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天使降臨 橘楓が見た葵渚

日曜はほんとうにゆっくりできる。朝から寝坊も大丈夫だし、とりたててやる事もない。スーパーをまわったりホームセンターをまわったりするのも飽きてきたし、まあ、家の掃除が問題といえば問題だけど、最早僕にはどうすることもできない領域にまで事態は進行している。

雑多な事を忘れてこうして街を散歩するのは僕にとって次の仕事のアイデアを生む大切な時間だ。

休日の家々の前を通り、その街に住む人々の生活を眺める。そうしてると結構いいアイデアが浮かぶ。


そうやってのんびり歩いていると女の子が一人頭を抱えている。地図らしきメモを見たり周りを見たり。

あぁ、道に迷ったんだな。僕は2年もこの街に住んでいる、その間暇があればこうして散歩してるので、大体どこに何があるのか把握している。大体この街は道が複雑すぎる。元々田舎町だったので道路の整備が悪く曲がりくねった道が多かった、そこにたくさんの人が流入してきて区画整理も行われないまま家が立ち並んでいったのだ。計画的に整理された区画は中心部だけであとは流されるままに開発されたツケだろう。


休日の昼間ではこのあたりは人もあまり通らない、誰も助けがないのもかわいそうだ。


「どうかしたの?」


振り向いた彼女は本当にかわいい子だった、肩までも伸びてないショートカットの髪をなびかせてぱっちりした瞳を見ると引き込まれそうだ。


「道に迷ってしまったらしいのです。」


らしいは要らないでしょ? 明らかに迷ってるでしょ? そう心で突っ込み、口にも出してしまった。


「他人事みたいな言い方。」


迷うようではその地図もたいして役にならないような物なんだろうな、でも、僕が見ればなにかわかるかもしれない。そう思って手を差し出す。渡された地図を見て・・・なんじゃこれ? 道しか書いてない起点は? 目標物は? 目的地は?


「あぁ、これじゃ迷うね。」


彼女がキョトンとした表情で僕を見る、いや、これじゃ僕でも案内はできないって。


「まず目標になる物が全くない、角に目印になるような物を記しておけば迷わずに済むよ。」


「なるほど・・・今度からそうします。」


感心したように僕の意見に同意しているけど、そもそも彼女は地図を頼りに出歩くことのなかった人なのだろう、つまりはこちらに越してきたばかり、新入生だな。


「住所はわかる? わからなければ交番に送るけど。」


そう聞くと彼女は聞きなれた住所を教えてくれた。え? そこって・・・。


生駒寮。そこは僕も押し込まれるはずの場所だった。性同一性障害の患者で性転換をする予定の子を収容する寮。そう、僕は外見的に男の格好をしているが、実際は女だ。でもそこで同じ傷を舐め合うように暮らすのはまっぴらだ。幸いなことに僕は入寮を拒否できるだけの資金があり、生活費にも苦労しない。近くの新築分譲住宅を買い、家政婦さんを雇って検診などは病院で受けていた。


生駒寮に入るということは、このかわいい子は本当は男の子ということか・・・。

信じられないほどかわいい。見た目もそうだが話をすればその内面も窺い知れる。彼は・・・いや、彼女は正真正銘、まったく疑う余地がないほど女の子だ。それも僕が惚れてしまいそうな。


彼女を寮まで連れて行くと、彼女は律儀にお礼を言っている。でも、そこに下心のような気持ちもあったので僕はバツが悪くてそそくさと退散してしまった。

あ、名前だけでも聞いておけばよかったかな・・・後の祭りだ。病院に行ったり、資金源に行ったりで忙しく、あまり学校に顔を出せないのだから、同じ学年でも見つけにくいのでは? と思ったり・・・。



そして入学式の日。午後は会議が予定されてる、それまでには終わるだろうけど、クラス会が始めるまでには戻れそうにないな。

病院での検査を終えて学校に向かうが、今日はちょっと遅れてしまった。

教室の前まで行くと、やはり生徒が自己紹介してる、最早中盤に差し掛かってるかな? あれ? 先生は荻先? 中学から同じって、まあ僕の事知ってる先生なら気兼ねがなくていいか。教室に入る。


「すみません、遅れました。」


クラスの連中は猛者揃い。誰もこっちを見もしない。いや、一人・・・同じクラスだった。高校生活が俄然楽しみになってきたな。でも彼女の自己紹介は済んでるようだ。自分の席に戻り、パソコンを開く。

