牢屋から外へ
荒れた大地を颯爽と駆ける3頭の馬。
その先頭を走る馬に乗っているのは重工な鎧を身に付け、高貴な髭を生やした男。
その後ろで周りを警戒しながら鋭い視線を放つ一人の男と女。
目的地はもう目の前、魔王城ライオネラ。
「城を出てからもう6日ほどか。魔物の気配はないか?」
「この辺りはもうあの方の領地内でございます。魔素量の多い魔物は討伐されているかと」
「末恐ろしいな。しかし油断はできん」
鎧を身に付けた人間の男の問いに答えるのは、長旅に同行した魔術師。彼もまた人間。
厚手のマントを羽織った、この騎士の片腕たる存在。
「ルシア、どうだ?」
「はい。目に見える範囲では魔物の気配はありません。フィール様がおっしゃった通り、目的地が近いのかと」
「ふむ。ではここからは一直線に進んでも問題なさそうだな。馬の疲労も気になる」
「おそらく、あと半刻程で到着するかと思われます」
主人の命に応えるのは獣人の女騎士。
彼女の額に刻まれた魔法術式紋章は遠く離れた魔物の気配をも読み取る。
この旅には決して欠かせない存在である。
魔人大陸は魔物が多い。
2人の近衛を従える者の名はバッファ・ブランドル。鍛錬に鍛錬を重ねた上級剣士である。
しかし魔人大陸を進むのに彼一人では死地となりえる。
魔人大陸では力の無い者は容赦なく死んでいく。
ある者は魔物に食い殺され、またある者は広大な土地で道を誤り、またある者は目的地に着くまでに餓死してしまう。魔人大陸が死地と呼ばれる由縁である。
「着いたな」
「一番近い魔王城といっても、さすがに遠かったですね」
「気を抜くなよフィール。お前はライオネラに来るのは初めてだろう?」
「ええ、ですが賢明と名高い魔王だと聞いています」
「東の地であるこのディアノスの4人の魔王の中では賢明と呼ばれておるがな……だが魔王は魔王だ」
3人は城の門前まで馬を進めた。
見上げると高い城壁。
その屈強な石の佇まいから、難攻不落とも称される城の一つでもある。
「門番には私が謁見の申し出をします」
「顔見知りか? しかし無礼と思われては困る。下がっておれルシア」
「ですが奴らの力は……」
「サリア様から聞いておる。心配はいらん」
馬を降り歩いて門番まで歩を進めるバッファを見て、フィールとルシアも馬を降り彼の後ろを守るように歩く。
門番はたった2人。しかし彼らの戦闘能力はバッファら3人とほぼ同格。
「我は人族、中立地帯に城を構えるバッファ・ブランドルと申す者。魔王殿に謁見の申し出をしたい」
「バッファだと? 中立地帯に城を構える臆病者がこのライオネラに何の用だ!」
「ゲブル貴様! いくらお前とてバッファ様への無礼は許さんぞ!」
「下がれルシア!」
バッファは今にも抜刀しそうなルシアを片腕で宥める。
ここへは戦闘をしにきた訳ではない。
「内容に関しては私自ら魔王殿に直接お頼み申す。中立地帯カマルの奥地から来たのだ。どうかその意を汲んで頂きたい」
「火急か? ふん、しばしまたれよ」
門番ゲブルが門の中へと消えると、すぐに重工な金属音をたてて門が開いた。
やはりというか、ただ試されていただけらしい。
「伝令もなく突然でしたので……無礼をお許しくださいバッファ殿」
「ふん。ゲブルにお前の鱗の垢でも飲ませてやれグブル」
「よさんかルシア。門番とあれば当然の事だ」
「ゲブルにはよく言って聞かせます。馬はここで預かりましょう。王宮へはこの者が案内しますので、どうぞ」
中へと入ると、そこは城下町。門の内と外では別世界である。
リザードマンの親子が仲良く買い物をしている姿。さらに露天商が道を挟んでずらりと奥まで続いている。
案内役の後ろを歩きながら辺りを見渡せば、そこに飢餓の二文字はどこにも見当たらない。
「勝った者は裕福な生活、ですか」
