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弱虫だった男の子

 俺達は今、泊まっている宿屋へと戻ってきている。

 ビルマには明日の朝、宿屋の前まで来るようにと話をつけた。

 払う駄賃も、レイマールへ着いてから。と、いうことでおさまった。


 俺達を攫おうとしていた3人組は、ファリスが応急の治療魔法を施し、そのまま放置。

 応急処置なので痛みは強く残るだろうが、当然の報いとして受けてもらう。

 少し反省してもらおう。


 しかし……冒険者酒場で女冒険者を見つけた時は、ちょっと嬉しかったんだが。

 聞き耳立ててたら、まさか俺達を攫う計画を立てていたなんてな。


「あの方達は大丈夫でしょうか。少し心配です」

『大丈夫だよ』

「でもさ、あの辺りって、廃墟になった家がいっぱいだったよね。

 他の悪い人に身ぐるみ剥がされてたりして」

「エレナっ 怖い事を言わないでくださいっ。

 あの方達があんな目にあっているのは、私にも非があるのです」

「ファリス姉さんの、誰にでも付いて行く癖、治さないとね」


 そう。俺は冒険者酒場で聞き耳を立てて、男達が人攫いである事を知っていた。

 エレナは男達の会話を聞いていた訳ではないが、何となく怪しいと警戒していた。

 何の警戒も無く、男達の言い分に頭を立てに振ったのは、ファリスだけ。


 酒場を出てすぐ、待ち構えていた男達に言い寄られて、ファリスはにっこり笑った。

 可愛かった。


 そこは関係ないのだが、エレナが俺に小声で「ついて行こう」と言ったので、男達について行ったのだ。

 正義感が強いエレナは、男達が何か悪だくみをしていることが、許せなかったのだろう。

 俺はちょっと怖かったが、エレナの決意に満ちた目に、仕方なく男達の誘いに乗った。


 仮に酒場を出る前に、エレナに男達の話の内容を伝えたとしても、結果は同じだったろう。

 いや、伝えなくて正解だっただろう。もし伝えていたら、あの場で殴りかかっていたかもしれない。


 とにかく男達が言う、知り合いの女の冒険者がいるという所まで歩いていった。

 当然俺はいない事を知っていたが、廃屋が並ぶ小道で男達は豹変した。

 襲ってきた男に初めに攻撃したのはもちろんエレナで、男達の豹変ぶりを見たファリスも反撃した。


 結果は楽勝。

 まさか、冒険者がこんなに弱いとは思わなかった。

 まあ、襲ってきた男達が、単に弱かっただけなのかもしれない。

 聞き耳を立てていた時も、冒険者ではなく、盗賊とか言っていた。

 魔物相手に戦う冒険者と、盗賊。どちらが強いのかは知らないが、弱い事はないだろう。

 もしかしたら、俺達は子供ながらに、そこそこ強いのかもしれない。


 とは言っても、攻撃手段がエレナが俊足。ファリスが攻撃魔法。俺はペインアローだっただけに、普通に戦ったら、どうなっていたかは分からない。

 油断は禁物。それがこの世界で生きていく為の常識だ。気を引き締めよう。


「それで荷物は夕方、船から出して……。

 うん? それでどうやって運ぶの?」


 エレナはどうやって運ぶのか、知らなかったようだ。

 それでよく、あの多さの荷物を大人1人でってのに納得したもんだ。

 そのオオボケっぷりも、エレナらしいといえば、らしいが。


『サフリスさんが買ってくれた、リヤカーで運ぶよ』

「りやかー??」

『人力の馬車、みたいなもので、車輪が二つだけの物だよ』


 もちろんこの世界にリヤカーなる物は存在しない。滑車荷台とでもいうのだろうか。

 一畳のタタミほどの大きさの取手付きの板に、木の車輪がついただけの簡素な物だ。

 それに荷物を載せて、ロープで固定して運ぶ予定だ。


「でも、その荷物のおかげで、海沿いの道を通らないといけなくなりましたね。

 ワーウルフに、出くわさなければいいのですが……」

『今は、森の道の方が危険らしいよ。魔物が多くなってるって』


 行きは誰とも、すれ違わなかった。森に魔物が多くなっているからだ。

 それに、荷物を載せる台車は車輪付き。坂が多い森の道を行く事は出来ない。

 さらに言うなら、道はでこぼこ。

 そんな悪路で魔物が多くなっている森の道を進む道理もない。


 それとは違い、海沿いの道は、ずっと坂道のない平坦な道が続く商業者用路だ。

 普通は馬車を使って、一気に駆け抜ける事が基本の道となる。

 しかしワーウルフが出る為、護衛の冒険者も数人必要な道、ではあるのだが。


「ワーウルフには一度負けてるから、借りを返す良いチャンスだわっ!」


 エレナ黙りなさい。と、言いたいところではあるが、今回はそうも言ってられない。

 帰る時にリーダーである俺は、戦術を含めての全てを考えなくてはいけない。

 まずは陣形。フォーメーションを考えなくては。


 ということで、俺は帰る際の皆の立ち位置を考える事にした。


 

