■第51話 バカみたいなノーテンキな顔
突然のシオリとの再会に、まるでいまだ夢の中の様に呆然としていたショウタの
前になんだかやけに真剣な顔をしてツカサが足早にやって来た。
ツカサはどこか睨み付けるように目を眇め、ショウタを見る。
遅れて来たくせにそれを謝りもしないツカサと、待たされたくせにそれにも気付
いていないような呆けたショウタ。
『ん?』 その射るような視線にさすがにショウタが首を傾げた。
すると、開口一番でツカサが言う。
その声色は低く、極めて真剣なそれで。
『お前さ・・・
ホヅミのこと、まだ諦めてないんだろ・・・?』
普段、いい大人の男同士で余程でなければ恋愛話などしない。
急に切り出された突拍子もないそれに呆けていたショウタもさすがに戸惑った。
『な、なんだよ・・・ 急に。』 困っているような戸惑うような顔で思い切り
眉根をひそめる。 バツが悪そうに目を逸らし、首の後ろを痒くもないくせに
無意味に掻き毟ると、その部分だけ赤くなってヒリヒリした。
すると、ツカサはショウタの肩を乱暴に掴んで揺らす。
『外野が簡単に言うことじゃないけど・・・
簡単に言えることじゃないのは分かってっけどさ・・・
お前・・・ 諦めんなよ・・・
ゼッタイ、諦めんなよホヅミのこと・・・
お前とホヅミって、やっぱ、なんか・・・
なんつーか・・・
・・・ゼッタイ、一緒にいるべきだと思うんだよ・・・。』
ツカサの必死な言葉がショウタの胸に突き刺さる。
決してからかったり冷やかしでそんな事を言い出したのではないのがよく分かる
その声色。
高校時代からショウタとシオリを見てきたツカサは、歯がゆいくらいスロー
スピードでゆっくりゆっくり距離を縮めるふたりに半ば呆れながらも、口には
出さないけれど本当は心から応援していた。
ふたりが別れた気配にもショウタは多くは口を開かず、それでもきっとふたり
ならまた元に戻れるはずだと、全く根拠はないけれどツカサには確信にも似た
思いがあった。
しかし風の噂で聞いたシオリの結婚話に、さすがに応援し続けるのはショウタに
酷だと感じ、それ以来一切シオリの名を出すことは無かったのだが。
”ちゃんと幸せそうに笑ってる・・・?
あの頃みたいに、バカみたいに呑気な顔で笑ってる・・・?”
先程の、シオリのあの一言。
心配で心配で仕方ないようなシオリのあの表情。
それはまるで、あの頃ショウタが体調を崩して早退した時にシオリがツカサに
見せた放課後のそれと全く同じだった。
黒髪ロングヘアで制服をまとった、17才のそれと。
なんだか泣きそうな顔をして真剣に詰め寄るツカサに、ショウタはどうして
いいか分からず困った顔をして哀しげに笑った。 眉尻が下がった情けない顔は
普段通りなはずなのに、それには何故かただただ寂しさだけが際立つ。
するとツカサは呟いた。
『お前・・・ 笑わなくなったよな・・・
あの、バカみたいなノーテンキな顔で笑わなくなった・・・
・・・今みたいなのばっかだ。
お前の笑ってる顔、笑うってより泣いてるみたいだ・・・
ホヅミがいないと、お前、笑うことすら出来ねーんだろ・・・。』
ツカサと別れショウタはぼんやりと俯いたまま、自宅に戻った。
どこをどう通って帰宅したのかイマイチ思い出せないくらい、思考回路はそれに
支配されている。
シオリとの再会に心がパンク寸前でツカサに言われた言葉が頭をグルグル巡る。
次から次へと起こった出来事に、なんだか頭が付いていかない。
するとぼんやりした息子の姿を目に店先に立つ母ミヨコが顎で自宅2階を指す。
『マヒロちゃんが来てるよ・・・。』
小さく溜息をついたショウタ。
なんだか一気に肩が重く感じ、無意識にかぶりを振る。
そして、力無くぽつり呟いた。
『なんだよ・・・
・・・同窓会か、今日は・・・。』




