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ジェシー、あなた何者?

僕の気持ちは彼女に伝えた。

返ってきた答えは拒否だったけど、問題ない、満足してる。


「嘘だな。」


伝え方が悪かった? もっと彼女の立場も考えるべきだった?

いや、そもそも僕は彼女を騙していたんだ。本当は男じゃないのに、さも男のように振舞っていた。

もっと早く、彼女と出会ってすぐにでも明かすべきだった。


全て過ぎた事、もうどうしようもない。諦める以外に選択肢はない。判ってる。判ってるのに・・・。

諦める以外に選択肢を探してしまう。何か、何かないのか? 方法は? 手段は? あるはずだ、どこかに抜け道があるはずだ。それは蜘蛛の糸のように細く、見えないだけで必ずある。絶対ある!

本当になければ僕は人生を終了させてしまいそうだ・・・

探せ! 探せ! なければ作れ! もう僕にはそれしかないのだから。



そう結論を出すのに2日もかかってしまった。明日からはずっと彼女を見るんだ、観察して糸口を見つける。必ず見つける。死んでも見つける。

揺るぎのない決意を込めて学校に向かう。なんだか教室が騒がしい。なんだろう?

入るとすぐ理解できた。金髪碧眼色白の美少女が彼女の隣にいる。そんな美少女に人が集まり人だかりになっている。彼女もその人だかりの中だ。近づけない・・・。

難しいけど、話をして会話の中に糸口を見つけよう。その目論見は容易く崩れた。人だかりの消えた授業中しか彼女を見ることすらできない。


2~3日で人だかりも消えるだろうと踏んでいたのだが、一向にその気配すら見せない。男女問わず必ず人だかりになっている。

一週間過ぎれば、10日過ぎれば。虚しく希望は砕かれ続けた。そしてとうとう終業式。


明日からは夏休みだ。彼女のバイト先は分かってる。行けば会うくらい問題ない。だが話をしようとしても「仕事中ですので。」と無下にされるのは目に見えてる。そして行き帰りには取り巻きのように金髪碧眼の少女が寄り添ってる。全く隙がない。

やっぱり寮に行くしかないのかな? 僕は条件を満たしてる。部屋もある。問題なく寮に住めるのだ。でもそれはしなかった。入寮しなかった理由まで嘘にしたくなかったからだ。


八方塞だ。解決策も打開策も全然見えない。やっぱり諦める他ないのだろうか?

 だめだ! 絶対諦めるなんてしない! 僕には本当に彼女しかいないのだから。




「話があるんだけど。」


終業式のあと、川本が僕に言ってきた。何か彼女の情報が得られるかも? 少し期待しながら彼女に従う。

屋上への出口の前、ほとんど人のいない場所で川本が聞いてきた。


「なぜあなたはまだ渚を見てるの?」


? 何を聞かれた? 僕が彼女を見てる理由? 決まってる。


「言う必要を感じないけど、彼女を愛してるからだよ。」


「! 彼女じゃない! 彼よ!」


「それが?」


「・・・・・・・・・・」


川本が呆然としてる。それが聞きたかっただけなのかな? 益はなかった・・・


「それだけならもう行くよ。」


「きなの。」


「え?」


「あなたが好きなの!」


あぁ、今川本の行動の意味が理解できた。でも、同じような事を伝えておこう。


「僕が私でも?」


「え?」




教室に戻ると既に彼女達の姿はなかった。バイト先に移動したのだろう。僕もそれに続こうと学校を出る。

最初の角を曲がったところでお邪魔虫に呼ばれた。


「ハ~イタチバナサン。」


コレがここにいるのなら、彼女は今一人だ。僕は走り出そうとしたとき、後ろの襟を引っ張られる。


「ぐえ!」


「ツレナイデスナー。」


尻餅をついて後ろに倒れた。そして僕の腰のあたりを跨ぐようにこいつが立つ。


「悪いが急いでる、どいてくれないか。」


こいつの所為でこうなったのだ、本当なら文句の一つも言いたいが、今はそんなことどうでもいい。早く彼女のところへ。でも、起き上がろうとするところにこいつがいては起き上がることもできない。

ところがこいつは更に僕のお腹に膝を落とす。「ぐが!」 小さな体の少女と言っても人一人分の体重をお腹に落とされては声も出るぞ!