このクラスにはクラスサーバーがあって、ここでパソコンをネットに繋げると各自の公開可能な情報は見られる。葵渚・・・まあ葵さんと呼ぶべきだろうな。そう思ってパソコンを閉じようとすると音もなく小さな窓が開く、会社の指示待ちか・・・それを処理するとまた別の・・・結局クラスメイトの自己紹介はほとんど聞けない。



「葵!これを渡しておく。大事に使えよ。」


荻先が葵さんの名前を呼んで僕も反応してしまう、あ、クラス会は終わったのか、よし、早速葵さんに話をしに行こう。そう思った矢先、川本真琴が話しかけてる。あぁ、あいつはそんなやつだったな・・・しかたなく終わるのを待ってる。

あまり川本に興味がないのか? それとも警戒? 葵さんを見てると昨日と印象が全然違う。何かあったのかな? 寮で? 色々思案するが、さっぱりワカラン。判らなきゃ聞けばいいか、お、川本が退散した。

立ち上がりながらも彼女を見ていたが、かなり不思議な・・・なにか気を落としたようになったかと思うと握りこぶしを作っている。かと思えばまた落ち込んでるように・・・なんだか面白い。思わず笑みがこぼれる。彼女に僕の笑い声が聞こえてしまったようだ、いきなり睨まれる。でも、その顔ですら微笑ましいくらいかわいく思えるのは、僕が既に彼女に恋してしまっているのかもしれない。彼女は再び俯いてしまった。


「あがり症?」


「違います。」


「昨日とだいぶ違った印象なんだけど。」


そう聞くと彼女がこっちに顔を向ける。その瞳にうっすら涙を浮かべている。悪い聞き方しちゃったかな?


「昨日が特別だったんです。普段はこんな風です。」


僕と会えたのが特別? そんな風に思ってすぐ諌める。勝手に良いように受け取ってはイカンだろう。いつも良いように受け取って、後で悲しむのは自分だぞ! ちゃんと聞いたほうがいい。


「新しい生活に新しい環境でしたので。気持ちも少し浮ついてました。」


やっぱそんなもんだろうな、ちょっとがっかりだが僕の印象というのもなんだか言いたいな、昨日の彼女は本当に魅力的だったし、なにより彼女は昨日の笑顔のほうが良い。


「なるほど、昨日の君なら学園のアイドルでも目指せそうだったから、ちょっと不安だったけど。」


「なんですか? アイドルって。」


「いや、よくテレビとかにあるじゃん。実際にはありえないような設定。あるとすれば昨日の君はその資格ありだと思ってたんだよ。」


「へ・変な事言わないでください。」


「変じゃないよ、君の笑顔すごく綺麗だしかわいかった。」


「な・・・。」


あ、赤くなってる、それもかわいいけど、なんだろう? 表情が褒められて喜んでるようなのじゃない・・・。


「用事があるので失礼します!」


あれ? 怒らせちゃった?・・・僕の体は女なのに、やっぱり女の子の気持ちはわからない・・・。

と、会議まで時間がない、すぐに出ないと・・・。




次の日は会議の後処理とかで学校に行けなかった、おまけに深夜まで作業に追われてしまった。

おかげでその次の日は寝坊してしまい、2限から学校に出る、ずっと彼女を見てたけど、彼女は川本以外の人とほとんど話をしてないようだ、いや、川本とも話すというのと何か違う。人と話すのはあまり好きじゃないのかな? 僕にあれから話しかけてくれないのもそのため? 嫌われたからとは思いたくない。

お昼前、会社からメールが届く。取引を始めようと画策していた会社の社長が会いにきてくれるそうだ、本来こっちが出向く立場なのに。13時までに会社に行かないとな。ちょうどみんなお昼に移動した。僕も出かけるか、席を立つと。


「いただきます。」


彼女が一人でお弁当を開いている、見るととてもおいしそうだ。生駒寮ではあんなにおいしそうなお弁当も作ってもらえるのか? ちょっと後悔して聞いてみる。驚かれたけど彼女の答えを聞いてこっちが驚かされる。このおいしそうなお弁当どころか、普段の食事すら自分で作ってるらしい。あぁ、僕も食べてみたい。物は試しでお願いしてみたらあっさり断られた、しかもちょっとお怒りモード。言い方が悪かったかな?

