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初めての戦闘

 翌朝。

 目覚めてサフリスの部屋へ行くと、そこは蛻けの殻だった。

 まだ日を上がらない内に、宿屋の部屋を引き払ったらしい。

 一言、最後のお別れをしようと思っていたのだが、仕方ない。

 彼らにも、何らかの事情があるのだろう。


 お別れの挨拶は出来なかったが、代わりに宿屋の若店主(若旦那)から伝言を聞かされた。

 レイマールまでの道中、気を抜かないように、だそうだ。


「伝言がそれだけとは……。少し寂しいですね」

「まあ、いいんじゃない? しめっぽくなくてさ」

「彼らの船旅が、危険のない有意義な旅でありますよう……」


 ファリスはその伝言を聞いて両手を握り合わせ、祈りをささげている。

 可愛いね、やっぱり。宿屋の若店主(若旦那)も、その姿に目を奪われてるし。


「また、ファリス姉さんの御祈りが始まっちゃったわね」

『可愛いから、いいの』

「ほんと、可愛いなぁ……。俺もあんな嫁さんがいてくれたらなぁ」


 おう、いきなり話に入ってくるなよ、若旦那。

 子供に萌えるタイプだったのか、あんた。

 気持ちは分かるが、目がやらしいぞっ。

 つーか、あんたにファリスはやらんからな。


「リリス、顔が気持ち悪いわよ」

『あの店主ほどじゃないと思うよ』


 そんな会話をしつつ、俺とエレナは泊まっていた宿屋から外に出た。

 俺が見てない間にファリスに手を出したら、ペインアローぶち込んでやる。

 心情的には仲間だが、容赦しないぞ。


 なんてことを心の中で愚痴りながら宿の玄関を開けた。


「おう、出てくるのが遅いぞ。待ちくたびれちまった」


 約束通り、昨日雇ったビルマがそこにはいた。

 どうやら、ずいぶん前から宿屋の前で待っていたようだ。


「いつから待ってたの?」

「夜が明けた時くらいか、そんなとこだ。

 で、運ぶ荷物というのは、どこにあるんだ?」

「夜明けって……」


 エレナの質問と呆れ顔にも、ビルマは早く仕事がしたいといった様子だ。

 喋り方などからも、それがやる気に満ち溢れているのがわかる。

 そんなに運び手としての駄賃を期待しているのだろうか。


『元気だね』

「ん、なんて言ってんだ?」

「元気だねって言ってるのよ」


 ビルマの服装は、皮の胸当てと皮のスカート。昨日見たのと同じ服装だ。

 腰には細長剣(ロングソード)をベルトで固定している。

 女冒険者は、みんなこの服装がベターなのだろうか。

 ファリアも皮の素材は違うようだが、同じ服装だ。


 と、ビルマの装備を観察していると。


「ふふん。こんなガキ……じゃなくて。

 こんな子供に荷物を運ばせるなんて、普通じゃねぇ。

 しかも、その子共も普通じゃねぇ。そりゃ色々思うところもあるってもんだ」


 ニヤっと口角を上げて言い放った。

 自信満々の顔で、あたかも見破ったぞ、的な言い回しだ。


 ようはやっぱり、駄賃を期待してるんだな。

 遠回しな言い方だが、顔で分かる。


