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人の醜さ

 5時間くらい過ぎた。

 荷台車を止めて、束の間の休憩に入る。

 俺達が港町に居た時は、まだ日が昇って間もない時間帯だった。

 つまり朝だった。


 今は、お天道様が真上に見える。

 なので昼過ぎくらいだろう。

 体内時計に自信は無いが、お天道様は嘘をつかない。

 港町を出て5時間くらい過ぎたっていう感覚で間違いない。

 昼過ぎというのも、恐らく間違いないだろう。

 港町を出るのに時間がかかったから、その計算で合っているはずだ。


「はあっ!」


 ザクッと一閃。

 エレナの剣捌きで、ウェアラットの首が落ちる。

 グロぃ……。


 が、港町を出て初めに戦った猪みたいな魔物、ボアだったか。

 ペインアローで吹き飛んだのに比べれば、まだマシか。


 初めがエグかったから、妙な耐性がついてしまった。

 ま、この世界で生きていくなら、それもまた必要か。

 


 道中、魔物にはかれこれ、10回は襲撃された。

 5時間で10回。

 魔人大陸の中でも魔物が少ない道のりなのに、中々に厳しいものになった。


 とは言っても、魔物と遭遇した数は10では済まない。

 もうかれこれ、20回以上は見ている。

 いや、正直に言えば、15回から先は数えていない。

 数えるのが趣味、という訳でもない。しかし今あげた数字は大きく超えている筈だ。

 何故そんな事態になっているのか。


 要訳すると、見えた、または出て来た魔物が20回以上なのに対し、襲撃されたのが10回というのは、襲ってこない魔物がいるからだ。

 警戒しつつも、森の中からじっとこちらを見ていただけの魔物。または出てきてすぐ森に逃げ込む魔物。そんなのが結構いる。

 魔物だって命は惜しいのだろう。エレナが放つ殺気が、そういう魔物を遠ざけているのかもしれない。


「そこにもいますね……。けど、襲ってくる気配はありませんね」

「ああ、だが助かる。ずっと襲ってこられたんじゃ、こっちは堪らないからな。

 それにやっぱり、魔物の数が多いな。前にここを通った時は、こんな事にはなってなかったはずだ」

「そうですか。ビルマさんが通った時と違うんですね。

 だとしたらこれはやはり、何かありそうですね……」

「まあしかし、まだ誰も大きな怪我をしてないんだ。

 それだけでも、あたしからしてみれば、奇跡みたいなもんだけどな。

 まあ、奇跡みたいな子供達なら、今目の前にいるがな」

 

 褒めているのか、そうじゃないのか、それとも別の意味なのか。

 ビルマが言っているのは、間違いなく俺達のことだろう。

 ファリスがニコニコ顔でビルマを見ると目を逸らしたから、一応褒めているのだろうか。

 自分で言って、ちょっと恥ずかしかったようだ。

 ビルマ自身、そんなキャラではないのかもしれない。

 褒め言葉を言いったビルマの顔が、ちょっと赤い。


 なんだかんだ言って、精神年齢は俺より下だからな。

 俺も二十歳ぐらいの時は、鏡に向かって一人で歯の浮くようなセリフを練習したもんだ。

 結局、使うことは一度もなかったが。

 まあ、自虐ネタは考えるだけ無駄だ。

 虚しいだけだしな。

 


