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■第39話 誰にも負けない、それ


 

 

 『ホヅミ君・・・


  あなたは ”恵まれてる ”って、気付いてる・・・?』 

 

 

 

唐突にレイからそんな事を言われ、ユズルは耳を疑いたじろいだ。


車イスで二度と立ちあがることの出来ない自分が、”恵まれている ”理由など

まったく見当たらないし、相手がレイでなければ本気で憤ってもいい場面だ。

 

 

しかし、その声色はいつものケラケラ愉しそうに上機嫌に笑うそれとは全く

違った。


”誰も、神様だって、アナタを責めたりしないのに。” と言ってくれた、

あの夕暮れ時の真剣なそれと同じで。

 

 

 

 『普通は、こうゆう状況になった人は居場所がなくなるのよ。

 

 

  戻る仕事も無い、


  家族にも迷惑かけるばかりで家の中にいても居場所が無い、


  周りに気を遣われるばかりで誰にも本音が言えない。


  八つ当たりと自己嫌悪の連続で、心がひとりぼっちになっていく。


  どんどん殻に閉じこもっていく。

 

 

  でも、あなたには・・・


  ホヅミ君には、ご両親のこの病院があるじゃない。


  今でも ”ユズル先生 ”って呼んで慕ってくれる人たちがたくさんいる。

 

   

  私、いっぱい調べたの・・・


  車イスで医者やってる人が、この世の中にはちゃんといるわ。

 

 

  例え、前までと同じにとはいかなくても・・・


  例え手術室に立てなくたって、診察は出来るでしょ・・・?


  患者さんの声に耳を傾けることは出来るでしょ・・・?

 

   

  患者さんの気持ちに寄り添える、痛みを知ってるあなたなら、


  この先もずっと ”ユズル先生 ”としてここでやっていけるわ。

 

 

  あなたは ”本当の痛みを知る医者 ”として、


  神様に選ばれた人間なのかもしれないわよ・・・。』

 

 

 

ユズルは、なにも言えずに呆然とレイの言葉を聞いていた。

わずかに開いた唇の隙間からは、早鐘の様に打ち付ける鼓動に浅い呼吸を

するのみで。

 

 

パソコンのそのブックマークは ”ユズル ”とタイトルが付けられ、日本だけに

留まらず海外の車イスの医者のページまでもが翻訳され保存されていた。


それは、何ページも何ページも。 


レイは毎晩のように病院から戻るとパソコンを立ち上げて、懸命に調べていた。

メリット・デメリット、出来ること・出来ないこと、復帰することで起こり得る

様々な問題を調べそしてそれをページに記した。

 

 

レイは、ユズルにどうしても医者に復帰してほしかった。

居場所を確立して、再び誇りをもって生きてほしかった。

ユズルは医者に戻るべき人間だと思って疑わなかった。

 

 

そして、思い出してほしかった。 誰にも負けない ”その思い ”を・・・

 

 

 

  ”患者と向き合って、


      そのツラさを汲み取って、


         ・・・そして、笑顔にしたい・・・ ”

 

 

 

暫く呆然としていたユズルの目に、じわじわと涙が込み上げていた。


もう戻れないと思っていた。

あの頃には戻れない。


白衣を羽織ることも、院内連絡用の携帯電話を首に提げることも、

痛みに泣き叫ぶこどもを懸命になだめることも、しょんぼり落ち込むお年寄りを

やさしく励ますことも。


あの頃の様に立ちあがれない自分には、もう二度とないことだと思っていた。

 

 

『ホヅミ君・・・?』レイは震えるユズルの背中にそっと手を置いて覗き込む。


俯いて隠す暇もない程、それは急速に溢れユズルの頬に次々と伝う。

片手でメガネをはずし、入院着の腕で目をこすって涙を拭う。

肩が震えて胸はしゃくり上げ、レイになにか言おうとするもその涙で詰まる

喉からはたったの一言さえも絞り出せない。

 

 

レイは微笑んでいた。

まるで女神のようなやわらかいあたたかい笑みで、ユズルを見つめる。

 

 

すると、そっと目を閉じ自分で自分に納得するようにひとつ大きな息をついた。

そして目を開けると、破天荒な女神は眩しいほどの笑顔を向け自信満々に言い

放った。

 

 

 

 『ねぇ、ホヅミ君・・・


  ホヅミ君には、私が必要でしょ・・・?

 

  

  ・・・どうせだからさ・・・ ケッコンしようよ。』

 

 

 


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