 まずは前衛。一番前を行く者だ。

 頭の中にあるのは、オンラインゲーム。MMORPGで培った陣形、そして戦略だ。


 とはいえ、現実でそれが通じるとは思っていない。

 ゲームの中のキャラは、疲労しなければ傷の痛みもない。

 その知識から拾うのは、どう戦うか、だけだ。


 正直俺はレイマールの町から出たのが、これが2度目。旅と見るなら、もちろんこれが初めての旅だ。

 しかもエレナは飛び出す癖があるし、たぶんファリスは戦闘の経験さえない。

 俺自身も、魔物相手の特訓なんてした事がない。

 つまり、魔物との戦闘経験があるのは、エレナだけだ。


 そういう訳で、前衛はもちろんエレナ。メインアタッカーとも言える。

 魔物が見えた、もしくは襲ってきた時は、エレナがそれに対処する。


 ファリスは、ヒーラー兼サブアタッカー。

 前方を行くエレナが、一番魔物と出会う確率が高い。

 なので、ファリスはエレナのすぐ後ろで攻撃魔法で対処しながら、エレナが傷ついたら治癒魔法で回復する。


 俺は……どうする。

 俺の役割はエレナと並んで戦うか、後方からのペインアローのどちらか、か。

 剣術は、一応振り回すくらいは出来るから、エレナのすぐ傍で後方支援的な立ち位置がベストか。


 呪符術に関しては前に飛ばす事が出来ないから、トリッキーな手段で使う事になる。

 考えている範囲で言えば、相手が強い時の為の罠、みたいなものだ。

 まだまだ成長段階にある呪符術だが、今はそれが限界でもある。


 いやまて。

 魔物が襲ってくるのは前からとも限らないから、荷台を後ろで押して進みながら、魔物が出ればペインアローで対処がベストか。


「何考えてるのよ、難しい顔して」


 頭を抱えている俺に、エレナが声をかけてきた。


『帰りの戦略、考えてた』

「ふ~ん……」


 ん、ちょっとまて。

 エレナはどうしたいんだろうか。

 俺が勝手に考えているが、エレナの意見も聞いておかないといけない。

 この世界はファンタジー満載で間違いないが、現実だ。

 ゲームの中の世界ではなく、エレナは操るキャラクターではない。

 人には意思がある。

 それを尊重しなければ、フォーメーションは崩れる。または成立しない。


『エレナ姉さんは、私達姉妹3人で魔物と戦闘になったら、どうする』

「決まってるじゃない。私が先頭切って戦うわ。剣士だもん」


 聞くだけ無駄でした。

 まあ、分かってたけどね。


 なら、フォーメーションは決まりだ。

 前衛エレナ。そのすぐ後ろにファリス。後方を俺。これがいいだろう。

 エレナがガンガン前に出て戦って、それをファリスと俺が補佐する形だ。


 そしてもしエレナが深手を負ったら、すかさず俺が前に出る。

 その後ファリスがエレナを回復させて……。


 いやまて。ファリスの回復魔法は完璧じゃない。

 もちろん俺の低級治療魔法より優れた中級治療魔法だが、それでも深い傷を負うのは避けなければならない。

 いや、避けるように仕向けなければならない。

 傷を負ったとしても、ファリスの治療魔法で一回で回復できる傷。それくらいで済まさなければならない。


 深手を負って、何度も回復魔法を唱えてられるほど実戦は甘くは無いはずだ。

 治療を施している最中も、魔物は待ってくれない。

 エレナが、深手を負わないようにしなければならない。

 それの流れを組むのも、俺の仕事になるのか。

 そしてそれが上手くいかないと、エレナは最悪、死……。


「また何難しい顔してるのよ。何考えてるの?」


 あっけらかんな表情で、覗き顔で聞いてくるエレナ。

 ハッとして。

 だが平静を装って。


『エレナ姉さんが心配なだけだよ』


 文字術で文字を書く。

 ちょっと指が震えた。


 そんな俺の心配を知ってか知らずか。

 エレナは「ふ~ん」と肩をすくめた。


「大丈夫よ。リリスは後ろから支援してくれるんでしょ? なら、絶対大丈夫」


 エレナのその言葉を聞いていたファリスも、それに続く。


「大丈夫です。リリスが思っているような事にはなりませんよ。だから大丈夫です」


 にこっと笑った。


『ありがとう』


 また指が震えた。

 が、不安は消えていた。



 * * * * *



 夕方。

 予定通り、船から荷物を取り出した。

 荷物受け取りのサイン、荷物を船から積み替える作業などは、すべてサフリスがやってくれた。


 この船の乗組員は、皆がラノア大陸出身の下級貴族らしい。

 その為、子供だとしても魔族は受け入れがたい存在、なのだそうだ。


 そういや初め、荷物の確認で乗り込んだ時に、乗組員からの視線が熱かった。

 ダークエルフが珍しいのか、それとも少女好きなのか。

 なんて思ってたが、そういう理由があったのか。



 船は帆船で旅客船などではなく、どこかの上級貴族の私物船ということだ。

 その上級貴族は、大叔母様の知り合いでもあるらしい。


 いいね、上級貴族。

 現代っぽく言えば、クルーザー持ちの大金持ちみたいなものか。

 でかい館で、好みの美女をとっかえひっかえだろう。

 ま、男だったらの話なんだが。

 男だろうけど。


 

