見習い剣士の憂鬱
今日、ワーウルフと戦った。
突然出て来たワーウルフを見て、チャンスだと思った。
森での特訓では、いつもウェアラットかフライホーンっていうおっきなトンボばかり。
だからワーウルフに勝って、お母さんに認めてもらいたかった。
その為にお母さんにお願いして、森の特訓に連れてってもらっているんだから。
でも負けた。
そしてワーウルフは、一瞬でお母さんに倒された。
本当は分かってる。
ワーウルフに勝っても、お母さんは認めてくれない。
それにもし認めてくれたとしても、私自身が自分を認められない。
私は、ファリスお姉さん、そしてリリスよりも弱いから……。
-----……… …… …
私が物心ついた時には、ファリス姉さんがいた。
魔族との混血で、魔力も当然高いらしい。
お母さんは、ファリス姉さんを学校へ通わせると言った。
学校で、治療魔法を覚えさせるらしい。
だから私とは違うと思っていた。
私は剣術で強くなって、エミリア様に御仕えするんだから。
この家で、お母さんの次に強くなるのは私だから。
ついでにファリス姉さんも守ってあげなきゃ。
そんな軽い気持ちでいた。
ファリス姉さんが学校に通い出して、1年くらい経ったある日。
お母さんに呼び出されて、家から外に出た。
そこにはファリス姉さんがにっこり笑って立っていた。
明日から学校の寮に泊まりこみで住むから、その前に私に見せたいものがあるらしい。
家の裏に回って、お母さんが古い剣を地面に刺した。
何をするんだろう。おまじないか何かかな?
そう思っていると、ファリス姉さんは、何やら変な呪文みたいなのを唱えだした。
そして叫んだ。ファイヤーボール、と。
手から火の玉が出て、古い剣に当たった。
びっくりした。
これが攻撃魔法……。
治癒魔法しか習っていないと思ってた。
だから安心しきっていた。
私の方が、2年間もずっと稽古してて、絶対ファリス姉さんより強いと思ってた。
けど、私なんかより凄かった。
2年間頑張って稽古してきた私よりずっと凄かった。
甘えてたんだ。
もっと頑張らなきゃ。
そう思って、また次の日から一生懸命、剣の稽古をした。
それから1年過ぎた稽古帰り。
私と同じくらいの子を連れ去る、リザードマンを見てしまった。
後を追いかけて、隙をついて木剣で殴り掛かった。
私は前より強くなってる。
倒せなくても、この子達を逃がす事くらいできるはず。
でも甘かった。
私はやっぱり甘かった。
あっさり捕まって、その子達と一緒に馬車に乗せられた。
でも、怖くは無かった。
絶対お母さんが助けに来てくれるから。
そう思って、泣きそうな子達を慰めた。
馬車の中には、私の他に4人いた。
3人は人族の子達。
1人は……肌が薄黒い子。
体中が痣だらけで、見てるだけで痛そう。
頭も布を被されてて、凄く苦しそう。
でも全然動かない。
もしかして……死んでる?
そう思ったら、ちょっと怖くなった。
馬車に乗せられてから、1日くらい経った。
全然眠れない。
馬車はちょっと傾いてて、たぶん坂道を進んでる。
お母さん、まだ来ないな。
と思ってたら、肌黒い子が突然動き出した。
全然動かなかったのに、びっくりした。
その子が動いたからリザードマンに蹴られたけど、生きてたから良かった。
そしてやっぱり、お母さんは来てくれた。
城のメイド魔術師のクルルも一緒だった。
乗っていた馬車の馬は可愛そうだけど、クルルさんの魔法で死んじゃってた。
みんなを、お母さんが乗って来た馬車に移すのも手伝った。
お母さんには怒られるかなと思ったけど、すごく安心した顔をしていた。
街に戻ってまた稽古に励む毎日。
けど、衝撃は突然やってきた。
馬車で頭を隠されてた肌黒い子。
その子を突然、お母さんが家に連れてきた。
金髪で耳が尖ってて、この子絶対魔族だ。
そして悪い予感は当たった。
お母さんが、この子を育てるって言い出した。
喉に大きな傷があって、喋れないらしい。