「それは戦争の理だ。致し方無い」
「フィール殿は西の出身と聞いたが、あちらはどうなんだ?」
「俺の出身は魔人大陸ではないよ。西へは一時期滞在していただけで」
「2人とも私語はよせ。そろそろ王宮だ」
バッファとフィール、ルシアは長々と続く商店街を抜けて王宮の前へと歩を進めた。
そこには君主バッファが持つ城の倍はあるであろう立派な王宮が建っていた。
その大きさからフィールは驚きの声をあげた。
「すごいですね。中に入る前の、あの高い城壁にも驚きましたが……王宮というより、これ自体が化け物のようです」
「滅多の事は口にするな。我がレイマールとは同盟を結んでいるのだぞ」
「ふふっ、誉め言葉として受け取りましょう。ここを落とせるとすれば、それこそ他の魔王様以外いないでしょうから」
門からの案内役と別れ、今度は王宮内の案内へと引き継がれる。
謁見する前に立ち寄る部屋の武装したリザードンにも話しを通し、中に入ってその時を待つ。
そこは見るからに高そうな彫刻、または絵画で溢れかえっていた。
「バッファ・ブランドル様。王がお会いになるそうです」
リザードマンの淑女に案内され巨大な扉の前まで歩き王の間へと通される。
大きな石を刳り抜いて作られた玉座。
その輝きから材石が高価なのと、手がけた職人が高名な者であることは瞬時にわかる。
そこに威厳を放つ紫色の眼光を持って座る年老いたリザードマン。
彼こそがこの城の城主、魔王ダグマ・ガンガブエルである。
バッファは直立で胸に手を当て頭を下げる。
後ろに仕えるフィールとルシアも片膝をつき、手を胸に添えた。
同盟国といえど、その実力差は一目瞭然なのだ。
「王、久しぶりでございます」
「おおバッファ、そんな堅苦しくする事はないではないか。我とそなたの中じゃ」
「されど、我がレイマールは王の加護により存在しているのも同意。私共としては嘆願を許して頂きたく参った者であるがゆえ」
「ほう、嘆願ときたか。それほど重要なこととは思えんがのう」
既に話は届いているのか、魔王はニヤリと笑みを零す。間者から情報を得ているのだろう。
だがそれでこそバッファ自ら赴いた甲斐があったというもの。
伝令では魔王の機嫌を損ねる可能性もあった。
しかしバッファとて言葉を誤れば無事では済まない。
「実は王……我が領土にて、リザードマンの野党が人族の子供を攫う事件がありまして」
「ほう、それはいけない。その輩は討伐してくださったのでしょうな。人間との友好に亀裂が入ってはいけない」
人攫い。
それは人族に措いても魔族に措いても、貴族の中では凶悪犯罪の上位にあたる。
なのでそういう犯罪が起こった時は、近くの城主が討伐隊を送り出す。
そこには種族間のごたごたは存在することは無く、速やかに対処する事が国の間で決められている。
「はい。彼らは私の部下が切り伏せたのですか」
「ふむ、何か困り事でも?」
魔王はため息を混じらせつつ、姿勢を正すように両手を椅子の淵へと置いた。
煩わしくは思っていないとバッファからは見える。しかしそれは形式的なものでもある。
大きなため息もそれに含まれるものだとバッファは悟った。
「実は、4年前に王が滅ぼしたダークエルフ王国の……その」
「何なりと申してみよ。そなたと私の仲であるぞ」
「はい。実はその助けた子供達の中に、王が滅ぼし、全滅したと思われていたダークエルフの子が混じっていたのです」
「ほほう」
ダグマはそれほど驚いた様子は見せない。
ダークエルフとリザードマンが最近まで戦争をしていたのは世界中に轟いている周知の事実である。
「その……滅ぼした事実はその子供に復讐の火を滾らせるかもしれません。我々人間としてはこの子の扱いに、どうにも困っている所存でして」
「ふむ。ダークエルフは大人になるにつれ、内に秘める魔力濃度が高くなるからのう。高位な者ならば禁呪さえも扱えると聞く」