 ビルマは思っていることを隠せない、素直で正直な性格なようだ。

 まあ、そういう性格の方が、こちらとしても有り難い。

 魔物との戦闘中に、荷物だけを持って逃げられるようなこともないだろう。

 雇った後に、ビルマが元盗賊だというのを想い返してちょっと不安になったのだが、これならちゃんとレイマールに着くまで、荷物運びは全うしてくれるだろう。そう願いたい。


 ムフフ。しかしやっぱり、俺の人選は間違ってなかった。

 ビルマは、東洋と西洋のいいとこどりをしたような、可愛い美人さんだ。


「リリスやっぱり、治ったはずの呪いが、また出てきてるんじゃ……」


 エレナ、そのフラグはよくない。

 また、魔術研究所に入り浸る事になっちゃうから。

 あ。でも、今は大叔母様の所に通ってるから、それはないか。

 それに……。


『気を付ける』

「ん、気を付けて治るもんなの? まあ、いいけど」


 俺はレイマールの危機を回避させないといけないんだ。

 レイマールが滅ぶ、そして家族を失う未来なんて嫌だ。

 それにこの旅も、大叔母様が俺を使って考えたもの。

 レイマールが滅ばないようにするための、布石の一つかもしれないのだ。


 再度、気を引き締めよう。

 帰る道も、俺達には優しくないはずだ。


「お待たせしました」


 気合十分でいると、宿屋の玄関で祈りを捧げていたファリスが外に出てきた。

 皆の準備は万端だ。やってやろう。



 …………



 荷物を載せた荷台車は、宿屋の隣の小屋へと忍ばせていた。

 元は馬小屋だったそうで、中は少しの藁と、獣臭さが多少残っている。

 その小屋も宿屋の持ち屋だったことから、サフリスが小銭を出して貸してもらっていたのだ。


「これが運ぶ荷か。もっと多いと思ったんだが……」


 8個の木箱は、縦に2列。横に4列。その上に麻袋が3袋載せられている。

 ロープで上手く纏められた荷物は、こじんまりとしたナリだ。

 俺、エレナ、ファリスは、荷台車に帰りの食料が入った袋を載せた。

 そしてサフリスから貰った袋も載せると、ビルマへと向き直った。


『大丈夫。着いたらお金はビルマさんが思っているより、貰えるはずだから』

「ん? なんて言った?」

「ビルマさんが思っているより、お金は貰えるだろうって」

「そうか。なら、頑張らねーとな!」


 うんうん。なんか単純で助かる。


 ビルマは荷台車から出ている取っ手をくぐると、それを両手で掴んだ。

 ギィっと動き出す荷台車。


「ビルマさんは、元盗賊ですよね。どんな事をなさっていたのですか?」


 ビルマが荷台車を引き始めたところで、ファリスが突然質問した。

 荷台車は止まり、ビルマは「あっ え?」と、驚いた顔でファリスの方を向いている。

 俺もその質問にはびっくりしたが、悪気ないファリスの質問なのだ。

 するとビルマはやや答えにくそうな顔を作り、だがファリスの顔を見なおした。


「人攫いに人殺し。生きる為なら何でもやった」

「そうですか……」

「だが今は、その過去から遠ざかりたいと思っている。

 けどクソっ、言っちまった。あたしが嫌になったか?

