タクシー運転手
ねえ知ってます? この町の都市伝説。
知らないようですね。では教えましょう。町はずれに川が流れていますよね。ええ、あの川です。隣町と隔てるように流れてる川。隣町のうわさは知ってますよね? そうそう、物騒なスラム街です。昔は日雇い労働者が住む町としてにぎわっていたそうですが、今となっては住民の半分は生活保護、もしくは不法入国の外国人が住んでいると言われています。この町は大丈夫ですかって? 心配はいりませんよ。川が流れているでしょう。橋は渡れないんです。あいつら。
え? いやいや渡れるでしょって? 渡れないんですよ。ある仕掛けが施されていますから。
ん? それは人権侵害だって? ハハハ……。お客さん、何か勘違いしてますね。渡れないのは人間じゃないんですよ。もっと恐ろしいやつら……。
お客さん、最後まで聞きますか?
いいでしょう。もう後戻りはできませんよ。そもそも隣町は豊かな土地で、この町の方が廃れてたんです。そうは見えないって? ええ当然わけがあるんです。昔、人さらいの神様がこの町にいたそうです……。物騒でしょ……。人をさらってはどこかへ売り飛ばすならまだしも神隠しにあった人も大勢います。おそらく当時この町が貧しかったのは、その神様の仕業だったのかもしれませんな……。
そこで当時の町長は神様が住む社を隣町にこっそりと移しました。それからというもの、隣町は廃れ、この町は栄えるようになりました。めでたしめでたし。
え? お客さん。それじゃ隣町が可哀想だって? お客さんは優しいお方だ。
そもそもこれは都市伝説ですよ。そんな神様が居たなんて証拠もありませんし、実際にそんな社が存在していたのかというのも噂の域を出ませんので、安心して下さい。
ハハハ……。少し怖がらせましたね。お客さん。そろそろ目的地ですよ……。
ここじゃない? いいえ、ここであってますよ……。正しくは50年前の廃れたこの町ですけどね。フフ……。そうそう、人さらいの神様が現在何してるか教えましょうか? ここまで話を聞いてくれたんだ。特別サービスですよ。その神様は今タクシーの運転手をしていて、お客様に都市伝説の話をしています……。料金は1600円です。はいありがとうございました。
またのご利用お待ちしております……。
おしゃべりな運転手は少し奇妙に思えますね。