再利用
初見の方、前作からお付き合いの方、どちらもお付き合い頂ければ幸いです。
駅のホームにあるベンチで座って電車を待っている時だった。
隣に赤ん坊を抱いた一人の女性が座った。
子供が好きなので、ついつい視線が隣に座る女の人が抱いている子供へと向かってしまう。
そんな自分の視線に気づいたのか、母親の女性が話しかけて来た。
「これね、実は私のバッグなの」
そう笑いながら赤ん坊が着ている服をめくると、お腹にはジッパー……チャックが付いていた。
言われてみれば、赤ん坊の目玉はガラス玉の様で———なるほど。感情を映さぬ瞳がジッと自分を見つめている。
「すごーい。本物の赤ちゃんかと思いました。良く出来ていますね!」
その出来栄えに感心して女性に言った。
その言葉に気を良くしたのか。女性は微笑を湛え、どこか嬉しそうな声音で話し出す。
「ええ。これ、結構作るの難しくて時間が掛かるんですよ。だけどこの質感はお店では見つからないし、それに私、リサイクルが好きだから…」
そう笑った彼女はバッグを撫でた。
こっちが黙ったままでいるとちょうど電車が来て、彼女はその電車に乗り込んだ。
「リサイクル?」
自分も電車に乗り込むはずだったのだが、ベンチに座ったまま去っていく電車を見送ることしかできなかった。
ジャブです。
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