 解雇するなら今の内だぞ」

「いえ、生きていれば色々あります。それだけの事です……」


 ファリスは、レイマールの冒険者酒場にも行った事があるらしい。

 女の冒険者を見るのも、もちろん初めてではないそうだ。


 この世界では、女の冒険者というのは珍しい。

 9割方が男性の冒険者。女性の冒険者は、人族、獣人族、魔族を通して1割程しかいない。

 そしてそのほとんどが、過去に何かの事情を抱えている女だという。

 なのでファリスは、元盗賊のビルマが気になって仕方がないのだろう。


「あなたのこれからの人生に、幸あらんことを……」

「……」


 ゴトっと音がして、また荷台車は動き出す。

 ファリスはビルマの横で歩きながら、慈愛の微笑みでニコニコしている。

 エレナも人攫いや人殺しという言葉がビルマの口から出た時は、ちょっと顔を曇らせたが、今は普通に戻っている。

 なんか意味あり気なパーティーになったな。

 はたから見れば、なんとも不思議な4人組に見えるだろう。

 そんな事を思いながら、荷台車と俺達4人は街を取り囲む高い木の柵の、その大きな門へと進むのであった。



 …………



 街を出る際の手続きは、ビルマがやってくれた。

 子供3人を連れて街を出るというのは、相当危険な行為らしい。

 その為、なかなか認可が下りなかったが、ビルマが門番と木の柵の内側に建てられている小屋に入って数分後、門はやすやすと開かれた。


「ビルマさん、何したんだろうね」


 エレナが目を丸くして言った。

 まあ、俺には分かったけどね。女の武器を使ったんだろう。

 よい子は絶対真似しちゃダメですよ。


「クソが。あの門番、金まで要求してきやがった。

 これであたしはすっからかんだ」

「金まで(・・)?」


 エレナとファリスの為に、軽くビルマの足を踏んづけといた。

 俺としても興味があるところだが、子供のエレナとファリスには聞かせられない。

 まあ、俺も外見子供なんだけどね。それをビルマには解ってほしい。


「ああ、すまん」

「すまん?」

『時間かかって、ごめんだってさ』

「そんな事ぐらい分かるわよっ」


 純朴な家族をエロの道から遠ざけるのってのは、なかなか難しいもんだ。

 まあ、俺のは呪いか呪いじゃないかってところで、なんとかなってはいるが。


「それでは行きましょう」

「ああ、気合入れていかねぇとな」


 開いた門から、ゴロゴロと音を出しながら町を出る荷台車と俺達。

 陣形としては、昨日考えていたとおりのエレナが前衛。その後ろにファリス。

 真ん中が荷台車を引いて歩くビルマ。その後ろで、荷台車を押しながら進む俺。

 しばらくは、高い木の柵沿いの補正された、滑らかな道を進む。

 すると遠目に海が見えてきた。


 そこから踝辺りまでの草が生えている道を進み、また補正された道に出る。

 見えるのは、左手に暗い雰囲気の森。そして右手には断崖絶壁な海。

 そこまでたどり着くと一旦休憩。ここからは魔物とのバトルは避けられない。


「んふふ……なんか視線を感じるわ。私達を襲う気満々な感じっ」

「エレナ。あんまり張り切ってはダメですよ。それに無駄な殺生は好みません」

「襲ってきた魔物だけよ。引き裂いてやるわ」


 怖いです。

 俺のお姉ちゃんはスプラッターです、はい。


「確かに視線を感じるな。魔物が多くなってるせいだろうが、気味が悪いな。

 この辺りだと、どこにでもいるウェアラットに、野生のコカトリスかブラックモブ。

 あとはそれをエサにする、ボアくらいか」


 エレナの話を聞いていたビルマが、この辺りに生息する魔物を教えてくれた。

 ボア以外は、全部F級の魔物だ。そしてボアはE級。

 見た事は無いが、地に立つ足が6本もある、肉食の猪みたいな魔物らしい。

 フィールによれば攻撃手段も単純で、ただ突撃してくるだけだとか。


 しかしコカトリスに野生をつけるということは、飼育しているコカトリスもいるのだろうか。

 町で売っている肉って、魔物の肉だったりするのか。


「ボアと言えば、その毛皮で作る鎧は高価な物が多いそうですね」

「ああそうなのか。そういえばあいつらの皮膚は結構丈夫だからな」


 コカトリスを食ってしまったのかと耽る俺をよそに、物知りファリスの講義が始まる。

 ボアの鎧と言えば、クライムの店でも展示していた記憶がある。


 でも、なんでボアって名前なんだろうか。

 ボアっとしてるから? 意味分からんな。

 と、考えていると。


「……おい。くるぞ」


 休憩の為に腰を下ろしていたビルマが立ち上がった。

 すかさず立ち上がって森を見ても、何も見えない。


「え? 何もいないように見えますけど……」

「あたしは盗賊時代、森に隠れて生きてたんだ。魔物が近づいてくる気配くらい、分かる」


 ガサガサっと森の奥から音がする。

 ビルマが言った後、ボアアァァァと奇妙な鳴き声を出しながら6本足のそれは現れた。

 茶色い体に紫の細いストライブ。横に1メートル程の体躯の魔物だ。