がっくりしながら会社に向かう。こんな気持ちじゃ纏められるか不安だよ。まあ、結局その日は纏まらなかったけど、なんとか次に繋げることだけは成功した。


翌日の金曜日、病院の検査で3限くらいまで潰れた、寮の子は毎日ちゃんときてる。やっぱり寮に入ったほうがよかったのかな? 彼女にも会えるし。そんな事を考えながら教室に入ると川本が手招きしてる。


「なに? どうかした?」


「葵さんのバイト先が潰れてたんだって、あなた何か紹介できない?」


そう聞いた途端自分の家の惨状を思い出す。僕では無理だけど、彼女なら。でも、あれ見て嫌われるのも嫌だな・・・そんな心の葛藤とは別に言葉が出てしまう。


「そりゃ渡りに船だ。ちょうどいい仕事があるけど、やる?」


「是非。」


即答で答えてくれたが、ここで先生が来てしまう。詳しいことはお昼にするしかないな・・・。

そう伝えて席に着く。お昼になると彼女はすぐに来てくれた、あの寮に住んでいてバイトが必要な子は結構いると聞いたことがある、僕のように家を追い出されているならなお更だろう。彼女もそういった経緯なのかな? 実際の作業に必要なことが出来るかの確認をして内容を伝える。伝えたところで彼女が固まってしまった。あやや、やっぱダメかな?

ところがそんなときに限って緊急メールがくる。先日の社長が来てるらしい。


「ごめん、ちょっと急用ができた。明日の8時に迎えにいくから。」


それだけ言って会社へと向かう。どうも時間が伝わっていない気がする・・・。ちょっと早めに行って待つとするか、明日は学校ないし。それに寮母さんや学校にも色々言わないとダメだな、この学校は生徒のバイトを把握してるから、彼女に無断バイトをさせるわけにもいかないだろ。

会社で社長との面会を終えて学校や寮にも色々手配しておいた。



次の日、彼女を待つなら何の苦もないと7時に寮の前についた。まあ、伝えた8時になっても出てこなければ、寮母さんに起こしてもらうのも手だな。とか思っていたら20分には彼女が出てきた。色々恐縮していたが、僕がちゃんとしてなかったための不手際だ、何も責められないし、なにより彼女といるというだけで楽しいので全然オッケー。ただ、昨日の心の葛藤はいまだ継続中だ。


一応迷わないように道々の目印を教えながら家に着く。心の葛藤には彼女がそんな狭量じゃないと勝手に思い込むことと、家に入る前に警告しておくことで決着をつけておいた。

家に入るとやっぱり彼女が不快そうな顔をしてる。凄く後悔してしまったがありのままの自分を見てもらうのだ。と自分に言い聞かせる。そして魔の巣窟へ。やっぱり呆れられたんだろう、でも掃除道具を聞かれた。ちゃんと引き受けてくれるようだ。これで肩の荷が下りたように思う。呼んでおいたタクシーに乗り込み、通いなれたホームセンターに。

あの汚部屋を掃除するなら機械にも頼ったほうがいいな。内心興味のあった物も買い、家に戻る。

僕は彼女に指示に従い、力仕事を受け持つ。実際は逆だというのは知っているが、たとえ体が女でも僕は男だ。当然だろ? 庭にゴミを整理してる合間にお昼の出前を頼んでおく。買い物に行ったりしてたからすでにお腹も減ってきたし。こんな環境下ではおいしくもないだろうけど、背に腹は変えられないといったところか。

普通食後はペースが落ちたりするものだが、彼女にそんな様子はない、責任感もあって効率もいい。やはり見た目だけじゃなく凄くいい人なんだなと思う。これで惚れるなというのが無理ってもんだ。


この汚部屋の名誉を挽回したいな。そこで名案が浮かぶ。明日もきてもらうのだから、作業服を買おう。ついでにかわいい服も。それから夕食も奢っちゃおう、店はいつものあそこでいいとして。あ、でもこのままの服では。あ、買った服を着てもらえばいいか、それならお風呂に入れるようにして、よしお風呂を掃除!