 話は戻るが、ビルマの言った通り、幸いまだ誰も手傷を負っていない。

 それもこれも、エレナが突撃してすぐに倒してしまうからだ。

 俺もペインアローを放ってはいるが、それよりもエレナが倒す速度の方が早い。


 このお姉ちゃんは、獲物を取られるとでも思っているのだろうか。

 魔物からしてみれば、俺達の方が獲物の筈なんだが、サクっとやられてしまう。

 踊るような剣技で、難なく倒してしまうのだ。


 俺達を小さいと見て警戒する事なく襲ってくる魔物には、不運としか言いようがない。

 特にF級のウェアラットやモブ系の魔物の、獲物がきたー! ともとれる登場には悲しくなってしまう。

 恍惚に笑うエレナの表情の方が、怖い。

 そしてその笑顔を見た魔物は、反撃する暇も無く駆逐されてしまうのだ。

 魔物に同情さえ覚えてしまう。

 もはやF級の魔物は、道の石ころ。

 襲ってきた魔物に思う感情ではないが、可愛そうだ。

 まあ、襲ってきた方が悪いんだけどね。


 そんな訳で、俺達は意外と強い事が解った。

 この辺りの魔物からしてみれば、の話だが。


 でも、油断は禁物。

 帰りの旅は、まだ始まったばかりだ。

 これから、強い魔物と遭遇しない保証はどこにもない。


 例えば、サフリスが倒したバッスカル。

 魔人大陸乾燥地帯で、群れを成して狩りをする魔物で、もちろん単体でも強い魔物だ。

 小ぶりだが、刃物を通さない強靭な体毛に覆われていると、魔物図鑑に載っていた。


 そんな魔物が〝はぐれ〟として1匹でも出てきたら、どうなるかは分からない。

 俺のペインアローだって、通じるかは疑問だ。

 ファリスのファイヤーボールでも、なんとかなるかは分からない。

 急所は噛みついてきた時の口、それに目、くらいか?

 会った事がないから分からんが。


 とにかく、強い魔物は出来れば出てきてほしくはない。

 ワーウルフはまだ出てきていないが、出来れば遭遇したくない。

 とは言っても、出てくるんだろうなぁ。

 自分でフラグ立てちゃってるし。


 旅は道ずれ、世は情け。なんて言葉があるくらいだ。

 ワーウルフと道ずれなんて嫌だが、情けは欲しい。

 俺は臆病者なんだ。


 だがエレナは納得していないようだ。


「これが旅なの!? 旅ってもっと、命がけなものなんじゃないの!?

 襲ってくる魔物が弱すぎるわっ こんなんじゃ、お母さんに笑われちゃうっ」


 何をもって笑われるのかは分からないが、弱い魔物を相手にしているのが嫌なのか。

 それともファリアに、強い魔物を倒した話でもしたいのだろうか。

 森が続く海岸通りの道に入ってから、エレナはずっとイライラしっはなしだ。


「エレナ、そう気を立ててはなりません。疲れてしまいますよ」

 

 ファリスに言われて、エレナはしぶしぶだが落ち着いた表情を作っている。

 エレナはファリスを、姉として尊敬しているっぽいからな。

 俺もファリスを尊敬している。もちろんエレナもだが。

 この二人は凄いよ、まったく。


「それに、まだ1日も経っていないのです。まだまだ道は長いのだから」


 俺が小学生だった時には、こんなに落ち着いてなかった。

 精神年齢、ちょっと高くない?

 まあこの世界が、異世界だからなのかもしれないが。


「普通はこれで命がけだ……普通は……」


 それとビルマが小声で言っているが、彼女は俺と気が合うらしい。

 その通りだと思う。


『ファリス姉さんの言う通りだね。まだ道は長いよ』

「リリスに言われなくても分かってるわっ」


 うむ、これぞいつものエレナと言うべきか。そんな感じだ。

 魔物との死闘に、よほど憧れでもあったのだろうか。

 歳はまだそこまで到達してはいないが、精神年齢が高すぎて、既に中二病か。


 そういえば昔、俺もそんな時期があったな。

 テレビで見る戦隊ヒーロー。

 ギリギリの死闘に勝つヒーローに、妙な憧れを抱いたりしたもんだ。


 けど、これは現実だ。

 予め、決められた設定で行われる演技ではない。

 現実は非道なのだ。

 酷い言葉を投げかけられれば傷つくし、腹に刃物を突き立てられれば痛い。

 心は荒むし、死ぬ時は死ぬ。

 だから伝えなければならない。


『エレナ姉さん、姉さんが心配なんだよ。だから言う事聞いてね』


 少し優しめに、だが顔は作って窘める。

 リーダーは俺なのだ。


「……分かってるわ。ごめんリリス」

 