「先の戦では……?」
「残念ながらな、そのような者は居なかったのう」
ダグマはコホンと咳払いをした。
自らの戦狂いを掻き消すかのように。
「ふむ。我も子共達まで殺すつもりは無かったのじゃ。あれは軍隊を率いていた者が仕出かした罪。なれば、我からはその子の命をどうにかせいとは言わん。もちろん、後にその子供が我に牙を向うとも、我はレイマールに住む人間に危害を加えない事を約束しよう」
「そのお言葉、有難く頂戴いたします」
リザードマンの軍隊がダークエルフ王国の住人を1人残らず蹂躙したのはバッファも聞き及んでいた。
文字通り、動く者がいなくなるまで殺しまくったのだ。
それもダグマの命令だったとすれば、一刻も早く戻って捕らえている子供を引き渡さねばならなかった。
「して……バッファや。もうその堅苦しいのやめにせんか?」
「はは、一応の礼儀ですので」
賢明な王とは名ばかりの戦闘狂。しかしそれに今回は救われた形となった。
魔王ダグマは弱い者には興味がない。つまり人間である自分達には刃は決して届かない。
ダークエルフ王国を滅ぼした魔王ダグマが、たった一人の少女に目くじらを立てることなどないのだ。
バッファはそう自分に言い聞かせる。
レイマールを加護する水の精霊への感謝と共に。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
俺が牢屋に入ってから既2週間が経とうとしていた。
この世界に月日を数える習慣があるのかないのかは知らないが。
「食事です」
獣人メイドは食器トレーを手の届く所に置くと、そそくさと帰ってしまう。
けどいいのだ。
その萌える姿さえ拝ませて頂ければ。
「……お前、やっぱ変な奴だな」
ここ最近は不審な目で俺を不思議そうに見つめるようになった牢屋の番人フォトン。
正座をして拝む姿勢のダークエルフの幼女が、そんなに珍しいかのだろうか。
いや、珍しいか。
どうでもいい話だがこのフォトンと言う男。獣人族と人族のハーフらしい。
それで頭に耳が付いているのかと納得した。
納得したところで気持ち悪いくらい似合ってないのは変わりはしないのだが。
そろそろここも飽きてきた。
初めこそ気絶するほどびっくりはしたが、慣れてしまえばなんてこともない。
牢屋という狭い空間での生活は辛いともとれるが、俺自身に罪の意識はないわけだし、何もせずとも1日過ごせて獣人メイドサプライズもある。
それに仕事をしないでいいってのは、やっぱ気楽なものだ。
「気味悪りぃな」
おっといけない。
フォトンにキラキラスマイルを送ってしまっていた。
今の俺の幼女スマイルは、高くつくぜ?
そんなやり取りをしていると、牢屋の前に一人の男が現れた。
ここ数日での、久しぶりの変化だ。
初めの2週間は青髪エルフお嬢様と、豊満な胸の女剣士。と給仕に現れる獣人メイド達。
フォトンはずっと居るからな。そこには含んでいない。
もしかして、今から始まるのはオヤジなのだろうか。
耐えきれるだろうか。
銀色の鎧を纏った男。
顎には雄姿漂わせる整った髭が生え、以前現れた女剣士同様に腰に西洋風の剣を携えている。
ここに来る者では、もちろん初めて見る顔だ。
明日からも、俺に萌え萌えキュンキュンな毎日を……。
などと祈っていると、フォトンが突然目の前を横切った。
その男を見るなり、正座をして地に頭をつけたのだ。
あれ、もしかしてこれはアレか。
ご主人様というやつだろうか。
フォトンの耳もふにゃっとなって、目の前では完全な上下関係が成立している。
偉い人なら、俺も平伏していたほうがいいだろうか。
いや、子供なら可愛くしていたほうがいいだろうか。
などと思っていると、髭男に向かってニコリと微笑んだ。
無視された!
