たまには
ベッドの上にぼんやりと横たわる。ふかふかの布団に自分の体温がじんわりと移っていった。
この生温さが、昔は嫌いでしょうがなかった。
この生温さが、自分が生きている証そのものの様に感じられて。くそったれ、なんて悪態すらついて、自分が今ここにいることすら許せなくて。
「ふは」
思い返して気の抜けた笑いがこぼれた。
昔の自分はバカだったなぁ、なんて今なら笑える。今だからこそ、笑えるんだ。
なくなったものとか、欲しいもの、傷ついたことばかり、数えてた気がする。いつまでもトラウマじみた傷を引きずって、誰でもいいから手を差し伸べてくれることを待ってた。本当に欲しかったのは、そんなものじゃなかったのに。
満たされない事に八つ当たりして、泣きわめいて。何歳児の子供だよ、とつい笑ってしまうほどあの頃の俺はガキだった。
だけど、くだらない、と笑うことはいつまでたっても出来ないんだろう。バカだなぁとか、幼かったなぁ、とか笑うことは出来ても、あの頃の俺があったからこそ、今の俺があると知ってる。否定をするのはもう飽き飽きだ。自分を受け入れる方法を、今の俺は手に入れている。あの頃の俺だって、俺の一部分なんだ。
そう思えるまで、ひたすら苦しんだ。もがいて、縋り付いて、時に他人を傷つけて。
そしてようやく、一番欲しかったものを手に入れた。
俺と同じくらい弱いのに、俺なんかよりずっとまっすぐで、綺麗ないきものを、俺は手に入れた。綺麗に笑って傷を隠すから、わざとそこに触れた俺を、拒絶することなく受け入れた優しいいきもの。脆いと分かっていながら傷つけてしまったのに、そのことさえ受け入れてしまうくらい、純粋ないきもの。
俺は、そのいきものなら信じられると思った。ずっとそばにいて欲しいと、思った。
それから数年して、そのいきものはちょっぴり強くなって、俺の横で笑う。安心したように、出会った時と変わらない綺麗な笑顔を俺に向ける。だからなんとなく、俺の手の中には、何よりも価値がある宝物があるような気さえしている。
あの頃の俺は、ないものねだりで、欲しいものを我慢して手を握りこんでいたけど。何てことはない。俺の握りこんだ手の中には、たくさんの大事なものがすでに握りこまれていた。それに気付かなかっただけだ。握りこんでばかりいたから、持っていた物に気づいていなかっただけ。
何よりも価値がある宝物を手に入れた俺は、手の中の物が大きすぎて握りこめなくなってようやく、宝物の存在に気付いたのだ。
あの頃の俺をこうして思い返すように、今の俺もいつかは未来の俺が思い返すのだろう。そのころに、手の中の宝物がどうなっているかはわからない。もしかしたら、手放しているのかもしれない。また、傷つけて、それでも手の中にあるかもしれない。今の俺には、予想しか出来ないけれど。
まぁ結局は、何かを悩みながらたまに振り返って。そしてまた笑うんだろう。
あの頃の俺はバカだったなぁ、なんて。