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エミリアと大叔母様

 城の5階にある自室のバルコニーから街を見下ろす青い髪の少女。


「今日はお散歩が無い日か~。

 リリスどうしてるかな~。

 でも、何でリリスに会っちゃいけないんだろ」


 エミリアは、祖母のフローラから魔術研究所でリリスに会ったと聞いていた。

 つい先日のことだ。

 その日からまた、リリスに会わないように言われてしまった。

 どうやら、今度は呪いとかそういうものとは関係ないらしい。


 外への散歩でも、ファリアにそう命令が出た、と聞いた。

 それから一度もリリスには会っていない。

 

 でも、何故会ってはいけないのだろうか。

 エミリアは一抹の不安を隠していた。

 でも、それを誰にも言わなかった。

 もしかしたら、自分の〝あの事〟と関係しているのかもしれないのか、と。


「お婆ちゃんも大叔母様も、何で会っちゃいけないって言うのかなぁ……。

 ねえアメリア、何でなのか知ってる?」

「いえ。大叔母様もフローラ様も、特殊な能力を持っている方々です。

 特にフローラ様は相手の目を見るだけで、その人の前世を見る力を持っている特殊体質でもあります。

 リリス様に、何か不思議なものを感じとったのでしょう」

「ふ~ん」


 フローラには不思議な力がある。

 相手を見ただけで、その者の前世を覗き見る事が出来るのだ。


 そしてエミリア自身も、別の不思議な力があった。

 遠くない、少しだけ先の未来。

 決して動かない、不動の未来。

 そんな未来を感じる能力があった。

 見る、ではなく、感じる、のだ。

 

