第57話:束の間の休息と、這い寄る毒牙
1. 聖女たちの休日
地上のゲートを幾つか攻略し、悠真一行は湖畔の宿場町へと辿り着いた。かつては神として世界を俯瞰していた使徒たちも、今や一人の「旅人」として、地上のささやかな愉しみを知り始めていた。
「主様、見てください! この『ソフトクリーム』という食べ物、冷たくて甘くて……エリュシオンの供物より癖になりますわ!」
アスモデウスが頬を赤らめて声を弾ませる。隣ではルシフェルが、土産物屋の木刀を真剣な目で見つめていた。
「……主、この『土産物の剣』、重心が酷すぎます。しかし、妙に惹かれる造形ですね……」
「それは戦うためのもんじゃない、思い出だ。……好きにしろよ」
悠真は苦笑しながら、露店の椅子に腰を下ろす。ランク1の体は疲れやすいが、その疲労感さえも、自分が「生きている」証拠として心地よかった。
2. 旧世界の残党
(【天使の図書館:パッシブ・ソナー】:周囲に殺気を検知。……300メートル先の時計塔。および、背後の路地裏に4名。……いずれも、旧WAF(世界冒険者連盟)の制式装備を確認)
「……いい加減、諦めればいいのにな」
悠真が呟いた瞬間、空を切り裂くような高周波の音が響き、時計塔から放たれた「対魔術師用ライフル」の弾丸が悠真の眉間を狙った。
悠真は動かない。
キィィィィィィィン!!
弾丸は悠真に触れる直前、ルシフェルが指先で弾き飛ばしていた。
「主の休息を邪魔する羽虫が、まだ残っていたようですね」
ルシフェルの瞳から温度が消え、戦女神の殺気が辺りを包み込む。
3. 剥奪者の絶望
路地裏から現れたのは、かつて悠真に権限を凍結されたWAFの幹部たちだった。彼らは「魔力を無効化するアーティファクト」を起動し、勝ち誇ったように笑う。
「天野悠真! 神の力を失った貴様など、ただのランク1だ! 我らが科学と魔導の結晶の前に、膝を突くがいい!」
「……魔力を無効化する、か。確かに今の俺には、それを無理やり突破する魔力はないな」
悠真はゆっくりと立ち上がり、ルシフェルたちが手を出さないよう手で制した。
「だが、お前たちのその『おもちゃ』は、システムの一部を使って動作している。……忘れたのか? そのシステムを構築したのは、俺だ」
悠真が足元の石ころを拾い、何気なく放り投げた。
石ころは、まるで計算された物理シミュレーションのように、敵の防護結界の「接合点」を正確に撃ち抜いた。
「――崩壊」
一言。
悠真が「声」による干渉を行った瞬間、無敵を誇るはずのアーティファクトは内部からショートし、自壊した。
「魔力がないなら、物理の理をハックすればいい。……お前たちの戦い方は、もう古いんだよ」




