波乱の後
杏里が電信柱にぶつかったあと飛鳥が遅れて駆け寄る
杏里は地面にうなだれて倒れている
「杏里!しっかりして!」
「うう…………」
杏里の体を強く支えて叫ぶ
うなり声を出している
「…飛鳥……さん…………」
そっとこちらの方を向く
どうやら意識はあるようだ
だが動いたりするのは大変だろう
半分涙目になりながらも杏里を抱き締める
抱き締めることしか出来なかった…
しばらくその状態のまま時間が経った
「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」
突然背後から声が聞こえる
後ろを振り返ると数人の人達が心配そうな顔をしてこちらを見ていた
「あ……………」
「とりあえずその子を病院へ…」
「そうだね…」
「………………」
急に話しかけられてうまく喋れない、さらにどんどん話は進んでいき会話についていけない
まるで全ての思考回路が停止したみたいに固まってしまった
ただ飛鳥は何も考えることが出来ずとも涙で溢れそうなその悲しい目は常に杏里を捉えていた
気が付けば救急車のあの甲高い音が近くで聞こえた
そこでふと我に返る
少し落ち着いた…………と思う
まわりには担架を持った人達がいた
あとはそのまま流れに身を任せるように…
杏里は一応自力で立てたが担架で運ばれ救急車へ、それに飛鳥も同伴させてもらった
病院に着くまでの間、飛鳥はずっと杏里の手を握る
それから病院に行く途中で何があったか一緒に乗ってる医者の男性に説明した
一通りのことを話し終え、ちょっとした静寂が訪れる
病院まではそう遠くはないがその静寂の時間はとても長く感じた
様子を見る限り、杏里は怪我をしたが一生体に残る程の大怪我をしたというわけでもなさそうだしまだなにかあるというわけでもないと思う
だがなにか心に引っ掛かる、不安……
杏里のほうを見る、救急車の天井を半分まぶたを閉じて見つめている
当たり前だが暗い表情だ
握っている手に力がこもる
病院に到着し、そのまま中へ
杏里は歩いて入る
病院の中は電灯が半分程しかついてなく微妙な薄暗さをかもしだしていて少し不気味だ
先へ進み診察室の中へ入る
とりあえず杏里を背もたれのない椅子に座らせる
救急車の中でも診てくれた医者の男性が言う
「右半身を怪我したんだよね」
「はい、特に肩が…」
杏里はそう言うと右腕の制服をまくり肩を見せる
杏里の右肩は腫れていて青くなっていた
医者の男性はそれを見ると
「やっぱりちょっとした打撲だね、でもこれくらいなら1、2週間くらいすれば自然と治るよ」
「そうですか」
医者の男性の一言に飛鳥がまるで自分のことのように安心する
「他に怪我してるところは?」
「他は…もう大丈夫です」
こうして杏里は一通り診察されて部屋を出る
右肩以外は大きな怪我もなく無事だった
とりあえず病院の人達が連絡してくれて杏里の母親が病院にきてくれることになっている
2人は長椅子の隅の方に座って待つことにした
しばらくの沈黙のあと飛鳥が口を動かす
「……大丈夫?」
「はい……大丈夫です」
ずっと下を向いている
表情は暗いまま変わっていない
また静寂の時間が訪れる
こういうとき先輩である私が声をかけるべきなのだろう、それはわかっているが何と言っていいのかわからない
だが反射的に体が動いた
そっと杏里の体を覆い隠すように抱き締める
1つ年下の、少し頼りないその小さな体を
「……ごめんね…………」
「そんな…………飛鳥さんは…悪く……」
「ううん……私は…あなたを守れなかった……」
あのときの状況では杏里を助けるのは物理的に不可能だった
仮に飛鳥が世界陸上短距離の世界記録を持っていたとしても間に合わなかっただろう
それは飛鳥はもちろん、杏里もなんとなくわかっている
だがそれでも謝る
「ごめん…ねっ!」
「…っ!!……飛鳥さんっ!」
杏里は飛鳥の胸の中で泣いた
それを飛鳥はそっと優しく抱き締める
こっちも涙が出そうだったがなんとか歯を食いしばって堪える
2人しかいない病院の中で杏里の泣き声だけが響いて聞こえた
前話のところで
時計の短針は6を指している~
って表現があったと思うんですがあれって正確には
時計の短針は《6寄りの7》を指している~
だと思ったんですよね
恐らく6時50分を表してるのは伝わったと思うんですが…
なんか細かいことなので特に修正しませんが
むしろこういう細かいところこそ修正したほうが良かったり!?(初心者丸出し)
ここまでご愛読ありがとうございます
次回もよろしければよろしくおねがいします