波乱の事件
とある平日の午後
高校の授業が終わり生徒たちはそれぞれの時間を過ごす
ある生徒は部活動を、ある生徒は帰宅
そして例のダサい制服と長いサラサラの黒髪が特徴の彼女は現在市が建てている大きくも小さくもない普通の図書館にいた
平日の午後の図書館の人混みはそんなに多すぎでもなく、かといって誰もいないわけではない
まわりを見渡せば数人ずつ視界に入るくらいの状況
彼女は椅子に座りながら熱心に本を読んでいる
また今読んでいる本以外にも目の前の机の上に数冊本が置いてある
すると後ろから聞き覚えのある声が飛んでくる
「あの…すみません…」
後ろを振り返るとそこには数時間前に学校の廊下で出会った優しそうな印象の女の子がいた
その子も同じダサい制服を着ている
「あれ、あなたは確か…廊下で会った…」
「あ、覚えていましたか?」
「うんうん、黒シャムのハンカチの子だよね」
「黒シャム?……あーこのハンカチのことですね」
「そうそう、それ可愛いよね」
自然と会話が続く
必然的に2人とも笑みがこぼれる
読みかけの本を閉じ、彼女を隣の椅子に座らせる
さっき会ったときは気がつかなかったがよく見ると目は少し垂れ下がっていておっとりとしてそうな空気をかもしだしている
それに顔に似合わない小さな唇がかわいらしい
改めて彼女の顔は綺麗だな~と感じた
そのまま2人は少し話し込む
「とりあえず自己紹介、私の名前は橘飛鳥、生徒会の書記をやってるよ」
そう言うと制服の胸元に付けてあるバッジを見せる
なんかよくわからない形をしている
「この変なバッジが生徒会に入ってる証?なんだよね」
「へぇ……」
思わず2人とも苦笑い
こういうバッジはなにかをイメージしているのだろうか、結局のところ2人にはよくわからない形だ
「あなたの名前はなんていうの?」
「あ、はい、園田杏里です、先週《みどじょ》に入学しました」
《みどじょ》とは2人が通っている《都立緑野女子高校》の略称だ
みどじょでは先週入学式が行われた
ちなみに緑野とは都内にある市の1つ、緑野市のことだ
「ふむふむ、杏里…ちゃんね、私のことは飛鳥って下の名前で呼んでいいからね」
「はい、飛鳥さんよろしくおねがいします」
また座った状態から腰を前に曲げる
このポーズも懐かしいような感じがする
「杏里ちゃんはなんでここに?」
「帰り道の途中なんです、なんとなく寄っただけですけど」
「帰り道の途中?家はこっち方面にあるの?」
「はい、そうですよ」
「ほんとに!」
図書館なのであまり大きな声は出せないがそれでも飛鳥は迷惑にならないくらいの大声で言った
学校からこの図書館までは駅で片道30分くらいだが余程のことでもない限りみどじょの生徒はここへは来ない
理由は単純、家とは反対方向の生徒が大半だからだ
「私もこの近くに住んでるんだけど友達ってか先輩も誰1人こっちに住んでなくてね~」
少し愚痴っぽく言う
飛鳥の言うとおり今までみどじょではこっち方面に住んでる生徒は飛鳥しかいなかった
それが杏里も近くに住んでると知って普通に嬉しかった
「そうだったんですか…確かに私の友達もこっちには住んでいませんでしたけど」
「うんうん、いや~杏里ちゃんがきてくれて嬉しいよ」
それから2人はそこで話し込んだ
学校のこととか今読んでいた本のこととかダサい制服のこと、それから飛鳥の家は美容院をやってるということも
時間はどんどん過ぎていく
そこでアナウンスが入る
気付けば窓から見えるのはオレンジ色の夕日から青黒い夜の色へと変わっていた
「間もなく閉館の時間です、図書館をご利用のお客様は…………」
そのアナウンスを聞き2人して図書館の時計を見る
時計の短針は6を、長針は10をそれぞれ指している
アナウンス通りそろそろ閉館の時間だ
「もうこんな時間ですね…」
「うんうん、そろそろでよっか」
2人とも椅子から腰をあげる
ついでに飛鳥は机に置いておいた本を取る
「じゃあ今度うちにきてみてね、カットとかセットとか色々できるから」
「はい、ありがとうございます」
談笑しながら2人は歩く
「じゃあ先に外で待ってますね」
「うん、借りたらすぐ行くね」
ずっと話し込んだので飛鳥は読む予定だった本を借りることにした
「では2週間以内に本を返却してください」
「はい」
一通り全ての本を借り終える
本を鞄の中へ入れ、そのまま出口へ歩く
自動ドアが開こうとしたときガシャンと大きな音が外から聞こえた
何事だろうと気になり少し早足になる
外へ出たとき遠くから悲鳴や怒号が聞こえた
「きゃあぁぁぁ!!」
「どけぇ!!!」
「誰かその泥棒を捕まえてくれ!!」
声が聞こえる方を向く
少し大柄の男が叫びながら走っている
泥棒という単語が聞こえた、恐らく走っている男のことだろう
道端には逃げ惑う人、追いかける人、と様々だ
その男はなりふり構わず走り続ける、途中で止まってる自転車などを吹き飛ばしながらこっちへ向かってくる
急なことで少し驚いたが飛鳥とその泥棒とはある程度距離がある
とりあえず脇道に逃げるとかそれくらいの判断はできる
そうしようとしたが飛鳥は見つけてしまった
杏里が戸惑い、立ち止まってる姿を
腰が引けているように見える、きっと恐怖のあまり動けないのだろう
男の進行方向には杏里がいる、このままいくと杏里が危ない
飛鳥はそう直感し叫ぶ
「杏里!!」
だが杏里は動かない、聞こえていないのかもしれない、いやもしかしたら聞こえてはいるが体が動かないのかもしれない
飛鳥は危険をかえりみず杏里の元へ行こうとする
だが男のほうがはやい
そのまま男は杏里に突進していくような勢いで走る
「っ!!!」
「どけぇ!!!」
「杏里!!」
そう叫んだ瞬間、杏里は男に体当たりされ、その反動で数メートル後ろへ飛ばされ近くの電信柱に右半身をおもいっきりぶつけた
今回出てきました《みどじょ》ですが都立という設定です
現在都立の女子高はないらしいですがつい10年くらい前まであったらしいですね
まぁ調べた情報ですが…
あと緑野市っていうのも都内にある1つの市という設定です
まぁ普通の?市ってイメージです…
ここまでご愛読ありがとうございました
次回もよろしければよろしくおねがいします