「ねえアメリア。お婆ちゃんって今、どこにいるの?」

「ご自身のお部屋におられると思いますが、お会いになられますか?」

「うん」

「分かりました。では、そのようにお伝えしておきます」


 自身の祖母に会うのに、何故いちいち侍女のアメリアに許可を取らなければいけないのか。

 だが、それは疑問には思わなかった。

 物心がついた頃から、ずっとそうして過ごしてきたからである。


 城の中での決まり事。

 エミリアは、単純にそう決めつけていた。


 リリスに会ってはいけない。

 そう聞かされたのも、祖母の口からではなく、アメリアからであった。

 祖母から私に、そう伝えろ、と言われたらしい。


「じゃあ、お婆ちゃん呼んできて、アメリア」

「今すぐにでしょうか?」

「うん」


 祖母は、自分の部屋へ来られるのを嫌がった。

 なので会うとなれば、私の部屋か、あるいは城の中のどこか。


 エミリアが散歩中にフローラにばったり会うことはない。

 フローラは城の外へ出かけることがない。

 エミリアはそれも疑問に思うことはなかった。

 何故ならそれも、物心ついた時からそうだったから、である。


 アメリアが部屋を出て行ってから数分。

 フローラがエミリアの部屋に訪れた。

 別段、不思議という要素はどこにもない。

 すくなくとも、この二人にとっては。


「どうされたのですか?」

「フローラお婆ちゃんって、リリスの前世を見たの?」

「ええ……。

 ですが私の母同様、前世は何も見えませんでした」


 フローラはエミリアに対して敬語を使う。

 敬語とは、自分よりも目上の者に対して使う言葉である。


 血の繋がった祖母に使われる言葉ではないのだが、エミリアは諦めていた。

 おそらく、次の王である自分に、礼儀の受け取り方を身をもって教えてくれているのであろう。

 エミリアは勝手に、そう決めつけていた。

 あるいは、〝あの事〟が関係しているのかもしれないが。


「見えないって、どういうこと?」

「おそらく、私の母と同じ境遇なのかと思います」


 大叔母様と同じなんだ、リリスって。

 前世が見えないって事は、大叔母様と同じ力を持ってるのかな。

 色々な、不思議な物を作れる能力。


 エミリアは少し驚きつつも、だが不思議には思わなかった。

 ファリアが、ダークエルフの子共を連れて帰ってきたと聞いた時は驚いた。

 エミリアがリリスに近づいたのは、自分の見た未来に彼女がいなかったからだ。

 いや、見えなかったというのが正しいだろう。

 彼女の存在だけが、すっぽりと抜け落ちていた。


 だがエミリアにとって、そんなことはどうでもよかった。

 初めてリリスに会った時の、彼女の表情。

 最初は脅えた目をしていた。


 だが、会う回数が増えるにつれ、次第にそれがとても愛らしく思えた。

 リリスも、会うたびに元気になっていった。

 なにより、リリスの未来が見えないことに、安心感があった。

 その者の未来が見えるということは、必ずしも良いとは限らないからである。


 とにかく、とにかくである。

 むしろ、エミリアはリリスに会いたくなってしまった。


 祖母の母親と一緒というフローラの言葉は、エミリアの好奇心を濯ぐった。

 城の皆から大叔母様と呼ばれている存在。

 自分にはとても優しく、魔導書などの、他とは一風違う魔法の書を作り出してしまう。

 魔術ではなく、魔導。

 大叔母様は、また別の言い方をしてはいたが。


 とりあえずは、何故リリスに会ってはいけないのか聞きたくなった。


「ねえ、なんで私とリリスって会っちゃいけないの?」

「それは……私にも解りません。

 私が母にあの子の事を話した結果、母が決めた事です」

「じゃあ、大叔母様に聞けば分かるのかな」

「母は昨日から礼拝堂に籠っています。出てくるのは、おそらく明日以降だと思います」

「ふ~ん」


 礼拝堂に籠った大叔母様は、数日はそこから動かない。

 何をしているのかは知らないが、大体検討はついていた。

 恐らくは、私の能力のことだろう。


「そういえば、また夢で見たよ。

 なんか不思議なお告げみたいなの」

「……どんなお告げでしょうか」


 エミリアが未来を見る時というのは、夢を見ている時である。

 なので、見るではなく、感じるなのだ。


 夢に見たことが現実となる。

 夢で見た未来、という言い方はしない。

 フローラや他の者に対しても、お告げと告げていた。

 深い意味はない。

 単純に、その方がカッコいいと思っていたからである。

 

「おっきな黒い鉄の箱みたいなのが、魔人大陸を走ってるの。

 本当は、すっごく頑丈で強い箱なんだけど、空飛ぶ魔王様と戦って負けちゃうんだよ。

 なんかね、トカゲのおっきい人達が魔法で動かしてるんだけど、ちゃんとした動かし方が解らなかったみたい」

「鉄の箱ですか……。

 トカゲの人というのは、おそらくリザードマンの事でしょう」


 リザードマンという魔族をエミリアは見た事がない。

 レイマールと同盟国だということはエミリアも知識として知っていた。


 実際は、リザードマンの商人もレイマールへと訪れている。

 しかし、誰からの命令なのか、決して会わせてはくれなかった。

 町の散歩の時などは、ファリア以外の護衛が、先に進んで魔族払いをしていた。

 徹底していたのだ。


 今までにエミリアが実際に会った魔族といえば、

 ファリアの子供という名目で、彼女と一緒に住んでいるリリスとファリス。

 それとバッファの古い友人である、サフリスという人物だけであった。


 エミリアが見たサフリスは、普通の人族のようだった。

 だが、魔法の力で、自らを魔族にしてしまったと聞いていた。

 闇魔法の使い手で、死んだ者を使役する力をもっているらしい。


「それでね、その鉄の箱はその空飛ぶ魔王様に持っていかれちゃうんだけど、そこからが見えないの」

「見えないというのは、とても良い兆候だと思います。

 エミリア様は、その不思議な力を好きでいらっしゃいますか?」

「フローラお婆ちゃん! 様って呼ばないでって何度も言ってるでしょ!」

「……申し訳ありません、エミリア、これでよろしいですか?」


 敬語は諦めてるが、様呼ばわりされるのは可笑しい。


(何度も言ってるのに、全然直らないんだから……)


