■第59話 幸せそうに照れくさそうに
それから数か月後、ユズルとレイは結婚式を挙げた。
歴史あるチャペルの壁に目映く輝くステンドグラスは、季節や時間帯に応じて
その美しい表情を変える。 礼拝堂に響き渡るパイプオルガンの音色、聖歌隊
の歌声は耳にやさしく、厳かな挙式が粛々と行われていた。
”式なんかやらない ”と頑なに言い張るレイと、なんとしてでもレイに純白
ドレスを着せたいユズル。 何度も何度もケンカして、結局はレイが折れた。
『ケッコーォ、頑固だよね・・・。』
満足気にツンと澄まして微笑むユズルを、レイはジロリと横目で一瞥する。
車イスに乗った白いタキシード姿のユズルの隣に、レイらしいシンプルな
Aラインの純白ウエディングドレスを纏った花嫁の姿。
しかし、腰にあしらわれた大きな大きなふわふわのリボンに、どこか照れ
くさそうに不満気に口を尖らせている。
”リボンなんか付いたのは着ない! ”と本人は断固拒否したのだが、レイが
選ぶドレスはシンプル過ぎて慎ましやか過ぎて、それではユズルがなんだか
物足りなかった。
人生最良の日に、とびきり可愛らしいのを着てほしいというユズルの願いを
結局は最後の最後にレイが受け入れ、今日のこの日を迎えていたのだった。
真紅の絨毯を敷き詰めたヴァージンロードをゆっくりゆっくり進む、ふたり。
レイは厳かに挙式のはじまりを告げるプロテスタントの牧師だけをまっすぐ
見ているフリをして、口許を極力動かさないようにしつつその隣を車イスで
静かに進むユズルへ言う。
『もう、この先はゼッタイ折れないからね!』
すると、ユズルは頬に満面の笑みをたたえて聴こえないフリをした。
どうしても緩んでしまう口許がふるふると震えてしまうが、憎らしい程の
澄まし顔で車イスのレバーを倒している。
『ほんっとに、ほんっっっとに ・・・もう折れないからねっ!!』
思い切り眉根をひそめるレイ。
不満気に下唇を突き出しながらも、幸せそうに照れくさそうに微笑んだ。
その細い首元には、煌めくネックレスが提げられている。
揺れるペンダントヘッドは、レイの誕生石が埋め込まれたベビーリング。
そしてレイの左手の薬指には、ユズルとお揃いの結婚指輪が光っていた。
ユズルの左手とレイの右手は決して離れないようしっかり繋がれていた。
『いつ行くの?』 挙式終わりに、シオリがコウの背中へ声を掛けた。
ブラックフォーマルを身に纏い白色ネクタイを締めるコウが、チャペルを
後にしようとして掛けられた声に振り返る。 すると淡い色のバルーン
ドレスにシフォンボレロを羽織った、見惚れるほど美しい従姉妹の姿が
目に入った。
シオリはそっと手を伸ばし、コウの肩に付いたフラワーシャワーの薔薇の
花びらをつまんで微笑む。 そして、フっと息をかけてピンク色のそれを
風に飛ばした。
『ん~・・・ 取り敢えず、病院に出るのは今週いっぱいかな。』
コウはホヅミの病院を離れ、新しい医療技術の開発の研究をするために
大学に戻ることを決意していた。
シオリにそう言ったコウの顔はどこか清々しくて、輝いて見える。
コウはまっすぐ前を向いていた。
今まで自分でも気付かないうちに、がんじがらめになっていた父コウジロウ
からの呪縛。 父に認められようと今まで必死にもがいていたが、そんな事は
無意味だとやっと気付いた。 何かとユズルと比べられ、その背中を追い越そ
うとしていた事も全てなんの意味も無い、もうコウには必要ないのだと。
”カッコ悪くたっていい ”
自分らしく、自分の好きなように生きようと決めたコウは、髪の毛1本の
乱れもない潔癖にすらとれたそれが、今ではだいぶ無造作ヘアになっていた。
『似合うよ、コウちゃん。』 シオリがそのヘアスタイルに、小さく笑う。
『だろ~ぉ?
・・・まぁ、元がイイからなにやっても似合うんだよね。』
コウが顔をクシャクシャにして大口を開けて笑った。
眩しく差し込む日差しに、その顔はまるでこどもの様に無邪気だった。




