第56話:レベル1の「最強」
1. 懐かしき土の匂い
エリュシオンの玉座を下り、悠真が最初に降り立ったのは、かつて彼が「無能」と蔑まれ、ギルドを追放された始まりの街だった。
(【天使の図書館:現状報告】:魔力出力、かつての0.01%以下。身体能力、一般成人男性と同等。……ですが、主。脳内の戦術ライブラリと、使徒とのパスは健在です)
「十分だ。……力に頼りすぎていた感覚を取り戻すには、これくらいが丁度いい」
悠真の横には、人間に擬態し、絶世の美女となったルシフェルとアスモデウスが控えている。あまりの美貌に周囲の冒険者たちが騒然とする中、悠真は古びたギルドの扉を叩いた。
2. 過去からの亡霊
「おいおい、誰かと思えば……『無能の天野』じゃないか! 生きてたのかよ!」
ギルド内で酒を煽っていた冒険者たちが、下卑た笑い声を上げる。それは、かつて悠真をパーティから追い出し、装備を奪った元仲間の生き残り、重戦士のバルガスだった。
「世界がひっくり返って、神様がどうこうって噂を聞いたが……結局、お前は相変わらずのランク1か。隣のいい女たちは、どこで騙して連れてきたんだ?」
バルガスがアスモデウスの肩に手を置こうとした瞬間、周囲の温度が氷点下まで下がった。
ルシフェルが剣を抜こうとするのを、悠真は手制止する。
「……バルガス。その手、どけた方がいい。俺の連れは、俺よりずっと気が短いんだ」
「あぁ!? ランク1の分際で、俺に指図すんのかよ!」
バルガスが巨大な斧を振り上げる。かつての悠真なら、その一撃で命を落としていただろう。だが、今の悠真の瞳には、その動きは「止まって」見えた。
3. 理の戦闘術
悠真は一歩も引かず、最小限の動きで斧の軌道を逸らす。
力が足りないなら、相手の力を利用するだけだ。九条(創造主)との決戦で培った「世界の法則を読み取る眼」は、一介の冒険者の動きなど、子供の遊びに等しい。
「なっ……!?」
体勢を崩したバルガスの鳩尾に、悠真の拳が吸い込まれる。
ただのパンチではない。相手の筋肉が弛緩する瞬間に合わせた、魔力伝導率100%の精密な一撃。
ドォン! と大きな音を立てて、バルガスが壁まで吹き飛ぶ。
「……ランク1でも、やりようはある。それがこの世界の面白いところだろ?」
静まり返るギルド。悠真はカウンターに歩み寄り、かつて自分を追い出した受付嬢に、優しく微笑んで依頼書を差し出した。
「Fランク依頼、一つ頼む。……再出発だ」