 顔色一つ崩さないフローラに溜息を洩らしつつ。


「うん。これからもエミリアってちゃんと呼んでね。

 それと……そう、私このお告げを見る力は、別にいらないと思ってるよ。

 別に未来を少し見れたからって、何も面白くないし」


 それは本心だった。

 未来を見てきて、良かったと思った事なんて一度も無い。


 見えた未来は変えられなかった。

 変えようとして、何度も失敗してきた。

 父であるバフラが死んだ時も、見えてたのに何も出来なかった。

 母親が不治の病で苦しんでいた時も、何も出来ずに終わった。

 変えられない不動の未来が見えるというのは、時に残酷なのだ。


「でも、その鉄の箱というのは気になりますね。

 300年前に使われた魔道兵器が、鉄でできた箱だったといいます。

 それは一度、私から母に伝えておきましょう」

「うん、でも私が見たお告げは変えられないから、大叔母様に言っても意味ないと思うよ?」

「いえ、それがもし本当に古代で使われた古代兵器なら、

 このレイマールにとっても、恐ろしい事態になるかもしれません。

 やはり母には伝えておくべきでしょう」


 大叔母様に伝えなくてはいけない。

 その言葉に、エミリアはチャンスだと思った。


 最近、大叔母様は忙しいのか、なかなか会ってくれない。

 お告げを話にきたという理由なら、会ってくれるかもしれない。


「私が行ってもいいでしょ?

 大叔母様が礼拝堂に籠ってる時に、何度か行った事あるし。

 会えたこと一度もないけど」

「それは構いませんが……ですが、怒られてもしりませんよ?」

「うん、大丈夫。

 怒られたら、ちゃんと謝るし」


 エミリアはフローラに一礼すると、早速礼拝堂へと駆け出した。

 お城の礼拝堂は、一階の一番奥の部屋だ。


 そこでは、レイマールの守り神、水の精霊、ファリア様が祭られている。

 そう。エミリアの警護をしているファリアと、同じ名前の精霊様だ。


 城中では、エミリアが1人でいても、誰も何も言わない。

 通り過ぎる武官や文官達は皆、元気に走る小さな王女様を温かい目で見守っている。


 だが数年前、エミリア1人で城の外に出ようとした時は、大騒動になった。

 病に苦しむ母親をなんとかしてあげたいという、親を思う子供心からだった。

 それ以来、外に出る時はたとえ城内の庭だったとしても、護衛がつくようになってしまった。


 エミリアは、まだ子供である。

 なので、冒険という二文字にも憧れる。

 だが、それは無理であろうとエミリア自身分かっていた。


 金で雇われている者達は、エミリアの事をお嬢様と呼ぶ。

 だが、城の中で働く者達は皆、声をそろえて姫様だとか、王女様と呼ぶのだ。


 堅苦しい呼び名は好きではないが、仕方ないとも思っていた。

 自分はレイマールの姫で、冒険とは無縁。

 なんて事を考えている内に、エミリアは礼拝堂の前まで来ていた。


 礼拝堂の前には、二人の近衛兵。

 恐らく、誰も入れるなと言われているのだろう。

 やや、緊張の籠る顔をしている。


「お疲れさま兵隊さん。大叔母様は中でしょ?」

「え? あ、はい。

 ですが、中には誰も入れるなと言われています」


 突然話しかけてきたエミリアに動揺しつつ、近衛は素直に答えた。


「来年、女王様になる私でも入っちゃダメなの?」

「あ……それは……」


 城の中を警備している者のほとんどは、貴族の出だ。

 ファリアのように、腕を見込まれて城の警備をしている者は少ない。

 そして貴族の弱みは、自分と自分の家の立場だというのも理解していた。

 それを逆手にとるのは良い事ではないが、今は好奇心のほうが勝っていた。


「ねえお願いっ 大叔母様も、私だと怒らないから。

 だから大丈夫だよっ」

「お、おい、どうする」

「どうするって言われても……」


 このままでは埒が明かない。

 二人が判断を下せなくて、誰かに報告しに行く可能性もある。


(ファリアなら良いか悪いか、すぐに決めれるのに)


 自分の行いが悪い事だと知りつつ、続けざまに言い放った。

 

