桃次郎の事件帳1
桃次郎の事件帳1
むかし、ある村に桃次郎という青年がおりました。
桃次郎は頭の回転がはやく、村人達からも一目置かれる存在でした。
そんなある日のこと、一人の村人が桃次郎の家に相談にきました。
「桃次郎君、実は・・・。」
その村人によると、どうも鬼ヶ島の鬼が、人々を襲っているというのです。
話をきいて桃次郎は
「うぅぅん。」
と考えてしまいました。頭で考えるのは得意な桃次郎ですが、鬼退治となると自信がありません。
村人はひと通り話をすると、この問題を桃次郎に押し付けるようにして、
帰っていきました。
(困ったなぁ・・・。
鬼退治は、先祖の桃太郎じいちゃんがしていたらしいけど・・・、
僕にはそんな事出来ないし。)
桃次郎は夜になるまで悩んでいました。
すると、
ドンドン ドンドンドンドン
誰かが強い力で戸をたたきます。
桃次郎は驚きましたが、立ち上がり
「こんな夜に、一体だれだ!」
と音に負けないぐらいの大声で言いました。
「あのう・・・そのう・・・。」
戸の向こうから、か細い声が聞こえてきます。
しかし、いくら待っても名前を名乗りません。
仕方なく、桃次郎が戸を開けると、
ムラサキ色の立派な角の生えた鬼が立っていました。
桃次郎が驚いていると
「うわーん。助けてください桃次郎さん。」
突然鬼がその場で泣き出しました。
桃次郎は、その鬼が暴れるようすがないの で家に上げる事にしました。
少し落ち着いたようで、ムラサキ色の鬼は言いました。
「私は、鬼ヶ島に住むサキ郎と言います。鬼ヶ島の鬼が、濡れ衣を着せられて、
大変なことになっています。」
桃次郎は、昼間に村人から聞いた話を思い出し、サキ郎に話しました。
すると鬼は涙目なり、父の赤鬼がまだ若いとき、親友の青鬼のために悪役になって、わざと村で暴れたことがある話をしました。
「でも、それは青鬼のためにやったことです。
村人達だって、誰一人して怪我をさせなかったと言っています。」
真剣に話すサキ郎に桃次郎は確かめるように聞きました。
「本当に、鬼ヶ島の鬼達は村人を襲ったりしていないのだね?」
「はい。そんなことは、絶対にしていません。」
桃次郎は、キビ団子を一口食べると、何かがひらめいたように、
「ようし、村人達を襲った犯人を、捕まえよう。」
桃次郎は、朝になるのを待って鬼が出たという村へ出かけました。
桃次郎が、襲われた村人達から詳しく話を聞くと、次の事がわかりました。
一 時々大きくてシマシマのしっぽや、丸い耳を出している鬼がいる。
二 現れるときは、村中に太鼓の音が響く。鬼は夜の間しか暴れまわらない。
三 鬼は夜の間しか暴れまわらない。
桃次郎はソレ聞いて「ピン」ときました。
そして村人達に
「今晩、鬼退治をします。」
と言って作戦を考えるため、一度家に帰りました。
桃次郎は帰ると、早速サキ郎と相談し、夜になるのを待って、
二人は再び村へ出かけました。
襲われた村に着くと、
もう村中に太鼓の音が響いています。
桃次郎はサキ郎に
「用意は良いか?」
と聞きました。
サキ郎は無言でうなずきます。
すると・・・・
ドス―ン ドス―ン
村人を襲った鬼が現れ、畑に入ろうとした瞬間、
「まて―!」
サキ郎が叫んで鬼につかみ掛かりました。
サキ郎と鬼がもみ合っていると、村人達が集まってきて人盛りが出来ました。
その人盛りに驚いた鬼に気づいて、サキ朗は、鬼に体当たりをしました。
鬼は
「キュ―ッ!」
と鳴いて倒れると、そこには二匹の大きなタヌキが目を回していました。
サキ郎が二匹のタヌキをつかむと
「みなさん、これが村を荒らした鬼の正体です。」
とかかげました。
それを見た村人達がざわめき始めました。
そこで村人の一人が、桃次郎に聞きました。
「どうして犯人がタヌキだと気づいたのですか?」
桃次郎は言いました。
「まるい耳や、シマシマのしっぽが出ていると聞いて、
鬼ではなく何かが化けているのではないか?と思ったのです。
そして、タヌキの腹つづみと同じ太鼓の音が聞こえたので、
これはタヌキだと思ったのです。
まあ、このタヌキは、まだ上手く化けられないようなので、
明るい内に出てくると、バレてしまう。
と思ったのでしょう。」
それを聞いて、二匹のタヌキは泣きながら、
「さすが桃次郎さんです。
僕達は一匹では化けることが出来ません。二匹でやっと出来たのが鬼の姿です。
驚いている村人達を見て、調子に乗って暴れてしまいました。
まさか本物の鬼や、伝説の桃太郎一族の桃次郎さんが、現れるとは思いませんでした。本当にごめんなさい。」
二匹の大タヌキは村人達に、丁寧にあやまって、壊してしまった家や、
荒らしてしまった畑を元通りに戻す約束をしました。
それからというもの、この村には悪さをする者は、一人もいなくなりました。
ムラサキ鬼のサキ郎は桃次郎にお礼を言って鬼ヶ島へと帰っていきました。
終わり