 素直な顔で謝られた。

 なんだかんだ言っても、やっぱりまだ子供だ。


 エレナが強く言った後に、あっとした顔を俺は見逃さなかった。

 こんな事、言うはずじゃなかったのに、って顔だ。


 それを逆手にとる俺は、ちょっと大人げないかもしれないが。

 でも心配なのは事実だし、ここは大人の言う事を聞いていてもらおう。

 自分より背の低い妹に言われて、ちょっと複雑な気分かもしれないが。


「ふふっ リリスの方がお姉ちゃんみたいですね。エレナが可愛く見えます」

「ファリス姉さんっ それって、なんか私が可愛くないみたいじゃないっ」

「エレナは可愛いですよ。エレナはいつだって可愛いです」

「もうっ……」


 うん、慈悲の心だ。降参しました。

 可愛い上に慈悲だなんて反則だ。

 俺はファリスに女神の片鱗をみた。

 今なら無限のカオスを打ち破って、光を世界に届けることだって出来るだろう。


「ん……。何か来るぞ。後ろからだ」


 ファリスに感動する俺を尻目に、ビルマが立ち上がった。

 盗賊時代の感からなのか、ビルマの感知能力は高い。

 パーティーでの位置付けで言えば、シーフってところだろうか。

 後ろからでもどこからでも、なんでも御座れな能力だ。

 雇って正解だったね。


 それはさておき。

 俺達3人も武器を構えて立ち上がった。



 …………



「なんだ、ビルマじゃねぇか。まさか護衛か? たった1人で」

「ああ……うるさいのが来た」


 後ろから近づいて来ていたのは、二頭の馬を擁する馬車だった。

 その荷台の大きさから、馬車はレイマールへ向かう商人の物だと分かる。

 そしてビルマに声をかけてきたのは、その馬車から降り立った1人の剣士だ。

 その後から、ぞろぞろと腰に剣を携えた男達が馬車の荷台から降りてくる。

 総勢5人の、屈強な男達だ。


「あー、まさかお前。そんなガキ共と一緒に港町から出たのか?

 よく今まで殺されなかったな。ま、見た所、そんなガキ共に縋るくらいだ。

 よっぽど切羽詰まってたんだなぁ」

「うるせぇよっ この子達はただの子供じゃない。ロック、お前らよりも、強いかもしれねぇぜ」

「はぁ~? 港町で男とヤリすぎて頭イっちまったのか?」

「黙れゲスがっ」


 なんかリーダーらしき男、名前はロックか。その男とビルマが言い争いを始めた。

 汚い言葉のオンパレードだ。出来ればファリスとエレナには聞かせたくない。

 それにビルマの言う通り、こいつら確かにゲスだ。

 主に喋っている男、ロックに合わせて、後ろの4人もケラケラ笑っている。

 とそこに。


「あんた達。さっきから聞いてれば、何気持ち悪い事いってんのよっ」

「あ?」


 エレナが不機嫌そうな顔で参戦した。

 だが、さすがに剣は腰に戻している。


 でも、ケンカはいけませんよ。

 そういうの苦手だから。


『すみません。わたし達は別に争う気なんてありません』

「ああ? なんだこれ。文字術ってやつか?」


 俺の文字術に興味を持ったのか、リーダー各の男、ロックが文字を見るなりビルマに向きなおった。


「おい、こいつら奴隷にして売るのか? なら手伝ってやるぜ」

「ああ確かに。文字術ってのは珍しいぜ。しかもダークエルフかそいつ」

「ダークエルフっぽいな。見たことは無いけど、特徴がそんな感じだ」


 何言ってんだ、こいつら。

 何故か俺を奴隷にして売るとか言い出しやがった。

 周りの男達も、ニヤニヤしながら相槌を打ってこちらを見ている。

 港町の冒険者には、こんな輩しかいないのだろうか。


 それに後ろの4人の男達は、俺とエレナとファリスの体を舐めまわすような視線で見てくる。

 気持ち悪すぎる。張り切って前へ出たエレナも、ちょっと後ろに下がっている。

 ファリスも良い顔はしていない。

 本気マジのゲス共だ。


 蛇の道は蛇。

 表情を崩していないのはビルマだけだった。

 

