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■第10話 憂う横顔

 

 

 

店先に立ちながらも、心此処に在らずといった面持ちの一日だったショウタ。

 

 

マヒロから聞かされた ”シオリの現状 ”が頭から離れず、無意識のうちに

ただただその口からは深い溜息が落ちるのみだった。

 

 

 

 

  (もういい加減、諦めなきゃ・・・


   ホヅミさんが幸せなら、それで・・・ それでいい・・・。)

 

 

 

 

ショウタを傷つけたことに傷付いたマヒロもまた、店先で俯きその不器用で

正直すぎる背中に小さく視線を向けていた。

 

 

その夜は、母ミヨコに誘われてヤスムラ家で夕飯をご馳走になったマヒロ。


正直気は進まなかったのだが、それでもショウタの傍にいたいという気持ちが

勝って狭い居間のこたつテーブルにヤスムラ一家と共に顔を並べた。

 

 

食後にはミヨコと並んで台所に立ち、食器洗いを手伝っていた。

 

 

 

 『ねぇ、おばちゃん・・・ 


  ・・・ショウタってさ・・・。』

 

 

 

シオリのことを言い掛けて止め、マヒロは口をつぐんだ。


お皿の水気を布巾で拭きながら、何か考え込むようにその手はピタリと止まる。

寂しそうに肩を落とし目を伏せるその横顔を、ミヨコはチラっと横目で見つめ

哀しげに微笑みかける。


息子ショウタがいまだにシオリのことを想っている事に気付いていたミヨコ。

そして、マヒロがショウタに想いを寄せてくれている事も切ない程感じていた。

 

 

 

 『・・・ありがとね、マヒロちゃん・・・。』

 

 

 

そう小さく呟いてマヒロの手から布巾と皿を受け取った。

ミヨコをじっと見つめるマヒロの切れ長の目が、ほんの少し滲んで揺らいだ。

 

 

 

 

マヒロは2階のショウタの自室へ向かう。


夕食後さっさとひとりで自分の部屋へ戻ってゆくショウタの背中を、マヒロは

じっと見つめていた。 

マヒロが一緒に食卓についている事にも気付いていなかった様な憂うその横顔。

 

 

階段を静かに上がりドア前で立ち止まると、呼び掛ける。『ショーター・・・』

 

 

その声に、『・・・ん。』

ショウタの手によりドアが開けられ、”入れば? ”という無言の視線が投げられる。


ベッドに横になってマンガを読んでいたようだ。 読んだ箇所で開きっ放しに

なって布団の上に置かれた週刊マンガ。 部屋着に着替えたその姿はくたくたの

スウェットを履きヨレヨレのTシャツを着て、飾る様子など全く見当たらない。

 

 

 

 『アンタさー・・・


  ”女性 ”がいるんだから、少しはマシな格好したら~?』

 

 

 

マヒロが自分を指さし ”女性 ”と、再度強調する。

 

 

 

 『なにが ”女性 ”だ。 ただのセリザワだろーが。』

 

 

 

ベッドに浅く腰掛け、再びマンガ本を開いて目を落とすショウタ。

マヒロを異性として意識などしていないことは火を見るよりも明らかな様子。


そして、分かり易く全くマンガに集中など出来ていないその横顔。 その証拠に

ページは一向に次に進もうとはしない。 ただただ虚ろな目で視線を落として

いるだけだった。

 

 

部屋の沓摺で留まっていたマヒロが少しムっとしてツカツカと部屋内に進む。

 

 

 

 

  (またホヅミさんのこと、考えてるんだ・・・。)

 

 

 

 

そして、人ひとり分の間隔を空けてショウタの隣に座る。

腰掛けたふたり分の重みでベッドが少し沈んで、軋む音が小さく部屋に響いた。

 

 

それでもショウタはそんなマヒロを気にもせず、そのページの端をゴツゴツした

指先で掴んだまま、それをめくる気配もない。


その時、マヒロの耳にショウタの哀しげな小さな小さな溜息が聴こえた。

 

 

 

 『・・・・・・。』

 

 

 

イライラした面持ちで、マヒロがショウタの手からマンガ本を取り上げた。

突然視界から消えたそれに、ショウタはパチパチと瞬きを繰り返し驚いた声色で言う。

 

 

 

 『な、なんだよ?』

 

 

 

すると、ぎゅっと口をつぐんだマヒロがショウタを鋭く睨む。

その目は、怒っているようで、哀しんでいるようで、駄々を捏ねるこどもの様で。

 

 

 

 

  (バカっ!!!!!)

 

 

 

 

マヒロは両手を伸ばし思い切り力を込め、ショウタのたくましい肩を叩き付ける

ように乱暴に後方に押した。

 

 

ショウタは、そのままベッドに押し倒され仰向けにされた。

 

 

 

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