魔族だけど、声が出なくて魔法が使えないって。
ちょっと可愛そうだと思った。
今度こそ、私が守ってあげなきゃいけない子なんだ。
その子は、エミリア様にリリスって名前を付けられていた。
しばらく一緒に暮らしてて、変な事に気付いた。
リリスって、すごくエッチな事をしてる事がある。
なんかよく分かんないけど、それがエッチなことだって事は解った。
でもそれは、呪いでそうなってるって聞かされた。
可愛そうな子だと思った。
喋れなくて、呪いにかけられてて。
だから私が守ってあげなきゃ。
絶対強くなって、エミリア様とリリスを守ってあげるんだ。
そう思っていた。
それが間違ってたと気づいたのは、リリスと暮らし始めて1年くらい経った日だった。
リリスが突然稽古中にやってきて、私とお母さんに凄いものを見せた。
手の光が伸びて、左手から光が飛び出す魔法だった。
光が当たった石は、当たった所が砕けるくらい凄い威力。
私の攻撃でそんな事は出来ない。
ダメ。このままじゃ置いてかれちゃう。
リリスもエミリア様の警護に付くらしいし、私なんかいらなくなっちゃう。
次の日には、ファリス姉さんも学校から帰ってきた。
そして当然のように新しい魔法、ウォーターボールも覚えていた。
今私は、間違いなく一番弱い。
強くならなきゃ。
もっと強くならなきゃ。
最近食べ過ぎててお腹が少し出ていた。
少し量を減らそう。
剣風流の奥義。俊足の剣は覚えたい。
お母さんの剣真流の音速剣も覚えたい。
だから、体重が増えすぎるのはダメ。
減量はしないけど、今までみたいないっぱい食べるのはやめよう。
そうしよう。
それとお母さんにお願いして、森の魔物退治のお手伝いなんかもしたい。
それは絶対、私の為にもなるから。
断られるだろうけど、何度も何度もお願いしよう。
絶対強くなるから。
私は今ファリス姉さんよりリリスよりも弱いけど、絶対強くなるから。
……けど分かってた。
魔力が少ない私は、ファリス姉さんとリリスに勝てない事くらい。
… …… ………-----
そして今私はベッドで横になっている。
ファリス姉さん、そしてリリスとの暮らしを思い出しながら天井を眺めている。
森でワーウルフと戦った後、大泣きしたのは覚えてる。
その後、魔力切れなのか気を失って倒れて……。
それで気付いたら、ベッドで寝ていた。
たぶん、1日寝てたんだと思う。
頭はスッキリしてるし、体も重くないし。
また、お母さんに怒られちゃったな。
俊足はまだ使うなって言われてたのに。
また使って、またお母さんに迷惑かけちゃった。
……でも、涙が止まらないのはなんでなんだろ。
悔しいから?
弱いから?
よく分かんないな。
ちょっとのど渇いちゃった。
飲み物取りに行こう。
ベッドから立ち上がって、自分の部屋を出た。
そしてお母さんの部屋の前を通り過ぎようとした時。
部屋の中からファリス姉さんの声がする。
なんか言い争ってる?
耳を壁につけて聞いてみる。
「だからどうしてなのですか!」
「今、あの技は体に負担がありすぎる」
「けどそれじゃ自信を持てません! リリスからも何か言ってあげてください!」
え? 何?
リリスもいるの?
「ほう……。
リリス本気なのか?」
「リリスも私も本気です!」
「……分かった。そこまで言うなら……」
なんだろう。
お母さんが言い負かされるなんて。
その後、剣の稽古の時間になり、いつもの様に特訓が始まった。
いつもの走り込み。
いつもの腕立て伏せ。
いつもの木剣での打ち込み。
何か違ったところといえば、いつもはいないファリス姉さんが居る事。
それとリリスが、何故かいつもよりやる気がある?
どうしたんだろう。
何かあるのかな。
一通りの特訓が終わって、休憩。
そして次のまた同じ特訓の繰り返しをしようとした時。
「今日は試合をする。エレナ、リリスと本気でやり合うんだ」
「え?」
本気でやり合う?
