第55話:神の帰還、人の歩み
1. 黄金の静寂
悠真が『終焉の守護者』の腕を掴み、その存在を「言葉」だけで消滅させた瞬間、エリュシオンを包んでいた喧騒は止まった。
再誕した悠真の体からは、かつてのような威圧的な神の気配は消え、どこか懐かしい、温かな「人間」の匂いがしていた。
「……お兄ちゃん」
遥が恐る恐る駆け寄り、その胸に飛び込む。確かな鼓動、確かな体温。
「ああ。……ただいま、遥」
その光景を見て、ルシフェルは剣を収め、アスモデウスは瞳を潤ませながら深く膝をついた。主の帰還。それは、システムによる管理の終わりと、悠真という一人の男による「新しい時代の幕開け」を意味していた。
2. 失われた権限と、残された力
(【天使の図書館:ログ】:再定義完了。……主よ、肉体への完全復帰に伴い、全知全能の権限の90%が消失しました。……現在のランクは、システム上の測定不能から、再び『ランク1』へと再設定されました)
「ランク1、か。……ふふ、最高のスタートじゃないか」
悠真は自嘲気味に笑う。神としての絶対的な力は、世界を安定させるための「楔」として消費され、今の彼に残っているのは、僅かな魔力と、共に戦い抜いた七人の使徒たちの絆だけだった。
だが、世界はまだ彼を休ませてはくれない。
悠真が「楔」であることをやめ、一人の人間に戻った副作用として、地上の各地で閉じかけていた「魔力の穴」が再び開き始めていた。
3. 最初の一歩
「主様。地上の各都市で、残党の魔物が活性化しています。……神の力を失った今の貴方が出るまでもありません。私たちが――」
ルシフェルの言葉を、悠真は片手を挙げて遮った。
彼は腰に、かつて成り上がりの始まりとなった漆黒の短剣を模した、新しい剣を下げた。
「いや。神として空から見守るのはもう終わりだ。……これからは、一人の冒険者として、この足で世界を回る」
悠真は、戸惑う使徒たちに悪戯っぽく微笑んで見せた。
「ルシフェル、アスモデウス、みんな。……俺の最初のパーティーメンバーになってくれるか?」
その言葉は、支配者から配下へ向けた命令ではなく、一人の男が、愛する仲間たちへ送った「誘い」だった。