「な・なにをする!」


「フ・フ~ン。ソンナコトイッテイイデスカ?」


さすがにここまでされて、しかも聞き取りにくいカタコト言葉にいらつく。だが、やはりこいつがどかないことには起き上がることもできない。なのにこいつは更に僕の額に指を押し付ける。


「私は別にあなたのことなんか、好きでもなんでもないんですよ。ただ、渚も強情なんですよね~。」


そうだ、こいつは最近ずっと彼女と一緒にいる。あまり彼女と話をしてるところは見ないが、あれだけ一緒にいて全く話をしないとは考えにくい。なら僕の事もなにかしら聞いててもおかしくはない。ならばこいつから糸口を探すのも一つの方法なのでは? そうは思うのだが、ここまでされて謙る気持ちなど微塵も感じるわけがないだろう!


「あなたが「始祖様助けてください」と言えばキューピットくらいしてあげるよ。」


「な! 上段に構えるのもいい加減に・・・・・始祖?」


「あ、間違い。ジェシカ様で。」


「・・・つまり、僕に話があるんだな。」


「ふふん、腐っても社長か、まあいいだろう。私はおまえなどどうなろうと知った事でもないのだがな。」


「じゃ、まずこの体勢をなんとかしてくれないか?」


近くの大きな公園に場所を移した。早く彼女のところに行きたいところだが、こいつの話も聞くだけの価値はありそうに思えたのだ。公園につくなりクレープを買えだの、ジュースを買って来いだの。暴虐武人ぶりに腹もたつが、ここはガマンしておこう。これで無価値な情報しかなければ社会的に抹殺してやる。


「まず、お前は渚の両親を知っておるだろう。」


「いや、知らない。」


「ふん、繋がってないだけだ、渚の両親は富山は魚津の有名な料亭を経営しとる。そこまで言えば分かるだろう。」


「藍亭?」


「そうだ。」


え? じいちゃんによく連れて行かれたあの料亭が彼女の実家? 初耳だ。というか、それじゃ彼女にも会った可能性があるのか? そう思うとなんだか運命的なものを感じる。


「あそこの主人に会った事もあるだろう。どう思った?」


「あ、僕が料理されるのかと思った。」


こいつは大きく笑いながら涙を流してうんうんと頷く。


「あの主人の欠点でな、子供が大好きなんだよ。なのにあそこには渚が一人っ子となっとる。まあ母親が流産してしかたなくそうなったのだが・・・渚はそんな両親が大好きなのだよ。わかるか?」


「あぁ、それはわかる。」


彼女はそうだろう、たとえ性転換するというのが両親に受け入れてもらえないとしても、彼女なら納得してもらえるまで説得するだろう。賛成とまではいかないまでも僕のように絶縁されても、などとは考えたりしない。彼女はそうゆう人だと思える。


