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■第45話 信号待ちをするその姿

 

 

その朝、店先に立つショウタの尻ポケットに入れたケータイにツカサからの

着信があった。

 

 

初期設定のままの着信音が尻ポケットの中でくぐもって響く。 頻繁にでは

ないものの、たまに顔は合わせていたツカサ。 挨拶などすべてすっ飛ばし

突然本題に入る。

 

 

 

 『草野球の監督、ついに引退すんだってよ~


  取り敢えずOB一同でナンカお祝いでも、って話になってさ~


  でも、なにがいーのかサッパリ分からん~

 

 

  今日、ちょっとお前、時間ねぇーか?


  ナニにすっか、お前も一緒に考えてくれよ。』

 

 

 

ショウタはケータイを耳に当てたまま、店奥で作業している母ミヨコへ視線を

流し少し店を抜けていいか打診するとアッサリ快諾が返って来た。


『駅前行くならついでに銀行行って来て。』 とミヨコからお使いも頼まれ

ショウタはツカサとの待合せ時間より少し早目に家を出ていた。

 

 

 

その頃シオリも勤務が休みのその日、先日ユズルから頼まれたシュークリーム

を買いに駅前へ向かう準備をしていた。


清々しいほど気持ちよく晴れ渡った空。 自室の窓辺に置かれたミムラスは

あの日枯れてしまったが、それでも大切に大切にいまだそこに佇んでいた。

 

 

窓から差し込む太陽の光に照らされ、眩しさに目を細めたシオリ。


あまりの強い逆光に視界はぼやけ、目が通常の状態に戻るまで少し時間が

かかる。 ドアを開け部屋を出たシオリは、その枯れたはずの橙色の蕾が

ひとつ小さく膨らんでいた事に、この時は気付けずにいた。

 

 

 

 

 

シオリは駅前に立ち、横断歩道の赤信号が変わるのを待っていた。


土曜の昼前のそこは通行人も行き交う車も多い。 雑踏の中、そんな事は

なにも気にせず仲良さそうに手を繋いで通り過ぎる初々しいカップルの姿が

嫌でも目に入る。 からかう様に顔を覗き込み、嬉しくて仕方がない感じで

微笑み合っている。 きっとこの先も当たり前にふたりでいられると思って

いる様で。 この先の未来に突然哀しい出来事が起こるかもしれない可能性

など露ほども考えずにいた幼いあの日の自分を思ってシオリは小さく微笑み

しかしどこか寂しげに目を伏せる。

 

 

いつ来ても、何年経っても胸がきゅっと締め付けられるこの場所。

 

 

無意識のうちに、あの頃のショウタの面影を求め探してしまう。


道路向かいでシオリに向けて大きく千切れんばかりに手を振る、ショウタを。

黒色のダウンジャケットを羽織り、トリコロールカラーのマフラーに嬉しそうに

満面の笑みを浮かべる、ショウタを。 

 

 

渋滞した車道に、右折してきた路線バスが目の前に立ちはだかった。

 

向こうの車道で身勝手に右折しようとしている車に、対向車が苛立ち気味に

けたたましくクラクションを鳴らしている。

シオリはその耳障りな警音にしかめ面を向け、不愉快そうに顔を背けた。


横断歩道の信号が青に変わったのかどうかも、目の前のバスが邪魔をしてよく

見えなかったが、音響式信号から流れ出した鳴き交わし音のピヨピヨという音が

耳に聴こえ、シオリは横断歩道を渡ろうと足を一歩前に出した。


それは、バスがやっと通り過ぎた瞬間だった。

 

 

 

道路を挟んで向かいに、同じように信号待ちをするその姿が目に飛び込んだ。

 

 

 


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