彼女のことになると色々名案がするする出てくる。

お風呂の掃除を終え、自動運転のスイッチを入れる。これでいつでも入れるようになる。


リビングに戻ると綺麗に片付いていた。風呂掃除の途中で呼んでおいたタクシーに乗り込み、前に家政婦さんに教えてもらった服飾品店に入り、目的の物を買う。そのまま家に戻るんだけど、さすがに無言だとおかしい。気の利いた話でもできればいいが、僕には無理だ、結局仕事の話になってしまう。

家に着いて彼女にお風呂に入って服を着替え、食事に行こうと誘う、彼女がお風呂に入ってる間、僕は家にいないほうが彼女も安心して入れるだろう。どうせ会社に取りに行きたい物もあるし。


戻ると彼女はすでに着替えて玄関に出てくるところだった、早速出かけようとすると、彼女は。


「いえ、今日はこのままお暇しようかと・・・。」


え? 帰っちゃう? もう少し話を聞きたい、もう少し一緒にいたい。咄嗟に出た言葉が。


「いや、もうひとつ重要な話があってね。」


あぁ、これじゃパワハラだ!

それほど重要な話なんてない、ただもうちょっと一緒に居たかった、それだけだ。

食事をしながら、始めは会話になってたが{なってたかな?}後半は僕ばかり話してた気がする。

もっと彼女のことが知りたい、彼女の話が聞きたい。

明日はもっと話しながら掃除をしようと決心していた。



はずなのに、朝から彼女に戦力外通達が出てしまう。うう、しかたなく溜まってる書類に目を通す。

しばらくすると仕事部屋に彼女がやってきた、お掃除しますよ~。の姿だ。この部屋はちょっと色々あるので掃除のしかたも違う。一応の指示をしていると時計が目に付く。そういえば彼女の手料理を食べれるチャンスじゃないか! でも仕事を放って彼女と食料の買出しに行っては無責任に見られるかもしれない。昨日のような大儀名分がないし。一緒に買い物は楽しいのだけどね・・・しかたない、彼女に財布だけ渡して食料を買ってきてもらおう。

そう思って彼女に財布を渡す。彼女は了解の意を示して部屋を出て行った。が、すぐに戻ってくる。


「すみません、こんなに持つと怖くて外を歩けません。」


え? それほど入ってはいないけど・・・ここまできてやっと大義名分を見つける。そうだ、彼女は迷いやすいんだ。それを盾に一緒に行けばいいじゃないか。嬉々として一緒に出かける。

スーパーでも色々と話をしたり一緒に歩いたり、こんななんでもない日常が楽しく思えるなんて。


帰って彼女は料理を始める。料理は僕では足手まといだ。また仕事部屋に戻りざっと目を通す。

ほどなくして彼女が呼びにくる。ダイニングに来ると食卓にはおかずが3品に味噌汁。この短時間でこれほど手間そうなおかずを作って・・・しかもどれも凄くおいしい。

かわいくて家事は的確、料理もおいしい。頼ってくれるときの仕草もなんともいえない。

これ以上何を望めばいい? 僕は理想の妻像を彼女に重ねてしまった。



数日が過ぎ、僕は彼女の手料理{しかもめっちゃおいしい}を毎日食べられて幸せな気分で過ごせた。

昨夜は妹から電話がかかってきてた、そんなつもりはなかったのだが知らずに彼女のことばかり話していたらしい。電話の向こうで怒ってる姿が目に浮かぶ。取り繕うのにえらく時間がかかってしまい、寝付くのは3時過ぎだったと思う。


朝、緊急メールが届く、が昨夜は遅くまで起きていたためそれに気付くことができなかった。件の社長が来てたという物だったが、僕が会社に着いたときにはすでに怒って帰ってしまった後だった。

はあ、あれだけ色々手を尽くしたのに、全部無駄になったか・・・。


時計を見るとまだ午前中の授業に間に合いそうだ、彼女は毎朝うちに来てる。そのとき起こしてもらえばこんな失敗繰り返さないで済むかもな・・・。

彼女に起こしてもらう? 一日の始まり、最初に会う人が彼女・・・いい! それすっげぇいい!