「わかっとらんな。」


な? それは分かると言っただろうが! なにが分かってないと言うんだ! ちょっとムカッとした。


「お前程度ではないと言う意味だ。渚は好きな両親に孫を抱かせるという夢を諦めさせる事ができると思うか?」


「孫?」


「性転換した人間は生殖能力を失う。それは子供好きな両親に受け入れられることではあるまい。ならば渚ならどうすると思う?」


「・・・・」


そうだ、彼女は両親に孫の顔を見せたいだろう。でも、それが自分にできないとしたら・・・どうするつもりなんだ?・・・そこは僕でも分からない問題だった。


「答えは結婚相手に浮気でもしてもらって、そこで出来た子を自分の子にする。というものだ。」


「な、そんな・・・そんなこと・・・・」


「お前としても理解はできるが納得はできんだろう。だが渚はそれしかないと思ってる。」


彼女にとって結婚とはなんだろう? 彼女自身、自分が生殖能力を失うということは許せない事なんだとその時初めて思い知った気がした。ならばなぜ性転換を? いや、そっちは僕でもわかる。コレはこれで自分を否定してる行為そのものだ。僕だって自分を男だと思ってる。でもまわりはそう思ってくれない。つまり自分は世界から否定された存在。そうなるのだ。


「だから渚はお前を拒絶した。浮気したところで浮気相手に子供を作らせる事のできないお前になど興味ないのだ。」


そうだ、僕も性転換を予定してる。そうして始めて男と認められる。でも、同時に僕も生殖能力を失う

彼女が子供を自分の子とするには他に方法がないと思っているのなら、僕ではダメなんだ・・・


「だが、渚はお前を拒絶しながらもお前を愛してるようだ。」


「え?」


「見とれんぞ、あのチグハグは。今に渚も壊れるだろう・・・・・だが、全て丸く収める方法があるとしたらどうする?」


「すべて?」


「簡単だ、生殖能力を手放さない性転換すればいい。」


おいおい、それが出来ればこんな苦労しないって。今の科学医術でも、魔法医学でも不可能なことなんだぞ。できるとしたら始祖様以外考えられない。・・・始祖様?


「さっき始祖様って・・・・」


「ふふふ、わかったか。私の偉大さが。ならばこいつとかこれとか思わずにジェシカ様と言え。」


ケラケラと笑う少女を見て。からかってるのか? とか思ってしまうのはしかたないよな?

でも、本当にこの少女が始祖様でそんな魔法が使えるのなら・・・

ココまでの話で僕と彼女が結婚して二人の間に子供ができるのなら。

本当に全て丸く収まる!


ならばなぜ今までそうしなかった? 確かに僕と彼女はそれで丸く収まる。だがそんなカップルなんてどこにでもいる。子供は欲しいが性転換して諦めるしかなかった人なんてどこにでもいる。

しかもそれを僕だけに話している・・・もしそれが本当だとしてもなにか裏がありそうだ。


「なにが目的だ?」


「ふ、そこまでたどり着いたか、物分りがよくて助かる。金だ。」


始祖様の名を語っての詐欺は結構ある。この少女はこの歳でそんな詐欺をしてるのか?


「詐欺じゃないぞ、触媒と設備が必要なんだ。」


僕が思ってることがわかるのか? しかし、本当に始祖様か? 証明などできないだろう?

そんな疑問にはお構いなしに話続ける。


「必要な物はリストアップ済みだ、これを購入するだけでいい。というか、もう発注済みだ、受け取るときに金だけ出しておいてくれ。」


「な! どれくらい要るんだよ!」


千三百万円。請求書にはそう書かれてた。


「おい! いくらなんでも・・・」


そりゃ僕だって社員50人程度の小さな会社を経営してる。それなりに収入もあるし蓄えもある。でもこんな金額ポンと出せるわけないだろ!

そう言おうとして顔を上げるとそこに少女の姿はなかった。注文した物のリストを見るとなにかの機械らしい物が一番大物でそれだけで九百万。あとは医薬品みたいな物のようだ。


本当にあの少女が始祖様で、この話が本当ならこのくらいの金額どうとも思わない。だが・・・

魔法協会。そこに行けば始祖様の情報も得られるのでは?

そう考えたが、たかが社員50人程度の、しかも高校生社長など、どれほどのステータスだというのだ?

門前払いが関の山だろう。あのカタコト外人少女を信じるしかないのか・・・

そう言えば途中から流暢に日本語で話してたような・・・




騙された!

