聞こえたのを最後に、俺は気を失った。



 …………



 気が付くと、後頭部に柔らかい感触。

 まだ目の前はぼやけて見える。


「後で説教だな」


 親しみのある優しい声。


「まったく呆れたものだ。城に入れないからといって、まさか地下を通ってくるなんてな」

「すみません……」


 髪を優しく撫でてくれる手の感触。

 それと、ファリスの声も聞こえる。

 その他にも、ガチャガチャと鎧の音や人の歩く足音なども聞こえてくる。


「しかしどうやって地下に潜り込んだんだ」

「それは……わ、私が家の床板から続く穴を見つけてそこからっ」


 視界が少しずつ戻ってくる。

 すると俺の顔を上から覗き込む顔と目が合った。

 

「気が付いたか?」

「あっ リリス!」


 まだ朦朧とする意識のまま目だけで辺りを見渡すと、魔術研究所の一室だと分かった。

 難しそうな本が並び、空いた扉の向こう側にはメイド術師に何かを指示するフィールの姿も見える。


「まだ横になっていろ」


 起き上がろうとする俺に言ったのは、長椅子に座って膝枕をしてくれていたファリアだった。

 2日ぶりに見たその顔は少し窶れていて、疲れているようだった。


「ファリア隊長。ご息女が心配なのは分かりますが、隊の指揮をとってもらわなくては」

「分かっている」


 声に気付いてそちらを向くと、黒ひげを生やした武骨な男が立っていた。

 見るからに冒険者上がりといった感じだ。


「遊撃隊は城の庭へと集めておけ。そこで隊の編成を組み替える」

「分かりました」


 男は納得のいかない顔で、俺とファリアの目の前から2人の兵士を連れて部屋から出て行った。

 そこへファリスが俺の顔を覗き込む。


「リリス、一旦家に帰りますよ。今は城の中は忙しくて、私達は邪魔者のようです」


 寂しそうな顔で言った後、膝枕をしてくれているファリアに相槌をした。


「リリスが動けるようになったら、私が責任をもって家に連れて帰ります」

「ああ、頼む」


 何がどうなっているのか解らないが、状況は切羽詰まっているのは理解できる。

 それにファリアが隊長なのか。ファリアはエミリアの護衛じゃなかったのか。

 いきなり色々な事がごちゃませになって、頭の中の整理がつかない。


「まだもう少しだけ、このまま寝ていろ。もう膝枕してやる事が出来ないかもしれないからな」


 また起き上がろうとする俺の耳に届く優しい声。

 頭を撫でてくれる手の柔らかい感触。

 それに甘えて、もう少しだけ……と、俺は目をつむって眠りにつくのだった。

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