どうやら俺の幼女キラキラスマイルは、この男には効かないらしい。
誰にも効いてないけど。
「この子を出してやりなさい」
「えっ、いいんですか?」
「かまわん」
男の言葉がそんなに意外だったのか、慌てた様子で牢屋の鍵を開けるフォトン。
というか、俺のほうこそびっくりした。
子供の姿だけど魔族には違いないだろう。
寛大というか、いいのだろうか。
俺の常識では魔族とは、無慈悲に人を襲うものだ。
てっぺんに魔王がいて、その命令で勇者にあえなく倒される者のことだ。
正義は勇者にあって、魔王、魔族は悪そのもの。それが前の世界で培った知識だ。
でも、それはゲームなどで得た知識。
勇者にも魔王にも感情というものがない、ゲームの中での話だけど。
人にはそれぞれ正義があって、前の世界でも戦争をする者同士も必ずしも悪ではない。
心の中に自分の正義をもっている者同士が戦い、勝った者が正義と堂々と宣伝できる権利を得る。
それが勝負であり、戦いであり、戦争だ。
この世界だってゲームと違って、人にも魔族にも感情はあるはず。
自分達の正義を持っているはずだ。
なら魔族は悪ではなく、敵という認識でいいのだろうか。
フォトンの態度や魔族の俺を牢に閉じ込めていた経緯からして、そんな感じでいいのか。
まあ、敵と悪は認識は違えど、同じことか。
ああ……こんがらがってきた。
「出ろ」
フォトンが開いた鉄格子の扉から、恐る恐る出る。
いきなりその腰の剣を抜いて切られたりしないだろうか。
警戒しつつ髭男の顔を見上げると、別段不機嫌そうな表情はしていない。
見方によっては僅かに微笑んでいるようにも見える。
念の為……。
もう一度スマイルを送るとやはり無視された。
俺としては可愛く微笑んでいるつもりなのだが、違うのかもしれない。
そこで以前の知識が思い出された。
人は盛大に笑ってみせても、人にはそれほど伝わっていないというのもテレビで見たことがある。
タレントやアイドルといった人種は、笑い顔を密かに練習するのだとか。
完璧なスマイルを頭で想いうかべて、口角を上げてニカっとした表情を作った。
子供の笑顔は世界を救うのだ。
「こ、この野郎! バッファ様に向かって、なに威嚇してやがるんだ!」
「かまわん。牢屋に入れたのは我々だ。恨まれても仕方があるまい」
「でも、こんなおぞましい顔をするなんて」
「かまわんと言っている」
俺の笑顔はおぞましいらしい。
今後、気を付けよう……。
かくして2週間過ごした牢屋から、やっとの思いで出る事が出来た俺であった。
まあ、以前の生活よりも充実していた部分もあったがな。獣人メイドとか。
パソコンがないのは辛かったが……。
石畳の階段を銀鎧の男の後を追うようにして上がる。
赤いマントがヒラヒラと目の前の邪魔をする。
そして木製の大きな扉。
男が力強く扉を開けると、眩しい光に思わず左手を顔の前にかざして目をつむった。
ゆっくりと目を開けると、そこは芝生が整えられた地面。
その芝生の先には、何メートルあるか解らない高い塀。その塀の高さに思わず首が上を向く。
驚いたのもつかの間、塀を見上げる視界の端に映るものが。
その塀が一直線に続く視界の先。塀の隣にそびえ立つ高い建物。
俺と髭男が通ってきた暗い通路、それもこの建物の一部だった。
その佇まいを一言で言うと、城。
実際この目で見た事はないが、中世ヨーロッパに建っていたであろうと想像させられるその見事な建造物に、声が出ない代わりに吐息が漏れた。
高い塀だと思っていたのは、この城を守る城壁だったのだ。
もう一度城壁の上の方を確認してみると、女騎士が着用していた鎧と同じ鎧を着た屈強な男達が城壁の上を歩いている。
人が歩けるくらいに幅があるのだろう。
ここからじゃ確認出来ないが、その幅は何メートルかあるのだろうか。
「リリス! リリス!」
茫然と佇む俺に向かって、しきりに叫ぶ声。
聞き覚えのある声だ。
しかしリリス? なんでリリス?
