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■第50話 窓の外に見掛ける原付きの姿

 

ユズルは、どこか元気がない思い詰めたような妹シオリの横顔をそっと

見つめていた。

 

 

その日、頼んでおいたシュークリームを駅前で買って来てくれたシオリは

どこか潤んだ目元で心此処に在らずといった面持ち。 ぼんやりとなにか

考え込み、なにかあったのか訊いても哀しげにその頬に小さく笑みを作り

首を横に振るだけだった。

 

 

 

 『それ・・・ 転んだのか・・・?』

 

 

 

シオリの膝が擦れて少し血が滲んでいるのが目に入ったユズル。


看護師に一応消毒でもしてもらった方がいいのではと思ったが、シオリは

それにも首を横に振る。 そっと伏せた長いまつ毛が先程まで濡れていた

のが窓から差し込んだ陽の光に反射して、それを誤魔化し切れない。


ユズルに指摘されるまでそれに気付いていなかったシオリが、少し体を屈め

膝を指先でそっと押さえた瞬間、首元からそれが表れ小さく揺れた。

 

 

 

  それは、小さい小さいおもちゃの様な指輪が煌めく、ネックレス。

 

 

 

ユズルはそれを目に、一瞬息を呑む。 

ここ数日モヤモヤしていたそれの謎がやっと解けた。

 

 

 

 

  (そうか・・・ シオリだったのか・・・。)

 

 

 

 

  ”宝物みたいに両手で包んで、涙こぼしてて・・・


  失恋しちゃったのか分かんないけど・・・


  きっと、すっごい好きな人からのプレゼントだったんだろうなぁ・・・。”

 

 

 

 

レイが言っていたベビーリングの話。


自分もどこかでそれを見た朧げな記憶が確かにあった。 しかし思い出せずに

いたそれ。 患者でも見舞客でも職員でもない、どこで見たのか全く分からず

仕舞いだったそれが、妹シオリだったのだと気付く。

 

 

そして、もうひとつ。 大切な真実にユズルが気付いた。

 

 

 

  シオリには、ずっと想い続ける相手がいる。


  それは、婚約者のコウではない気配。

 

 

 

 

すると瞬時に、毎早朝に窓の外に見掛ける原付きの姿を思い出した。


遠目でよく分からずにいたそれは、あの日の整形外科にやって来ていた彼

ではないのかと。 妹シオリに見惚れてケガをした、あの彼では・・・

 

 

 

 

  ”俺。 こんな腕のヒビとか、もぉ、どーでもいいっスもんっ!!


  手ぇ振ってもらえただけで、マジでもぉ、俺。ぜんっぜんいいっス!!”

 

 

 

 

只一人、シオリを心から幸せそうに笑わせることが出来るショウタの事を

ユズルは思い出していた。

 

 

 

 

  (そうか・・・


   ・・・ふたりは、いまだに・・・。)

 

 

 

 

ユズルがシオリをそっと見つめた。


妹の胸の内を思い一気に迫る熱いものを必死に鎮め、やわらかく言葉を紡ぐ。

 

 

 

 『悪いんだけどさ・・・


  明日、朝5時前にちょっとココに来てくれないか・・・?

 

 

  ・・・ちょっと、見せたいものがあるからさ・・・。』

 

 

 

『・・・え?』 言われている意味がよく分からないシオリが、いまだ潤んだ

目を向けて首を傾げる。

 

 

 

 『来れば分かるから。』

 

 

 

ユズルはそう一言告げると、どこかスッキリしたような清々しい顔で微笑んだ。

 

 

 


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