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■第29話 ホヅミ ユズル


 

 

ユズルはそれでも ”穏やかなフリ ”を続けていた。

 

 

病院の廊下でレイとすれ違う時も、敢えて患者たちに聖人のような微笑みを向け

崇めるようなその人びとの目をレイに思い知らせようと躍起になった。

 

 

しかし、レイはそれを見もしなかった。


全く興味がない顔をして、しれっと通り過ぎる。

微かに眉根をひそめ不機嫌そうな顔になりかけ、慌てて頬に笑みを作るユズルを

目の端で確認しては心の中で小さく笑っていた。

 

 

 

 

  (なーにガムシャラになってんだか・・・ バっカみたい・・・。)

 

 

 

 

そして、夕飯時になるとふたりは決まって待合室にやって来た。


窓の外を見つめるユズルは、その景色になど全く集中出来ていなかった。

今か今かと、背後から掛けられる ”その声 ”を待つ。


そっと左手首の腕時計に目を落とすと、夕飯がはじまってもう5分経っていた。

 

 

 

 

  (なんだよ・・・ 遅いじゃないか・・・。)

 

 

 

 

待合室で決まった時間に待合せをしている訳でもないのに、その時間になっても

やって来ないレイに不満が募る。

 

 

 

 

  (もう、今日は帰ったのかな・・・


   タキさんの病室の前まで行ってみようか・・・。)

 

 

 

 

ジリジリと苛立つ気持ちが込み上げ我慢出来なくて、ユズルは車イスのレバーを

思い切り右に倒し回転すると、後方の待合室長椅子にレイが静かに佇んでいる

姿が目に入った。

 

 

『いっ・・・ いたのかよ・・・。』 思わず声が裏返る。


常に冷静に穏やかにいなければいけない自分の喉から変な声色が出たことに

ユズルは照れくさそうに慌てて咳払いをして誤魔化した。

 

 

『ずっといたけど。』 レイはクスっと笑って立ちあがる。

 

 

 

 『ねぇ・・・


  いっつもなに見てんの? この窓から・・・。』

 

 

 

ユズルの隣に立ち、レイが待合室の大きな窓からそっと景色を眺める。

 

 

 

 『やっぱり、立って見てた時と・・・ 違う? 景色って・・・。』

 

 

 

レイは他の人が気を遣って決して訊かない事をズバズバ訊いてくる。

”オブラートに包む ”という言葉は習ってこなかったのかと思うほど。


しかし、なんだかユズルは嫌な気はしなかった。

レイのそのストレートな言葉が、まっすぐ胸に突き刺さる。

 

 

レイの嘘のないまっすぐな、その濁りひとつ無い言葉が。

 

 

 

 『あの道を通り過ぎる人を見てるんです・・・。』

 

 

 

ぽつりユズルが呟いた。


ゆっくり歩く姿、足早に駆ける姿、学生らしき数人で愉しそうに笑いながら

通り過ぎる姿、親子で手をつなぎ歩く姿、みな一様にさも当たり前みたいに

目の前の歩道をゆく。 片足を前に出し、他方の足を蹴り出して。

 

 

 

 『みんな・・・ 歩いてるんですよね・・・。』

 

 

 

それは患者たちを前に余裕を出し雄弁を振るう ”ユズル先生 ”とは全く

別人のそれだった。


”ホヅミ ユズル ” という人間から出た、小さな素直な響きだった。

 

 

 

『ねぇ、ホヅミ君・・・。』 窓の外を見続けるユズルを、レイがまっすぐ

見つめて静かに口を開いた。

 

 

 


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