 もし直立で立ち上がったら、子供の俺達よりも背は高いかもしれない。

 こいつがボア。鳴き声がボアァァだからボアか。そのまんまだ。


「いきなりか。だが、まずいな」


 ビルマがまずいと言ったのは、その数。

 全部で6匹いる。


「ファリス姉さんとリリスは、後ろから援護してっ! ビルマさんは荷物も守って!」


 俺は声を出せないので、戦闘面での指揮はエレナに任せるという事で、昨日話をつけている。

 それを全面的に補佐するのが俺で、ファリスは攻撃と回復に専念する形だ。

 でも、とりあえず今は攻撃だ。


 左手に魔力を集中。比率は左手9、右手が1。

 手加減無しのフルパワーだ。


「奈落の底からいずる、炎の化身よっ 我の敵を打ちはたさん球体となれ……」


 俺が右手を後ろに引く間に、ファリスの詠唱も終わろうとしている。

 左手をボアに向けて、俺は光を掴んでいた右手を離した。


「ファイヤーボール!」


 ファリスの掌からは、大人の頭よりも大きな火の玉がボアに向けて放たれた。


 ヒュンっと風を切る音を鳴らして、ペインアローは一匹のボアに命中。

 ドキャっと、何かを潰した様な音が響き、当たったボアは肉片になって弾け飛んだ。

 その横でファイヤーボールが当たったボアは炎に包まれ、ゴロゴロと地面を転がっている。


「ボアァァァっ」

「ちょっとリリスやり過ぎ! 肉片こっちまで飛んできたわよっ」


 ボアの集団に突撃して、一匹のボアの首を難なく落としたエレナが、余裕を見せながら2匹目のボアの首を剣で突き刺しながら叫んでいる。


『ごめん。全力で打ったら、そうなった』


 文字を書く内に、エレナは別のボアの突進を回転しながら避けて、そのままの勢いで別に突進してきたボアの足元を剣で振りぬいている。

 振りぬかれた後、そこに3本の足が無造作に転がった。片側の足を失くしたボアは、突進の勢いで、頭から地面に激突している。


「一匹、そっちいったわよ!」


 こっちに突進してきてるのは、エレナが回転しながら避けたボアだ。

 俺は咄嗟に腰の両手剣(トゥーハンドソード)を抜いて、走ってファリスの前へと出た。

 ボアは目の前。


「ボアァァァっ」


 だが落ち着いて、ファリアに習っていた通りの、あの打ちこみの要領で剣を振るう。

 手に伝わるザクっとした感触。

 上段から振り下ろした剣は、斜めに入ってボアの頭を半分削ぎ落とした。

 頭を半分失ったボアは突進方向がずれて、だが勢い止まらずそのまま道をそれて進んだ後、ゆっくりと倒れた。



 ※ ※ ※



「なっ……」


 ビルマは倒れたボアを見ながら一旦目を逸らすと。

 エレナを見て、ファリスを見て、そしてリリスを見た。


「なんだ、これ……。一方的じゃねぇか……」


 E級の魔物が6匹。それはD級の魔物1匹よりも遥かに手強い。

 もしかしたら、D級の魔物2~3匹よりも厳しい戦いになる筈だ。

 それにボアは頭の悪そうに見えて、実は賢く頭の良い魔物だ。

 しかも素早い動きな上に、6本の足で回避も上手い。

 そんな魔物を、この少女達は3人でやっちまった。


 あたしは時間をかければ、3匹までなら何とか倒せる。

 だが、それは時間をかければ、の話だ。

 それを、あっという間にこの少女達は倒しちまった。


 子供ながらに、強いとは思っていた。

 だけど、その桁が違う。


「はぁ……。殺生というのは、辛いものですね……」


 プスプスと燃えるボアを見ながら、少し悲し気な顔を見せるファリス。


「まあ、初戦はこんなものかな。でも、ちょっと弱すぎない?」


 3匹のボアを、その手に握る短めの両手剣トゥーハンドソードで、たやすく蹴散らしたエレナ。


『ワーウルフ1匹の方が、怖いかもね』


 何を書いているのかは分からないが、手から光を飛ばして、ボアを木っ端みじんにしたリリス。


 あたしは、とんでもない少女達に付いてきてしまったんじゃないだろうか。

 戦闘が始まったら、荷物運び以外に、戦闘に加勢しなきゃとは考えていたが。


 それにボアが6匹出た時点で、適当にあしらって町へ戻ろうと考えた。

 荷物の一つでも売り払って、冒険者を何人か雇って行く事を提案しよう、と考えた。

 それが無理なら手練れの冒険者を1人、あたしの体で誘って着いてきてもらう事も考えた。

 だけどその考えは、リリスが一匹のボアを吹き飛ばした瞬間に消えた。

 何の心配もする必要は無かった。


 仲間同士(姉妹)の意思疎通も完璧。

 この少女達3人で、もし冒険者ランクで例えるなら間違いなくCランク以上だ。

 あたしみたいなEランク冒険者とは、格が違う。


「じゃあ、休憩終わりね。先に進もっ」

『今、戦闘したばかりだけど』

「何言ってるのよっ どうせ休憩してても、また襲われるわっ」

『仕方ないね』


 エレナの号令で、荷台車はゆっくりと動き出す。

 その先の、森と断崖絶壁に挟まれる道へと。


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