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突然だが、僕には霊感的なモノがある。
的ななモノ、というのは僕が見えるのは霊ではなく妖怪なるものだった。
最初に見たのは、河童。
夏に田舎の祖母の家に行った時のことだった。
いとこの正樹と川に遊びに行った時のことだった。
川の反対の岸のところにそれは、いた。
しかも目が合ってしまった。目を疑った。何度目をこすったか分からない。しかし何をどうしてもそれは視界から消えることはなかった。それと同時に僕は気付いた。
『河童だ....。』
普通はありえない。だからその時は見て見ぬフリをした。なぜなら、僕は僕自身が普通だと信じたかったからだ。何かの見間違いだ、そうであってくれ。
そう願った。その日の夜。祖母の家の風呂には、垢なめがいるということが分かった。
つまり、僕は、普通じゃない。
それから毎日1回はそれら妖怪なるものを見ていた。驚いていたのは最初だけで1ヶ月もするとすっかり慣れてしまい何も見えないフリをして、過ごせるようになった。
そんなこんなで数年が経過し僕こと佐藤和真は今や中学3年生の受験生だ。
そんな受験生の僕が今でっかい問題に直面している。
天狗だ。天狗が道路の真ん中に倒れている。
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初めて見た。天狗だ。いや、天狗自体は何回か見たことあるけどとてもレアだ。
なのに、それなのに....
天狗が道端で倒れてるなんて....
見たことが、ない。
いや、まてよ?そもそもコレは本当に天狗か?
あの天下の天狗様が道端に突っ伏すだと?
はははは....
笑えないジョークは嫌いだよ。
そんな風に自問自答を繰り返しているとあることに気づいた。
別にこの天狗に関わらなくても良くね?
その思考が脳裏をよぎった瞬間答えは出た。
ほっとこう。それがいちばんいい!
無視して、普通は見えないものを見えないものとして通り過ぎようとした時....
がしっ!
「!!!???」
足首を突然掴まれ派手に転んだ。
うん、痛い。
足首には真っ赤な手があった。
ホラー!?
いやいや、天狗の手ですね。
周りの人から見ればこの天狗は見えないわけで、そんでもって何もないところで転んだように見えたわけで....。
恥ずかしいことこのうえないんだな、うん。
「おい、小僧....」
「いやぁ恥ずかしかったー。僕ってドジだなー、てへっ」
「小僧....」
「やっべー遅刻してしまうー(既に遅刻)」
「小僧ぅぅぅぅ....」
「........」
めんどうだから無視しよう。
「あっれぇ、おっかしいなぁ。まるでナニカに掴まれてるようだぁ。」
「わしが見えてるのだろう?返事せんかぁ....」
めんどくさい天狗だなぁ。
とりあえず人気のないところ、裏路地のようなところにまで引きずって行った。
「んで?なんですか?天下の天狗ともあろうものが、人間ごときになんのようでしょうか!?」
「おのれ!小僧!この天狗様を引きずるとは!無礼者め!」
「ほうほう、ならば天狗様なら人間の片足をつかみいたずらしても良いと申すのですか?」
「だまれぇ!だまってわしの話を聞かんかぁ!!」
「ほうほう!天下の天狗様なら人に話を聞いてもらう時でも偉そうにしてて良いと!?」
「当たり前じゃろ!わしゃ天狗だぞ!」
「ちっ....。」
「あ!舌打ちしたな!?小僧!わしを天狗だと知っての行為か!」
「とりあえず起きたらどうです?それと力まないでもらえます?足折れるんで。」
「ぬぉ!?無視か!こやつ舌打ちした上に無視か!立場をわきまえろ!」
「少しは静かにしゃべれねーのか、赤鼻クソじじい。」
「んなっ....!?この子おとなしい顔してすごい汚い言葉使った!?」
「こっちは遅刻寸前で急いでるんですよ。」
※既に遅刻です
「知るか!わしゃ天狗じゃぞ!話を聞けぃ!」
「はぁ....。まぁわかりましたよ。聞きますよ。存分にお話ください。」
「ふん!最初からきいておけばよかったのだ!」
よっこいしょ、といかにも年寄りっぽい掛け声と共にようやく起き上がった天狗は何やら重々しい雰囲気を漂わせ口を開いた。
「実はな....。腹が減ってもう飛べんのじゃ。」
こりゃ、驚いた....。