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■第21話 勘付かれてはいけない背中

 

『はぃ・・・?』 シオリがドアを見つめノックの主に小さく返事をした、

その瞬間。

 

 

 

 

  『なにしてるの、ここで。』

 

 

たまたま廊下を通りかかったコウが、ショウタの元へ駆け寄りあからさまに

怪訝な顔を向け声を荒げる。 そして、病室の番号プレートを確認すると

目を見張り思い切り鋭く睨んで、ショウタの腕を乱暴に引っ張り病室から

遠ざけた。 

 

 

『な、なんですか・・・?』 ショウタも目を眇めコウを睨み返した。


配達で来ただけなのにまるで不審者のような扱いをされて、さすがの温厚な

ショウタも腹が立って怒りに頬が歪む。 唇を噛み締めコウに掴まれていた

腕を思い切り振り払った。

 

 

コウはショウタがその手に持つ見舞の青りんごを冷淡な目でじっと見つめる。


そして短冊に書かれた看護師長の名を確認すると苦々しく顔をしかめ、

低くうなるように言った。 

ショウタの手から、有無を言わせず強引に奪い取るようにカゴを引っ張って。

 

 

 

 『コレ、俺が渡しとくから・・・


  ”俺の ”患者だから・・・ どうもありがとう。』

 

 

 

そう早口で告げると白衣の胸ポケットから見るからに高級そうなペンを出し、

左手でそれを掴むと無言で ”サイン ”を書くポーズをする。


”サインを貰ってさっさと帰れ ”とばかりのそのコウの不躾な態度に、

ショウタはなんだか後味悪く腑に落ちない感じがありながらも、受け取りの

サインを貰い不機嫌そうに目を逸らして、軽く首だけペコリと前に出し会釈

すると正面玄関へ向けて帰って行った。

 

 

ショウタの大きな背中がイライラした感じを醸し出しながら廊下の先に小さく

なってゆく。 コウはそれをじっと見つめていた。見えなくなるまでじっと。

それは、完全に視野から消え失せるまでは安心出来ないとでも言うように。


睨むように、穴が開くほど、じっと・・・。

 

 

 

その時、208号室の引き戸が静かにスライドされ開かれ、点滴のスタンドを

片手に引いてシオリが弱々しい足取りで出て来た。

 

 

瞬時に、コウはシオリの目の前に立ちふさがり廊下の先が見えない様にする。

 

 

不思議そうに小首を傾げる青白い顔のシオリに、コウは慌てて取って付けた

ような笑顔を作ると、 『ちゃんと、寝てなきゃダメだよ!!』


まるで自分がシオリの病室を訪ねたような顔をして、その細い入院着の背中に

手をおき再び病室内に促した。

 

 

シオリを促しながら、もう一度振り返りコウは廊下向こうを慎重に見渡す。

 

 

 

  もう見えはしない、その背中を。


  決してシオリには勘付かれてはいけない、その背中を。

 

 

 

 

 

コウは青りんごの籐カゴを持って病院地下の暗い廃棄室に行くと、そのまま

籐カゴをゴミの山に放った。 

そして、まるで汚い物にでも触れたように手の平をパンパンと払う。


ショウタを連想させる物など、どんな些細なものでも全て排除したかった。

これ以上1秒たりともシオリがショウタを想わないよう、そのキッカケに

なるものは全て。

 

 

 

 『青りんごなんか、もう要らないんだよ・・・。』

 

 

 

低く冷酷な声色が、誰もいない薄暗い廃棄室に響いていた。

 

 

 


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