試合って、初めてするんだけど……。
『エレナ、決闘だよ』
と、リリスが文字を書いた瞬間。
突然リリスが木剣で襲い掛かって来た。
上から叩き付ける斬撃。
反射的に木剣で防いだけど、バキッと凄い音が鳴った。
ほんとに本気だ。
今まででこんな凄いリリスの斬撃見た事無い。
その後も、何度も何度も打ち付けてくる。
バキッ、ガキッと木剣が叩かれる音が響く。
けど、やっぱり剣術では私の方が上だ。
剣術だけならっ。
打ってきた斬撃を、木剣を斜めにして受け流した。
すかさず下から上へとリリスに打ち込もうとする。
だが、リリスも形は滅茶苦茶だけど、上手くよけて後ろに下がった。
それを追いかけるように走って、握った木剣を上から力いっぱい打ち込む。
リリスは歯を食いしばって、木剣を両手で持ってそれを防いだ。
それを見て、木剣を後ろに引いて、リリスの胸へと木剣を打ち込んだ。
お母さんから教わったフェイントの突きだ。
だけどリリスは体を横にしてかわし、また後ろへと下がった。
「エレナ! 本気でやれ!」
お母さんの怒号が飛ぶ。
けど、本気になったら木剣でも怪我じゃすまないかもしれない。
少し戸惑って、後ろに下がってしまった。
すると、カランと木剣が転がる音。
そして私は自分の目を疑った。
リリスが左手を突き出して、右手を添える仕草をしていた。
その左手は白く光っていて、右手をぐぐっと後ろに引いている。
左手の先は、間違いなく私に向いている。
そんな……これって。
「……ペインアロー」
その言葉が私の口から出た瞬間、
リリスの左手から、光が放たれた。
光は真っ直ぐ私の方向へと飛んでくる。
お尻をつきながら、とっさに木剣でそれを防いだ。
バキッと鈍い音がして、木剣の破片が目の前に舞った。
光の玉は斜めに当たった木剣に逸らされ、城壁の上の方まで飛んでいった。
当たったら危ないなんてもんじゃない。
木剣だって、斜めにしてなければ完全に折れていた。
そしてそのまま私の体に。
額に汗がつたうのを感じる。
完全に、今のは私を狙っていた。
そう思っている間にも、リリスは2発目を準備している。
右手を左手に添えて、ぐぐっと後ろに引いた。
それを見てさっと立ち上がり、リリスの手を見る。
「エレナ! ペインアローは見た目ほど早くない!
ちゃんと見てかわせ!」
そう。
ペインアローは弓矢ほどの速さ。
光だと思って避けないでいると、それに騙されてしまう。
2発目が飛んできた時、よく見てそれをかわした。
後ろでバチッと石に当たった音が聞こえる。
そして一気に間合いを詰めようとリリスに向かって走った。
するとリリスも後ろに下がりながら右手を左手に添えた。
そしてそのまま後ろに引く腕の動き。
3発目が放たれた。
ダッと横に飛んで光の玉をかわす。
けどこれじゃ埒が明かない。
それに剣の稽古なのに、なんで魔法を使ってくるの?
こんなの反則だ!
「エレナ! 俊足を使う時は足だけに魔力を集中しろ!
体全体で魔力を使うんじゃなく、足だけに集中するんだ!」
またお母さんの怒号。
けど、俊足禁止だって。
そう思っている間にも、4発目を打とうとしているリリス。
迷っている暇なんてない。
4発目を打った後、俊足で決める。
と、そこにリリスの左手から4発目が放たれた。
光の玉は、真っ直ぐ私に向かって飛んでくる。
それをギリギリ体を反らしてかわし、リリスを見た。
また右手を左手に添えようとしている。
今しかない。
ぐぐっと腰を下ろして木剣を後ろに構えて足に魔力を集中。
そして何度も頭の中で描いたイメージで、リリスの前へと一気に走った。
ボッと空気が擦れる音が聞こえ、上半身が後ろに倒れそうになる。
力いっぱい両手で木剣を握り、そのまま一気に横へ振りぬいた。
木剣はリリスの脇腹の少し上をとらえ、リリスの体は一瞬くの字に曲がって吹き飛んだ。
5メートルほど横に飛ばされたリリスは、ドッと鈍い音で地面に叩きつけられ、そのままゴロゴロと宙を舞った。
「リリス!」
ファリス姉さんが叫び、横たわるリリスのところまで走っている。
そして膝をついて、両手をリリスの体にかざした。
「平等なる女神よ、その母たる力よ、枯れたる者にその息吹を分け与えたらん……『ヒーリング』」
茫然とする中、突然足に痛みが走った。
そしてよろよろとそのまま地にお尻をついた。
リリスを見ると、まったく動く事無く横たわったまま。
ファリス姉さんは、リリスに治療魔法をかけながらこちらを向いた。
「おめでと」
え……。
その声を聞いた時、すべて分かった。
2人はちゃんと私を分かっててくれたんだ、と。
お母さんを見ると、腕を組んで立ったまま、全く動じてない様子。
けど、少し目が潤んでいるような気がした。
その日の夕方、フォトンさんがお母さんに殴られていた。
リリスは眠るように気絶したままだけど、ファリス姉さんが大丈夫と言っていた。
そして今日は、1日一回だけの決まりで俊足を使っていい。
と、お母さんから許しをもらった日になった。
けど、それ以上に嬉しかった事。
本気で決闘してくれたリリスに、ありがとう。
エレナ・ラングレー
職業:子供(歳は6~7)
性格:真面目
職種:剣士(見習い剣士)
剣技:俊足の剣(まだ練習中)
:音速剣(いつか習得したい)