 積み替えられた荷物は30センチ角の木箱が8個と、麻袋のような物が3袋。


 荷物の大半は閉じられていて、何が入っているかは分からない。

 サフリスによると、ほとんどが普通の物資。つまり生活用品や、ラノア大陸の工芸品だという。

 その中に隠してあるのか。大叔母様に届ける何か、を。


 それともう一つ。

 サフリスから俺に、何かが入っている袋を渡された。

 袋を触るとゴツゴツしていて、角ばった物が幾つか入っている。

 恐らくは、本だ。


「これは、私から君にあげる物だ。家に帰ったら開けてみるといい」


 だ、そうだ。


 この俺。金髪ダークエルフの少女に、恋でもしたのだろうか。

 冗談です、はい。


 貰える物は貰っておこう。

 称号付きの魔術師からのプレゼントなんて、帰ってからが楽しみだ。




 時間はゆっくりと過ぎてゆき、夜。

 ルイスが俺達3人の部屋に訪れた。

 サフリスとルイスは明日の早朝に、この港町を出港する。

 会うのは今夜が最後となる。


「リリスさんと、二人だけで話がしたいんだけど……」


 部屋の入り口に立つルイスに、唐突に言われた。

 その顔は真剣で、その気迫に押されてコクリと首を振ってしまった。


 ルイスについて部屋を出る時に、興味無さそうな顔をしながらも頬を赤く染めるエレナとファリスが目に入った。

 何故か不安を覚えたので、一言覗かないようにと言っておく。

 文字術で閉めたドアに開かないイメージをのせて〝閉〟と書いてもいいが、あれは文字が消えると効力を失う。

 俺が文字を浮かべさせることができる時間は限られている。

 すぐに済むことならばいいが、時間がかかりそうなことも分かっていた。


「あの、こっちで」


 部屋の前の廊下を進み、直線状の突き当りでルイスの足は止まった。

 俺達の部屋から数メートルしか離れていない。


 こんな所で告白とかいいの?

 もし俺がほんとに女の子だったら、興醒めしちゃうぞ。

 まあ、女の子なんだけどさ。自分で言うのもなんだが、可愛いし。


 と、だいたい告白とか、そんなものだろうと予想していた。

 もちろん断る気満々だ。


「リリスさん……」

『はい』


 大きく息を吸ったルイス。


「首の後ろを、見せて頂いてもいいですか」


 ん。

 ルイスって、うなじフェチなんだろうか。

 まあ、俺も嫌いじゃないけど。


『いいですよ』


 減るもんじゃないし、別にいいか。

 と、俺はルイスに背中を向けて、長い髪の毛を上にまくった。


「……ありがとうございます。もう結構です」


 その声を聞いて、髪を下ろしてルイスの方へと向き直る。

 と、そこには震える少年の姿があった。

 ルイスは何かを言おうとして、口を震わせていた。


「すみません……僕は……」


 聞こえた。小さな声だ。


「すみません……」


 その後、俺の目に飛び込んできたのは目に涙を溜めているルイスだった。

 泣いていたのだ。


 髪を戻す時、俺の手は首に付いた傷の感触に触れていた。

 首についた大きな傷は、首の後ろまでにも達しているのだ。

 傷があって当然の暮らしをしてきたので、自分の首に傷があるという認識をもっていなかった。

 風呂や水浴びなどの時も、自然と触る事を避けていた。


 恐らくルイスは、シャーナというダークエルフの事が、どうしても忘れられないのだろう。

 そしてシャーナは、首の後ろに何らかの特徴があったのだろうか。

 そんな考えが過った。


『気にしないでください』


 光の文字を連ねると、ルイスは更に声を殺しながら泣き出した。


 俺には、この首の傷の記憶がない。

 痛々しく、そして醜い傷だが、記憶は無いのだ。


 ルイスが泣いている理由は、分からない。

 シャーナの痕跡が無かったからなのか。

 それとも、もしかしてあったからなのか。

 あるいは、女の子の体の傷を、出来れば見せたくないであろう傷を見せてと言ってしまった、おのれへの後悔で泣いているのか。

 真相は分からない。聞けなかった。


 が、ルイスは最後に、「ありがとう」とだけ残して、サフリスが待つ部屋へと帰っていた。

 その顔は、昨日部屋で見た顔と同じ顔。

 スッキリとした、優しい顔だった。


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