不安と記憶
杏里と手を繋ぎながらこの前入った多目的室に入る
飛鳥達はこの教室で身体測定の手伝いをやることになっている
中には数人の生徒と先生達がいる、全員身体測定の係なので集まっている
「お、来たね」
安藤先生がこちらに気付いて声をかけてきた
一瞬、先生のおかしい服を見て笑いそうになったがなんとかこらえて近くに寄る
先生の隣にはジャージを着てサラサラの長髪にこの教室内で一番の長身に整った鼻筋で少し外人のようなオーラを纏っている生徒がいる
彼女もこちらに気付いて声をかける
「飛鳥、とその子は…」
「やっほー麗奈、この子は杏里…」
「あ、初めまして、1年3組の園田杏里です」
飛鳥の言葉を遮るようにして杏里が自己紹介をする
それを聞いた彼女は品定めをするような目で杏里を見て
「ふーん………………bonjour アンリ」
いきなり流暢なフランス語で挨拶する
それを聞いて戸惑う杏里
「え、えーと…………ボ、ボンジュール?」
「…………麗奈」
「あはは、ごめんごめん」
そう言って謝った彼女は島村麗奈、2年5組で飛鳥と同じ生徒会の役員
名前は日本人っぽいがフランス人とのハーフでその2ヶ国語を話せる
麗奈も自己紹介をする
「2年5組で生徒会所属ー、島村麗奈でーす、麗奈でいいよー、よろしくねー杏里ちゃん」
「はい、よろしくおねがいします、麗奈さん」
杏里はいつものように腰を前に曲げる
それから2人は軽く喋る
その様子を見てるときに安藤先生に話しかけられる
「園田さんは大丈夫なの?」
「…………わからないです、見た感じ大丈夫そうですけど杏里はあんまり表情に出さなそうというか」
2人には聞こえないくらいの距離と音量で会話する
「あー…分かる気がする」
「…………」
2人はそれで黙りこむ、逆に杏里と麗奈は楽しそうに盛り上がっている
たった数メートルしか離れていないのにその場の空気はまるで違う
「…よし!この話終わり、行くよ飛鳥」
先生が声を出して言う
「…はい、なんかすみません…」
「いいって、困ったことがあったらいつでも先生に頼りなさい!」
先生は胸を張りながら言った
張った胸にはおかしな外人の顔が飛び出てるように見えて思わず笑ってしまった
「ちょっと、何笑ってるの?」
「いや……なんでも…ないです」
この先生の服を見ると悩みなんか全部忘れてしまい気そうな程おかしくなってくる
そのまま笑って時間は過ぎた
「じゃあ私が身長を測るから杏里は記録してね」
「はい、わかりました」
多目的室では身長、体重、座高を測ることになっている
飛鳥と杏里は身長を測定する係になった、ちなみに麗奈と安藤先生も隣で同じ身長測定係だ
時間になり各クラスごとに生徒が来る
最初は2年3組…飛鳥のクラスの生徒が来た
先頭にいる奈々がこちらに気付いて声をかけてきた
「お、飛鳥と杏里ちゃんが一緒か」
奈々から杏里の名前が出てきて一瞬びっくりした
「奈々さん、こんにちは」
「あれ、2人は知り合い?」
「そうだよ、図書委員だからねー」
そう言いながら奈々は測定器に乗る
どうやら2人は図書委員繋がりで知り合ったようだ
(そっか、私より先に杏里のことを知ったんだ…)
「そうだったのね………………身長は…157センチだね」
少し複雑な感情になりながら仕事をする
杏里は言われた通り記録する
「というか2人こそどういう関係?」
奈々は当たり前の疑問をぶつける
「えっと…………」
杏里が言葉に詰まる、それをフォローするように喋る
「あー…………家が近所でね、仲良くなったから」
「ふーん、そうなんだ」
言えない、杏里の肩の怪我の事は
確かにまだ入学式から1週間ちょっとしか経ってないのに家が近所というだけで手伝いに誘ったのは不自然かもしれない
なんとか誤魔化そうとするが言葉が見つからない
色々考えていると奈々が先に喋る
「私が手伝ってもよかったのに、飛鳥は私より杏里ちゃんを取ったのかー」
ふざけ気味に奈々が喋る
「あはは……」
少し不自然な愛想笑いをする
それ以上の会話は特になくそれで奈々とは別れる
深く聞かれなくて助かった
内心ほっとしながら仕事に戻る
それから2年3組の皆と軽く喋りながら時間は過ぎ最後に仁美が来た
「お、しならいさんと杏里ちゃんだー」
先週の恥ずかしい記憶と共にまた杏里の名前が出てきた
「ちょっと!まだそれ言うの!?」
「仁美さん…………しならいとは?」
「ふふふ杏里ちゃん、しならいとはね…」
「はいはい仁美、喋ったら殴るよー」
「ひえー、こわ」
ふざけた会話をしながら身長を測定する
杏里は頭に疑問符をつけている…出来れば知られたくない…
そして思い出す、仁美も図書委員だということを
なら奈々と同じ理由で知り合いでもおかしくない
「…………身長は175センチだね」
「あー伸びなかったかー」
「伸びなかったって、もっと身長欲しいの?」
「うんうん、基本的にバレーじゃ高い程有利だからねー、ちなみに去年は0.8センチ伸びてたんだよー」
「まだ伸びてるだ」
少し残念がる仁美、高2でまだ伸びてることの方が驚きだが
仁美とそんなやり取りをして別れる
こっちも深く聞かれなくて助かった…代わりにあまり思い出したくない恥ずかしい記憶がよみがえり、終始赤くなって時間は過ぎた
そして身体測定は終わり片付けの時間
「仁美と奈々と知り合いだったんだね」
「はい、図書委員なのでそのときお世話になりました」
それはさっき聞いた通りの答え
だが何か心に引っ掛かる、気持ちはモヤモヤとでもいうのか
(あの2人は私より先に杏里と仲良くなったんだよね…)
何か2人を羨むような、そんな複雑な感情がその日頭から離れなかった
この小説は私のきたねー文章でも読んでくださる読者の皆様の心優しくて熱く、時に冷たく、新鮮で綺麗で真っ白で優しいハートで出来ています
嗚呼私のようなどす黒いハートとは大違い!キャッハー!
さすが皆さん尊敬します!!キャッハー!
ここまでご愛読ありがとうございます
次回もよろしければよろしくおねがいします
キャッハー!




