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■第26話 逆光で翳るその姿


 

 

ユズルは、ただただゆっくり瞬きをしていた。

 

 

長い長い夢を見ていたような、夢から覚めたような感覚。 

なんだかぼんやりしてしまって、あまり頭の中の思考回路がハッキリしない。


しかし、茫っとしながらも自分はなにも変わり無いつもりでいるのに、

目に飛び込んだ父も母もそして妹も一目で分かるほどに年を重ねていた。


ふと、寝そべり続けている体に起き上がろうと力を入れるも巧くいかない。

 

 

 

 

  (あれ・・・? なんだ?どうしたんだ・・・?)

 

 

 

 

事情が全く分からず戸惑うユズルに、家族から口ごもりながら発せられた

”その理由 ”

 

 

そんな事故の夜の記憶など全くない。

まだ夢の続きを見ているのではないかと思う程、そんな感覚はないのだ。

 

 

 

 

  (僕の脚は・・・ 


   ・・・・・・・もう動かない・・・・・・・・?)

 

 

 

 

その瞬間、家族や周りの人間の態度が一変した。


ユズルを腫れ物に触るように遠巻きに眺めやたらと気を遣って接し、その二度と

動かない脚などまるで見えていないように振舞う人たち。

 

 

疲れているくせに疲れていない顔をし、哀しいくせに精一杯笑い、絶望している

くせにまるで希望がまだある様な目を向ける。

 

 

 

 

  (僕は・・・ 僕はもう、医者には戻れない・・・


   生きている意味なんてあるのか・・・


   ・・・なんで僕は、まだ生きているんだ・・・。)

 

 

 

 

ただまっすぐベッドに横たわり、天井をぼんやり見ていた。

何日も何日もぼんやりそれを見つめ続け、そしてユズルは思った。

 

 

 

 『それでも、やっぱり僕は・・・ 


  ・・・”ユズル先生 ”でいたい・・・。』

 

 

 

それからというものの、精力的にリハビリを受け電動車イスを乗りこなし、

ユズルは病院内を動き回るようになっていった。


満足だった。

みんなが自分に声を掛けてくれ、気に掛けてくれる、笑顔を向けてくれる。

変わらずに ”ユズル先生 ”と呼んでくれる。

 

 

しかし、次第にユズルは気付く。


”同情 ” ”あわれみ ” ”お情け”  皆、一様にその色を含んでいる。

それは家族でさえも。 家族だからこそ、それが強かったようにも感じた。

 

 

 

 『まだ若いのに。』 『せっかく医者になったのに。』 『気の毒だわ。』


 『もう結婚もムリね。』 『病院の長男だもんお金には困らないでしょ。』

 

 

 

陰でコソコソ話している他人の声。人の不幸話は容易に尾びれが付き伝染する。

多くは過敏になっているユズルの被害妄想だったが、実際ユズルのことを揶揄

するそれがあったのも事実だった。

 

 

哀しさ・失望・焦り・イライラが爆発しそうになり、穏やかな表情をつくるにも

限界がきそうになるもユズルはそれを堪えた。

 

 

 

 

  (僕が、腹ん中でなに考えてるか知りもしないで


   まるで崇めるみたいに近寄って来るバカな奴ら・・・。)

 

 

 

 

敢えて余裕を醸し出し、五体満足が当然とも思っているような他者を上から

見下して、動くのならば足蹴にしてやりたいほど心の中で嘲笑ってやった。 


誰もそんなユズルに気付かない。 それは、家族でさえも。

メガネの奥の目は色を失い笑ってなどいない事を、誰も気付かない。

 

 

でも、本心を言えば。

本音を言えば。

 

 

 

 苦しくて泣き叫び続けているこの心を、誰かに分かってほしかった・・・。

 

 

 

  (なんで・・・


   なんで僕の脚はもう動かないんだ・・・


   なんで僕なんだ・・・

 

    

   僕はまだ医者を続けたい・・・


   患者と向き合って、そのツラさを汲み取って、そして笑顔にしたい・・・

 

 

   なのにどうして・・・ 僕の脚はもう立ちあがれないんだ・・・。)

 

 

 

 

 

    ”嘘くさいわよ。 アナタの、その笑う顔・・・。”

 

 

どこの誰かも分からないショートカットのその人が、夕陽を背に逆光で翳る

その姿でぽつり呟いた。

 

 

無性に腹が立つ反面、ユズルはなぜかその人の事が頭から離れなくなっていた。

 

 

 


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