終わりとはじまり
僕は思うんだ。
この世に僕という存在はいらないんじゃないかって。
僕が生まれてきてしまったのは何かの間違いだったんじゃないかって。
だから僕は、誰からも必要とされていない僕は、みんなに迷惑かけないように消えようと思います。
「ちょっと、そこの少年?自ら命を絶とうとしていませんか?」
屋上から飛び降りる決意をした瞬間、頭のなかで声が聞こえた。
「…誰っ?」
声はするけど、どこにも人はいない。
ああ、臆病な僕の幻聴か。
「私の優しい救いの声を幻聴扱いするとは…。困ったものです。」
「誰か…いるの?」
「前をご覧なさい?」
僕は言われた通り前を見た。
見えるのはどこまでも広がる空だけ。
少し視線を下に向けると、遠くで走るおもちゃみたいに小さな車がたくさんあった。
「物理的な前ではありません。未来を見なさいと言っているのです。」
何を言ってるんだ、この人は。
未来を見ろ?そんなこと普通できないよ。
そもそも何者なんだこいつ。
「そんなに私の正体が気になりますか?目に見えるものにとらわれるのは愚かな人間の特徴ですからね。」
そう言ってあらわれたのは真っ黒な猫だった。
「私の名は柚葉。あなたの命の責任者であり、あなたの存在証明をする者です。」
柚葉さんは黒猫から和服を着た美しい女性に姿を変えた。
見る人を魅了するような、不思議な存在感を持つ人だ。
僕とは正反対だ…。
「あなたは死なせません。どうしても死にたいというのなら…その命、私がいただきます。」
「…いいよ。どうせ捨てようと思ってた命。お姉さんにあげるよ。」
「なら、私と共に生きなさい。」
僕の人生は再び時を刻みはじめた。