「この子達は奴隷じゃない。

 それにさっきも言ったように、お前らじゃ勝てないくらい強い。

 気持ち悪いだけのお前らじゃ、手も足も出ないだろうぜ」


 ビルマが胸を張って言い放ってくれた。

 顔も真剣で、ちょっと惚れそうだ。


「はぁ~。マジでお前、頭イっちまったんだな。

 部下とか言ってた奴らにマワされて、脳みそ溶けちまったんじゃねぇのか?」

「「ハハハハハっ」」


 あ、なんか本気でムカついてきた。

 こいつらの実力は分からないけど、庇ってくれるビルマをバカにされたのに何もしないってのは、気持ちが許さない。


 俺は左手に少し魔力を溜め始めた。

 軽いペインアローでもぶちかましてやろうと思ったからだ。


「……」


 だが、俺の左手を見たビルマは、無言で片手を俺の前にかざした。

 そして再度リーダー各の男、ロックへ顔を向けた。


「争い事は好まない。行くなら先に行け。道は開けてやる」


 そう言うと、そのままでも十分通れそうな道幅があったにも関わらず、ビルマは荷台車を道の端へと寄せた。そして馬車を指差し、なんでもないといった表情で言った。


「ほら、商人が不安そうな顔で見てるぞ。

 早く行った方がいい。レイマールに着いた時に、駄賃の値引きのネタにされるぞ」

「……ふっ 売婦が」


 ロックはそう言い放つと、男共を連れて馬車の荷台へと戻っていった。

 そして馬車は大きく広く開いた道を、ゆうゆうと先に進んでいった。

 実に不愉快極まりない連中だった。

 まだ、なぞるように体を見てきたあの視線が、目の奥に焼き付いて離れない。気持ち悪い。


「なんなのよ、あの連中。ほんと気持ち悪かったわ」

「私はリリスが連れていかれるのかと、心配になりました……」


 俺の後ろで、体を少し震わせているエレナとファリス。

 魔物とは別の恐怖があったのだろう。俺も実際、その男達の視線に恐怖を覚えた。


「すまんな……あたしがいたせいで」


 悲し気な表情で、俺達3人に謝るビルマ。でも、それじゃない。

 なんでビルマが謝るのか。悪いのは奴らのはずだ。


「ちょっと待ってよっ ビルマさんが謝る事ないじゃない!」

「いや、あたしが悪い。それだけの事を今までしてきたからな。

 あいつらの言ってる事も、半分合ってる。自業自得ってやつだ」


 半分。それは売婦って言われた事だろうか……。

 ムカつく気持ちとやるせない気持ちが混同する。

 俺ってこんなに、人に同調するタイプだったのか。

 エレナの言う事に激しく同調している。


 するとビルマは畏まったように俺達に向いた。


「どんな理由があったとしても、商人とその商品を護送する者を叩きのめしたら犯罪者だ」


 そして続けざまに笑いながら、それに、と付け加えた。


「あんなゲス共で、お前達の手を汚す事はないだろう? それだけのことだ」


 そう言って、少し照れくさそうに顔を隠した。


『すいません』


 反省だな。

 ビルマに教えられた。

 俺はリーダーとして、あるまじき行為をするところだった。

 皆を、犯罪者にするところだったのだ。


 ビルマは溜飲を下げてまで、俺達を守ってくれた。

 だが、その顔はやはり悔しそうにみえる。


『ありがとうございます、ビルマさん』


 右手を左肩に付け頭を下げた。

 ビルマは文字を読めないが、何かを察知したようだ。

 エレナが訳す前に恥ずかしそうに顔を隠した。


「お、おぅ……」


 小さく頷いたビルマ。

 ちょっと可愛い。

 頬が赤い。


「ふふっ ではそろそろ行きましょうか。まだ道は長いですから」


 ファリスの号令で荷台車を戻し、陣形を整えて前へと進む。

 まだまだ先は長い。


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