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■第11話 飛んだ理性



 

 

『な・・・』 ”なんだよ? ”と言い掛けたショウタの唇が、覆いかぶさって

きたマヒロのやわらかい唇に甘く塞がれ遮られた。 

 

 

口許には熱い息がかかり、はむように唇をついばまれショウタは目を見張って

固まる。 


突然の衝撃に今現在なにが起こっているのか全く頭が追い付かない。 

一瞬されるがままにマヒロの甘美な唇に陶酔しかけて、慌ててその細い体を

引き離そうとするも、ショウタの背中に首にしっかり廻したその細い腕は、

離れることを拒み続け、離そうとすればするほど更に更に力を込めしがみ付く。

 

 

『ちょ!!!』 なんとか唇を離し、困り果てた情けない顔でマヒロを見た

ショウタ。


不意の出来事に頭はショート寸前。熱を帯びた心臓が超特急でバクバクと高鳴る。

思わずベッド脇の壁までズリズリと尻を擦って後退り、真っ赤な顔をして高速の

瞬きを繰り返す。

 

 

マヒロもまた泣きそうな真っ赤な顔を向けて、濡れた唇をぎゅっと物哀しげに

つぐんだ。


そして、まっすぐショウタを潤んだ目で見眇めたまま、ベッドの布団の上を

膝立ちでジリジリと進み、壁に背を預けそれ以上逃げられないショウタへ

再び強く抱き付いた。

マヒロの細い体に、ショウタの広い胸から打つ高速の鼓動がいとも簡単に伝わる。

 

 

そして、小さく小さく震えながら呟いた。

 

 

 

 『・・・・・・・・・・あたしは、いいよ・・・。』

 

 

 

”ホヅミさんの代わりでも ”と言い掛けてその部分はどうしても言えなかった。

 

 

 

 

  代わりで良い訳ない。


  良い訳なんかない。

 

 

 

 

でも、それでもどうしても、ショウタを独り占めにしたかった。


好きで好きでどうしようなく好きで仕方がない。

こんなに好きなのに、ショウタは決して自分を見てはくれない。

今ショウタの一番近くにいるのは、シオリではなく自分なのに。


どんどんマヒロの瞳に込み上げ溢れる涙。 ぎゅっと抱き付き顔をうずめられた

ショウタの首筋に雫の冷えた感覚を感じる。

 

 

 

 『アンタが・・・ 好きなんだってばぁ・・・。』

  

 

 

最初小さく震えていたマヒロの体は、次第にしゃくり上げ、遂に声を殺して

泣きじゃくった。


愛しく想う人への届かない想いは、誰よりも痛いほどショウタには分かる。

小さなマヒロの体から伝わる同じ痛みをその胸に感じ、ショウタが苦しげに

顔を歪めた。

 

 

 

 

  (ホヅミさん・・・ ホヅミさん・・・ ホヅミさん・・・。)

 

 

 

 

いまだ抱き付いたままのマヒロの華奢な体。 深く息を落とし目を閉じると

ぎゅっと抱きしめ返したショウタ。


間違っているのは分かっている。 

抱きしめ返したこの腕は、この心は、本当はマヒロではない別の人へ向けてのみ

想いを募らせているのは分かっている。

 

 

ショウタの腕にはじめて意思が芽生えた感覚に、マヒロが囁くようにもう一度

言った。


それは、小さく小さく。

まるで吐息のように熱を帯びて、ショウタの赤い左耳に響いた。

 

 

 

 『・・・・・・・・・いいよ。』

 

 

 

 

 

その瞬間、ショウタの理性が飛んだ。

 

 

マヒロの細い体をベッドに押し倒すと、その大きな体で覆いかぶさる。


ショウタの熱をもった大きな手が、マヒロの手首をぎゅっと強く掴み押さえ

つけるもマヒロはそれに抵抗などしない。 乱暴に唇を重ね、互いの燃える

ような舌先の感触に狂ったようにそれを絡め合う。 濡れた唇を離しマヒロの

健康的に日焼けした首筋に、喉に、鎖骨に何度も何度も唇を舌を這わせるショウタ。 

 

 

マヒロの甘い吐息にショウタの荒い呼吸が混ざって漂う。 ふたりの周りの空気

だけ不埒で湿ったものになり、遠慮がちだったベッドの軋む音は次第にタガが

外れてゆく。

 

 

キスをしたままゆっくりと、ショウタの指先がマヒロのケープデザインの

フェミニンなシフォンブラウスの前ボタンをはずそうと静かに当てがった、

その時。

 

 

 

 『ショウタァァァアアアアアア!!!』

 

 

 

階下から名を呼ぶ母ミヨコの声がした。


その地響きのような濁声に、まるで夢の中にいたような虚ろだったショウタの

目が一瞬のうちに正気に戻る。 

そして、慌てて体を起こしマヒロの体から離れるとバツが悪そうに目を逸らした。


呆然とベッド脇に立ち尽くしたまま決してマヒロを見ようとはしない、

その情けなく垂れたショウタの目。 後悔の色がありありと滲んでいるのが

見て取れる。 

濡れた唇を手の甲で何度もぬぐい、その口許は真っ赤になってゆく。

 

 

『ご、ごめん・・・。』 まるで泣き出しそうな不安定な声色でそう呟き、

階下の母の元へ部屋を飛び出して行く心許ない背中。


その目は結局、一度もマヒロを振り返らなかった。

 

 

 

マヒロはベッドにひとり横たわったまま、呆然と天井の継ぎ目を見つめていた。


その首筋に残った、ショウタが付けたジンジンと熱をもつ赤い痕にそっと手を

当てる。

ゆっくり瞬きをすると、瞳から溢れた透明な雫が目尻から幾筋も幾筋も流れる。

 

 

『 ”ごめん ”って、なによ・・・ バカ・・・。』ふと顔を横に向けたマヒロ。

大粒の涙は目頭からも溢れ鼻根を伝って、ショウタのくたびれた枕に小さな跡を

落とす。

 

 

 

トリコロールカラーの毛糸がほつれかかったヨレヨレのマフラーが、大切そうに

宝物のように枕元に置かれていた。

  

 

 


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