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■第27話 無礼なショートカットの名前


 

 

ユズルがいつも通り待合室で入院患者に取り囲まれ和やかに談笑していると、

”その姿 ”が廊下の向こうに見えた。

 

 

ヒョロヒョロに痩せた背の高い、それ。


おおよそ女性らしさなど無い体つきで、大きな歩幅で長い足を前に出し

どこかせっかちに早足に進んでいる。

 

 

思わずぎゅっと口をつぐみ、顔を背けたユズル。


しかしその途端、向こうはユズルに気付いているのか気付いていないのか

分からなかったが自分だけ過剰に気にして俯くのはなんだかやけに癪に障った。


ユズルは胸を張って顔を上げ、敢えて大きな声で笑って取り巻きの様に群がる

患者たちにとびきりあたたかい微笑みを向けた。

 

 

待合室の前の廊下を、痩せたショートカットがアッサリ通り過ぎる。 


その目線は、一瞬もユズルに向けることは無い。

ユズルがそこにいるのかどうかさえ気付いていない様な、その飄々とした横顔。

 

 

 

 

  (なんだよ・・・


   ひとにあんな失礼な言葉掛けといて、挨拶も無しかよ・・・。)

 

 

 

 

ユズルが一際大きな声で笑って、再びチラリ。目線を流す。

しかし、その姿は結局一度もユズルを振り返ることはなかった。

 

 

 

 

 

その日の夕方。

入院患者のタキが、ユズルの元へやって来た。


だいぶ歩行器での歩行が上達してきたタキは、しわがれた手でそれを押しながら

微笑んで、片手はユズルへ向けてひらひらと上機嫌に振っている。

 

 

 

 『ユズル先生!


  うちの孫娘、どうせ先生にきちんと挨拶もしなかったんでしょ~?


  ごめんなさいね、ほんとあの子ったら愛想のひとつもなくて・・・。』

 

 

 

言われた言葉にユズルは首を傾げる。


毎日毎日色んな人に声を掛け微笑んでまわるユズルには、誰が誰だか全く分から

なかったし、正直なところ誰が誰かと判別しようとも思っていなかった。


”自分が微笑んで声を掛けてまわる穏やかな姿 ”を認識させる事にしか興味は

なかった。 色の失せた目で上手に微笑み、内心嘲笑うことにしか・・・

 

 

 

 『ヒョロヒョロに細長い、髪の短い子に会わなかった・・・?』

 

 

 

その一言に、ユズルは一瞬固まった。

 

 

 

 『うちの孫娘・・・ 


  ・・・レイが、失礼なことしなかったか心配で・・・。』

 

 

 

『レイ・・・。』 あの無礼なショートカットの名前をユズルが小さく呟いた。

 

 

 


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