そう思ってみるか、けしてはした金ではない、でも僕と彼女を結ぶ方法はそれ以外ない。

もし彼女と結ばれたなら、この金額でもはした金に思える。そう思えたから僕は金策に励んだ。

実家にもかけあった。恥も外聞のない。全ての人脈、全ての信用をフル活用して集めた。でも、目標には届かなかった。

あと3百万。それがどうしても足りなかった。これが今の僕の限界か・・・


リストを見る。機械の注文先が記入してあった。

ここに直談判してみるかな?でも、始祖様{仮}は金を払えと言った。設備と触媒とも言ってた。ならば医薬品は触媒。この機械は設備。どちらも必要なんだろう。

色々考えるが、もう手は尽くした。どうにもならない。絶望感が上がってくるようだ・・・

始祖様{仮}に聞いてみるか? でも、最後は魔法なんだから条件を満たしてないのならやってくれない可能性も否定できない・・・期限はあと3日・・・



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最近ジェシーがそわそわしてる。なにか心配事でもあるのでしょうか?

何を聞いても「別に」としか言わないのです。


相変わらず約束の事は思い出せずにいます。いいえ、約束自体は思い出せたのです。私の望みを叶える。そう約束したのは間違いないと思うのです。

でも、その私の望みというのが思い出せないでいるのです。


今だったら橘くんと結婚して、彼との間に子供ができたら。かな?


ありえません。そんな事ができたら、それは自然の摂理さえ揺るがすことではありませんか。世界の前提をも覆すことになってしまうのです。でも、夢見るくらいはいいですよね?


いいえ、それは夢でもなんでもありません、そんな事考えてはいけないのです。私は自らそんな道を蹴飛ばし、あまつさえ唾まで吐いた極悪人。どこにそれを夢と語る資格があるというのでしょう?

頭を振りながらおかしな考えを霧散させます。そうです、今はお仕事中なのです。いくらお客さんが少ないからと言って、こんな事考えているときではありません。


でも、やっぱり考えてしまうのです。私は橘くんを切り捨てたのです。もう取り返しもつきません。

でもあの告白のあと、田畑の中で繰り返した自問自答。私の気持ちはもう決まってました。何があろうとそれは絶対だったのです。あのあと彼に裏切られていた事を知りました。それでも変わらなかったのです。

あの裏切りはささいな事だったはずです。でももう一人の私が許してくれませんでした。


終わった話ですよね。もう終わったんです。何度も自分に言い聞かせます。そう、終わったんです。

なのになぜまた考えているのでしょう? 切り替えは得意だったはずなのに・・・



その日の仕事を終えてバックヤードの事務所にタイムカードを押しに行くと、店長さんが話しかけてきました。


「あ、渚ちゃん、明日からの休みなんとか手配できたからおっけーだよ。」


「・・・はい?」


「あれ? 違うの? ジェシカちゃんを京都に連れてくとかなんとか・・・ジェシカちゃんが渚ちゃんは忘れっぽいから私から言うようにといわれたとか。」


「あ・あぁ、アレですか、はい、よろしくお願いいたします。」


「じゃ、楽しんできなよ~。」



きっと私は仁王か阿修羅のような顔をしていたでしょう。顔どころか耳まで赤くなっているのは間違いありません。手がわなわなと震え、握った拳も赤を通り越して白くなってます。


「ジェシ~~~。」


今日と言う今日は絶対許さない! 泣かせてやる! そう思って外に出てもあの娘の姿は見えません。先に寮に逃げたな。色々な責め方を考えながら寮に向かって大股で歩いて帰ります。

そんなとき、後ろから聞きなれない言葉が聞こえました。振り向くとジェシーです。この!

まだ怒りの収まってない私がそのままの勢いで彼女に向かって行きます。行きます!