見上げていた視線を戻し、声が聞こえた方へ頭を向けた。
「やっと出られたねっ」
そこには牢屋に来ていた青髪エルフのエルシアが赤いドレスを着て立っていた。
原色通しの組み合わせで目がチカチカする。
隣には女剣士ファリアが俺に不審な目を向けている。
「会いたかった!」
「あっ、セシリア様!」
セシリアが俺に抱き着いてきた。
あらやだ。
「ほんっとーに会いたかったんだよっ!」
長く鮮やかな青い髪からは、とてもいい香りがする。
あと発育が10年先なら彼女居ない歴=生きてる年数の俺では対応できずにおたおたしてただろう。
いや、エルフと人間って寿命も違うから発育も違うんだったかな?
あくまで俺の知識の中の話だけど。
「セシリア様! この子は魔族です! あまり近づくと何をされるか分かりません!」
「いいでしょ、ちょっとぐらいっ!」
「良くありません!」
すると少女に抱き着かれる俺の頭を優しく撫でる感触。
上を見上げると銀鎧の髭男が苦笑していた。
「この子はセシリアのお気に入りの様だな」
「うん! リリスとはもう友達なんだよ!」
優しく微笑む男。
そして解った事と解らないが一つづつ増えた。
髭男はお嬢様と呼ばれていたセシリアよりも偉い。
それと、なんで俺の名前がリリス?
「ならばこの子を、セシリアの護衛として育てよう」
「ええ?! 何をおっしゃられているんですかバッファ様! 魔人をセシリア様の護衛として育てるなど、納得する以前の問題です!」
「そうです! 他国に知れ渡ればレイマール城主としての威厳が!
異を唱えるながら前に出るファリア。
そのファリアに向けて片手を前に出し止める態度をとる髭男。
と、女騎士のフィアだっけ。いたのね。
どうやらこの男はかなり位の高い奴だな。
そして城主だっけ。
え? 王様ってこと?
「ダークエルフは魔力が高い。ファリア、お前が訓練してやるのだ」
「!!……分かりました……」
諦めた様に頭を下げるファリア。
上機嫌なセシリア。
訓練とな?
なんか野蛮な響きのように聞こえるが……。
しかし女剣士と訓練なんて、悪い気はしない。色んな意味で。
期待を膨らませながらファリアにキラキラスマイルを送る。
これからお世話になる相手に対しての礼儀だ。
男の俺の顔なら気持ち悪くて見れたものではないだろうが、今は幼女スマイル。
先程は失敗したが、頭の中で修正した満面の笑みというやつだ。
「うっ……だが、中途半端な稽古はしない」
うっ……て、何だろうか。
修正したから、おぞましいってことはないだろうが。
「リリス……ちょっとその顔、気持ち悪いよ」
抱き着いていたエミリアが遠慮しがちに後ろへ下がった。
良かれと思った俺の笑顔は気持ち悪いらしい。
正直なのは嬉しいが、ちょっとへこむ。
「毎日が辛く厳しいものだと覚えておけ」
そんな俺にファリアは無表情で言い放った。
笑顔が気持ち悪いとか子供とか小さいとか、そんなものは通用しないらしい。
大丈夫かな、俺。
…………
そのあと城壁内にある井戸で水浴びをさせられた。
風邪を拗らせるんじゃないかって程に水はめちゃくちゃ冷たかったが、我慢。
泥や汗、牢屋の臭い匂いなどを綺麗サッパリ洗い流した。
そしてどこから持ってきたのか、ファリアに子供用の上着とスカートとパンツを渡された。
というのも着ていた服がボロボロで穴だらけな上に汚かった。
セシリアよ、よくこんな俺に抱き着けたな。と、少し感慨深くなったのは言うまでもない。
新しく用意された服だが、少しだけ大きかった。
パンツは水着のような腰の辺りで結んで穿く紐パン。
精神が男の俺としては抵抗があったが、元々穿いていた布を巻き付けるふんどしの様な物よりはマシだ。
「着替え終わったら街を案内する。それと今からお前の名前はリリス・ラングレーだ。覚えておけ」
隣で着替えを見守るファリアにそう告げられ、俺の異世界生活は始まった。




