■第43話 運命
『その前に、レイさん・・・ レ、レイのご両親が・・・
僕のこと、許してくれるかが・・・ 最大の問題、だよな・・・。』
散々ふたり幸せそうに笑い合った後、自信なげに俯いて呟いたユズル。
先程までの笑い声が嘘かのように、病室は静まり返りその声色だけ落ちる。
当人同士がいくら大丈夫と言ったところで、大切な娘を嫁に出す親の気持ちを
考えると ”この結婚 ”が、そうそう簡単な問題ではないと今更ながら気付く。
すると、レイが両手を伸ばしユズルの手をそっと包んで微笑んだ。
『それはダイジョーブよ。
だって、私より先に惚れこんでたのは、ウチの ”家族 ”だし。』
『ん??』 言われている意味が分からず、ユズルはレイをまっすぐ見上げた。
『私、お祖母ちゃんとふたりなの。
お祖母ちゃんは私より先に ”ユズル先生 ”にゾッコンだったでしょ~?』
ケラケラ愉しげなその横顔に、『ふたり・・・?』 思わず訊き返したユズル。
『そう、お祖母ちゃんとふたり。
ウチの両親、私が小学生のときに交通事故で、ね・・・
・・・私だけ、助かったの・・・
私、一人っ子なのにさぁ~・・・
私だけ・・・ 両親に置いてかれちゃったの・・・。』
レイはユズルの病室のベッドに腰掛けて、こどもの様に足をブラブラ揺らす。
どこか遠くを見るように目を細め、その瞬間、さっきまでの上機嫌に笑う顔が
寂しげな幼い少女の様なそれに変わる。
『警察の人とお医者さんがね、
”打ちどころが悪かった ”って話してるのが聴こえたんだ・・・
”あと数センチずれてたら、軽傷で済んだのに ”、って・・・
きっと、ウチの両親は ”死神 ”に選ばれちゃったんだよ・・・
でもね!!
ユズルは ”神様 ”に選ばれた人なんだよ!!
あなたは生かされたの。
即死でもおかしくない事故で生還した・・・
だから、ユズルは医者を続けなきゃダメ!!
ゼッタイ、ゼッタイ・・・ 医者に戻らなきゃダメなのよ・・・。』
ユズルは今にも泣き出しそうな顔を向けて、レイをまっすぐ見つめる。
レイのこの強さとやさしさの背景をはじめて知り、一気に胸が熱く苦しい。
『なんて顔してんのよ~ぉ?』 レイはやわらかく微笑み返した。
震える喉元に力を入れ鎮めて、ユズルが目を眇める。
『じゃぁレイも・・・
レイも、僕と同じ ”神様 ”に選ばれて生き残った人間だろ・・・?
僕は、レイに逢えなかったら、今頃どうなってたか分からない・・・
レイは僕を救い出すために生き残ってくれたんだ・・・
僕たちは・・・ 出逢うべくして出逢ったんだよ・・・。』
ユズルは潤んだ目でレイをまっすぐ見つめ、懸命に上半身を乗り出して両腕を
広げる。 レイはそっと目を伏せ、前屈みになってその腕の中に包まれた。
『きっと、運命ね・・・。』
そう言うと、レイは片手でそっと自分の前髪を上げおでこを見せる。
その額には、小学生の時の交通事故で負った大きな傷痕があった。
奇しくもそれは、ユズルが事故の際にメガネの縁で切った額のそれと全く
同じ傷だった。




