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戻った音

海は鈍い青から深みを帯び、空の端に薄い赤が滲みはじめていた。砂の白さも、どこか柔らかくなる。


少女は立ったまま、沖を見ている。風がさきほどより冷たい。


「この色になるとね」


彼女は言う。


「音が薄くなるの」


彼は耳を澄ます。波の間隔は同じはずなのに、距離が生まれたように感じる。


「帰るのか」


少女は少しだけ頷く。


「まだ少し」


彼は立ち上がる。靴の中は砂だらけで、重い。


「また来てもいいか」


問いは自然に出た。


少女は振り向く。


「あなたが来たいなら」


許可ではない。拒否でもない。それだけで十分だった。


彼は胸に手を当てる。鼓動は、一定だ。さきほどより整っている。


「音、戻ってる」


少女が言う。


「そうか」


「壊れてなかった」


彼は少し笑う。


波が一段強くなる。少女の髪が揺れる。


「次にうるさくなっても」


少女が続ける。


「ここ、知ってるでしょ」


彼は頷く。


砂の冷たさ。波の重さ。風の通り道。覚えている。


空の赤が濃くなる。茜が紫に近づく。


「今なら少し見える?」


少女が訊く。


彼は目を細める。


金色、と言われればそうかもしれない。色というより、温度の変化だった。


「わからない。でも、さっきより明るい」


少女は小さく笑う。


「それでいい」


風が変わる。はっきりと。冷たい匂いが混じる。


少女の輪郭が、夕暮れに溶けはじめる。


「今か」


彼は思わず言う。


少女は彼に近づき、胸に手を当てる。指先が冷たい。


「止まったから」


「何が」


「あなた」


彼は考える。


走り続けていたのかもしれない。追われるように。削られるように。


ここで、止まった。それだけのことかもしれない。


風がもう一段強くなる。


「外出は、自分で決めていい」


声だけが、残る。


次の瞬間、そこには誰もいない。


波は同じように崩れている。空は紫に沈みかけている。


彼はしばらく立ち尽くす。


消えたのか。帰ったのか。


違いは、もう重要ではなかった。


砂浜には、二人分の足跡が残っている。波がゆっくりとそれを削っていく。完全には、すぐには消えない。


彼はそれを見届けてから、歩き出す。


靴は重い。だが歩ける。


明日もある。音も戻るだろう。


それでも、今日だけは止まった。


それで十分だった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

アイデアを短くまとめてみた物になります。


正式連載verは今週から連載する予定です。


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