あれ? 体が動きません、気持ちではジェシーのこめかみに両拳をねじ込むのですが、彼女まであと数歩のところで体が硬直してしまいました。


ジェシーはにこりと笑って再びなにか聞きなれない事を呟いています。それが終わるとまるで私の体重が消え去ったかのように片手で軽々と持ち上げ、どこかに歩き出しました。


「ちょ、ジェシー、これはなんの冗談? いったい何してるの? なんで私をそんな軽々持てるの?」


そう聞く私はまるでマネキンのように先ほどの姿勢のままなのです。体は動きませんが、口は動きます。


「渚、約束思い出しましたか?」


「う。」


「まだなのですか? あなたはバカですか?」


「どうせバカです! 私の望みを叶える。までは思い出したのですが、その望みが思い出せないんです!」


もう観念して思い出してることだけ白状しました。コレを言われると怒ることもできません。弱い立場で泣けてきます。


「なんだ、思い出せてるじゃないですか。」


ジェシーは笑いながらスキップするように歩き始めました。


「だからその望みって言うのが思い出せないんです!」


彼女はケタケタと笑いながら言います


「そりゃそうでしょ、あの時は何も望んでないと言ってたのですから。でも大丈夫ですよ~わかってます。」


「え?・・・・な、なにがわかってるのです?」


私は何も望んでいなかった? でも望みを叶える? どうゆう事なのでしょう? それに何がわかっているというのでしょうか? 私は今でも彼女に望みなど言ったことありません。


「あなたの望みは橘くんと結ばれたい。なのでしょう? なんなら出来ちゃった婚でもいいんですよ~。」


「ジェシー、怒りますよ。」


確かにそれは望んでいないと言えば嘘になります。でも、彼ではダメなのです。なにより出来ちゃった婚など私達に不可能なことなのです。彼女はそれを知ってて言ってるのですから、私が怒るのも無理ではないと思いませんか?


「おぉ怖い怖い。」


「というか、ドコに向かってるんですか!」


「橘くんに渚の出前ですね~。」


「な!!!!何を!!!!!」


確かにこの道は覚えがありました。何度も通った道です。いくら私が壊滅的方向音痴でもこの道は忘れません。この調子ならあと2分かからず彼の家に着くでしょう。そこにこんな風に行きたくありません。でも、そこはジェシーです。私が本気で嫌がってもこのまま行く気でしょうね・・・彼女はそうゆう娘なのです。


彼の家の前に彼がいました。心なしか怒ってるように見えます。いいえ、怒ってました。彼はジェシーに非難の声で質問を始めました。


「これは一体どうゆうことです? 何が目的なんですか!」


「お金はできましたか?」


「できました。でも、業者はもうお金は受け取ってあると言ってました。」


「それはそうでしょう。そうでなければ私が渚のためにしたことになりません。」


「じゃなんでこんな金を用意させたんです! 僕は会社を処分してまで・・・・」


「それがジェシカ・オーヴェントという人です、諦めてください。」


ちょっとでも彼の怒りが紛れるようにと、つい言ってしまいました。


「え? あ、葵さん?」


彼は私を人間と認識してなかったのでしょう。それはそうです、マネキンのように体は一切動かず、しかも絶対に無理とも思えるように小さなジェシーが軽々と片手で運んでいるのですから。