思いついた途端、僕は学校に向かって走っていた。


学校でそのことを彼女に頼むと快く引き受けてくれた。毎日家に帰るのも楽しみだったけど、朝まで楽しみになってきた。

つい微笑んでしまうが、すぐまた会社に戻って経費報告を聞かないといけない。結果は予想を上回って結構キツイ物だったが、それが結果ならもう動かしようもない。私事では充実してるけど、仕事で大きいミス。男なら多少へこむ場面だよな・・・。

家に戻る。恐らく彼女はもう寮に戻っているだろう。彼女の家事のスピードはかなりのものだ。家に帰っても彼女がいないんじゃ、なんだか気力も抜けてく。玄関に座り込む。さて、どうやって取り戻せば・・・。

色々思案してみるが、なんだか考えが纏まらないな・・・。


「どうかしたのですか?」


突然後ろから声をかけれて驚く、いや、そんなはず・・・もう寮に帰っていたんじゃ・・・・・あぁ、通常モードってやつなのかな? 仕事量は減ってる、時間的余裕もある、ならば取り立てて急ぐ必要もないわけだ。

少し話をしてたら、ちょっと時間に遅れただけで怒った社長の度量の狭さというのに気付いた。そうだ、何も今日来るなんて連絡はなかった。それなのにあの態度は・・・うん、あそこは切り捨てていい相手だ。

それよりちょっと彼女と話をするだけで、こんなに気分が晴れる。もう彼女は僕にかけがえのない人になっていた。それから少し仕事を片付けていたら夕食に呼ばれた。なんでだ? いつもおいしい、なのに今日は2割り増しくらいにおいしい。彼女は出来たてだからというが、ならばいつも出来たてが食べたいと思ってしまう。そう頼んでみようかな?

でも、やはり彼女は家政婦という立場なのだ、別に僕を好いてくれて食事の世話をしてくれているわけではない。彼女には彼女の生活もある。それを僕にくれなど・・・言いたいけど・・・。


そうだ、彼女は性転換のためにココに来てる。もしかしたら実家の方に決まった相手がいる可能性もある。いや、彼女ならいて当たり前だ。ちょっと暗くなる。

その夜、また妹から電話がきた。僕は暗い気持ちから妹に弱音を吐いてしまった。今までの彼女との係わりや最近の動向とか、色々聞かれた。妹は最後に「私もその人に会って文句がいいたいから、日曜に行く」と。ちょ、それはダメだろ。あわてた僕に妹はアドバイスと言って。それを口実に彼女と出かければいい。そう告げたのだ。あ、それ採用。


土曜、朝うちにきた彼女を拉致して水族館に行く。同じものを見ても僕と違う感想を持つ彼女にどんどん惹かれていくのがわかる。もう確かめずにいられない。幸いそんな雰囲気の話に誘導できた。彼女は特定の相手はいない。と言ってる。期待できるのかな?

次の日、彼女に起こされると妹ももう来てた。なんとか会わせないでおく方法を考えていたのに・・・。

妹は僕が特定の相手を作ることに否定的だったというのもある。ところが彼女の作った朝食を食べるとその態度は逆転。絶対逃がすな! とかめちゃくちゃだ。妹をこうも変貌させるなんて・・・。


それから何日か経ったある日、珍しく朝から学校にくると教室がえらい静かだ。そっと入るとその瞬間教室がざわめく。


「それって、ほとんど付き合ってるみたいなもんじゃないの?」


声のほうに目がいってそのまま釘付けになる、彼女と川本さんが修羅場のような感じだ。よく聞いてみるとどうもうちに来てるのがバイトだから・・・みたいな? 当事者をのけ者にして、なんだと思ったとき。


「だいいち私、橘くんなんて好きじゃないです。1-Cの佐々木くんのほうがずっと素敵です。」


思考が停止した。そうだ、僕は彼女が好きだ、でも彼女は僕をどう思ってるかなんて知らない。聞いてなかった。佐々木ってのが誰かは覚えがない。でも、彼女にはそいつの方が素敵だと・・・・。

ショックだ。告白する前に振られた気分だ。なんだか惨めな気持ちだ。

思考が戻ってきたときにはこのバイトが学園を通してあるか? の質問になった。もちろん話してあるさ。

すると今度は委員長が否定的なことを言う。この惨めな男に、更に今の幸福すら取り上げようというのか?

委員長を退ける。そこまでできたが、僕の心はすでに暗雲の中だった。


それから数日。家に帰ると夕食がない・・・佐々木とかいうやつと? 絶望的な気持ちだ。

翌日学校で川本に聞いた、彼女は川本とは話をしていた。


「実家に帰ったそうよ。」


目の前が真っ暗になった。

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