「兵隊さん達、せいれつっ!」

「は、はっ!」

「前王、バフラ・ブランドルの娘の言う事が聞けないの!?」

「あ、いえっ、すぐにお通ししますっ!」


 中に入ると、扉はすぐに閉められた。

 それを確認して、広い礼拝堂の辺りを見渡す。


 固く守られた重工な扉の前には、城の1階の半分以上の面積で作られた空間が広がっている。

 並べられた長椅子を縫いながら、遠目に映る礼拝座へと歩みを進める。


 この広間は精霊ファリアへの参拝の他にも、何かの式典や城の行事にも使われる。

 立祭なら、500人近く訪れても余裕があるだろう。

 王の座を譲り受ける花冠の儀も、この礼拝堂で行われるのだとエミリアは聞いていた。


 精霊ファリアの銅像が近づくにつれ、その下に座りこんでいる人影が目に入った。

 特殊な魔法陣を床に書いて、その真ん中で胡坐をかいている。


「エミリアかの」

「はい」


 エミリアより先に、背を向けているはずの者から語りかけられた。

 それに驚く様子もなく、すぐにエミリアは返事を返す。


「ここには来るなと言っておいたはずじゃが、何かあったのかの」

「あ、えっと、お告げを見ました」

「ふむ」


 一言頷き、小柄の主はうんしょと立ち上がった。

 瞬間、床に描かれていた魔法陣が光を失いサッと消える。


「で、どんな夢じゃったか聞かせてもらおうかの」


 振り向いたのは、耳が尖った白髪の少女。

 否、少女というのは語弊がある。

 そこにいたのは、間違いなくエルフの女性だった。

 しかしエルフの寿命は長く、そして彼女は純血であるためその姿なのだ。

 見た目はエミリアの少しお姉さんほどの若さである。


 奇妙ではあるが、エミリアはさして不思議には思っていなかった。

 何故なら、このレイマールで彼女ほどの長寿は他にいないからである。

 歳は今年で、優に300を超えていた。


「えっと、砂漠で鉄の箱が走っているんですけど」

「鉄の箱?」

「うん、あ、はい。

 えっと、あ、そう。

 私が子供だった時に、大叔母様が話してくれたおとぎ話に出てくる〝鋼鉄の悪魔〟になんとなく似ているかもしれません」

「エミリア、お前はまだ子供じゃろう?」


 エミリアに大叔母様と言われたエルフの女性は、苦笑しながらそう言った。

 ぷくっと頬を膨らませるエミリア。


「それに二人だけの時はそう畏まらんでもよい。

 ひいお婆ちゃんと呼んでくれたほうが、嬉しいの」

「あ、そうだったね、えへへ」


 すこし和やかな雰囲気が辺りを包んだ。

 だが、すぐにエルフの女性は険しい顔になる。


「鋼鉄の悪魔か。

 あれはもう動かないものだと思っていたのだがのう」

「あ、えっとね、トカゲの人が魔法で動かしてるのも見えたよ」

「魔法か。

 あれを動かせる魔法とは、儂の知らない魔法じゃな」


 などと話しつつ、エミリアはソワソワし始める。

 ここへ来た本当の理由を思い出したからである。


「えっとね、その、聞きたい事があるんだけど、いい?」

「ん、なんじゃ」

「あのね、リリスの事なんだけど」

「……会いたいのか?」


 エルフの女性の問いに、エミリアは元気よく、うん!と答えた。

 少し考える姿勢をとったエルフの女性は、ゆっくりと口を開いた。


「ならば、儂が先にその子に会ってみるとするかの」

「ひいお婆ちゃんが会ったあとならいいの!?」

「お前に危険がないと分かったら、好きに会ってもよい」


 じゃが、とエルフの女性は釘を刺した。


「お前の前世のことは、何があっても漏らしてはならん」

「うん、分かってる」

「お前の能力のことも、当然言ってはならんぞ」

「うん」


 エミリアは自分の前世が誰であるかを知っていた。

 フローラがふと漏らしたのだ。

 だからと言って、別になんとも思わなかった。

 前世が誰であっても、自分にはその記憶がなかったからである。


「あ、そうだ。

 またあのパン持ってきてあげるね」

「そうかそうか、エミリアは優しいのう」


 にこにこしながら楽しそうに笑うエミリア。

 エルフの女性は曾孫に椅子に座るよう促し、自分もその隣に座った。


 そこからは曾祖母と曾孫の語らいの時間。

 エミリアの護衛が、エミリアがいないことに気付いて城の中を探しまくるまで、

 仲の良い二人の時間は続くのであった。

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