「嬉しいでしょう? 出前してきてあげましたよ~。」


「いや、あの・・・」


「さ、装置のとこに案内してください。」


「ジェシー、お金ってなんですか?」


「あなた達にかける魔法の経費ですよ~。もっとも、彼が今持ってるお金はあなた達の今後に使ってくださいね~。」


「魔法? ジェシー、あなた魔法使いなの? それに今後って・・・」


「あれ? 言ってませんでしたか? 私はどんな魔法も使える魔法使いですよ~。」


「言ってなさい。」


「おやおやあ? 渚は信じてないようですね~。ではあなたは今どうなってるのですか~?」


「う、言われてみれば、これは魔法なんですか・・・」


彼女の言う装置とは、人一人が横になれるお風呂のような物で、上に透明な蓋ができるようなものです。カプセルみたいです。それが二つ並んでいます。


「では始めますね~。」


そう言ってジェシーが私の服を剥ぎ取り始めます。


「ちょっ、ジェシー、何してるのですか! ホントの本気で怒りますよ!」


「何を恥ずかしがってるのですか? あなたにしてみれば橘くんは女同士、橘くんにしてみれば男同士じゃないです?」


「それはそうかもしれませんけど、心情的に嫌です! 絶対ダメです! 許しませんよ!」


泣こうが叫ぼうが一切構わず私の服を一枚一枚剥ぎ取っていきます。


「私もたまにはこうゆう役得が欲しいです~。」


「殺す! 絶対殺す!」


とは言っても抵抗すらできません。一糸纏わぬ姿にされて装置とかいうのに押し込められました。その間橘くんは外に出ようとしたのをジェシーに止められ、あまつさえ『見てないと悪戯しちゃうぞ~。』とか言うもんだから、赤くなりながら薄目で見てるようでした。そして私の入ったカプセルに何かの液体をドバドバと入れ始めたのです。


「冷たい! 冷たい! ちょ、何してるんですか! ホントに殺しますよ!」


「あはははは、それじゃそろそろお休みね~。起きた頃にはあなたは完全な女の子ですからね~。」


そう言ってまたジェシーは聞きなれない事を呟きます。あ、これが魔法なんだ。そうして私の意識は真っ暗になってしまったのです。






それから6年が経ちました、今日はお父さんの家に来てます。


「つむぎた~ん。」


お父さんは長女の紬とお話していますが、その顔はなんというか・・・・誰? というくらい私達には見せない顔です。もう崩壊寸前ですね。

母はもう体を自由に動かせないので、ベッドに横になって嬉しそうに二人を眺めています。

でも母が私を見る目はとても厳しく、私が何かしようとするとお父さんに指示を出して、その全てをお父さんにやらせるのです。私が流産するのを怖がっているのでしょう。私のお腹には今二人目の子供を身篭っているからなのです。


「ただいま。」


楓くんが帰ってきました。彼は会社を処分してしまったので「どこでも仕事はできるよ」と言って私の実家の近くに家をかまえ、その近くに新しい会社を立ち上げました。まだ私を入れても社員5人の小さな会社ですが、だいぶ軌道に乗ってこれから拡大させてゆくそうです。


楓くんが帰ってくると父と紬の取り合いになることもしばしばありますが、その関係はおおむね良好で楓くんも父を本当の父親のように慕っています。


あの日、ジェシーに押し込められたカプセルで2日を過ごし、目覚めたとき私は女の子になっていました。

寮母さんに検査してもらうと、子宮もあり、排卵も確認できたのです。同様に楓くんにも男の子としての生殖能力が確認できました。本当にジェシーの言う通りになっていたのです。

それから5年ほどすると、完全性転換の技術が確立され、今では性同一性障害は完治できるようになりました。ジェシーが本当に始祖様だったのかはわかりません。でもそれ以外にこんなことがあるでしょうか?


お父さんの甘い言葉が聞こえます。他人と思いたくなるような顔面崩壊したおじいちゃんはそれは幸せそうに紬を抱いています。




石川です。

この話、本当はもっと渚の心の葛藤を描く予定だったのですが、私の未熟でこんな中途半端になってしまいました。

また、川本さんの件でもあんな形でぶつきれてしまい、消化不良になってます。


このシリーズは、4部までストックがあるにはあるんですが、発表するにはもう少しストーリーをふくらませないとダメかな?

という状態なので、しばらくお休みです。


しかし不思議なもので、評価とか気にしてなかったはずなのに、いざ投稿を始めてみると、凄く 気になるものですね。

ましてや、処女作が未だにアクセス数伸びてるので 余計にです。


次回作はまだ未定ですが、今後もよろしくお願いいたします。

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